1.私
覗いて下さりありがとうごさいます。
お付き合い頂けたら嬉しいです。
これは、誰もが羨む王太子妃からただのジェシカになった女の話」である。
そうなる前、私はルームス国のカルティアン侯爵家の長女として生まれ、その後、王太子妃になった。夫であった王太子のエイドリアンは、金髪に青い瞳というまさに貴公子で、その甘いマスクと王子ブランドは世の令嬢達を夢中にさせた。
その反面、私は侯爵家の令嬢という高貴な生まれ以外に特段、これといった秀でた物はなく、容姿も学業もダンスといった運動も魔法も何をとっても、「普通」であった。エイドリアンの横に並んだ時に、自分の華やかさのなさに何度となく落ち込んだ。
そんな「普通」な私を振り返っていこうと思う。
剣技と魔法に優れ、そこにいれば自然と人が集まる人気者な兄と可愛い容姿を持ち、歌が得意で人とは違った芸術センスを持った妹に比べれば、私は本当に「普通」であった。
ただ、兄と妹は地頭は良いが勉学に興味がなく、家庭教師の授業を抜け出しサボるのは日常茶飯事であった。
兄は暇があれば剣を振り身の回りの物で魔法を試し、妹はほとんど一日中、ピアノを弾いて歌っていた。好きな事だけをする侯爵家の子息子女らしからぬ2人の行動に厳格な父からしたら2人は悩みの種だった。
しかし、それも次第に2人の才能を見るうちに考えが変わったのか、いや、2人の奔放さに諦めたのか、13歳になった兄には優秀な婚約者を据え、共に手を取り我が侯爵家を継ぐような教育へ転換し、9歳の妹には才能を伸ばそうと隣国の芸術の都へ留学させるため、音楽の師を招いた。
自分の好きな事に精を出し評価を得ている兄と妹は、私から見たらとても自由で羨ましかった。
何度も言うが、私は何をしても「普通」で、強いて言えば兄と妹より学業成績は良かったことだ。当時、剣術訓練のために来てきた子と兄と妹ととでよく遊んでいたのだが、彼の影響で本を読む習慣ができた。それを見て父は嬉しそうに「ジェシカは2人と違って勉学が好きなのか?」と頭を撫でてくれた。
それだけで、私がするべき事が何なのか。当時11歳だった私は幼いながら悟り、机にかじりついた。
成績が良くなればもっと褒めてくれる。兄と妹より秀でているものが自分にもある。だから、勉強した。
成績が伸びる度、父も母も喜んだ。母は兄と妹が勉強嫌いなのを「私の育て方が悪かったのかしら」と嘆いていたから、私が勉強するのを見る度に、「2人は2人の才能があるのも素晴らしいことだけれど、侯爵家の子らしく勉強もしなくては。こうやって自ら机に向かえるあなたは偉いわ」と笑顔で言った。
両親が喜んでいる、そして褒めてもらえる。それだけで、私は必死に勉強し、兄と妹が疎かにしてきたマナー講義も真面目に受けた。
自分のための勉強のはずが、いつしか、両親が喜んで褒めてくれるから、という理由のため勉強するようになっていた。
「ジェシカは、そんなに文字ばっか見ていて面白い?父上、母上が言うから勉強しているってのは、それは違うぞ」
「お姉様、家にこもって勉強ばかりしてないで、遊びましょうよ。たまには私と街へ出てキラキラした可愛い物を買いに行きましょう」
兄と妹はそう言った。けれど、私は兄のように魔法を失敗して家具を壊しはしないし、妹のように高価なドレスやアクセサリーを身につけて無駄遣いはしていない。真面目に侯爵家の子らしく勉強に励んでいるだけだ。
私が必死に机に座り文字と教師と睨めっこして学ぶ中、兄と妹は友人の輪を広げ、大人達の中で社交術を身につけていた。
そんな勉強漬けな日々を送る私に、王太子の婚約者として王命が下った。
12歳の時だった。