表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/64

46

 お茶会の話題は、クレアの事情から、リリアンの恋の相手、そしてアーウェンの婚約についてとどんどん流れていった。ころころと話題が変わり、それに振り落とされることなく全員がついていくのは、女子の特徴だ。


 何度目かの話題転換を経て、「殿方への贈りもの」の話になったとき、クレアは直感した。

 この話題は駄目だ。


「ちょうど今日、クレアお姉さまとふたりで、お兄さまに贈る手袋を選んできたんです」

「まあ、素敵! いまここにあるのかしら?」

「ぜひ拝見させていただきたいわ」

「おふたりが選んだお品なら、きっとラズウェルさまもお喜びになりますね」


 止める間もなかった。きらきらとした目がクレアに集まる。


「見せてさしあげたいのはやまやまなのですが……」


 さすがにお茶会にまでは持ってきていない。屋敷に置いてきてしまった。このあとは国王との謁見もあるし、必要だとも思わなかった。


 しかし、リリアンがさも当然といった様子でベサニーを呼びつける。


「お姉さま、いいですか?」


 はい、と箱を差しだしてきたのはベサニーだ。口角がいやに上がっている。


(どうして持ってるのよ!)


 こうなってしまえば、断れるわけもない。


「……こちらですわ」


 ベサニーから手袋の箱を受けとったクレアは、見えやすいようにテーブルの中央に置いて、開けてみせた。


 令嬢たちが口々に感想を述べようとしたときである。

 ひとりの侍従が、正門の方からやってきた。クレアたちの手前で一礼して、アーウェンの傍に駆け寄る。


「……あら? わかったわ、お通しして」


 アーウェンに耳打ちした侍従は、正門の方へ駆け戻っていった。皆が静かになって、一斉にアーウェンに注目する。


「お客さまだそうよ」

「お客さま? 遅れて来た方ですか?」

「いいえ、そうではなくってね……」


 アーウェンの傍に座っていた令嬢が、「あっ!」と声を上げた。つられてクレアが振り返ると、目に飛びこんでくるのは白金の髪だ。


「ご歓談中に失礼します」


 ラズウェルである。さもここにいるのが当然だとでも言いたげな微笑を浮かべて、アーウェン主催のお茶会に乱入してきた。


「噂をすれば、ね」


 アーウェンがいたずらっぽい笑みを浮かべる。クレアは慌てて手袋を隠した。蓋を閉じて、元どおりベサニーの手に押しつける。


「お兄さま、どうしてここに?」

「迎えにきたんですよ。まさか陛下との約束に遅れるわけにはいきませんからね」


 クレアはぎょっとした。てっきりお茶会が終わってからだと思っていたのに。思ったままを口に出すと、ラズウェルにため息をつかれた。


「そんな余裕はありませんよ。だいたい、人払いをしての謁見を取りつけるのにも苦労したんですから」


 相手は国王だ。当然だろう。そう言われると、時間の融通がきかなかったのにも納得できてしまう。


「そういうわけなので、アーウェン王女殿下にはご無礼を」

「あら、あたくしのことは大丈夫よ。気を遣ってくださらなくても。おもしろい話はたくさん聞けたもの」


 ばちんとウインクを送られて、クレアは曖昧な笑みを浮かべた。楽しんでいただけたようでなによりである。


(アーウェン殿下の覚えが悪くないのはいいことだわ)


 多少なりとも縁を結べたのはクレアにとってもありがたかった。一国の王女に向かって恐れ多いが、いずれはクレアの身を助ける手段のひとつになってくれるといい。彼女の興味を引いた材料についてはいささか不満があるが。


「リリアン、クレア。行きますよ」

「わたくしも?」


 なにを当たり前のことを、という顔をされた。


「納得いかないわよ、だってわたくし必要ある?」


 はっきり言えばクレアは、たまたま巻きこまれただけの部外者だ。ただラズウェルの婚約者だというだけで。国王との謁見には、どう考えてもいらないはずである。

 しかし、立ちあがったリリアンも同じようにクレアを見る。ラズウェルはしまいに、アーウェンに一礼するなりとっとと背を向けてしまった。


「行きますよ」

「聞――」


 聞きなさいよ、といつものように声を荒げようとして、慌ててとどまった。アーウェンの前で醜態をさらすわけにはいかない。


「……アーウェンさま、失礼させていただきます。この次の機会では、もっとゆっくりお話しさせていただけると嬉しいですわ」

「もちろんよ。がんばってちょうだい」


 なにを頑張るのだろう。アーウェンの視線が、クレアとラズウェルの間をちらちらと往復している。

 クレアは唇を嚙みしめながら礼を言って、ベサニーを連れてその場を離れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ