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お茶会の話題は、クレアの事情から、リリアンの恋の相手、そしてアーウェンの婚約についてとどんどん流れていった。ころころと話題が変わり、それに振り落とされることなく全員がついていくのは、女子の特徴だ。
何度目かの話題転換を経て、「殿方への贈りもの」の話になったとき、クレアは直感した。
この話題は駄目だ。
「ちょうど今日、クレアお姉さまとふたりで、お兄さまに贈る手袋を選んできたんです」
「まあ、素敵! いまここにあるのかしら?」
「ぜひ拝見させていただきたいわ」
「おふたりが選んだお品なら、きっとラズウェルさまもお喜びになりますね」
止める間もなかった。きらきらとした目がクレアに集まる。
「見せてさしあげたいのはやまやまなのですが……」
さすがにお茶会にまでは持ってきていない。屋敷に置いてきてしまった。このあとは国王との謁見もあるし、必要だとも思わなかった。
しかし、リリアンがさも当然といった様子でベサニーを呼びつける。
「お姉さま、いいですか?」
はい、と箱を差しだしてきたのはベサニーだ。口角がいやに上がっている。
(どうして持ってるのよ!)
こうなってしまえば、断れるわけもない。
「……こちらですわ」
ベサニーから手袋の箱を受けとったクレアは、見えやすいようにテーブルの中央に置いて、開けてみせた。
令嬢たちが口々に感想を述べようとしたときである。
ひとりの侍従が、正門の方からやってきた。クレアたちの手前で一礼して、アーウェンの傍に駆け寄る。
「……あら? わかったわ、お通しして」
アーウェンに耳打ちした侍従は、正門の方へ駆け戻っていった。皆が静かになって、一斉にアーウェンに注目する。
「お客さまだそうよ」
「お客さま? 遅れて来た方ですか?」
「いいえ、そうではなくってね……」
アーウェンの傍に座っていた令嬢が、「あっ!」と声を上げた。つられてクレアが振り返ると、目に飛びこんでくるのは白金の髪だ。
「ご歓談中に失礼します」
ラズウェルである。さもここにいるのが当然だとでも言いたげな微笑を浮かべて、アーウェン主催のお茶会に乱入してきた。
「噂をすれば、ね」
アーウェンがいたずらっぽい笑みを浮かべる。クレアは慌てて手袋を隠した。蓋を閉じて、元どおりベサニーの手に押しつける。
「お兄さま、どうしてここに?」
「迎えにきたんですよ。まさか陛下との約束に遅れるわけにはいきませんからね」
クレアはぎょっとした。てっきりお茶会が終わってからだと思っていたのに。思ったままを口に出すと、ラズウェルにため息をつかれた。
「そんな余裕はありませんよ。だいたい、人払いをしての謁見を取りつけるのにも苦労したんですから」
相手は国王だ。当然だろう。そう言われると、時間の融通がきかなかったのにも納得できてしまう。
「そういうわけなので、アーウェン王女殿下にはご無礼を」
「あら、あたくしのことは大丈夫よ。気を遣ってくださらなくても。おもしろい話はたくさん聞けたもの」
ばちんとウインクを送られて、クレアは曖昧な笑みを浮かべた。楽しんでいただけたようでなによりである。
(アーウェン殿下の覚えが悪くないのはいいことだわ)
多少なりとも縁を結べたのはクレアにとってもありがたかった。一国の王女に向かって恐れ多いが、いずれはクレアの身を助ける手段のひとつになってくれるといい。彼女の興味を引いた材料についてはいささか不満があるが。
「リリアン、クレア。行きますよ」
「わたくしも?」
なにを当たり前のことを、という顔をされた。
「納得いかないわよ、だってわたくし必要ある?」
はっきり言えばクレアは、たまたま巻きこまれただけの部外者だ。ただラズウェルの婚約者だというだけで。国王との謁見には、どう考えてもいらないはずである。
しかし、立ちあがったリリアンも同じようにクレアを見る。ラズウェルはしまいに、アーウェンに一礼するなりとっとと背を向けてしまった。
「行きますよ」
「聞――」
聞きなさいよ、といつものように声を荒げようとして、慌ててとどまった。アーウェンの前で醜態をさらすわけにはいかない。
「……アーウェンさま、失礼させていただきます。この次の機会では、もっとゆっくりお話しさせていただけると嬉しいですわ」
「もちろんよ。がんばってちょうだい」
なにを頑張るのだろう。アーウェンの視線が、クレアとラズウェルの間をちらちらと往復している。
クレアは唇を嚙みしめながら礼を言って、ベサニーを連れてその場を離れた。




