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 王家から一時の滞在にとアーウェンに与えられたらしい、王宮の裏手にある別荘。

 その庭の一角に、テーブルが用意されていた。今日は日差しが強いからと、大木の木陰の下である。真っ白なテーブルクロスに、木漏れ日がちらちらと落ちていた。


 アーウェン王女のお茶会は、一見すると外交が目的のように見えた。

 招待された令嬢のなかには、身分の高い貴族だけではなく、商人から成り上がって爵位を賜ったような家の者もいたからだ。


 しかし、クレアがそう思っていたのもお茶会が始まる直前までだった。


「ちょっと妬けてしまったわ。先日の舞踏会で一番目立っていたのは、クレアさまとラズウェルさまでしょう?」


 テーブルについて各々挨拶を済ませたあと、口を開いたアーウェンの第一声がこれである。クレアは危うくお茶を噴き出すところだった。


 そっと後ろから差しだされたハンカチの先、ベサニーの顔は生ぬるい笑顔だ。諦めろということか。

 ハンカチを口元に押しあてながら、クレアはなんとか口を開く。


「申し訳ありません。アーウェンさまを歓迎する場で、あのような騒ぎを起こしてしまって」

「あら、気にしてないわ! 劇の一幕のようでおもしろかったもの」


 アーウェンが勢いよく首を振った。顎のあたりで切りそろえた、赤毛のサイドの髪が跳ねる。勢いで肩の前に落ちてきた長いポニーテールを払って、アーウェンはその指を唇にあてた。


「目立つといえば、カインさまもすごかったわね」


 丸っこい眉をきゅっとひそめる。テーブルを囲んでいる令嬢たちが、互いに顔を見合わせた。自国の王太子殿下のこととあって、言及しづらいのだろう。


 しかしアーウェンは気にした様子もなく、リリアンに目を向けた。


「彼、あたくしと一緒にいるときもずっとあなたの話をしていたのよ」


 リリアンが青ざめた。


「え、えっと……アーウェンさまには失礼を……?」


 さすがになんと言って謝ればいいかわからないらしい。クレアもわからない。だいたい、どうして自国の王子の無礼な態度に、リリアンが謝罪をしなければならないのか。

 代わりにクレアが口を開いた。元婚約者としての責任感からである。


「ご不快な思いをさせてしまって、申し訳ありませんわ」

「いえ、そうじゃなくってね。てっきりリリアンさまにご執心だと思ったのだけれど、先のクレアさまとの騒ぎでしょう?」

「なるほど、そういうことですのね」


 アーウェンは隣国の王女だから、こちらの事情には詳しくないのだ。クレアは、もともとカインと自分が婚約していた話を、かいつまんで説明した。


「一国の王太子ともあろうお方が……ずいぶん軽率な真似をなさったのね」


 お気の毒に、と聞こえてきそうな目でクレアを見て、直後に首を傾げた。


「でも、いまは王宮付き魔道士筆頭のラズウェルさまの婚約者なのよね?」

「ええ、まあ……」


 クレアは言葉を濁した。代わりに、隣に座っていたリリアンが身を乗りだす。


「お兄さまの方から、クレアお姉さまを見初めたんです! 最初はお互いに遠慮してしまっていたみたいなのですが、先の舞踏会から、少しずつ距離が縮まって」

「ラズウェルさまはあなたの兄上だったわね。あら、そしたらカイン殿下はおふたりの恋のキューピッドということかしら?」


 クレアは思わず顔を逸らした。アーウェンには見せられないほど、醜悪に歪んでしまったからである。


 おかげで、うしろで笑い転げるベサニーがよく見えた。

 ひっぱたいてやりたいが、こんな場でやるわけにもいかない。


「あのときのラズウェルさま、本当に凛々しかったわ……」

「流れるようにクレアさまを連れだして、きっとやきもちを焼かれてしまったのね」

「堂々とした態度と、物語の王子様のようなあの所作……クレアさまが羨ましい」


 カップを持ったクレアの手が、かたかたと震えた。


 ラズウェルは見目だけは麗しいから、周りの令嬢が憧れるのも、まあ、理解はできる。しかし、その相手としてクレアが見られているとなれば話は変わってくる。


 蕁麻疹が出そうだった。


「そういえばリリアン、あれからカイン殿下からなにか接触はあって?」


 だから無理矢理話題を変えた。


 まさか舞踏会でのあの騒ぎのあとで、リリアンになにかアクションを起こせるとは思わない。カインはクレアに気味の悪い執着を見せていた。傍から見れば、リリアンよりもクレアの気を引こうとしているようだった。


「何度かお手紙をいただきました。舞踏会の帰りに、魔族に襲われたことを心配してくださったり……今日も、王都に来るという話をどこからか聞いたようで、会いに行ってもいいか、と」


 ざわり、とその場にいた全員が動揺した。

 とくに、アーウェンが身をかき抱くようにして震える。


「図太いというか、空気が読めないというか……すごいわね、カインさま。はやく縁を切った方がリリアンさまのためだわ」

「はい、お誘いはお断りしておきました。そうでなくても、クレアお姉さまに酷いことをおっしゃっていましたし……」


 お兄さまにも、王太子と付き合うくらいなら第二王子にしておけと言われて……というか細い声は、隣にいたクレアにしか聞こえなかった。


(リリアンが本当に第二王子に惚れたら、ラズウェルさまは発狂しそうね)


 しかし、あの日リリアンのもとにアルバートをけしかけたのはラズウェル自身だ。


(むしろ見てみたいわね)


 視線をさまよわせるリリアンを見ると、クレアの予想はそう遠くない未来、実現しそうな気もする。

 クレアは内心でひそかに笑った。


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