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ふれんず

ワリィ…… ──ふれんず

作者: 家紋 武範

 ずっとずっと、隣りにいると思ってた深雪(みゆき)に彼氏が出来たと聞いて、胸が突き刺された思いだった。


 それまでは、ただの幼馴染みだと思ってたのに、彼氏が出来た、で自分の気持ちに気付いてしまった。まだまだ小学生の頃の、一緒に遊んでいるだけで楽しいという気持ちが残っていたのかもしれない。俺たちも中三だ。深雪が女になるのは当たり前なのだ。

 そんなの今さらだし、完全に遅かった。出遅れた。今頃、こんな思いを抱いたってしょうがないのにな……。


 毎日、毎日、出るのは深いため息だけ。学校でも、通学路でも、風呂でも、ベッドの上でも──。


 あいつの彼氏、知ってる。サッカー部のイケメンだ。

 どっちが告白したのだろうとか、つまらないこと考えたってどうにもならない。


 深雪のこと考えると辛い。忘れたくても、顔合わせりゃ挨拶する。


「よ!」

「おはよう」


「どーした、英司。元気なくね?」


 深雪は普段着の感じで話しかけてくる。俺たちの仲はそんななんだ。男女を超えた友人。

 それを俺が勝手に男女の思いを持ってしまっただけ。だけどコイツは、俺のことは友人なんだ。

 他の男と付き合って、別れて、別な男と付き合って……。

 時期が来たら、誰かと結婚して俺を結婚式に呼ぶのかもしれない。


 それに俺は「おめでとう」といい、深雪は、「英司も早く結婚しろよ」なんて言うんだろう。


「はー……」


 またも溜め息。深雪は俺の背中を通学鞄で叩いた。


「溜め息つくなよ。幸せ逃げるぞ!」


 俺は深雪の顔を見た。深雪は、ニッコリと笑った。


「どうした?」

「どーもこーもねーよ。お前、彼氏いるんだって?」


 深雪はそれを聞くと顔を赤くした。


「なんだよ。ワリィのかよ」


 と視線を合わせない。

 悪くなんてない。俺が勝手に気分が悪いだけ。拗ねてるんだ。嫉妬してるんだ。


 いつも隣りにいた深雪の隣りには、別のやつが立つというのを考えるだけで、胸が潰れる。心が突き刺される。遠くに、遠くに離れていってしまう気がするんだ……。


 俺は、胸のつかえを吐き出したくなった。


「なぁ、深雪?」

「なに?」


「勝手なこと言うようでワリィけどよ」

「はあ?」


「俺も、お前のことが……」

「え?」


「好き、だったんだ──」


 俺たちの時が止まる。深雪の顔はヤバいくらい真顔だった。

 だが俺の心からスッと何かが抜けていくような気がした。


「ワリィ……、ホント勝手だな、俺」


 すると深雪は怒ってるのか、なんなのか分からない顔をして言う。


「ホントだよ。ふざけんなバーカ。彼氏やっと出来たってのによ」

「だから悪かったって」


「遅ぇんだよ、お前は。そんなこと言われたら、もう友だちじゃいられなくなるじゃねーか、バーカ!」


 そう言って深雪は学校へと走り出してしまった。俺はその背中を見つめてた。


 そうだよな。もう、友だちじゃいられなくなるか……。


 俺は深雪の言葉を何度も反芻して、自分の告白に後悔した。




 その後、深雪の後を追って学校に到着。自分の席に座ってスマホの電源を切ろうとすると、トークアプリにメッセージが来ていた。

 チェックすると深雪だ。メッセージの内容を確認する。


『ばーか』


 一言だけだった。俺はさっきの告白のことだと思い、それに返信した。


『ワリィ』


 すぐに既読になり、返信が来る。見ると同じ内容だが、俺はまた返信する。


『バーカ』

『ワリィ』


『ばか、ばーか』

『ごめん、て』


『ばか』

『わり』


『ふざけんな、ばか』

『ごめん』


 同じ言葉の応酬。そのうちに先生が入ってきたので、電源を切った。


 なんか、深雪の『ばか』のお陰でいつもの友だちに戻れたのかな?




 三ヶ月後、深雪とサッカー部のイケメンは別れてしまったらしい。中学生の付き合いなんてそんなもんなのかな……。


 また復活した深雪との帰り道、何気なく聞いた。


「なんでイケメンと別れたんだ?」

「はー? 英司に関係ある?」


「いや気になる」

「気にすんな」


「おう」


 それで終わり。涼やかな秋の風が吹いている。ふんわりと深雪から甘い香りがした。

 俺の胸がチクリとする。あの時の告白。深雪は俺の気持ちを知ってるんだ。


「なー、深雪?」

「なんだよ」


「俺、前にも言ったじゃん?」

「は?」


「深雪のこと……」

「あっ……」


「今、彼氏いないならさ──」


 そこまで言うと、深雪は立ち止まった。そして俺の前に立って後ろ向きに歩きながら言う。


「またお前は……。今は付き合うとか、そーゆーのいいから。受験とかあるし。別れたら最悪だし、今の関係が一番よくね?」


 その言葉を飲み込んで、俺は考えた。


「まあ、それもそうだ」


 そしてまた歩き始める。


「でも好きでいていいのかな~」

「知らん。勝手に思ってたら、そのうちいいことあるかも知れんぞ」


「そーか。じゃ勝手に思っとくわ」

「そんなのもう話題にだすなよ。普通にしてろ。罰としてコンビニスイーツおごれ」


「おこづかい、もうない」

「バカか、お前は」


「ワリィ」


 時が経って、深雪と同じ高校に入学。俺たちはまだ彼氏、彼女にはなってない。

 だが、二人の関係はそのままの状態で続いている。


 でも……、あとちょっと。あとちょっとなのかな?

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちょーーーー!!!! 最高じゃないですか、この二人の、このじれったい感じの距離感!!!! タイトルが略奪系だと思ったら、思春期ジレジレ系だった! めっちゃ勘違いしてた! ワリィ……、家…
[良い点] もー、二人のジレジレがすごく良く伝わってきました。 > でも……、あとちょっと。あとちょっとなのかな? よくそこまで関係を持ってきて耐えた!英司! はあ。甘酸っぱ〜い。
[良い点] 青春やねえ( ´ ▽ ` )甘酸っぱい。 頑張れ。思いを叶えるのだ. 素敵なお話有難うございます。
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