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6 社長


車と車が衝突したとき、結構デカイ音がすると思うんだが、周りを見ても感染者は来ていない。

この辺にはいないのか?と疑問を呈しながら近づく。


運転席の、ドアのガラスのところに何か見える。目を凝らして見ると、誰かがもがいているようだ。

感染者か?感染しているなら、ドアを開けていきなり襲われる可能性があるな。


カバンを盾にしながら、さらに警戒して近づいていく。あと5mというところで、サイドガラスが勢いよく割れた。

「うおっ」

思わず声をあげてしまう、

その瞬間目が合った。男の感染者はこちらを睨んでくる。これはまずいと思い、急いで方向転換しようとした瞬間、窓から頭と片腕を出して、俺に向かって襲いかかってきた。


これはもう、殺るしかないと突撃する。

カバンで顔面を殴り、カバンの角を口にねじ込む。力強く、右手で持っていた包丁を喉深くに突き刺す。グゴッと音がした。


俺は、荒くなった息を整えながら感染者を見る。顔は血だらけで、白目を剝き口は半開きになっている。




俺が殺したんだよな……。






その死体を見て、特に何も感じなかった。

虫を殺したときと同じような気持ちだ。


喉を突き刺した感触も、そこまで悪いもんじゃない。





自分が思っていた以上にスムーズに倒せた。


......いや慢心は駄目だ、今のは感染者にハンデがあったから倒せた。車に挟まれていて、頭と片腕しか攻撃に使えなかったから死んだんだ。もし、全力で走って来られたら、また違う結果になっていただろう。

というか、頭潰さなくても死ぬことは分かった。



乱れた息を整えながら、周囲を見ると今倒した奴以外に感染者はいなそうだ。

今の音で、他の感染者が来るかもしれないが、ここは見通しが良いので、誰か来たらすぐにわかるはずだ。

戦闘が終わったので、一気に疲労が出てきた気がする。昨日から何も食べていないので胃が痛い。何かないか車を調べてみる。



調べる前に、素手では戦えないので、まずは突き刺した包丁を回収。

ゆっくりと引き抜く、うげっ骨らしき何かが見えてしまっている。包丁は黒い血でベタベタしていて、切っ先が欠けている。これはあと1.2回程度しか使えなさそうだ。感染者の服で、血を拭いながら運転席のドアを開けようとする、が開かない。フレームが歪んだのか?まぁいいか次。



俺は、車の死角から感染者が出てこないか警戒しながら、後部座席のドアを開ける。

そこには、脱ぎ散らかした衣服や雑誌、中身が入っているナイロン袋が3つあった。袋の中には、俺の求めていた惣菜パンや菓子パン、飲料などが入っていた。

この男、パン派だったのかと考えながら、手がパンに伸びていた。俺は我慢できずに、袋を破りちぎりツナマヨネーズパンを頬張った。頭が幸福だと叫んでいる。


空腹は最高のスパイスと言うがマジでそうだわ。



はっとなり、誰かこないか周囲を見渡す。大丈夫だ、誰も来ていない。


引き続き食事を続行、パンを頬張り、水分で流す、それの繰り返し。



4つくらい食べたところで、自分が手を洗っていないことに気づいた。右手には先ほど倒した感染者の血液が、少し付着していた。


......多分大丈夫だろう、少ししか付いていないし、パンには直で触っていないと思う。俺はいつも惣菜パンを食べるとき、包装のところを持って食べている。出すときも振って出しているし、問題はない......はず。




俺は食事を終えて、何かないか調べた結果、ゴルフクラブと発煙筒をゲットした。もう一台の車も調べたが特に何もなかった。

車を欲しかったが、目の前にある二台は、完全にぶっ壊れているため他の車を探す。


さて、メインアームを包丁からゴルフクラブに変更。これで、ある程度距離をとって戦うことができるだろう。あまり変わらないかもしれないが、精神的な負担は若干軽減してくれるはず。


しかし、なぜゴルフクラブが1本しかなかったんだろう?俺が倒した感染者の車から回収したものだが、ケースにも何も入って無かった。もしかして護身用に持ってきたのかもしれない。


辺りを見渡して、もうここに長居する必要はないなと歩を進めた。






手に持った双眼鏡を覗き込む。

市街地の中心部から、黒煙が多数上がっているのが見える。火事か?

自宅のある方角に目を向けると、この距離からでは見えないが、連続した銃声やサイレンの音がうっすらと聞こえる。

道路に視線を移すと、走っている人や自動車が列をなして蟻のように見え、クラクションや怒号が、鳴り響いているように感じる。あ、男性と思われる人が、車から引っ張り出されて袋叩きにされてる。

何やったんだ?もしかして感染者?

しかし、みんなどこにいくんだろう?ここは、田舎の地方都市なのに、どこに避難するんだ...。



双眼鏡から目を離す。

俺は今、市街地の外れにある小さな印刷会社の2階にいる。なんだろう、この距離からでもすごく熱気が伝わってくる。鼓動が早くなり、体が興奮しているのが分かる。


たった1日で、こんなに変わるものなのか?

いや、俺が気付いていないところで、感染の魔の手がすぐ近くまで来ていたんだろう。日本で感染者が、初めて確認されたのが2ヶ月前だし。

やはり、心のどこかではそんな日なんて来るはずがないと思っていたのかもしれない。 




「ひどい光景だよ」

顔を横に向けると、そこには作業着を着た60代半ばほどの男性がいた。


「社長さんこれ、ありがとうございます」

俺は、印刷会社の社長に好青年を装い双眼鏡を返す。

「君は、これからどうするんだ?」

「家に帰ります」

「このような状況で、無事に帰れるとは思えないが」


そんなことは分かっている、だが帰らなければいけないんだ。


「でも、親が俺の帰りを待っているので」

適当に、家族の話題でもだせば話終わるでしょ。こいつ、事務所の入り口でも話が長かったし。


「...そうか、家族を大切にしなさい」

「ええ」

俺は理解したような顔で頷く。


「ところで社長さん、社長さんの他に、この会社に誰かいらっしゃるんですか?」

社長の目を見ながら問いかける。


「いや、私以外誰もいない。社員は家に帰ったか、避難所に行ったよ」


そうか、それは都合がいい。


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