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エレナ王女

「ジュン!」


「心配するな。気を失っているだけだ。しかし、結構無茶をするな」


 ナイルの言葉を聞いても、シェリルは気を失ったジュンを心配そうに抱き締めたままだ。ベルとコタロウも同じようにジュンの側にいる。


「たぬ~」


 コタロウは自分のせいだと思い涙を流していた。


「コタロウ。お前のせいではない。だから泣く必要はないのだぞ」


「キュキュ」


 シェリルとベルはコタロウの涙を拭い、優しく頭を撫でている。それでもコタロウは泣き止まない。


 前みたいに隠れ家に逃げる手だってあった。でも黒い剣とサキュバスの体が消えて、油断してしまったコタロウは動く事が出来なかった。そんな自分を簡単には許せないのだ。


 だが、それはこの場にいる全員が同じだ。シェリルもベルもナイルも、事が終わる前に終わったと思っていたのだ。


 全員が不甲斐なさを感じている中で、助けられた女性エレナが口を開いた。


「妾の厄介事に巻き込んで申し訳ない。心よりお詫びを申し上げる」


 自然とエレナに向き直るシェリル達。個人的な恨みは持ってないが事情は把握しなければいけないので事情を聞こうとする。


「こちらが勝手にしたことだ。ただ事情は話してもらう。他国の領土で問題を起こそうとしたのだ。しかも話が聞こえたが、魔剣と魔槍については無関係では無いからな」


「…悪いが話すことできん」


 エレナは複雑な顔をして口を閉ざす。


「恩着せがましくするつもりは無いが、話してもらわねえと納得ができないんだよ。それにシェリルが言ったように他国で諍い起こしている時点で、説明する必要はあると思うんだが。俺らに話せないならせめてこの辺りを治める領主には話してくれ」


「面倒事になるぞ」


「安心しろ。既に面倒事は起きている。一つ二つ面倒事が増えたところで心労は変わらんだろ」


 エレナは少し考えこむ。そしてジュンの姿を確認してから、ため息をついて口を開く。


「お主達も狙われる事になるぞ。それでも良いのか?」


「どのみち冒険者の命なんて一秒先だって保証されてねえからな。知りたいことくらいは知っておきたいんだよ」


 エレナは複雑な表情をしていたがシェリルとナイルは引く気はなかった。


「後悔するでないぞ」


「構わん。早く話せ」


 そして、エレナは理由を語りだした。


「まず妾の名前はエレナ・ヴォルテインじゃ。まあ、お主達は一度会っているから知っているとは思うがの」


 シェリル達は黙って耳を傾ける。


「妾は知っての通り王女の一人じゃ。じゃが妾は魔国と相性が悪くての、国の方針や施策にはとことん反対じゃった」


「どんな方針なんだ?」


「“強者のための国造り”じゃ。弱者は搾取されるのみ。場合によっては実験材料にもなる。…妾を閉じ込めておった牢屋や鎖も研究の産物じゃ。あの道具のために何人が犠牲になったか。じゃがそれも許されるのが魔国なのじゃ」


「黒いゴブリンは実験か何かだったのか?」


「そうじゃ。兄弟の誰が送り込んだかは知らぬがな。あのゴブリン共は魔剣と魔槍のテストじゃった。そのデータを基に今後の研究の方向性を決めようとしたようじゃ。他の場所でも試したようじゃが結果は上手くいなかったようで、魔道具に変えたようじゃがな。本来は大量生産して魔物達に持たせたかったんじゃろうが、殆どが失敗で成功した個体もすぐに討伐されたからの」


「実験なら自分達の国で行ってほしいがな」


 直に戦ったシェリルは不機嫌な顔になる。


「全くじゃな。そして、ここからが本題じゃ。魔剣や魔槍を含めた研究はある魔物を倒すのと、武器の力を取り込むために行われていたのじゃ」


「魔物だと?」


「そうじゃ。魔国以外ではほとんど伝わっておらぬが、この世には滅びをもたらす魔物と、対抗策にも脅威にもなり得る八体の魔物がおるのじゃ」


 知っている。最近聞いたばかりだな。と二人のリアクションは薄かった。そしてエレナはその反応でため息をついた。


「信じておらぬようじゃな。まあすぐに信じられるような話でもないか」


「“炎獄獅子”、“マザースネーク”、“マスターゴリラ”、“不動鬼神”、“スパークアルマジロ”、“氷剣竜”、“ホーリーエンジェル”だったな。闇の魔物は知らないがな」


「!?」


 シェリルの答えにエレナは目を丸くしていた。だがすぐに表情を引き締める。


「どこでそれを知ったのじゃ」


「知ったのは最近だ。だが既に退けないほどに巻き込まれている」


「…魔物達の情報を知っておるのか?」


「少しはな。だが教えて欲しければ貴様から話せ」


 エレナは少し考えてから口を開いた。


「妾が知っているのは"炎獄獅子"じゃ。魔国の奥深くのダンジョンで出現すると言う話じゃ。魔国は"炎獄獅子"を討伐し、その力を我が物にしようと準備しておる。そして魔王はその力を取り込むつもりじゃ」


「…そうか」


 シェリルの表情は優れない。扱えていない状態でも"風滅棒"はSランクの一撃を完璧に防いでいた。そんな物を完璧に扱えたら一体どうなるか想像がつかないからだ。


「最近。"炎獄獅子"が目覚めた聞く。ダンジョンの攻略も必要じゃから、すぐに事が起きる訳ではないが、三年以内には何かが起こるじゃろうな」


「三年か。長いようで短いな」


 シェリルはポツリと呟いた。


「妾の情報は話したぞ。今度はお主の番じゃ」


「いいだろう」


 シェリルは自分の知っている情報を話していく。"風滅棒"を持つ者と戦ったことや、"不動鬼神"が目覚めた事などだ。


 そして、話を聞いたエレナは何かを決心した表情になる。


「シェリルよ。妾もダンジョンに同行させてくれんか」


「決めるのは私ではない。まずは領主に貴様の事を話したからだ」


 そしてシェリル達はエレナも連れてタカミの街へと急いで戻る。

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