緊急依頼
街について一ヵ月ほど経った。依頼の方は慣れてくると一日で三件ほどの依頼をこなしたりもしていて、二週間ほどでEランクに上がっていた。ベルとコタロウも手伝ってくれて、それがまた街の人達に好評だった。
ガンツさんの時のようにお店の手伝いがメインだったが、農場の手伝い・迷子探し・清掃・配達なども行ってきた。後は子守や孤児院の手伝いもやったな。ちなみに店の手伝いの中にはメイヤ婆さんや三人組の店も含まれていた。そこで初めて三人の名前を知った。十字傷がクロス、火傷がバーン、眼帯がパッチだ。…名は体を表すという事だろうか。
そして後から聞いた話だが、やり手がいない仕事を引き受けていた上に、依頼人からの評価が高かったので、塩漬けの依頼の解消のために昇級は遅かったみたいだ。その分報酬は上げてくれたらしいが。まあ、金はしっかり貰えているし、街の人達とも仲良く慣れたからあまり気にはしてない。
Eランクに上がってからは討伐と採取の依頼を受け始めた。採取では各種薬の材料を取りに行き、討伐ではゴブリン・角ウサギ・ランニングバード・ヒールタートル・ビックラット・牙モグラなどを倒してきた。
戦闘経験を積めたことで、感覚魔法や幻魔法も大分使えるようになってきた。ベルとの訓練もいいのだが、レベルの差があるために感覚魔法や幻魔法は効き目が分からなかったので実戦経験が大事になっていた。コタロウも戦闘に慣れてきて、一人で戦うこともできるようになっている。
こんな感じで成長を感じながら毎日を送る事が出来ている。まあ不満をあげるとすればやはりアレだろう。
「今日こそ良いの来てくれよ」
念じながらガチャを引く。その結果は…アイスだった。ソーダ味で当たり棒付きの有名なアイスだ。
「Oh…」
天を仰いで嘆き悲しむ。全然当たりが出てこない。最近の当たりと言えば、五日ほど前に引いた日本酒だな。元々好きな酒だったから嬉しかったけど、高いわけではないから通販で普通に買えるんだよな。
「…食べるか?」
「キュー♪」
「たぬ♪」
食べたいようだった。いつも通りもう一つ購入して渡す。袋を開けて食べだすと今までとは違う反応を見せた。
「「!?」」
驚いた顔をすると勢いよく食べ始めた。もう無我夢中と言う感じだった。半分食べたところで頭痛が来たようで一時食べるのを中断したが、収まるとすぐに食べ始める。
「キュ~///」
「たぬ~///」
二匹ともとても満足したという表情でとろけている。
甘い上に冷たいというのが新鮮なのかもしれないな。そもそも甘い物は果物以外見ないしな。
バーツさんの店のメニューにもデザートっぽい物は無かったし、他の店でも甘い物は何にも見ていなかったよな。
「まあ、甘味で商売する気も無いから考える必要もないか」
やるにしてもベル達の食事にデザートをつけるくらいかな。そんな事を考えながら、今日もギルドへと移動する。
「今日は何にするかな。ゴブリンだけは嫌だし」
掲示板で依頼を確認する。討伐依頼の方が良いが中々ピンとくるものが無い。
「お、これにするかな」
俺が選んだのはチキンバードの捕獲だ。捕獲と言っても生死は問わない。目的は肉だからな。
チキンバードは戦闘力は皆無だが、警戒心が強いために捕まえるのが難しい。だけど肉の味は絶品のため人気が高いのだ。そのため報酬もEランクとしては破格の値段になっている。
「沢山捕まえたらバーツさんに料理してもらうか」
俺の言葉を聞いて、二匹は今にも涎を垂らしそうな顔をする。
そんな二匹を引っ張って俺はチキンバードを探しに行く。
「…あっちの方向にいる気がするな」
感覚魔法で第六感を強化している。これが意外に有用で上手く働くことが多い。失せ物探しなどの依頼はこの能力で見つけることに成功しているのだ。五感だけかと思ったけど試してみるもんだな。
そのまま勘を頼りに進んでいく。
「いたいた。ガチャ運以外は順調だな」
少し離れたところにチキンバードが六羽ほど地面で餌を食べていた。
ゆっくりしていると逃げられるので、俺はすぐに水魔法で閉じ込めることにした。
狙いを定めて魔法を発動させる。チキンバードはすぐに反応したが、俺の魔法の方が早く一羽残らず水の中に閉じ込めることに成功した。
チキンバードの力では水の中から出る術はなく力尽きてしまう。すぐに収納して解体し、一度出してから収納袋に入れておく。
「思ったより早く終わったな。…最近ベルもコタロウも頑張ってくれたし、三日くらい休みにして遊んだりゆっくりしようか」
「キュー♪」
「たぬ♪」
嬉しそうにする二匹と一緒にギルドへと戻る。
俺も大分この生活に慣れてきたな。
「確認お願いします」
俺はカウンターに解体したチキンバードを提出する。
解体せずに出してもいいのだが、そうすると解体費用をとられるようだったので俺は解体した形で出すことにしている。
「ジュンさん流石ですね、解体もキレイで五羽も捕まえるなんて。これが報酬になります。それとDランクに昇級です。おめでとうございますね」
報酬と一緒にDランクになったギルドカードを受け取った。成果が認められた気がしてやはり嬉しいな。
「ありがとうございます」
「これからも頑張ってくださいね。応援しています」
良い気分でギルドから出ようとしたその時の事だった。
「大変だ。クナイの森で大規模なゴブリンの村が確認された。近隣の街の被害はまだのようだがこのままだと大変なことになるぞ!」
突如訪れた男の報告でギルド内は一気にざわついた。
そんな中で放送が流れる。
『冒険者の皆様静かにしてください。緊急依頼を行います。詳しい連絡は後程行いますので、冒険者の皆さまは待機してください』
…マジかよ。俺はこんなの求めていないんだけどな。
「ごめんなベル、コタロウ。遊びも休みも延期だ」
謝り項垂れる俺の頭を二匹は撫でてくる。顔を見ると、気にしてないと言っているような笑顔だった。思わず抱き締めてしまう。
俺の従魔って控えめに言って最高だよな。
ベルとコタロウを抱き締めていると、どんどん冒険者が集まってくる。しかし、放送は中々流れない。近くの椅子に座り突っ伏してしまう。
「待っているの飽きてきたな」
「キュ」
「たぬ」
この時間はもったいないし何か暇潰しのゲームでもするかな。
俺は通販で簡単なゲームを購入して机の上に出した。
このゲームは、白と青のブロックで作られた土台の上に動物が乗っており、ルーレットを回して出た色のブロックを落としていくゲームだ。上に乗っている動物を落とした人の負けという単純なゲームだが、落としたブロックによっては周りも崩れるため、頭も使うゲームだ。
大人がやっても結構面白い。
案の定ベルもコタロウも楽しんでいる。だが目は真剣で落とすブロックを考えているようだった。
今もコタロウが悩みながら落とすブロックを考えている。終盤に差し掛かったため、間違うと負ける可能性も出てくる。
「たぬ」
落とすブロックを決めたようでオモチャのハンマーで狙いを定める。そして振り下ろす瞬間に
「おい狸そこは危ないぞ」
「え?」
「たぬ?」
ゲームに集中して気がつかなかったが、俺達の周りには同じように暇をもて余した冒険者が十人程集まっていた。
「あ、すまん」
声を出してしまった男性冒険者は申し訳なさそうにしたが、コタロウは近づいてハンマーを渡す。
「たぬ♪」
「え、え?」
男性冒険者は困惑していたので助け船を出す。
「どこを狙えばいいか教えてほしいみたいです」
「そうか。いいか、この形だとこの二ヶ所で支えているはずだ。だからこの場所を落とせば」
男がブロックを落とすと、周辺のブロックも崩れ、残ったのは一直線だけだった。こうなると次の人はパスをひかないと負けが確定してしまう形だ。
「たぬ」
コタロウは男性に拍手を送り称えている。
男性は照れているが悪い気はしないようだ。
「ありがとう。でも、すまないな。君達の邪魔をしてしまって」
「気にしないでください。俺もつい口が出てしまうことがありますし。あ、そうだ。皆さんもやってみますか?」
ずっと見られたままもやりにくいので誘ってみた。すると見ていた冒険者はノリノリで参加してきた。交代しながらプレーをして、待っている間は他の冒険者と情報交換をしたりと有意義に時間を使えた。
『冒険者の皆様、緊急依頼について説明しますのでお静かにお願いします』
盛り上がっている最中に放送が流れ始めた。その瞬間に遊んでいた冒険者達は真剣な表情へと切り替わる。
『今回の依頼の内容はゴブリンの集団の殲滅です。上位種はキング・ジェネラル・メイジ・ナイト・ソルジャーが確認されています。明日の朝までにギルドで討伐隊を編成しますので、冒険者の皆さまは明日の朝にギルドで確認をお願いします』
討伐隊を編成するなら全員が行くわけではないよな。今日Dランクになったばかりの俺は安心してもいいかもな。さすがに、ベテランを連れていくだろう。
放送は今ので終わりらしく今日の所は帰っていいようだ。一緒に遊んでいた冒険者達も帰るようだが、皆俺達に挨拶をして帰ってくれる。
俺達もすぐに移動して隠れ家へと戻り、念のためにすぐに休むことにした。
翌日。ギルドに向かうとすぐに確認を行う。受付へ向かうと登録の時に担当してくれたメリルさんがいた。
「すみません、Dランク冒険者のジュンですが討伐隊には入っていますか?」
「あらジュンさんお久しぶりです。登録日以来ですね。えーとジュンさんは…討伐隊に入っていますね」
「俺が入っているんですね。昨日Dランクに上がったばかりなんですけど」
正直予想外だった。新人を大規模な討伐に連れていくとは思わなかった。
「ジュンさんの場合はEランクでも、格上の魔物を納品していましたからね。しかも状態が良かったためギルドの評価が高いんです。それに弱くても見つけにくい魔物や逃げ足の早い魔物をたくさん捕まえていますからね」
あー、そういう理由か。選ばれたのはどうしようもないし、やるだけやってみるか。
「ただ、ジュンさんの活躍を面白く思わない人達もいるので気をつけて下さいね」
「え?」
「冒険者の中には戦闘力のみを重視している人もいるんです。ジュンさんは街中の色んな依頼を受けていて人気があるのでそれを妬む人もいるんですよ。それにベルちゃんやコタロウちゃんのようなタイプの従魔を人気取りと考える人もいますしね」
「逆恨みは止めてほしいな。それにベルもコタロウも強いんだがな」
「強硬手段はとらないと思いますが、身の回りには注意してください。それではジュンさんは街の入口へ向かってください」
「分かりました」
「依頼も大切ですが危険を感じたら無理はしないで下さいね」
「ありがとうございます」
俺は街の入口へと向かっていく。
入り口に着くとすでに沢山の冒険者と馬車が集まっている。ベルは大勢の人にウンザリしている感じだが、コタロウはお祭り気分のようにはしゃいでいた。
「ベル、大丈夫か」
「キュ~」
声をかけるがやはり元気がない。ご飯は美味しい物を食べさせるか。ケーキとかは悪目立ちしそうだしフルーツの盛り合わせもつけようかな。
元気のないベルを宥めながらしばらく待っていると大きな声が辺りに響く。
「静かにしろ!!」
その声で一瞬にして静かになる。声の主に目を向けると重厚な鎧をきた男がいた。
「俺はディランだ。“歴戦の斧”のリーダーをしている。今回の討伐でもリーダーをすることになった。配置や作戦などは主要なパーティーと同行するギルド職員で決めていくが、なにか考えがある者は遠慮せずに喋ってこい。時間が勿体ないから早速出発するぞ、近くの職員に声をかけて自分の乗る馬車を確認しろ」
近くの職員に話しかけて馬車へと向かう。馬車はかなりの大型だった。
馬車は見たことはあるけど乗ったことは無いから新鮮だな。
馬車に乗ると他の冒険者も乗り込んできて全員で二十人程乗っている。その中の五人は以前高級店で見かけたイケメン冒険者の集団だ。確か“光の剣”とか言ってたよな。それ以外に見たことのある者だと、狐のお面の冒険者くらいだな。大鎌は仕舞っているのか見当たらない。
少し待っていると馬車が動き出す。特に他の冒険者と話すこともないので、ベル達と馬車からの景色を楽しむ事にした。ベルも機嫌を取り戻してきて少しは元気になったようだ。
外を見ていると他の馬車が目に入る。馬車によっては装飾が施されていたり、少人数で広々と乗れるものもあった。高ランクの冒険者が乗る用の馬車なのだろう。
俺達は馬車に揺られながら目的地へと向かっていく。