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囚われのお姫様

 俺達は空飛ぶ絨毯でタカミの街を目指していたのだが、道中に強い違和感を感じてしまった。


「何かあの馬車変じゃないか?」


 何がと聞かれても俺は答える事は出来ない。ただ、何かがおかしい思ってしまったのだ。


 そんな俺の言葉でも、二人はジッと道を走っている馬車を見る。


「確かにな。馬車の向かっている方向には街や村は無いはずだ。」


「それだけじゃねえな。あの馬は立派すぎる。確か魔国の軍馬があんな感じだったはずだ。余裕のある商人の可能性もあるが、そうすると荷台が地味すぎるな。商人に成りすましている可能性がありそうだ」


 二人は俺の違和感に説明をつけてくれた。


 嫌な予感がした俺達は馬車を追跡する事にした。ベルの隠形がここでも役に立つ。


 気付かれないように空から追跡を続けると、馬車は森の中へと入っていった。仕方がないので俺達も空飛ぶ絨毯から降りて後を追う。


 護衛風の男達が道を切り開いていくので、馬車はどんどん森の中を進んでいく。


(どこに向かっているんだろうな?)


(分からん。それよりもあの護衛達は人間か?)


(俺もそこが気になっていた。気配が人間とは違うよな)


 不安材料がどんどん増えていく。それでも俺達は歩みを止めなかった。ダンジョンの探索が迫っているとはいえ、見過ごせない何かがある気がしたのだ。


 しばらく後を追うと洞窟にたどり着いた。すると馬車から何か取り出した。それを見たシェリルとナイルさんの顔が厳しく変わる。


 見た目は黒くて何かの模様の入った檻にしか見えない。


(あれは何なんだ?)


(魔道具の一種だ。"怨嗟の檻"と呼ばれている。あの中に入れられると、ありとあらゆる苦痛に見舞われて、肉体的にも精神的にも壊されると聞いた事がある)


(しかも恐ろしいのはそれでも死なない事だ。死んだ方がマシな状態にして、回復させてはまた入れるという拷問があるぜ)


(悪趣味だな)


 檻は決して小さくないので四人で運び始めている。そして洞窟の中に入ると入口が消えてしまった。


(……見かけはただの壁だけど風は通っているな)


(幻術だ。普通に入れるぞ)


(じゃあ行くか)


 恐る恐る壁の中に入っていく。中は普通の洞窟だ。ここからは音が反響しやすいので先程までよりも気をつけて進んで行く。そして最奥にまでたどり着いた。そこでは牢屋に入れられて鎖に繋がれている女性と、変装を解いたと思われるオーガの集団がいた。元々何体かいたのか数は多くなっている。そして一人だけサキュバスのような姿の女性がいた。


 女性とサキュバスは何か話をしている。


――――――――――


「エレナ様お久しぶりです。…ああ、大変お似合いの姿をしておりますよ」


「サティか。面従腹背の腹黒女ではないか。オーガ共を付き従えてご機嫌なようだな」


 二人からは険悪な雰囲気が流れ出す。実力はエレナの方が上だが、エレナは今鎖につながれて魔力も封じられている状態にある。部下もいるためサティは強気になっている。


「勿論ご機嫌ですよ。偉そうな貴女を踏みにじる事ができるんですから。…どうですかその牢屋と鎖は?魔剣の絶対防御の障壁を参考に作られた牢屋に、魔槍の再生能力に魔力封印を合わせた決して千切れない鎖。武器として使うよりも運用が簡単なんですよ」


「言葉は正確に使うんじゃな。魔剣や魔槍と魔物の融合が上手くいかなかっただけじゃろ。お主は無能じゃからな」


「黙りなさい!!」


 図星をつかれたサティは顔を真っ赤にして怒りを露にする。エレナはそんな怒りも飄々とした態度で受け流している。


「悔しいならば殴ればいいのではないか?お主程度では外からギャーギャー喚くしかできんのじゃろ」


「五月蠅いですよ。貴女の軟弱な思想や態度には辟易するのよ!今回も貴女が捕まったのは子供を人質にとられたからでしょ。バカじゃないの!」


「妾はバカで構わん。大バカよりはマシじゃからな。他国で勝手に暴れたら殺されても文句は言えんぞ。お主等は密入国してきたんじゃろ」


「バレなきゃいいのよ」


「お主等は本当に他の国の者を侮りすぎじゃ。身を滅ぼすぞ」


 立場はエレナの方がマズいはずなのに、気圧されているのはサティの方だ。


「…っ! いいわ。強気な態度がとれるのも今のうちよ。これが何かは知っているでしょ」


 オーガが牢屋の前に例の檻を置いた。檻を確認するとエレナの顔に焦りが見え始める。


「あら。良い顔になってきましたわね」


「妾の顔は元々良いぞ。お主とは違ってな」


「負け犬らしく吠えていてください。どんな声で鳴くのか楽しみですよ。まあ私は優しいですから、全裸で土下座でもしてゴブリン達と交尾でもするなら許してあげますけど」


「ゴブリンはお主の男じゃろ。妾とはつり合いがとれぬぞ」


 エレナの言葉にサティは顔を歪めていた。そして悪い笑みを浮かべてオーガたちに命令を下す。


「さあ。この女を檻に入れなさい。心を壊しても使い道があるから、廃人にして魔王様の元へ連れて行くのよ。途中で楽しみたいなら許可するわよ」


 エレナはギュッと目を閉じた。これから起こるであろう苦痛には耐えるしかないと思っているからだ。


――――――――――


(これはヤバいよな)


(明らかな面倒事だが見過ごすことは出来んな)


(魔国の兵士と戦いになったら結構な問題なんだけどな)


(大丈夫ですよナイルさん。俺達は森の洞窟に住んでいたオーガとサキュバスを討伐するだけですよ。人的被害も出ているようだし、急がないと大変なことになります)


(まあ密入国者のようだしな。使者の証も身に付けているようには見えないしな)


 俺達は一斉に飛びかかった。

 まずはナイルさんの雷がオーガを襲う。


「ナンダ!」


「シンニュウシャダ」


「ちっ、まずは侵入者を殺しなさい」


 オーガたちは雷をくらってもピンピンしていた。普通のオーガとは違うようだった。そして俺達に気が付いたサキュバスの女は俺達を殺すように命令した。


 オーガ達の動きは思ったよりも素早かった。そして力は勿論凄まじい。俺は“剛力”で応戦する。吹き飛ばすことはできるのだがダメージはあまり入ってい無いようだ。


 シェリルとナイルさんもまだ倒しきれていない。だけど二人は俺と違ってまだ観察している感じだ。ここから反撃が始まりそうな気もする。


「オマエヨワイ」


 俺の相手をしているオーガ達が金棒で攻撃を仕掛けてきた。他人の心配している場合じゃないな。まずはコイツらを倒さないとな。


 とりあえず俺は力比べなどは止める事にした、"止水"に持ち替えて、水で顔面を包み込む。


「「「!?」」」


 オーガ達は手で顔の水を払おうとするが水は消えることはない。すると払うのは諦めて俺に攻撃を仕掛けてきた。


 この状況でまだ判断できるのは凄いと思うが、動きは単調になり焦りも見える。俺は攻撃を躱しながら、水を鼻や口の隙間から体の中に押し込んでいく。


 オーガ達はその場で暴れ始める。最早相手など見えていない。敵も味方も関係無く金棒を振り回す。そして互いの金棒が当たり、痛みで悶絶してしまった。当然呼吸は出来ないのでパニックだ。


 集中して作りあげた水の刃をのたうち回るオーガ達に向かって放つ。研ぎ澄まされた水の刃はオーガの体を切断して見せた。


「よくやった」


「お疲れ様だな」


 倒し終わると両肩に手を置かれた。残りのオーガはシェリルとナイルさんが一掃してくれたみたいだ。


 そしてサキュバスは俺達の事を呆然とした表情で見ていたが、我に返ったようで口を開いた。


「何なのよその戦いかたは!?アンタ頭おかしいでしょ。卑怯よこの人でなし!」


 言い過ぎだと思う。スマートな戦い方ではないが、そこまで非難される謂れはない。誰もが正々堂々正面から戦うと思うなよ。そんな戦いかたなら俺はこの場にいないぞ。


「なら人でない妾の不意討ちは問題ないな。人でないからの」


「え?」


 その言葉と共にサキュバスの首が吹き飛んだ。俺達がオーガを相手にしている間にベルとコタロウは女性を助けていたのだ。


「バカな!?鍵は私が…」


 鍵はコタロウの手にあった。


 檻も鎖も解除するには鍵が必要だった。その鍵はサキュバスが持っていたのだが、コタロウは奪取の能力を使って鍵を手に入れる事に成功していた。そしてバレないように慎重に女性を助けていた。


 首だけになったサキュバスは俺達の方を睨んでいた。そして、最期の悪足掻きを仕掛けてきた。


 サキュバスの体が動き出した。そして見るからにヤバそうな黒い剣を作りあげた。


「闇の禁魔法じゃ!受け止めず避けるぞ。あの魔法は触れるだけで命を蝕む」


 剣が投げつけられる。俺達は女性の言葉を信じて攻撃を躱す。そして、サキュバスの体が消滅したことで気が緩んでしまっていた。


「邪魔をしやがって。盗人が!!」


 怒りの矛先はコタロウだった。自分を出し抜いた事が許せなかったのだろう。あそこで不意討ちを食らわなければ何か手段があったのかもしれない。だからこそ、最期の怒りはコタロウに向けられた。


 黒い剣を避けたことで、全員動きにタイムラグが出てしまう。その隙に"怨嗟の檻"が浮かび上がって飛んできた。俺は走り出した。


「どくんじゃ!」


「たぬ!?」


 だが俺よりも先に女性がコタロウを突き飛ばした。ここで俺が足を止めれば、俺達は被害が少なく街へと帰れる。しかしただでさえ疲弊している彼女が檻に閉じ込められたら無事では済まないだろう。


 コタロウを身を呈して庇った彼女を犠牲にはできなかった。俺は足を止めず女性の前に出た。


「おい!」


 シェリルの声が聞こえた。そして、檻が体に当たると中へと吸い込まれた。


「うぉ!?」


 痛みが全身を駆け巡る。全身を刺された上に火炙りや電気を流されているのではないかと思った。そして、恐怖に襲われる。キーノと同じくトラウマを引き出し最悪な光景に昇華して見せられる。シェリルやベル達の死体が鮮明に浮かび上がってくる。


「○▲◎□◆」


 誰かが何かを喋っているようだが何も入ってこない。痛みと恐怖で頭がおかしくなっていく。


「たぬ!」


 それでも一瞬コタロウの声が聞こえた。同時に一瞬楽になった。ああ、コタロウが聖魔法を使ってくれたんだ。


 シェリルやベル達が檻を壊そうとしているのが見えた。それなら俺は助け出されるのを待つだけだ。


 コタロウの聖魔法のおかげで俺は冷静な行動を取れた。まずは感覚魔法で痛みを遮断した。これで痛みは何も感じない。


 そして次は自分に魔法をかける。頭の中の映像を隠れ家での日常に書き換える。襲いかかってくる恐怖との根比べだ。


 どれくらいそうしていたかは分からない。ただ助け出された瞬間は分かった。


「ジュン!」


「キュキュ!」


「たぬ!」


 大事な人達の声と温もりは間違えない。俺は自分にかけていた魔法を解除した。


「ありがとな。助かったよ」


 そして周囲を確認してから気を失った。

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