集められた冒険者
翌朝冒険者ギルドに向かうと、サクスム家の屋敷まで来てほしいという伝言があった。
「動きが早いな」
「それだけ急がないといけない事なのだろう」
空飛ぶ絨毯を使いサクスム家へと移動する。中に入ると応接間に通されて、そこにはアラン様とターティ様がいた。
「久しぶりだな。君達の話は簡単にだが聞かせてもらっているよ。渡り人は随分数奇な運命に導かれるようだな」
アラン様の言葉にターティ様だけが驚いた顔をした。そういえばこの中だと知らないのはターティ様だけだったな。
「俺は平和に暮らしたいだけなんですけどね。モテるのはシェリルやベル達だけで十分なのに」
俺の返答を聞いたアラン様は安心したように軽く笑う。
「この状況で冗談を言えるくらいの余裕はあるようだな。他にも呼んでいる者がいるからもうしばらく待っていてくれ。それと君の従魔を貸していただけないだろうか?ミコトが会いたがっているからね」
「構いませんよ。…ただこの子も一緒で大丈夫ですか?」
メアを抱えてアラン様に見せてみる。不吉の象徴と言われているから煙たがられる可能性もあるんだよな。こんなに可愛いのに。
「ほう。黒猫を従魔にしたのか。私の尊敬しているお方も黒猫を従魔にしていた。不幸を呼ぶという噂など我が家では信じておらんよ。尤も黒猫は魔力が強いからな。敵対した者は不幸かもしれんがな」
アラン様もターティ様もメアの存在は気にしてい無いようだ。それから少しすると勢いよく部屋の扉が開いた。
「どうもこんにちは!」
そこには満面の笑みのミコトちゃんがいた。元気が良すぎてセトナ様に叱られていたが何とも微笑ましい。ただ俺が気になったのはミコトちゃんの側にいる真っ白な子犬だ。
「ガウ!」
子犬もミコトちゃんに似て元気いっぱいで人懐っこい感じがする。ベル達も気になったようでミコトちゃんと子犬の側に寄っていく。互いに挨拶を交わすとすぐに友達になったようだ。
「あの子犬は?」
「スノーフェンリルの子供だ。君の従魔と触れ合ってからミコトが従魔を欲しがるようになってな。曾孫バカの私の父母が見つけてくれたんだ。護衛にもなるから良いのだが」
「アラン様のご両親って」
「今なお現役の冒険者だ。世界中を回っているから君とも会うかもな」
一体何歳何だよ。曾孫がいても現役の冒険者って。
凄いなと思っていると、ミコトちゃん達は部屋から出ていった。ただベルだけは残ったようで俺の肩へと登ってくる。
「ベルは遊ばなくていいのか?」
「キュキュ」
頷いて俺の肩に座る。そのまま人が集まるまで雑談をしていた。そして扉からノックの音が響いた。
「旦那様。お客様がいらっしゃいました」
「通せ」
中に入ってきたのは“歴戦の斧”・“大樹の祝福”・“喋る筋肉”・カロリーナさん・ナーシャさん・ミランダさん・ニャムさん・シュンメイさん・メイヤさん・それと渋い感じの男性だ。
「これで全員揃ったな。さて、皆に集まってもらったのは他でもない。ダンジョンの異常についてだ。ここにいる者達は口が堅い者達だと信じている。これから話す内容は他言無用だ。それを守れる自信がない者は今すぐに部屋から出て行ってくれ」
少しの間静寂が訪れる。だが動く者は誰一人いなかった。
「皆の気持ちに感謝する。早速だが今回の件について話をしよう。信じられない話だと思うがまずは聞いてほしい」
アラン様は滅びの魔物や二百年前の王国で起きた事について話を始めた。人が魔物になる話など信じ難い内容も含まれるが、全員黙って聞いている。
「…以上だ。何か質問はあるかね」
ディランさんがスッと手を挙げて質問をする。
「それで今回は“不動鬼神”とやらの討伐何だろう。…このメンバーだけで勝てるものなのか?先程の話だとSランクの冒険者でも勝てなかったようだが」
「勝てる戦力を揃える頃には街は無くなっているかもしれん。Sランクを復数人集めるのには年単位で時間がかかるからな。やるしかないのだ。もちろん依頼を断っても構わない。ただこの話は他言無用だ」
静寂が訪れるが、ナイルさんが口火を切った。
「ディラン。俺は行くぜ。話が本当ならどこにいても結果は変わらないからな。嘘だとしても異変の原因を調べる意味はあるだろうしな。それにジュン。お前達は行くんだろ」
「まあ、俺は何故か滅びに目を付けられているようですからね」
「ハハ。俺達より低いランクでも命懸けで行くなら、先輩である俺達も頑張らなくちゃならねえだろ。それに俺達の今のホームはこの街だろ。そこを荒らされんのは気に食わねえ」
ナイルさんの言葉に動かされたのはレベッカさんだ。
「私も行こうかしらね。あのダンジョンは私達の稼ぎ場だったのよ。そこを滅茶苦茶にされたんだから原因を一発はぶん殴らないと」
「私はこの街に思い入れがある訳ではないけど、シェリルが行くなら行こうかしら。たまには一緒に依頼を受けて見たかったのよね」
続々と参加者が増えていく。ただ、カロリーナさんや“喋る筋肉”は不参加のようだった。
「私も参加したいのですけど、軍の命令がありますので申し訳ありませんが街の防衛に回らせていただきます」
「俺達も申し訳ないがダンジョンの探索は辞退させてもらう。俺達は器用な戦いが求められるダンジョンは不得意なんだ。その代わり街の防衛に協力しよう」
「皆の者礼を言う。それとニルト殿。食料品や雑貨類などの物資の搬入を頼めるか」
「お任せください。我がニルト商会はジュン殿のおかげで儲けさせてもらいましたからな。ここで恩を返させていただきますよ」
そう言って男性は俺を見た。
あの人はキーメイスの父親か。
「礼を言うぞ。ダンジョン攻略組は準備の方を頼む。もし、連れて行きたい者がいる場合は本人の承諾があれば認めよう」
「なら私も付いて行っても構わないかい」
メイヤさんに視線が集まる。
「私も元々は冒険者だ。ダンジョンが危険なのは知っているよ。普通なら行く気はなかったよ。でもね、今回は転移の魔方陣が使えないからね。薬も現地で作れた方がいいだろう」
「お師匠様。それなら私がいますよ」
「ミランダ。アンタは優秀だが研究室でしか調薬の経験がないだろう。現地での調薬は私の方がまだまだ上だよ」
「しかし」
「これでも元はAランクの冒険者だよ。魔法も魔力も衰えちゃいないよ」
そう言って魔力を解放して見せた。
「うぉっ!? 婆さんやるじゃねえか」
その魔力の質の高さにナイルさんが反応した。
「すまないが、空飛ぶ絨毯を借りる事は出来るかい?足があれば後れはとらないよ」
「構いませんよ」
「ありがとうね。ところで、武器のメンテナンスやアイテムの補充は当てがあるかい?」
「確かにそれも大事になるな。ナーシャよギルドには人材はおるか?」
アラン様の言葉にナーシャさんは少し考えてから口を開いた。
「戦闘もできる職人はいますね。ですがランクは高くてもCランクです」
「なら私が空飛ぶ絨毯に乗りながら守ればいいんじゃないか?職人達も必要になるからね」
「まあ、先程も言ったが本人達が承諾すれば構わない。後はどんな人材が欲しいかを話し合ってくれ。出発は一週間後。それまでの間に集めてくれ」
「「「はい」」」
「ではダンジョン探索組は帰って構わない。ご苦労だったな。カロリーナ殿・ニルト殿・"喋る筋肉"・ナーシャは申し訳ないが、今後についての話があるから残ってくれ」
「「「「はい」」」」
これで話し合いは終わりとなった。ダンジョン組は場所を移して話をする事にしたのだが、俺は一つ聞いておきたい事を思い出した。
「すみません。一日か二日街から離れても構いませんか?」
俺のこの言葉にはシェリルも驚いていた。
「理由は何かね?離れて欲しくないのが本音だが」
「ちょっと"不動鬼神"を封印した人に話を聞こうと思いまして。尤も俺の予想が外れたら無駄骨ですけど」
「どういうことだ!?」
アラン様の声が大きくなる。他の人達も俺をジッと見ていた。
「俺を日記を見るまで、邪竜が呪怨竜の事だとは知らなかったんです」
「それはそうだろ。邪竜は昔から邪竜と呼ばれていたからな。当時の王国の上層部くらいしか知らないだろう」
「でも俺は邪竜の事を呪怨竜と呼んだ人を思い出したんですよ」
「それが街から離れる理由か。ちなみにどこの者だ?」
「緊急依頼があった森に住むホワイトコングです。邪竜の呪いの話をした時に呪怨竜と言っていました。そして、質の高い結界や幻術を使っています。……もしかしたら、ミジャール・ルジャンダかもしれないと思いまして」
これは本当に推測でしかない。日記の内容と流れ込んできた記憶から思いついた事だ。ガロン・ネイラートが魔物化して生きていたなら可能性がある。
もし本人なら貴重な話を聞けるだろう。
アラン様は少し悩んだが許可をくれた。そして、知らない人達で大勢で行っても警戒されるかもしれないので、俺・シェリル・ベル・コタロウ。それと念のためにナイルさんで行くことになった。
ミコトちゃんと遊び終わったリッカ達は、本人の強い希望でルーミスさんが面倒を見てくれる事になった。ネロとメアを見ると「ズルい」と連呼されたがしょうがないじゃないか。