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新たな厄介事

「元帥とノルンからの報告で其方達の活躍は聞かせてもらった。邪竜討伐に引き続き大儀であったぞ」


「ありがとうございます」


 二日ほど休んだ後、俺達は陛下との謁見を行っている。今回は前回よりも人が餞別されているようで数はあまり多くない。それとグラバインさんとジェスターさんも一緒だ。


「邪竜討伐と此度の件の成果を鑑みて、其方には準男爵の爵位を与える。後で家名を決めるといい。今後も期待しておるぞ」


「はっ」


 俺は頭を下げた。本音を言えば貴族になるつもりも無かったんだけどな。かと言って受け取らずにこの国と関係が悪くなるのも面倒だ。つくづく流されやすいよな俺って。


「そして其方達には凶報だが聞いてもらいたい話がある」


 凶報と前置きするくらいだから余程の事があったのだろう。…内容にもよるけど断ってもいいよな。

 

 気を引き締めて俺達は陛下の言葉に耳を傾ける。


「先程緊急の便りで知ったばかりの情報だ。其方達が攻略したダンジョンなのだが異変が起きているらしい。中の様子がすっかり変わってしまって、以前よりも強い魔物が見え始めているそうだ。それに伴ってタカミの街付近に魔物が多く出没しているとの話だ」


 俺は嫌な予感がした。


「それだけではない。エルフの国の長老からは二年以内に海が滅んでしまうという予言が伝えられた。さらにドワーフの国では異様な地震と悪天候に見舞われているとの事だ。幸いにも影響が出ているのは立ち入り禁止区域のみで生活に支障は出ていないようだが、余はこれが偶然とは思えんのだ」


 …偶然出会ったら良いんだけどな。


「それとこれは情報の精度が低いが、魔国でも炎の魔物が現れたようだ。討伐のために大軍を編成しているらしい」


 多分、全員が同じことを思い浮かべているだろう。


「陛下。申し訳ないが儂はやる事があるので先に失礼させてもらう」


「私も退席させていただきます」


「うむ。余もモラークから滅びの話は聞いておるし、其方達の戦いの一部を映像で見させてもらった。ここにいる者達もそれは同じである。我が国で手伝えることがあれば声をかけてほしい」


 陛下の言葉に二人は頭を下げてから部屋を出ていく。


「キュキュ」


「たぬぬ、たぬ」


 ベルとコタロウが心配そうな表情で俺の服を引っ張ってくる。タカミの街は王都に比べるとベル達に好意的な冒険者が多く、ギルドの職員や街の人達とも仲良くしていた二匹にとっては状況を確認したいのだろう。


 俺としてもシャイニー達の件の時は街を出ても構わないかなと考えた事もあったが、街が破壊される可能性があるのを見過ごすのは違う。それに巡り巡って俺に被害が出る可能性が高いなら、こちらから向かっても同じだと思う。


「陛下。私達も失礼させていただきたいのですが」


「うむ、構わぬ。本当は国を挙げて祝いたいのだがそうも言ってられんからな。それと、タカミの街には軍も派遣しよう。モラークよ頼んだぞ」


 すると、元帥が返事をする前に一人の女性が手を上げて発言をした。


「陛下。それならば是非私の部隊をご指名ください」


「カロリーナか。モラークよどう思う」


「実力的には問題ありませんな。それにワルキューレ部隊は各地を巡っておりましたからタカミの街の者とも連携はとれるでしょう。…カロリーナ。私的な理由で立候補したのではあるまいな」


 元帥が睨みを利かせるが女性はどこ吹く風だ。


「私的な理由はもちろん入っておりますわ。“不動鬼神”の討伐はネイラートの宿願なのですから」


「言っておくが、派遣してもダンジョンには入れんぞ」


「分かっておりますわ。我が家の宿願は“不動鬼神”を倒す事であって、この手で打ち取りたいわけではありません。それに彼等は祖先の無念を一つ晴らしてくれたお方です。その恩義に報いなければいけませんわ」


「…分かった。だが王国軍の使命は防衛である事を忘れるなよ」


「承知いたしております」


「それからノルン。特殊遊撃部隊は副隊長を隊長代理にして動いてもらう。何も心配せずに自身の任務に専念するように」


「は」


 そんな訳で俺達はタカミの街に戻る事になった。ワルキューレ部隊も出発の準備をするために部屋から出ていった。


「あっ、そうだ。これを先程の女性に渡してもらえませんか」

 

 俺は剣と鎧を元帥に渡す。


「これは何だね?」


「ガロン・ネイラートの遺品です。俺が持っていても使い道が無いので返してあげといてください」


「そんな物も持っていたのか。分かった。責任をもって彼女に渡しておこう」


 そして俺達は城から出て空飛ぶ絨毯を広げて、すぐにタカミの街に向けて出発する。


 全速力で飛ばすと一日程度でタカミの街に着くことができた。普段は魔物が出ていない草原にもゴブリンやオークが出ているようで、冒険者と兵士が街の外で討伐を続けていた。


「…確かに異常な光景だな」


「そうだな。私達がいた頃は森の中には魔物が出ても、草原には角ウサギや鳥系の魔物が降りてくる程度だったはずだ」


「まずはギルドに行って情報を集めるべきだろうな」


 門の近くに降りて街に入るためギルドカードを出そうとすると、見張りの兵士から声をかけられる。


「ジュンだよな。良かったこっちに戻ってきたんだな。急いでギルドの方に向かってくれ」


 見張りの兵士は顔見知りだった。パパっとカードを確認するとギルドに行くように促してきた。

 急いでギルドに向かうが、街の中は人通りが減っていた。それに崩れている建物もある。


 ギルドに到着するとすぐにギルドマスターの部屋に通される。

 そこにいたのはナーシャさんで安心した。以前のギルドマスターが出てきたらどうしようとも少し思っていた。


「ごめんなさいね。貴方達も王都から戻ってきたばかりなのに。…ええと、その方はもしかして王国軍の方ですか?」


「特殊遊撃部隊の隊長をしているノルンと申します。今回は王国からの命令で“旅する風”に協力することになりました」


「ご丁寧にありがとうございます。私はタカミの街でギルドマスター代理をしているナーシャと申します」


 初対面の二人は簡単に挨拶を交わす。


「ところで何があったか教えていただけませんか」


「ええ。あれは二日前の事だったわ。突然タカミの街を大地震が襲ったの。今まで経験がないくらいの大きな地震がね。街の中でも倒壊する建物が少なくなかったわね。それで周辺の被害状況を調べていたのだけれど、そこでダンジョンの異変が発覚したの」


 ナーシャさんは一度飲み物を飲んで心を落ち着かせていた。


「まずダンジョンの中にいた冒険者が強制的に外に放り出されたの。それから改めて中に入った冒険者がいたんだけど、転移のための魔法陣が消えて一階層が森になっていたわ」


 …転移できなくなったのは辛いな。


「そしてダンジョンの中からゴブリンなどの低級な魔物が溢れ出てきたわ。誰も入らないダンジョンではたまにある現象だけど、人気のあるダンジョンでこの現象は例がないわね。それでダンジョンを調査するために、サクスム家が動いてくれているの」


「サクスム家がですか?」


「ええ。今はギルドと協力して事に当たっているわ。貴方達が戻ってきたら連絡が欲しいとも言われていたので多分お呼びがかかるはずよ。今回の件は緊急依頼になっているから貴方達にも協力を頼みたいのだけれど」


 緊急依頼か。あの時以来……うん?そういえば。


「キュキュ」


「たぬ」


 俺が考え事をしているとベルとコタロウがやる気満々で返事をした。俺はベルとコタロウの頭を撫でながら改めて返事をする。

 

「構いません。ギルドには毎日顔を出すのでその時に連絡を貰えますか」


「お願いします。今日は王都から戻ってきたばかりでしょうからお休みください。すぐに来ていただいてありがとうございました」


 俺達はギルドマスターの部屋から出た。ギルド内はよく見ると慌ただしかった。ダンジョン周辺の魔物の討伐や、地震の影響の調査などで冒険者や職員が動いているようだった。


「俺達は一度休むか」


「そうだな。無理に動いても仕方がない。情報は明日から集めるとしよう」


 街に出ると何となく満腹亭に向かってしまう。しかし。


「休みみたいだな」


 ドアをノックしても出てこないし人の気配もない。ガンツさんは前回の緊急依頼の時にも召集されていたので、恐らく今回もそうなのだろう。これだと三兄弟も同じだろうな。


「あらシェリル達じゃない」


 声をかけてきたのはミランダさんだった。ニャムさんとシュンメイさんも一緒にいる。


「ミランダ。どうしてここにいるんだ?」


「依頼がここの近くだったのよ。そしたらあの地震でしょ。ここには知り合いもいるから手伝いで残っているの。ニャム達も協力してくれているわ」


「そうか」


「シェリル達は王都での依頼が終わったようね。お疲れ様」


「ミランダ達もな。ところでどこに泊っているんだ?」


「知り合いの所よ。メイヤの薬屋って場所よ。今はこんな状況だからクスリの需要も増えているから手伝いも兼ねているの」


 少しの間ミランダさん達と話をしてから俺達はその場を後にした。そして適当な場所でミラージュハウスに入る。


 ソファーに座って一息つくと、タカミの街の現状や今後の事を考えてしまう。


「何か嫌な気分だな」


「貴様にとってはシャイニー達との嫌な思い出もあるだろうが、ガンツや三兄弟、それに街中で依頼をこなして関わった人々も多いのだ、それを傷つけられて気分がいいはずなどないだろう」


「一刻も早く何とかしないとな」


「しかし、俺達だけじゃどうにもならないよな。グラバインさんとジェスターさん。それに元帥が加わって、“マスターゴリラ”の劣化版に勝てたんだろ。それでも危なかったようだしさ」


「そうだな。戦力の強化は必要だ」


「当てはあるのか?」


 俺はノルンさんの言葉で知り合いを思い浮かべる。“歴戦の斧”、“祝福の大樹”、それにミランダさん・ニャムさん・シュンメイさんくらいか。他にも強いパーティーはいるんだろうけど、Bランク以上でキチンと話をしたことがあるのはこれくらいだ。


「数は少ないけど強い人達なら何人か」


「まあ、その辺の事もサクスム家が考えているだろう。今日は休んで体力回復に努めるぞ」


 俺達は今日は部屋に戻って休むことにした。ちなみにメアがノルンさんを気に入ったために今はノルンさんも同じ部屋で寝るようになってしまった。……ベッドは違うがスヤスヤ眠っている二人は凄いと思う。

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