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戦いの終わり

 ……俺は今まで何をしていたんだろうか?いや、薄っすらとは記憶がある。力に飲まれていたのだろう。


 意識が黒く染まっていったと思ったら体が動かなくなって、目の前ではフォールが魔法を放とうとしていた。避けなきゃいけないと思うのだが体が動いてくれない。


 リッカごめん。お前が体を張ってくれたのに無駄にしてしまうかもしれない。ああ、これだとシェリルやベル達にも嫌われるかなぁ。それは嫌だな。


 俺はフォールを眺めているだけしかできなかった。だが突然フォールが風滅棒を落として手を押さえて苦しみ始めた。


「ギャアア!?何だ、お前何かしたのか!?」


 知るかよ。お前が勝手に痛がり出したんだろ。


「ギャアア!?」


 次は足を痛めたようだった。そして目・耳と続く。フォールが痛がっている場所をよく見ると血が流れていた。回復薬を使ったようだが、一時的には目も耳も失ったようだった。


「クソ!?誰の仕業だ。 うっ!?」


 今度は胸を押さえてうずくまった。フォールが倒れた影響だろうか?俺達の周りの風が弱まり消えていく。


「ジュン!」


 シェリルがベル達を連れて飛んできた。少し遅れてグラバインさん達も到着する。フォールは風滅棒を仕舞って回復に専念するようで、人形を召喚し始めた。それをグラバインさん達が倒してくれている。


「聞こえるか。返事をしろ!」


「…ぁ」


 シェリルに返事をしようとするが体が碌に動かず口も回らない。


「飲め!飲んで回復しろ」


 月の雫が口に運ばれる。ゆっくりゆっくりと体の中に染み渡っていく。傷ついた体も魔力も回復してく感覚がある。…だけど気持ちが回復しない。リッカが戻らないと思うと気力が湧いてこない。


「皆…ごめん。リッカを」


 名前を口に出すだけで涙が溢れてくる。まだ戦いが終わっていないのに俺は何をしているんだろうか。


「貴様が悪い訳じゃ無い。…私も何もできなかった。だが、今は悲しんでいる時じゃない。この場を切り抜けてからだ。貴様が生きていないと、それこそリッカの行動が無駄になってしまう」


「そうだよな」


 頭では分かっているが心がついてこない。シェリルの時もそうだった。目の前で仲間が殺されるのは精神的にきつすぎる。


 この間にも自前の回復薬でも使っているのか、フォールは回復していき呼吸を整えていた。恐らくだが、風滅棒ももうすぐ使えるようになるだろう。グラバインさん達もフォールを狙っているが、逃げに徹しているフォールは中々捕まえられない。


 俺も戦わなきゃいけないのに情けないな。


「ベア」


 幻聴も聞こえ始めたみたいだ。リッカの声が聞こえてくる。


「…おい。リッカが走って来てるぞ」


「え?」


 シェリルの言葉に耳を疑った。シェリル自身も信じられないという表情だ。


「ベア」


 全員の動きが止まった。フォールも理解できなかったようで人形を操る事を忘れたようだった。


「ベアー」


 リッカが俺の胸元に飛び込んできた。俺はそのままリッカを受け止める。抱き心地も声も仕草も間違いなくリッカだった。


「ベア、ベアベア」


 早くアイツを倒そうと急かしてくる。リッカが生きていた理由は分からないが間違いなくリッカだ。それなら落ち込んでいる理由がない。


 俺は立ち上がって風鴉を構える。


「皆ごめん。心配をかけた」


「大丈夫だろ。終わった後に宴会でも開いて、珍しい酒や食い物でも出してやれ」


「それで許されれば良いけどな」


 俺はつくづく単純な性格だ。リッカが生きていてくれた事を知っただけで、ここまで元気になるなんてな。


 思わず笑みがこぼれてしまう。そして、そんな俺とは対照的にフォールは怒りの形相だ。


「クソが!何回俺の邪魔をすれば気が済むんだ!…まあいい。もう風滅棒を防ぐ手段はないだろう」


 回復したフォールは再び風滅棒を手に取った。そして、暴風が襲いかかってくる。


 側にいたシェリルが障壁を張ってくれた。


「あの風をどうにかしないとな」


「それじゃあやってみるか」


 リッカの事で安心したからな妙に頭が冷静だ。そして、烏天狗との戦いを思い出した。


『力が必要な場面で実力を出し切れずに死にたいか!自分の力で仲間を殺したいか!制御してみろその力を。貴様ならできる!破壊の衝動を貴様の思いで包み込め!』


 マジでその通りだ。今は力が必要だ。だけど意識を持っていかれたら俺が仲間を殺してしまう。そんなのはゴメンだ。俺が壊したいのはフォールだけだ。


 俺は自分の魔力を意識する。そして気がついた。以前は感じられなかったが俺には黒い魔力が混ざっている。これが破壊の衝動だと分かった。


 だけどそれを含めて俺の魔力で俺の力だ。上手に付き合っていけばいい。胸の真ん中から普通の魔力も黒い魔力も増やしていく。


 破壊したいという気持ちが強くなる。だけど、側にいるシェリルやベル達の事を思うと、冷静になっていく。…ああ、いい感じだ。


 だけど何かが足りない。何だろう……そうか。いつも気合いをいれていたもんな。


「あぁぁぁぁぁ!!」


 天に向かって俺は吼えた。ピースがはまった感覚だ。今ならよく見える。


 俺は瓦礫を拾い上げて後ろに向かって投げた。


「おい、何をしているんだ。さすがにふざけていたら怒るからな」


「見てれば分かるよ」


 瓦礫は風に流されてあちこち彷徨っていく。そして、フォールへと向かっていった。


「何!?」


 間一髪でフォールは避けたが、驚いた表情へと変わっている。俺は鉄の短剣を幾つか取り出して、色んな方向に投げる。


 そして、風に乗った短剣は最後にはフォールに襲いかかっている。


「この暴風の道筋をを読んでいるのか!?だが、これなら無理だろう!」


 フォールは風の軌道を自分で変え始めた。ただ風を吹かせるよりキツイようだが、確かにこれだと先程のような攻撃は通用しない。


 だけど攻撃する手段はまだある。俺は風鴉に魔力を込めて投げつけた。


「無駄だ!」


 フォールは風の軌道を変えた。だが、俺の投げた風鴉は鳥の姿に変わり暴風を突き進んでいく。この武器を手にした時にシェリルが風鴉のことを教えてくれたのが役に立った。


「ちっ」


 大きな竜巻が風鴉を飲み込んだ。そしてフォールは次の行動に移ろうとした。しかし、フォールは次の行動に移れなかった。


 竜巻をものともせずに風鴉が飛んできたからだ。風鴉はそのままフォールを真っ二つにした。


「何だと!?」


 体は再生していくが、風滅棒がフォールの手から離れる。俺は風を操作して風滅棒を手繰り寄せた。俺が触った瞬間に周囲は再び暴風が吹き荒れる。


「使い勝手が悪すぎる。俺には合わないな」


 すぐに収納して代わりに狂嵐舞を手に持った。とてもよく馴染む。初めてこの武器の力を引き出せそうだ。


 狂嵐舞をフォールに向けて強く振るった。黒い風が吹き荒れる。風は巨大な鴉へと変わる。黒い水が空から降り注ぐ。水は集まり巨大な鯱になる。二匹の生物は人形も魔物も飲み込んで行った。


「ハハハ。分かった、分かったぞ。黒い力に破滅と同等の力を持つお前の正体が…」


 それがフォールの最期の言葉だった。フォールは鴉に貫かれ、鯱に食われてその姿を完全に消した。俺の正体が分かったなら聞いてみたかったがけどな。


 フォールを倒したことで辺りの黒い靄が無くなり、眩しい日差しが照らし始めた。


「終わった。…のか?」


 体から力が抜けて地面に座り込む。


「気配はしない。終わったのだろう」


 シェリルが側で声をかけながら水を渡してくれた。俺は水をゴクゴクといただく。落ち着いたところで辺りを見回す。


「やっちまったな。弁償とか言われないよな」


 戦う前は廃墟と瓦礫の街だった。なのに今はキレイな更地と化している。最後の攻撃が原因だろうな。


「そんな事は言わんから安心したまえ。むしろ良くやってくれた。これで国の裏切者もいくらか発見できただろうしな」


 元帥は笑いながら近づいてきて俺の肩に手を置いた。


「ところでそのまま軍にでも入らんかね?魔術師団が大勢裏切者だったからね。戦力の強化で優秀な人材は大歓迎だ」


「自由に生きたいので遠慮しておきますよ」


「それは残念だ。まあ考えてくれたまえ」


 元帥の笑い声が響いている。そんなやり取りをしている内に全員が俺の側に集まってきた。


「見たところ元気そうじゃな」


「おかげさまで。グラバインさん達には本当に助けられました。ありがとうございます」


「例の言葉など不要じゃ。それよりも一度休まんか。この後の事を考えるにしても一度休憩が必要じゃ」


 皆も賛成とばかりに頷いている。


「私達もご一緒しても良いですか?」


 タイミングよく“花咲く道化”の四人がやってきた。ノルンさんから話を聞いた元帥は珍しく開いた口が塞がらなくなっていた。


 とりあえず“ミラージュハウス”を出して全員で中に入る。

 元帥は始めて見る“ミラージュハウス”に興奮しているようだった。それでも仕事を忘れることなく、簡単に現状を纏めると魔法で手紙を転送していた。


 話さなければいけない事は沢山あるのだが、まずは疲れをとる事が優先となりそれぞれの部屋で休むことになったのだが。


「ここだけ人が多いよな」


 今の部屋割りはこうだ。アルレ・クインさん・ジェスターさんの家族部屋。ここは邪魔しちゃいけない雰囲気がある。ムーシュさん・グラバインさん・元帥の部屋。大量に酒を持っていかれた。今頃ここは一足早く宴会をしているのだろう。入る気にはなれない。そして、その他全員が俺の部屋に集まっている。


 ノルンさんはメアに引っ張られたため付いて来てくれて、スカラさんはベル達に興味を持ったようだった。ムーシュさんと一緒じゃなかくていいのかと聞いたら、ずっと一緒だったから少しくらい離れるのは構わないとの事だった。


 ちなみにベル達は特に気にした様子は無かった。むしろ楽しそうにしている。新しい仲間であるメアも打ち解けていた。やはりベル達にとっては色が黒である事は何も関係が無いようだ。見ているだけでこちらが癒される。


 俺達もその輪の中に混ざり始める。シェリルはネロとメアを抱えて触れ合い、ノルンさんはベルとムギを肩に乗せて微笑んでいる。スカラさんはコタロウに芸を仕込んでいる。コタロウもなんだか楽しそうだ。


 そして俺はリッカを膝に乗せて撫でまわしていた。…ところでどうやってリッカは復活したんだ?

 まあ今はこの幸せを満喫しよう。

 

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