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ブックメーカー ~異世界では好きに生きてみたい~  作者: 北村 純
初めての異世界生活
8/92

試作品と感覚魔法

「今日はラムネか。懐かしいな」


 三人組の店に行く日の朝。いつも通りガチャを引いた結果、瓶入りのラムネが出てきた。ビー玉が入っているタイプで久しぶりに見た気がする。


「始めは窪みにビー玉入れて飲むなんて知らなかったんだよな」


 懐かしい気分で見ていると、横から視線を感じる。視線の主はコタロウでラムネをじっと見ている。

 

「飲みたいか?」


「たぬ」


「ベルはどうする?」


「キュ」


 二匹とも飲んでみたいという事なので、通販で一本購入してそれぞれに渡す。


「たぬ?」


「キュ?」


 予想していたが、二匹とも飲むのに苦戦していた。飲もうとするとビー玉が飲み口を塞いでしまっているのだ。何度もチャレンジするがちょっぴりずつしか飲めていないようだ。


 そんな様子も可愛らしいのだが、流石に可哀想なので飲み方を教えてあげる。


「この窪みに入れると飲めるぞ」


 二匹は言われた通りにビー玉を上手に窪みに入れて飲み始めた。ようやく飲めて表情が和らいでいた。


 飲み終わったところで瓶を回収する。そして瓶からビー玉を取り出して軽く水で洗って二匹に見せる。

 

「たぬったぬっ」


 コタロウは目を輝かせて物欲しそうにジャンプしている。ベルは近くまで寄ってきたが、食べ物じゃないと分かると興味が失せたようだった。


 コタロウに渡すとビー玉を眺めてうっとりしているようだった。


「食べ物じゃないから口に入れるなよ。それと、外に持って行って落とすといけないから部屋に置いておこうな」


「たぬ!」


 元気な返事だった。そんなコタロウのためにビー玉入れとしてを瓶を一つ購入して渡しておいた。

 さて、落ち着いたことだしそろそろ店に向かうかな。


 露店通りは今日も賑わいを見せている。しかし、三人組の店がある場所は人があまりいなかった。さらに今日は眼帯の男しかいない。


「どうも。試作品はできていますか?」


「来たか。自信作だぜこっちが悪臭でこっちが爆音だ」


 俺は眼帯の男から試作品のアイテムを受け取った。

 野球ボールくらいのサイズで持ちやすいし投げやすい。重さも適度だから使いやすそうではあるな。


「注意しておくが、悪臭玉は風の位置に気をつけろ。爆音は有効範囲を半径五メートルに設定しているから距離はちゃんととれよ」


「…ちなみにどんな臭いなんです?」


「興味あるか?ちょっと待ってろ」


 眼帯の男は何やらゴソゴソしていると思ったら、タオルを差し出してきた。


「臭いの元を少しだけ付けた。いいか思い切り吸うんじゃないぞ。軽く近づけるだけだぞ」


 鼻を抑えながら渡してくる。ベルとコタロウは既に退避済みだった。俺は覚悟を決めて恐る恐る近づけてみる。


「…」


 何かもう凄すぎる臭いだった。例える物が思いつかないレベルだ。俺はこんな臭いの詰まったボールを投げられたら絶対に逃げ出したくなる。よくこんな物を作れたな。


「凄い物を作りましたね」


「俺もそう思うぜ。まあ頑張ってきてくれよ」


「ありがとうございます。ちなみにおいくらですか?」


「試作品で金はとらねえよ。ただ使ってみた感想はなるべく早く教えて欲しい」


「分かりました。ところで今日は一人なんですか」


「ああ、お前から買った素材で武器や防具を作っているんだ。張り切っていたから完成したら見に来てくれ」


 どんな武器や防具ができるのかは興味があるな。

 ただ素材的に棒系の武器は期待できないか。でも見るだけでも楽しいし、俺が獲ってきた素材がどんな風になるのかな。


「楽しみに待っています。また必ず来ますね」


 俺は店を後にした。早速アイテムの効果を試すために街の外へと出かける事にしよう。


「やっぱり街の外に出ると開放感があるな」


 街の中は家や建物にあふれているが、街の外には何も無く草原や森が広がっている。ベル達も広々とした空間が気持ち良いようではしゃいで走り出したりしている。


「ところでどこで試そうかな。この辺はまだ人が多いから止めた方がいいしな。もう少し遠くまで行くか。…なあベル。身体強化して走るのは大丈夫そうか?」


「キュ」


 ベルは丸を作る。以前はダメだったが、少しは成長したのだろうか。俺はベルとコタロウを乗せてから身体強化をして走り始めた。


 普段に比べると体が軽い。周りの景色が早く流れていく。だけど確かに体力も魔力も早く減っていく気がする。しばらくは走り続ける気はするが、この分だと風魔法を纏うのはまだまだ先になりそうだ。


「この辺りまで来ればいいかな」


 走り始めてしばらく経つと、嫌な気配がする風を感じてきた。その方向に進むとオークを発見した。

 草原で遮るものが無いためオーク達も俺を見つけたようだった。


「エサミツケタ」


「オレクウ」


「ハヤイモノガチ」


 オーク達は手に持っているボロボロの武器を構えだす。そのまま涎を垂れ流しながらこちらに迫ってくる。

 勢いよく迫ってくるオークたちを俺は身体強化した足で蹴り飛ばす。


「「「ブヒ!?」」」


 オーク達は飛ばさられるとは思っていなかったようで次の動作が遅れている。

 うまい具合に距離ができたので、悪臭玉を投げてみる。すると破裂するのと同時に緑色の煙が発生する。


「「「ギャー!!」」」


 悪臭玉を投げつけられたオークたちは悶えている。鼻を抑えてバタバタとのたうち回り呼吸もままならないようだった。

 あの臭いを無防備で嗅いでしまったらああなるのか。敵ながら同情してしまうな。


 でもまず悪臭玉の効果は確認できたな。かなりの効果があるみたいだ。新人の冒険者はいざという時に持っていても良いだろうな。問題としては攻撃のチャンスなのだが、悪臭がまだオークたちの周りに残っていて、俺も近づけない事かな。この状態では近づいてとどめを刺すのは難しそうだ。逃げるときは良いが、あの臭いをどうにかしないと魔法などの遠距離攻撃が必要になりそうだ。

 ここは眼帯の男に伝えておかないと。ついでにどれくらい効果があるか気になるしもう少し観察するか。


「キュー」


「たぬー」


 ベルとコタロウは俺よりも後ろの位置で待っている。俺より嗅覚がいい分悪臭玉はキツイようだった。

 十分くらいすると緑の煙が薄れてきたように見える。それと同時にオーク達が立ち上がる。オーク達は動き始めるが動きは緩慢だった。


「臭いが残っているのかな。嗅覚が無くなればまた動けるのか?」


 試しに感覚魔法を発動させる。勿論オーク達の嗅覚を無くすためだ。今までこの魔法が成功したことは無いけど。

 だが今日はいつもと違った。何が違うと聞かれると答えにくいが魔法が成功した感覚があった。その証拠にオーク達は悪臭を感じなくなったらしく普通に襲い掛かってきた。


「ってヤバイ」


 魔法が成功した嬉しさもあり反応が一瞬遅れてしまった。風魔法ですぐに切断したが油断大敵とはこのことだな。


「危ない危ない」


 冷や汗をぬぐってから、バラバラになったオークに近づいてみる。


「臭っ」


 臭いは取れていない。一度収納して出してみても結果は変わらなかった。清潔の指輪を使うか水魔法で洗い流せば臭いが消えたのだが、これも問題だな。


「もう少し試していくか」


 しかし周りからは魔物の気配はしない。そのため、魔物の気配がある近くの森へ足を踏み入れる。


「最初に目覚めた森と違って不気味だな」


 こちらの森は薄暗くジメジメしている。自生している植物もちょっと違うみたいだった。

 少なくともピクニック気分で弁当を食べようとは思わないな。

 

「キュ」


 ベルが魔物を察知したようだ。視線の先には沼があり、そこから何か出てくるようだった。俺には分からなかったので、水の中などに潜まれると俺の風魔法では感知ができないかもしれない。


「グァ!」


 鳴き声が聞こえると同時に、高いジャンプで沼の水が飛び散った。

 沼から出てきたのはバカでかいカエルだった。大きさとしては普通の一軒家くらいあるか。これは流石に蹴り飛ばせないよな。いや、あれだけ高く飛んでいるから見かけより軽いのか?しかし、動かないなコイツ。


 カエルは動かないと思ったが突然口を開いた。すると、舌が俺を狙って伸びてきた。


「はやっ」


 舌は機敏な上に近くの木をなぎ倒すくらいの威力はある。カエルは一番大きい俺を獲物に選んだようで集中して狙ってくる。


 ベル達は離れたところにいるし、爆音玉を使ってみるか。

 

 幸いにもカエルはその場からあまり動かず舌で攻撃してくるので狙いやすい。隙を見て爆音玉を投げつけた。


「!?」


 カエルはその場で悶えている。かなり効いたようで苦しそうだった。

 俺達の方には少し大きい破裂音程度にしか聞こえなかったが、近くは余程の物だったんだろうな。

 これは悪臭玉より使いやすいな。防音対策も出来ているし効果もしっかりある。


「これも感覚魔法が効くのかな」


 先程の悪臭玉で嗅覚を無くすことに成功したので、今度は聴覚を操作してみる。嗅覚の時と同じく成功した感覚があった。予想通りカエルは立ち上がったのだが、オークとは違いこちらは何だか混乱しているようだった。


「一切の音が聞こえなくなったからか」


 急に音が聞こえ無くなれば慌てるよな。俺だって同じような反応しそうだしな。


 とりあえずやる事はやったのでカエルを倒すことにした。こちらも風魔法で一発だった。収納すると名前はフォレストトードと表示された。


「この調子で頑張ってみるか」


………

……


 悪臭玉と爆音玉、それと感覚魔法を森の中で練習し続けた。

 その結果二つの試作品はかなり有効だと分かった。個人的には悪臭玉の方が威力は高いように感じた。臭さで死ぬことは無いようだがかなりのダメージを与えることに成功している。ただ天敵がいた。それはゴブリンだ。アイツ等だけは悪臭玉が通じない。むしろ異臭の中平然と近づいてくるので厄介になる。


 さらに感覚魔法についても分かってきた。元気な状態の相手への成功率はかなり低いが、出来ないわけじゃないので練習次第では成功する可能性があるようだ。ただ、ダメージを与えて弱らせた方が成功率が増し、悪臭玉などを使うとほぼ確実に成功している。

 恐らく相手が、「臭い」「うるさい」などと否定的な思いがあると成功しやすくなるのだろう。幻魔法が上手く使えるようになれば、かなり効果的に戦えるだろうな。


 ちなみにコタロウもベルの指導の下で戦闘の訓練を行っていた。攻撃に関してはまだまだのようだが、防御と回復に関してはかなり成長しているようだった。これは本人の性格に起因しているのかもな。


 収穫もあったし、今日はこれくらいにしよう。コタロウは疲れて眠そうにしているし。


 いい時間になったので街へと戻る事にした。

 コタロウを抱き上げベルを肩に乗せて森を後にする。


 街に着くと日はすっかり落ちてしまった。

 一応眼帯の男の露店に向かってみる。


「まだやっていたのか」


「何だお前か。今帰るところだったんだけど何か用か?」


「試作品の感想を伝えようと思ったんだけど明日の方が良さそうだな」


「もう使ってみたのか!?感想があるなら聞かせてくれ、早い方がありがたい」


 少し遅い時間だったが眼帯は問題ないようだった。俺は使ってみた感想を細かく伝えてみた。


「なるほどな。悪臭玉は臭いが染みつくのか。脱臭用のアイテムを作るか、臭いが消える工夫が必要だな。爆音玉はこのままでも問題は無さそうだが、有効範囲を調整できた方が良いかもな」


 話を聞くと改良方法を考え始めて、ブツブツ呟き始める。

 考えの邪魔しちゃ悪いし帰るか。


「それじゃあ俺は帰りますね。あ、ちなみに試作品って残っていますか?残っていればお金を出してもいいので欲しいんですけど」


「本当か?どっちもまだ残っているから持っていきな。完成品ができたらまた買ってくれればいいからよ。また待っているぜ」


「ありがとうございます。助かります」


 店から離れて夜道を歩いて行く。空を見上げると星が広がっていた。高い建物が無いからよく見える。

 

「こうして夜道を歩くのもいいかもな。いつもは暗くなる前に帰っていたからな」


 夜風が気持ちよい。せっかくだからすぐに隠れ家には帰らず夜道を適当にうろついてみた。


 夜の街はやはり昼とは違った顔を持っていた。人通りの多い場所に出ると、酔っぱらいやきわどい服を着た人達の客引きなどが目立ってくる。

 異世界でも夜の街は変わらない物だな。この雰囲気は嫌いではないがこういう場所は友人と一緒に飲みたい。


 ベルとコタロウと一緒にお店に入るのも気が引けるので隠れ家に帰ることにした。…そういえばガチャで当たったロマネコンティどうしようか?だれか一緒に飲んでくれる人いないかな。

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