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小さな仲間

 城の扉には鍵などかかっていない。来るなら来いと言っているようだ。


「グラバインさん。念のため扉を吹き飛ばしてもらってもいいですか」


「任せておけ」


 いい笑顔で答えてくれた。先程の戦いで鬱憤が溜まっていたのだろう。槌を振るうと轟音と共に稲妻が走った。


「すげぇ」


「これくらいは朝飯前じゃ。姿がムーシュ様ということで後れを取ってしまったからの。今度はみっともない姿は見せんよ」


「そうだな。私も少しは頑張らないと」


 ジェスターさんは手にしている楽器を奏でる。音が響き渡ると城の中から魔物達の悲鳴が聞こえたような気がした。


「…城内の魔物は大抵は倒したよ。ただ、地下に何体か残っている。結構力があるようだから気をつけた方がいいね」


 あの一瞬でそんな事をしたのか。つくづくレベルの差を感じるな。ナイルさんの様なAランクの冒険者も強いと思ったが、Sランクは本当に別の世界だな。それを考えると“花咲く道化”の全力ってどんな物なんだ。


 今さらながらアルレで特訓していた事に冷や汗を流してしまう。ただ不思議なことにこれから対峙するだろうエイプスに対しては恐怖心が薄れてきた。

 

 グラバインさんとジェスターさんのお陰で苦労なく、封印されている地下まで進むことが出来た。しかし、やはり立ちはだかる存在がいたようだ。


「お見事でしたね。いやー、素晴らしい魔法の数々でしたよ」


 現れたのは見覚えある男達だった。ノルンさんは表情を歪める。


「…なぜ貴方がいるのですか?」


「私はエイプス様の部下だからですよ。先祖代々昔からね」


 そう言って笑ったのは魔術戦団団長のウォルフだった。清々しい笑顔がなんとも憎たらしい。


「何だと!?」


「ハスク侯爵家というのは仮の名前なんですよね。本来はカフス家なんですよ。スペルを入れ替えると簡単に分かるんですけどね。バカが多くて気疲れないんですよね。それに王都守護四家の一つだったみたいですけどね、国の存続よりも研究心が強い人が多いみたいで二百年前に裏切っちゃったんですよ♪」


 アナグラムかよ。……うん?それだともしかして。


 俺はとある考えが浮かんだが、ノルンさんの怒声で引き戻される。


「ふざけるな!守るべき立場の者がこんな愚行を」


「だから私は元々がエイプス様の部下なんですよ。それに人体実験が好きなんですよね。立場なんて邪魔で仕方がなかったですよ」


「貴様!」


 激高したノルンさんはウォルフに飛びかかろうとしたので俺とシェリルで制止する。


「落ち着け」


「ノルンさん止まって下さい」


 取り押さえる俺達をウォルフは笑って見ている。

 そして、ポケットから紙を取り出した。


「さてと、私はエイプ様の封印が完全に解けるまでこの場を死守しなければいけませんからね。皆さんにも付き合ってもらいますよ」


 紙がヒラヒラと宙に舞うと、俺達の周囲を囲み始める。攻撃してみるが今はないようだった。


「エイプス様が封印中に研究していたものです、簡単には破れませんよ」


 そして足元に扉が現れて俺は扉の中に落ちていく。


「…本当に空間を使う相手が多いな。キーノに烏天狗に化け狐。そしてウォルフもか。それともエイプスか?」


 地面に降りた俺は周りを確認する。ただただ地面が続いているだけのつまらない場所だ。


「ベル達の召喚は……やっぱり出来ないか」


 やはりこの手の事は封じられている。そして立ち尽くす俺の前に紙吹雪が舞う。


「敵の登場か?」


 狂乱舞を握りしめて姿が出るのを待つ。紙吹雪の勢いが収まると姿が見えたきた。


「ノルンさん」


「貴公か。……どうやらここには私達しかいないようだな」


 ノルンさんは現れると周囲を確認してから状況の把握に努めていた。


「多分そうだね。ちなみにベル達を召喚しようとしたけどできなかったから、隔絶された空間だと思う」


「そうか。…誰か来るな」


「よく分かったな」


 俺達の会話に第三者が入り込んできた。再び紙吹雪が舞ったかと思うと声の主の姿が見えた。


「よおクズ野郎」


「お前は」


 俺に武器を向けているのは"金色の竜牙"のリーダーであるガローゾだった。俺もさすがに驚いてしまう。


「見た事があるな」


「"金色の竜牙"のリーダーのガローゾだ」


「…高ランクの冒険者にもこんな輩がいるのだな」


 ノルンさんは悲しそうな表情をしているが、手にした武器はガローゾに向いている。


「“金色の竜牙”はガローゾの手下なのか?」


「バカを言うな。俺とエイプスは互いに利用しあっているだけだよ。高みに昇るためにな」


 俺の言葉を否定してガローゾは笑い出す。


「高みとは魔物化のことか」


「当たり前だろ。魔物の一部を培養して人の体に結合させる。雑魚共は無様な結果で終わるが、俺のような天才なら至高の種族になれるんだよ。こんな風にな」


 ガローゾの体が変形していく。金色だがムーシュさんのように竜の角や翼が生えだし、感じ取すれる魔力量も大きくなっている。


「竜の一部を結合したのか」


 ノルンさんがガローゾの姿を見て驚愕の表情を浮かべていた。


「そうだ。そして俺は完全にコントロールしている。竜の力を手に入れんだよ。……まあ、シェリルが手に入れた力も気になるがな。アイツからも何か強い力を感じる。おいクズ野郎、貴様は何か知っているか?」


「教えるわけがないだろ」


 不意打ちで水の散弾を放つ。ノルンさんも俺に合わせて雷を放った。ガローゾは一瞬笑ったかと思うと避けるそぶりも無く魔法を受け止める。


「クズはクズでしかないな。非力すぎて憐れみすら感じてしまう。魔法とはこうするんだ」


 手を上に向けると空から火を纏った岩が、雨のように幾つも高速で落ちてくる。


「さあ逃げてみろ」


「ちっ」


「大丈夫ですよ」


 俺はその場から動くことなく、上空に暴風を発生させて岩の軌道を無理矢理俺から逸らす。


「少しはやるようだが、所詮はCランクだな」


 どんどん威力が増していく。俺の風では逸らすのも難しくなってくる。なので岩を刻む事にした。


「は?」


 岩を刻むのは難しくなかった。細かくなった岩は先程よりも簡単に軌道を変えられ地面に落ちる。お返しとばかりに落ちた岩を飲み込むような荒波をガローゾに向けて放つ。


 波だけでもかなりの威力だが、岩が混ざっているのでさらに威力は上がっている。ガローゾは今度は受け止める事はせずに上空に飛んで逃げた。


 飛んだ瞬間にノルンさんはガローゾに斬りかかる。ノルンさんの刀はガローゾに当たったが皮膚が硬質化しており切断には至らなかった。だがガローゾの体からは血が流れる。


「硬いな」


「テメエ。俺の体に傷をつけやがったな。クズ野郎と一緒にボロボロにしてやるよ」


 ガローゾはまず俺に勢いよく近づいてきて大剣を振るってきた。受け止めはしたのだが、単純な力は向こうが上だ。押しきられたので距離をとる。


 その隙にノルンさんが再び斬りかかるがガローゾの大剣と力比べになってしまう。


「ぐっ」


「弱いんだよ!」


 風鴉に持ち換えて八咫烏を放っててみる。しかしガローゾはノルンさんを吹き飛ばすと、大剣を一振りして凪ぎ払って見せた。


 そのままガローゾは大剣を使って攻撃してくる。剣圧だけでもダメージを与えられそうな強烈な攻撃だ。だけど技術ならアルレに及ばないし、速さならナイルさんの方が圧倒的だ。


 そう思えるが、俺も攻撃は避けられるがこっちの攻撃は防がれてしまうので、良い状況とは言い難い。むしろ相手は時間を使わせるだけでいいから向こうの方が有利だ。


 そのまま数分間同じ状態が続く。そこでノルンさんが口を開いた。


「貴様はなぜその力を正義のために使わない。Aランクになれたのもその借り物の力なのか!」


 ガローゾの動きが止まった。


「正義、借り物の力……ふざけるな!!」


 ガローゾの魔力がさらに膨れ上がる。


「ぐぁ!?」


 一瞬の内に距離を詰めて、ノルンさんの首を掴み体を持ち上げる。


「正義だと!?そんな物はない!正しさや勤勉さよりも結局は力なんだよ!」


 ガローゾは思い切りノルンさんを投げ飛ばした。何とか回り込んでノルンさんをキャッチする。


「すまない」


「気にしないで下さい。それよりもアイツ何かあるんですかね」


 ガローゾは憤怒の表情でこちらを睨み付けている。


「そんなに怒るなんて図星なのか?やっぱり借り物の力でのし上がったのか?」


「調子に乗るなよ三下。言っておくが俺は竜の力を得る前にAランクまで上がっているからな」


 そう言うとガローゾは元の姿に戻った。そして大剣を俺達に向けると炎を飛ばしてきた。


「灰になるまで燃やしてやるよ」


 水魔法を放って炎を相殺すると視界が遮られた。その隙にガローゾは距離を詰めていた。マズイと思った俺はノルンさんを風魔法で遠くに逃がしてからガローゾの一撃を受け止める。剛力に持ち替えていたのだが、ガローゾの一撃でひびが入ってしまう。


「その程度でよく偉そうな口をきいていたな」


 今のガローゾは力も速さも先程よりは劣っているが、普通に戦うのが上手いと思った。能力にかまけて暴れるだけでなく的確にこちらの急所を狙ったり動かしてきたりする。さっきまでの方が戦いやすかったかも。


「口をきくのは自由だろ。それよりも普通に強いのになんで竜の力を得ようとしているんだ?」


 ガローゾは一瞬悲痛な顔を見せた気がした。そしてゆっくりと口を開いた。


「……貴様は周囲の期待を一身に受けて、修行漬けの日々を過ごしたことはあるか」


 無いな。そもそも期待された記憶がない。


「苦しい修行を乗り越えて力を手に入れたにも関わらず、全く太刀打ちできない相手と戦ったことはあるか」


 ガローゾは鋭い目で俺を見続ける。


「そして自分を簡単に倒した相手から『君は強かったよ。また機会があったら戦おうね』と笑顔で言われたことはあるか」


 ガローゾの目つきや口調が段々と強くなってくる。


「そしてその相手が異世界から来た者で、実戦経験も修行もした事のない者だったことはあるのか!」


 大剣を地面に叩きつける。それでもガローゾの怒りは収まらない。


「俺の努力やそれまでの実績は何の意味もなくなった。周りはその男を勇者と呼び、聖剣もその男を選んだ。家族も友も許嫁も、俺の事など見向きもしなくなり勇者に媚び諂う」


 コイツは聖王国の出身か?たしか勇者がそこにいるとシェリルが言っていたよな。


「言っておくが勇者は碌な奴じゃねえぞ。力の制御もいい加減で、希少生物が生息する森や遺跡を壊した回数は両手で数えられないくらいだ。自らの思想で行動し男に厳しく女に甘い。おかげでまともな事を言っていた者達が多数罰せられたことが何度もある。だがあいつらはこれを正義と言い続けている」


 ……勇者って碌な奴じゃねえな。まあガローゾの話だからどこまで本当化は分からないけどな。ただこれが全部嘘ならコイツの演技力は抜群だな。


「俺も勇者の一言で追放された。勇者に負けて待遇が下がった事で、勇者に仇をなす可能性があるからだとよ。…だから俺は見返すためにこの国でランクを上げた。だがそれでも勇者に及ばないことは実感している。そんな時に力をくれる存在に出会った」


 それがエイプスか。


「女!!正義なんて力のあるやつだけが言えるんだよ!!力の無い者の言葉なんて何にも届かない。誰にも響かない!借り物であろうと力は力だ!あの男に復讐するまでは俺は止まるつもりはないんだよ!それに俺の力が借り物なら勇者の力は何だ!あれこそ加護だけの力だろ!実力派俺の方が上なんだ!!」


 鬱憤が溜まっていたのだろう。吐き出したことでガローゾは少しスッキリしたように見える。そして俺を見てくる。


「ジュンだったよな。正直お前も気に食わない。邪竜を倒して女も無事に救う。どこぞの英雄のような行動じゃねえか。何をしても最後には成功させる勇者の野郎を連想させやがる」


「身勝手な理由だな。この者は勇者とは何も関係ないのだぞ」


「なら止めてみろや。俺は神から加護を授かっただけで強くなった勇者を殺すまでは好き勝手に生きさせてもらうさ」


 話が終わったようだ。おかげで体力を回復する時間は貰えたな。ノルンさんも回復できたようだ。


 そして互いに武器を構えると戦闘が再び始まる。二対一なので俺達の攻撃が当たっている。だがガローゾは竜化こそしてないが、その恩恵は受けているようで傷の回復や耐久力が上がっている気がする。


 そして段々と動きが良くなってきている。先程までは当たっていた攻撃が防がれ始め、避けれていた攻撃が防がなければいけなくなっている。


「クソ」


 やり返すが俺やノルンさんの攻撃を物ともせずに攻めてくる。そして俺はついにバランスを崩してしまった。


「しまった」


「おい!」


「死ね。死んでも利用してやるから安心しろ」


 眼前に大剣が迫ってくる。避けるにもバランスを崩したから難しい。受けるにしても間に合わない。ノルンさんも距離がある。とりあえず全力で身体強化して攻撃に備えた。


「フシャー!!」


「何!?」


 俺は何が起きたか一瞬分からなかった。大剣が当たると思ったのだが、俺の中から黒い毛玉が飛び出してガローゾの顔に張り付いた。ガローゾも突然の出来事で手元が狂い攻撃は外れてくれた。


「邪魔だ!」


「ニャッ」


 振り払われた黒い毛玉が地面に激突する前に走って受け止めた。


「お前は」


 黒い毛玉の正体はタカミの街で見つけた仔猫だった。ここにいるという事は魔導船で見たのも夢じゃなかったのだろう。でもどうやって付いてきたんだ?…いや、体の中から飛び出したし憑いていたのか?


「ニャーン。ニャニャニャーン」


「どうやら貴公の事を気に入ったから一緒にいたみたいだな。自分も戦うと言っているぞ」


「言葉が分かるんですか?」


「私は猫の獣人だから多少はな」


 俺達のやり取りをガローゾは憎しみを込めた目で見ていた。


「ムカつくぜ。何が普通なら死んでいるはずなのに神に愛されているかのようにお前は助かっている。……だが感謝する。勇者を殺す前の練習に丁度いい」


 歪んだ笑顔と共に再び竜化を始める。だが先程までとは姿が違う。もっと竜と一つになっている感じだった。


「さっきまでの姿と違うんだな」


「当たり前だろ。最初から全力なんて出すかよ。さあ、死んでもらうぜ」


「嫌だね。…力を貸してもらえるか?」


「ニャア。ニャニャア」


「勿論。だけど名前を付けて仲間に入れてほしいとの事だ」


「それじゃあ“メア”でどうだ」


「ニャア♪」


 名前を付けるとメアの体が光った。…また従魔が増えてしまったな。三兄弟の勘は俺より精度が高いかもな。


「そんな雑魚を仲間にして俺に勝てると思っているのか?」


「ニャア!」


 メアは元気よく俺の肩に飛び乗ると……寝た。


「「え?」」


 俺とノルンさんの声がハモッた。すぐにノルンさんが俺達を庇う様に前に出た。


「バカにしてるのか!!」


 さすがにガローゾに対してもゴメンと思ってしまった。そんな中でノルンさんは一歩も引かずに迎え撃とうとする。すると突然メアからファイヤードラゴンが飛び出しガローゾに向かって行く。


「何!?」


 俺達は揃ってメアを見た。


「ニャニャア」


 寝ながら鳴くと今度はアースドラゴンが飛び出しガローゾに攻撃を仕掛け始めた。


「何コレ!?」


 ドラゴン達がガローゾに攻撃を仕掛けている間にメアの能力を急いで確認する。


 名前:メア

 種族:夢猫

 主人:ジュン

 状態:普通

 魔法適性:闇魔法 夢魔法

 その他:視線誘導 幸運 軽業 危険察知 睡拳 猫縛り

 加護:なし


 この夢魔法か原因かな。確か詳しく調べられたよな。


 俺は夢魔法の文字をタッチする。


 名前:夢魔法

 夢を操る魔法。他者の夢の中に出入りすることができる。夢の中から記憶を読むことも可能。また、夢の内容を自在に操る事ができ、夢の中の物を一時的に現実に出すことできる。初めの内は眠らないとできないが、慣れてくると起きていても作る事が可能となる。


 俺の記憶でも見ていたのかもな。そこからファイヤードラゴン達を引っ張ってくれたのかもしれない。


「何か分かったか?」


「夢魔法だと思う。夢の中の物を現実に作り出せる魔法みたいです。メアは多分寝てないと使えないみたいですけど」


「それなら起こさないようにしないとな。貴公は遠距離からサポートを頼む。私はドラゴンと一緒に攻撃に加わってくる」


 そう言ってノルンさんはガローゾに駆け出していく。ナイルさんのような速さがあり、ガローゾは不意打ちをくらっていた。ガローゾも反撃しようとするが、俺の魔法やドラゴンの存在も無視できず思うようにいかないようだった。


 俺達は順調にガローゾを追い詰めていく。そして、アースドラゴンの腕がガローゾに直撃した。ガローゾは凄い勢いで飛ばされて地面に叩きつけられた。チャンスとばかりに俺達は魔法を放った。普通なら死んでいるだろうがどうだろうか?


 魔法の余韻も消えて姿が見え始める。ガローゾはまだしぶとく立っていた。そして、先程までより凶悪な雰囲気を纏っている


「殺す!」


 ガローゾの体が大きくなり竜の姿に変わっていく。


「金竜フローシャルか」


「何ですかそれは?」


 ノルンさんがガローゾの姿を見て呟いたので質問してみる。


「御伽噺に出てくる伝説の竜だ。繫栄や栄光の象徴でもあり、不死身や竜達の王とも書かれている。それを基にしているなら厄介だな」


「あー、多分その予感が当たってそう」


 ガローゾの姿が変わると、ファイヤードラゴンとアースドラゴンは攻撃するのを止めて俺達に敵意を向け始めていた。メアよりもガローゾの方に支配権があるみたいだ。


「ニャア!」


 メアも異変を感じたのだろう。俺が起こす前に目を覚ました。そしてメアが起きた事でドラゴン達は消えていく。


「普段なら逃げるんだけどな」


「どこにも逃げ場がないのだから戦うしかないぞ」


 とりあえず八咫烏をぶつけてみるが、やはり効果はいまいちだった。ノルンさんの刀術なら出血させるくらいのダメージは与えられるが魔法などの効き目は薄く決定打に欠けてしまう。


 そしてガローゾは大きく息を吸うと光線を吐き出してきた。俺達は避けたのだが、その威力は思った以上で余波だけでも吹き飛ばされそうな威力がある。


「こっちの攻撃は殆ど通らないのに、あっちはあんな威力かよ」


「…数秒時間を稼げるか?」


 ノルンさんは真剣な表情で俺を見つめてきた。正直アレを数秒止めるなんて難しい事だがやるしかない。


「やってみる」


「ニャア」


 メアはその場で寝始める。竜がダメなのは分かっているようで、色んな魔物を作ってガローゾに向かわせた。ガローゾは腕を一振りするだけで魔物達を蹴散らす。


 すかさず俺もガローゾに近づいて水で顔を覆って風魔法を連続で放つ。


「無駄なんだよ!」


 ガローゾの光線が近くに放たれた。その衝撃で俺は大きく飛ばされてしまう。直撃はしていないはずだが、体中に痛みが走る。


「無様だな」


 ガローゾを俺を見下ろしている。完全に注意は俺に向いている。…これで時間は稼げたよな。

 そして目の前で轟音と共に雷が走り、ガローゾの巨体が真っ二つになった。


「大丈夫か?」


 ノルンさんがすぐ隣にいた。


「何をしたんですか?」


「雷魔法の身体強化と抜刀術だ。強力なんだが反動もすさまじくてな、多用は出来ない」


 確かにノルンさんの軍服がボロボロになり苦しそうな顔になっている。

 俺は立ち上がってノルンさんにお礼を言う。


「ありがとうございます」


「貴公達が時間を稼いでくれたからだ」


 互いに軽く笑ってメアの方に視線を向ける。


「ニャー!!」


 メアはまだ警戒を解いていない。俺も悪寒を感じてしまった。体が勝手に動きノルンさんを風魔法で遠くに飛ばしていた。そして俺は物凄い衝撃と共に地面に叩きつけられた。装備が悪ければ死んでいただろう。


「真っ二つにするとは酷いことするじゃねえか」


 竜ではなく竜人の姿のガローゾが俺を踏みつける。


「バカな。何故生きている」


 ノルンさんの疑問にガローゾは笑って答える。


「俺の体はフローシャルの一部を取り込んでいるんだ。体が二つになった程度じゃ死なねえんだよ」


 そして俺をノルンさんの方に投げ飛ばすと火魔法を放ってくる。

 すぐにノルンさんが同種の魔法を放って相殺してくれたが俺の体はボロボロだ。


「ハハ。死ななかったか。さて次は何をしてくれるんだ?」


 余裕の表情を見せるガローゾ。

 こんな時に“竜滅”せもて“竜喰らい”があれば効果的なんだけど。


「考え事か?余裕だな」


 ガローゾの猛攻が始まる。メアを含めれば三対一なのだが明らかにこちらが劣勢だ。先程終わったと思ったせいか体の疲れを感じてしまう。衰えることのないガローゾにどんどん押されてしまう。


「まずは俺を斬ったお前からだ。同じ目に合わせてやろう」


「ぐぁ」


 隙ができたノルンさんに狙いを定めて大剣を振り下ろす。横から風魔法をぶつけて軌道をずらしたが、肩に大ケガを負ってしまう。


「ノルンさんっ!」


「私は大丈夫だ。それより」


「そうだぜ。自分の心配をしないとな」


 直撃こそ避けているが、こちらの攻撃が全く効いてないからどうしようもない。だが、俺が戦っている間にノルンさんはメアと何か話していた。この状況の打開策だと信じたい。だから俺は時間を稼いでおこう。


 俺は武器を仕舞って殴り掛かる。


「こんな攻撃が当たると思っているのか」


 余裕の表情を見せるガローゾ。しかし俺の拳は顔面を捉えた。


「…は?」


 ダメージは無いようだけど驚きのあまり動きが止まった。そのまま“剛力”を取り出して思い切りぶん殴る。


「本当にイラつかせる。なぜお前は死なねえんだよ」


 剛力による一撃をくらってもケロッとしている。だが俺に対する怒りだけは積みあがっていた。そんな時にメアの声が響きわたる。


「ニャー」


 俺もガローゾもメアの方に視線が向かう。そこには先程までいたノルンさんの姿は無くメアが寝ている姿があった。


「陽動か!」


 ガローゾはすぐに別の方向にいたノルンさんを見つけて光線を放つ。だがノルンさんは躱しながらガローゾに詰め寄り刀を振るう。


「無駄だ!」


 刀はガローゾの体を傷つけるが致命傷には程遠い。そして硬さに負けたようで刀は折れてしまった。ガローゾは勝ち誇った顔をした。その一瞬が致命的だった。刀を折られてもノルンさんは逃げていなかった。そして懐から短剣を取り出して胸に突き立てた。


「ギャー!?」


 短剣しっかりとガローゾの胸に突きささっていた。その短剣は間違いなく“竜喰らい”だ。ガローゾは短剣を引き抜こうとするが力が入らないようだ。

 

「くそが!」


 寝ているメアに向けて火魔法を放つが、俺の水魔法によって掻き消される。


「あ、あ、力が。力が抜けていく」


 竜の力封印されているからか、ガローゾがどんどん衰えていく。見た目だけでなく魔力もだ。そして体が崩れていく。


「こんな終わりかよ。たった一本の武器に俺は負けるのか?」


 ガローゾは目を瞑ったかと思ったが、再び大きく見開いて大声で叫び出す。


「認めねえ!!俺は絶対にアイツを殺すんだ!体なんてどうだっていい!どんな形でも俺はアイツを殺してやる!!」


 そう言ってガローゾは消えていった。思ったよりもアッサリと死んだと思う。“竜喰らい”の存在も大きいと思うが、もしかしたら竜の力で体は限界だったのかもしれない。残ったのは金色に光る一本の竜の牙だった。これがガローゾに融合していたのだろう。


「“金色の竜牙”か」


 俺は収納してノルンさんとメアに駆け寄った。ノルンさんは倒れそうになっていたので俺は慌てて支えることにした。


「ありがとうございます」


「貴公が引き付けてくれたおかげだ。それとメアのおかげだな」


 メアはノルンさんに撫でられると気持ちよさそうに目を細めていた。俺とノルンさんは口角が緩んでしまった。それどころではないとすぐに思い出して辺りを確認してみる。


「…空間にひびが入りましたね。これで戻れますかね?」


「ああ。もうすぐ出られるだろうな」


 出られると思って安心すると他の皆が心配になった。どうか無事でいてくれ。

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