幕間③
ムーシュ・クイン・スカラとの戦闘中。コタロウ達は結界を張ってネロを守ったり、戦闘人形や音魔法で支援を行っていた。
内心では他の皆のように戦いたい気持ちもあるが、足手まといになる事が分かっていたため自分達で出来ることを考えていた。
そんな戦いの最中、魔方陣に囲まれる状況が起きた。コタロウ達は思った。これはヤバいと。普段守ってくれるベル達も余裕などない。ジュンもコタロウ達を隠れ家に還す暇などない。この状況は自分達でどうにかしないといけない。
すぐに動いたのはコタロウだった。ベルの次にジュンとの付き合いが長い彼は、増えていく仲間達が大好きだった。だからこそ死んでほしくない。シェリルの時のように泣くのも、ジュンを泣かせてしまう事も嫌だった。
だからこそ彼は行動に出た。
「たぬ!」
勢いよくリッカ達に見せるように手を上げる。そこには一枚の紙があった。リッカ達は瞬時に理解した。
各々の目の前には黒い渦ができ、全員がそこに飛びこみ黒い渦は消えた。そのタイミングで大爆発が起きる。コタロウ達がいた場所には何も残らなかった。
そしてコタロウ達は隠れ家に戻っていた。そう、コタロウが手に持っていたのは隠れ家のパスポートだった。戦いの最中に一時避難をしていたのだ。
「ピヨ!」
「ペペン!」
ムギと調子を取り戻したネロが急いで戻ろうとする。だが、コタロウは二匹を止めていた。
「たぬ。たぬぬ、たぬたぬ」
「ベア!」
焦る二匹を宥めながら、リッカに周囲の様子を探るように指示を出す。リッカもコタロウの指示に従って偵察人形を確認する。
偵察人形の多くは壊されてしまったが、離れた位置に置いていて無事な人形もいた。その人形達を動かしてジュン達の様子を確認する。
するとそこには傷だらけのジュン達と捕まっているシェリルが映し出された。
すぐに駆け付けたい思いを抑えて映像を見続ける。エイプスの言葉に怒ったジュンを見るのが辛かった。すぐにでも無事を報せに行きたかった。でもコタロウは我慢した。動こうとする仲間達を抑えていた。
今じゃない。そうコタロウは思っていた。
邪竜を倒した時、竜滅を失ったように見せ、虚をついて倒すことができた。ならば自分達も死んだように思わせて虚をつくべきだ。倒すことは出来ないだろうがシェリルを救うことは出来る。そう信じてコタロウはタイミングを待っていた。
そしてジュンが吹き飛ばされた。エイプスがニヤリと笑った。
今だ。勝利を確信して油断している。チャンスが巡ってきた。
「たぬぬ。たぬたぬ!」
「ベア!」
「ピヨ!」
「ペン!」
コタロウはすぐに指示を出した。ムギには隠形でシェリルの側に待機してもらい、合図と共に音魔法と月光水をシェリルに渡す役割を。リッカには戦闘人形に月光水を持たせて他の人達に渡す役割。そして攻撃が来た場合は人形で防ぐようにと。ネロには重力魔法を周囲に展開させて物理的な攻撃が届かないようにと伝えた。
そして、ムギだけコッソリと先行させてタイミングを待った。
「まあ奇跡なんて起きないので諦めて下さいね。さあこちらに来てください」
エイプスの言葉にジュンが動き出した瞬間にコタロウは合図を送る。
「たぬ!」
リッカ達は指示した通りに動いてくれた。結果は上々だった。コタロウ達は今すぐにでもジュンやシェリルに抱きつきたかった。
だが、まだそんな時ではない。戦いが終わったら今日は一緒に寝ようと思いながらも、気合いを入れ直してこの後の戦いに挑むのだった。