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怒り

 選択を迫られる俺。正直な話断りたい。


 だが断って危険なのはシェリル達だ。アルレと同等の敵が三人もいるなんて詰んでいる。グラバインさんとジェスターさんがいるがそれでも分が悪いだろう。


 それなら。

 俺はシェリルとベル達を見てから、エイプスを睨み口を開こうとした。


「断るに決まっているだろ」


 俺よりも早くシェリルが返答していた。その目は鋭く強い意志を感じる。それとは正反対にエイプスは、愚かな者を見るような目でシェリルを見ていた。


「この戦力差を見てもそんな事が言えるなんて愚かな女ですね。言っておきますけど呪怨竜より強さだけなら上ですよ」


「そんな事は知っている。だがジュンを犠牲にする気は無いのでな。それに貴様が約束を守る保証などない。さらに言えば、ジュンを手に入れる事によって貴様はさらに強さを得られる手段を手に入れるのだろう」


 シェリルは翼を広げる。


「おや、貴女も人から魔へと進化しているのですね。貴女も実験材料として魅力的ですよ」


「貴様のような変態などお断りだ」


「残念ですね。ところで他の方はどうですか?一人を差し出せば逃がしてあげるのですが」


「儂もお断りじゃな。坊主は今回の依頼主じゃ。珍しい酒をたんまり貰っておるからの」


「同じくお断りだね。そんな生き方は美しくない」


「私もだ。貴様のような者の言う事を聞く気はない」


 グラバインさん達も続いて戦う意思を見せていた。ベル達も俺の前に立っている。こんな中で俺だけ諦める事はできない。俺も武器を持って構える。


「バカばかりですね。まあいいでしょう。さあ愚かな人形達よ戦いなさい。ジュン君だけは殺してはいけませんよ。それ以外は殺しても構いません。それでも実験には十分使えるので」


 三人から強烈な殺気が放たれる。


「「「カカカカカ」」」


 三人の表情が歪んでいく。


「誰じゃこれは」


「ああ、体は本人たちの物ですが、魂は殺人者達の物を組み込んでいますからね。本物より強力だと思いますよ」


「ふざけおって」


 グラバインさんとジェスターさんは怒っているようで、それぞれ武器を握りしめていた。

 しかしノルンさんが膝をつき震えている。それとネロも同じような状況だ。

 俺達も少なくない恐怖を感じるが動けない程ではない。これは邪竜やキーノ戦ってきたからだろう。


「コタロウとリッカとムギはノルンさんとネロの側で結界を張りながらサポートを頼む」


「たぬ」


「ベア」


「ピヨ」


 コタロウ達は素直に頷き、結界と音のによる支援や戦闘人形をだしてサポートに回ってくれた。ノルンさんとネロは動けるようになるまでもう少しかかりそうだ。


「ムーシュ様は儂が相手をする。あの力に対抗できるのは儂だけじゃろうからな」


「私は母上を止める。…人殺しはさせたくないのでね」


 俺達はスカラか。あの多彩な魔法をどうにかしないといけないのか。既にグラバインさんとジェスターさんは、少し離れた場所で戦いを始めている。俺達の前にいるスカラは杖を構えたまま動かない。それなのに冷や汗が止まらない。


「キュー!!」


 最初に仕掛けたのはベルだ。周りの木々や草を操りスカラに向かっていく。しかしスカラは一歩も動くことなく火の魔法で焼き払う。その隙にシェリルが近づいて大鎌を振るうが、杖を向けただけで不思議な力で飛ばされてしまう。


 俺も八咫烏を作りスカラに向かって飛ばすのだが、土の壁で防がれてしまう。


「この技貫通力が高いはずなんだけどな」


「泣き言は言うな。とにかく仕掛け続けるしかない」


「私も手伝おう」


 落ち着きを取り戻したノルンさんも参戦してくれた。さすがは軍人だ。ネロの方はまだ無理そうだ。俺達はとにかく攻め続けた。リッカの戦闘人形達や魔法を放っても相性の良い魔法で消されてしまい、接近戦を仕掛けても杖を向けられるだけで吹き飛ばされて近づけない。


「何なんだよあの杖は!?」


「…ようやく鑑定できた。“引斥杖”という名前だ。物質を近づけたり遠ざけるだけの能力のようだ」


「単純な能力だけど面倒だな。離されると魔法が飛んでくるし」


「だが杖の向けている方向にしか使えていない。とりあえず同時に行くぞ」


 俺とシェリルとベルとノルンさんで四方から攻撃を仕掛ける。スカラは杖をベルの方に向けてベルを吹き飛ばした。その隙に俺達は武器を振るった。


「やっぱりか」


「まあ甘いはずがないな」


 俺達の攻撃は見えない壁に防がれていた。すぐさま魔法が飛んでくるので距離を取る。

 何とか戦えて入るが、俺は違和感がぬぐえない。


「…ところで加減しているのか?他の二人に比べて積極的に攻めてこないし強い魔法も使ってきてないよな」


「恐らく貴様を殺してはいけないからだろうな。その縛りが無ければ私達は今頃死んでいたかもな」


 それで手加減されていてもジリ貧なのか。俺達は肩で息をしているが、スカラは息一つ乱していない。そしてスカラは一度グラバインさんやジェスターさんの方を確認した。グラバインさん達は押されてはいるがかなり善戦している。


 ムーシュとグラバインさんの武器がぶつかる度に周囲には衝撃波が広がっている。クインとジェスターさんは互いの姿が殆ど確認できないが、時折弓矢や音が響き周りを破壊していっている。


 その状況を見るとスカラの魔力量が一気に増えた。この辺り一帯を魔法陣が囲みだす。


「これはマズいぞ!全力で防げ!」


 シェリルの声で俺達は全力で障壁を展開する。それとほぼ同時に大爆発が起こった。

 凄まじい衝撃としか言いようがない。全力で展開していた障壁なんて一瞬で壊された。シェリルの翼やベルの魔法が威力を軽減させたようだが、それでも十分な威力だ。


 グラバインさん達も含めて俺達は満身創痍の状態だ。それに対してムーシュ・クイン・スカラの三人は平然と立ったままだった。そして、シェリルが捕らえられていた。

 そんな俺達を見てエイプルは不快な笑みを浮かべている。


「力の差は歴然ですね。見て下さいよ、貴方の従魔は消えちゃいましたよ」


「は?」


 俺は周囲を確認する。コタロウ達が居たはずの場所には何もない。近くからもコタロウ達の気配もしない。俺は血の気が引いていく感覚に襲われた。体が自然と震えて涙がでる。信じたくない気持ちでいっぱいだが、目の前の現実が俺の思いを打ち消していく。


「貴方がさっさと私に付いてくればこんな事にはならなかったのに。この女も実験に使わせてもらいますね」


 エイプスの声が耳に残ってしまう。俺はやはりついて行くことが正解だったのだろうか?頭の中が真っ黒に染まっていく。そこに残るのは怒りの感情だ。


「あぁぁぁ!!」


グラバインさん達が俺を止めていた気がするが耳に入ってこなかった。俺は一直線にシェリルを捕まえているエイプスに攻撃を仕掛ける。


 武器がぶつかる音がした。俺の攻撃をムーシュが防いでいる。ああ邪魔だ。邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ。


 自分でも信じられない力が出た。黒い風が吹いてムーシュを押し始める。


「これは…ハハ、面白い。実に面白いですね」


 エイプスが一人上機嫌に笑っている。

 ああ、うるさい。黙っていろ


「ああ!!」


 ムーシュを押しのける事に成功した。だがすぐに魔法や弓矢が飛んできてエイプスの側に向かう事は叶わなかった。そしてムーシュもすぐに体勢を立て直してくる。


 振り下ろされる一撃。受け止め少しの間は拮抗する。だが俺の力はドーピングのような物だ。最初は意表をついて押すことが出来ていたようだが、冷静になった相手には敵わなかった。俺は吹き飛ばされる。


「大丈夫か」


 ジェスターさんが俺を受け止めてくれた。彼のケガも中々に酷い。

 エイプスは俺達の方を見てさらに笑っていた。


「いやー、結果は伴いませんが素晴らしい見世物でしたよ。ますます君が欲しくなりましたよ」


 シェリルは捕まっており、俺達は負傷の上に三人に囲まれている。そして、コタロウ達はどこにもいない。ああ神様がいるならぶん殴りたい状況だ。ちくしょう。

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