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エイプス

「…い……のか」


 体が揺れている気がする。あれ?俺は何をしているんだっけ?


「おい!聞いているのか!?」


「…あ?」


 俺はシェリルに揺さぶられていた。側にはベル達やグラバインさんも集まっている。


「俺は今何していた?」


「机の前でボーっとしていたぞ。声をかけても上の空で心配したんだからな」


 そうか。手紙を触ったら記憶が流れ込んできて、その間俺は無防備な状態になっていたんだな。…しかしベルモフ家ってかなり重要な家じゃねえか。知られてないのは記憶から消えているからか。そして他の三つの家から裏切者がいるのか。


「…ノルンさん」


「なんだ?」


「王都守護三家って今もいるんですか?」


「残念ながら一つしか残っていない。ネイラート家は娘が軍でワルキューレ部隊という女性部隊の隊長をしている。カフス家とルジャンダ家は遷都後に無くなったらしい」


「一騒動じゃったから儂も記憶がある。確かカフス家は後継ぎが次々に死に絶えて、ルジャンダ家は旧王都の調査で変死体が発見されたはずじゃ」


 その言葉に俺は考え込む。


「元帥や団長たちは違うんだな」


「モラーク元帥はムボレフ男爵家から昇りつめた方だ。ヤンゼン軍団長はエドイット伯爵家、ベルフォン竜騎士長はローレンティア伯爵家、ウォルフ魔術戦団長はハスク侯爵家だ」


「ふーん。元帥が一番爵位は低かったんだな」


「だからこそ、あのお方は私のような獣人でも重宝してくれるのだ」


「そうか」


 そう答える俺にシェリルが心配そうに声をかける。


「大丈夫か?調子が優れないなら一度戻るべきだ。無理をしても危険が増えるだけだ」


「…そうだな」


 元々蛇足的な調査のつもりだったので、戻る事に反対する者はいなかった。

 俺達はミラージュハウスに入ると体を休める。


 俺はベッドに腰を掛けると横にはシェリルやベル達が座ってくる。


「それで何かに気付いたのか?」


「どうしてそう思うんだ?」


「貴様の様子がおかしいからな。何か考え事をしている顔だ」


 まあ分かるよな。明らかに俺の様子がおかしかっただろうし。


「正解。ところでシェリルはあの部屋の机の上に手紙が置いてあったのは気が付いたか?」


「手紙?見た記憶は無いな。貴様に声をかけた時も何も持っていなかったしな」


 ベル達も見えていなかったようで首を傾げている。


「そうか。理由は知らないけど俺だけにしか見えていなかったんだな」


「……また貴様は厄介事に関わるのだな」


「今度は選ばれた理由が一切分からないけどな。とりあえず簡単に説明するけど、王都守護三家は実はベルモフ家を含めた四家で、カフス家かルジャンダ家が裏切り者らしい。それと当時の王は魔物になってエイプス達と一緒に城の地下に封印されている。その封印はそろそろ解けそうだけどな」


「……」


 シェリルは目を丸くして固まっていた。

 心配したベル達が頬っぺたを引っ張ったり、頭をペチペチと叩いているのはちょっと微笑ましい。


 そしてシェリルは動き出すと、ネロを捕まえて撫で回しながら俺を見る。


「何でそんなことが分かったんだ?」


「手紙を触ったら記憶が流れてきた。予想だけどベルモフ家の当主は記憶や封印に関する魔法が使えたんだと思う」


「本当に貴様といると退屈とは縁が遠くなるな」


「ハハハ。俺は刺激なんて望んでないけどな。ところで、この情報も伝えた方が良いよな?」


「そうだな。ここまで来ると情報の選択をする方が面倒だ。明日の朝にでも話すべきだな。……ノルンは少々面倒な気もするがな」


「元帥や軍団長の誰かが裏切り者かもしれないしな。まあ、十中八九そうだろうけど」


「可能性が高いのは私達を送り込んだ元帥か?」


「まあな。だけど答え合わせは今はできないし警戒するしか無いよな」


 俺はベッドに横になる。すると、空気を読まずに遊べとでも言うようにベル達が乗っかってくる。


 俺もシェリルも余計な事を考えるのは止めて、ベル達と遊ぶことにした。その方が精神衛生上正解だろう。


………

……


「……以上が昨日俺が見た事だ」


 翌日。俺は三人にベルモフ家で見た事を伝えたが、俺の言葉に三人は険しい顔をした。


「守護四家か。……正直記憶に無いぞ。話が事実ならとんでもない男じゃな」


「しかし、わざわざ記憶から消す必要があったのか疑問だけどね」


 ジェスターさんの疑問に皆が考え込む。そして、シェリルが口を開いた。


「推測でしかないが、貴族が王を討ったというのが問題だったのではないか?当時は遷都や虐殺事件の影響で混乱していただろうしな。ある程度都合よく事実を捻じ曲げたかったのではないか?」


「ふむ。確かに有力貴族が王を討ったとなると問題が出てくるの。国の統治や政治的な問題が出て安定した統治が難しくなる可能性は高いの」


「まあ考えても仕方がない事だと思いますけどね。それよりも城の調査は地下を中心に探すでいいですか?」


 俺の問いにノルンさん以外が頷いた。ノルンさんは俺の話を信じたくないようだった。国のために戦ってきている彼女にとっては、国の中に裏切者がいる事や、当時の王が自らの意思で魔物になった事を信じたくないのだろう。素直で責任感のある性格が仇になっているな。


 まあ、それはそれとして俺達は今日も旧王都に向かう。ただ今日は何か雰囲気が違った。旧王都が近づくにつれて、嫌な気配を濃く感じる。


「止まれ(るんじゃ)」


 グラバインさんとジェスターから同時に制止がかかり、壁を越える直前で空飛ぶ絨毯を下に下ろす。


「正面に向かうぞ」


 グラバインさんの雰囲気に押されて、そのまま正面入り口に向かう。門が近づくと倒れている兵士達が見えてきた。


「何があった!」


 ノルンさんはいち速く兵士達の側に向かう。


「邪気に当てられただけじゃ。ここから遠ざければよい」


 離れた場所に寝かせて介抱していると兵士達は目を覚ます。


「何があった」


「……分かりません。急に不安や恐怖に包み込まれた感じがして、そこからは意識が」


「そうか。お前達はこの事を元帥達に知らせてきてくれ。ここは私達が見ておく」


「すみません。ご武運を」


 そう言って兵士達は駆け出していった。本当は馬がいたようだが逃げたらしい。

 頑張れよと思いながら改めて正門から王都の中を見る。もう魔窟といった雰囲気だ。偵察人形も旧王都の中にいる物は作動しなくなったようだった。


「しかし、この中に入るのはキツイよな。……ネロ。重力魔法で王都を潰せたりしないか?」


 俺の質問にネロは黙ってくやしそうに首を横に振る。そのままベルやコタロウ達を見るが、全員首を横に振った。


「そうだよな。デカすぎるもんな。俺も力があったら水没させるんだけどな。ああ、シェリル。燃やすことは出来たりする?」


「ギルドや貴族街は火に強いから私の力では無理だろうな。一部なら可能かもしれんが、この邪気の元ごと燃やすのは無理だ」


 俺達の会話を聞いているノルンさんは慌てだした。


「いや、貴公達は一体何を言っているのだ!?旧王都は文化遺産にもなるものだぞ。壊すつもりか!?」


「可能ならそうしたい。ここまできたら調査なんて言ってらんないしな。それでも放っておくことも無理そうだし。まあ大丈夫だ、この邪気のせいで壊れた事にすればいいだろ」


「大丈夫じゃないだろ何を考えている」


「この状況の打開策だな。ところでグラバインさんやジェスターさんはできたりしますか?」


「雷の雨でも降らせてみようかの」


「私は破壊の音を響かせよう」


「お二人もそちら側ですか!?」


 乗り気になっているグラバインさんとジェスターさんに困惑しているようだった。


「このような状況なら仕方がないことじゃ。この邪気を放っておくわけにはいかんからの」


「美しくはないけどこの邪気に侵食されるよりはマシだね」


 二人は魔法を撃つ気満々だ。Sランクの魔法の威力を間近で見られるかもしれないな。

 そしてグラバインさんは背負っていた槌を振るい、ジェスターさんは楽器を奏でる。次の瞬間には空を覆い尽くす雷と強烈な波動が旧王都に襲い掛かる。


 その威力に俺達は茫然と見ているしかなかった。しかし、旧王都の周りに強烈な風が発生して二人の攻撃を防いで見せた。


 それと同時に学者風の男が門の前に現れた。

 昨日の記憶で俺はコイツを見たな。


「まさかいきなり攻撃をしてくるとは思いませんでしたよ。バカの考える事は本当に分かりませんね」


 突如現れた男に全員が警戒態勢だ。それを見ても男は焦った様子がない。


「そんなに構えなくても大丈夫ですよ。私は取引に来ただけですから。申し遅れましたが私はエイプスと申します。皆さんなら知っていると思いますけどね」


 普通異形の魔物達と戦って、城に入ってから現れるものじゃないのかよ。そんな俺の思いなど関係なく目の前には今回の騒動の張本人が立っている。


「…取引とはなんだ」


 シェリルの質問にエイプスは嬉しそうにする。


「簡単な話ですよ。そこにいるジュン君を私に渡してくれるだけです。そしたら私達は他の国にでも移りましょう」


「断ったらどうするつもりだ?」


「そうですね。こんなのはいかがですか?」


 エイプスが不気味な笑みを浮かべると、三人の男女が現れた。男性は竜のような翼と角が生え、片方の女性はエルフでもう片方は魔女のような服装をしている。


 俺とシェリルは三人に見覚えがあった。そしてグラバインさんとジェスターさんも驚愕の表情をしていた。


 三人の姿はキーノに見せられた映像とそっくりだ。そう、"花咲く道化"のメンバーだ。装備にもアルレと同じデザインがついている。


「なあシェリル」


「言わんでも分かっている。恐らく想像通りだろうな」


 俺達は話ながらも三人から視線を逸らしていなかった。だが、瞬きした瞬間に動いたのだろうか。ドラゴニュートの男性ムーシュの姿がない。そして轟音と共に目の前でグラバインさんとムーシュが打ち合っていった。


 それを皮切りに残りのクインとスカラも動き出した。クインは景色と同化でもしたのか姿が見えなくなる。だが、ジェスターさんが反応しており牽制してくれている。


 それでもスカラが余ってしまう。グラバインさん達も目の前の相手で手一杯な様子だ。


 そしてスカラが俺達に向かって杖を向けた。杖の先からは数多の魔法が飛ばされる。シェリルやうざったいシャイニーよりも圧倒的に多い魔法の数だ。


「キュー!」


 ベルが黒い渦で魔法を飲み込んでくれた。するとスカラは四方八方からタイミングもずらして攻撃してきた。俺達は全てを防ぐことはできず吹き飛ばされた。


 そして顔を上げて周りを見るとグラバインさんとジェスターさんもボロボロになっている。まだ戦える様子ではあるが相手の方が一枚上手なのだろう。


 そんな俺たちの様子を見てエイプスは笑いながら声をかける。


「手加減しましたから動けるでしょう。断ったら三人に全力を出してもらいますよは全力を出してもらいますよ。さあジュン君どうしますか」


 人を見下した目で俺に選択を迫ってきた。

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