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貴族街

「うわー、近くで見ると凄い屋敷ばかりだな。俺には分からん感性だ」


「確かにな。どの屋敷も張り合って作っていそうだな。金が勿体ないな」


 貴族街に来たのだが、上質な素材で建てられているようで、どの屋敷も多少汚れている程度で形を保っている。


 だが奇抜な像やデザインの屋敷も多くあり、そちらに目がいってしまう。


「貴公達は何しに来たのだ。早く調査を始めないか」


 若干イライラしているノルンさんに促されて近くの屋敷に入ってみる。念のために"導く鬼火"も使用する。


「この屋敷は隠し部屋は無さそうですね」


 鬼火が動かず消えていったので、俺達は一部屋ずつ調査していく。隠し部屋が無くても情報はある可能性があるからな。


 部屋は書庫や書斎以外は調度品等が飾っている部屋が多かった。そのため、部屋の数は多いが調べる時間は思ったより短く済んでいる。そして、調度品は回収できるので結構な実入りになる。


 俺達は順調に調査を進めていく。ただ残念ながら収穫は何もないまま、午前中は終わってしまった。一度休憩を挟んでから午後の調査を開始する。


「ここは大きい屋敷だけど変に凝ってはいないんだな」


 目の前の屋敷は普通に立派な屋敷だった。変な装飾や像も無いので俺としては周りの屋敷より好感が持てる。少し期待を込めて中へと入る。


 屋敷の中は他の屋敷と同じような作りだが、調度品などは落ち着いており、何より“導く鬼火”が反応しているという違いがある。


「ここは何かあるのかもな」


「置いてある物も他の屋敷より価値が高い。貴族の中でも力を持っている家系の家かもな」


 シェリルも周りの物をしっかりと確認してくれていた。


「多分ここはネイラート家だね。そこの扉に三本の剣の家紋があるよ」


 ジェスターさんが示す先を見ると、重厚な扉に三つの剣が交差するようにデザインされている。


「ネイラート家?」


「…王国の守護三家の一つだ。昔は王都にいたみたいだが今は別の街に住んでいるはずだ」


 俺の呟きにノルンさんが答えてくれたのだが、眉間にシワを寄せて機嫌が悪そうだ。俺の無知が原因だと思ったが、視線は家紋をジッと捉えていた。この家と何かあるのだろうか?まあ、聞いても教えてくれないだろうしさっさと中を探そう。


 “導く鬼火”の後を付いて行くと、地下へと向かう階段に差し掛かった。ギルドもそうだが、地下の方が隠しやすいのだろうな。


 しばらく地下を歩いていくと、何もない壁の前で止まった。すかさずシェリルが鑑定する。


「結界と幻魔法が掛けられているな。二百年経っても色褪せてないとは、相当な術者のようだな」


「ホワイトコングの時と同じ様な物か」


「そうだな。だがあの時はホワイトコングが解除してくれたが、今回はそうはいかないだろう」


 ならベルの出番だな。


「ベル。頼むぞ」


「キュ!」


 任せろと言わんばかりに壁へと向かう。しかし、ベルのやる気とは裏腹にすんなりと結界を抜けてしまった。


「キュ?」


 ベルは首を傾げるが俺達も同じ気持ちだった。ベルは結界を行き来しては不思議そうにしている。

 その様子を見たグラバインさんが結界へと歩き出す。


「見せかけだけなのかの?」


グラバインさんがそう言いながら手を触れた瞬間に、凄まじい力で拒絶されて吹き飛ばされた。


「ぐ!?」


 俺達はグラバインさんに駆け寄る。


「大丈夫じゃ何ともないわい。しかし何じゃこの結界は。そんじょそこらの結界ではないぞ」


 疑問に答えるかのように知らない男の声が屋敷の中に響き渡る。


『お前はこの先に来る資格はない。来て良いのはそこの人間の男と先程結界を通過したリスのみだ。他の者は資格がない』


 …なんで俺?ベルもだけどさ。資格って何だよ?


 俺は考えがまとまらないが、全員の視線が集まりさらに困惑してしまう。

 そしてシェリルが俺に向かって口を開いた。


「貴様は思い当たる節はあるのか?」


「無い。俺とベルの二人で行動したのは森の中と竜の巣くらいだ。森の中では特に特別な事はしていないし、竜の巣でも別にこれといった物が無いな。グラバインさんやジェスターさんも竜を倒したことはあるだろう」


「もちろんじゃ。一通りの竜とは戦ったの」


「私もです」


 全員黙り込んでしまう。考えても資格が一切分からない。謎の声もあれからは何一つ喋ってくれない。


「仕方がない。この先の調査は貴公達に任せるしかないな」


 ノルンさんの言葉にいち早く反応したのはシェリルだ。シェリルの表情はきつくなっており、ノルンさんを睨みつけている。


「おい。何故ジュン達が行かなければならないんだ」


「何を言っているのだ?二人しか入れないのだから仕方がない事であろう」


「あんな結界を張る相手だ。危険すぎる。ここは引いて他の場所の調査をするべきじゃないか」


「それだけ重要な情報が隠されている可能性が高い。行くべきだ」


「私達がそこまで危険を冒す義理は無い」


「王国の一大事かもしれんのだぞ」


「ならば軍を動かすべきだろう。それこそ一介の冒険者の出る幕ではない」


 女性たちの睨み合いは迫力がある。俺どころかSランクの二人も頭を掻いて何も言えないようだった。そして当たり前だが当事者である俺に話が振られる。


「貴公はどう思うのだ!行くべきだとは思わないのか!」


 興奮しているノルンさんとは対照的なテンションで俺は答える。


「行きたくはないな。少なくとも今の結界を張れる奴と戦いたくはないからな」


 あっさりと答える俺にノルンさんの動きは止まる。何か言いたげな顔をするが、冷静になったのか項垂れて俺とシェリルに謝罪をしてきた。


「すまなかった。熱くなったようだった。貴公達が危険を冒す必要は確かに無い。忘れてくれ」


 ノルンさんは踵を返して引き返そうとする。だが俺の発言で再び動きは止まる事になる。


「でもとりあえず見て来るわ」


「え?」


「何を言っているんだ貴様は」


 シェリルが俺に詰め寄り問いただそうとしてくる。


「本音を言えば行きたくないよ。でも、行かない方がヤバいって直感が告げているんだよな」


 他の人からすれば何を言っているんだ?という言葉だが、シェリルは俺の勘の良さを知っている。そのため俺の言葉に何も言えなくなっている。


「…シェリル?」


 詰め寄られた状態で黙られるので俺は焦ってしまう。そしてゆっくりとシェリルが口を開いた。その声には元気がない。


「なぜ貴様やベルばかりが危険な目に合わなければいけないのだ?………無事に帰って来ないと許さんからな。ベルもだぞ。お前も体を張り過ぎている。二人に何かあったら悲しむ者達がいるのを忘れるなよ」


 シェリルの体にコタロウ達がよじ登り、ジッと俺とベルを見つめている。俺の手は自然とコタロウ達に伸びてしまう。


「分かっているよ。心配ばかりかけて悪いな」


「本当だ。後で私達の好物を要求するからな」


「たぬたぬ」


「ベア」


「ピヨ」


 俺達は周りを気にせず自分達の世界を作っていた。だが、しびれを切らしたグラバインさんの声で現実へと引き戻される。


「お主らいつまでやっておるんじゃ?」


「…もう少しダメですか?」


 俺達はグラバインさんをジト目で見る。


「儂らを前にしてそう言いきれる胆力は凄いの。じゃが、さっさと行ってこい。儂らは他の部屋を調べておく」


「分かりました。それじゃあベル行くぞ。無事に帰らないと、シェリルやコタロウ達に怒られるから慎重に進むぞ」


「キュ!」


 俺の言葉にキレイな敬礼を見せるベル。そんな俺達の様子を複雑そうな表情でノルンさんは見ている。

 俺達はそんな視線を受けながらも結界の先へと足を踏み出していく。


「…廊下は普通だな。魔物の気配もないよな」


「キュ」


 警戒しながら廊下を進んで行くが魔物の気配は今の所は無い。ただ、この先にはとてつもない何かがいる気配はビンビンだ。だが不思議な事に俺達は落ち着いている。緊張はしているが、ここ最近は天狗・邪竜・グラバインさん・アルレと一流の猛者と戦ったせいか強い相手と対峙するくらいでは動じなくなってきた。


「いかにもな扉だな」


 結局何にも出会う事が無く怪しげな扉の前にたどり着いた。一体中に何がいるのやら。俺とベルは互いに頷き合って、ゆっくりと扉を開けた。


「よく来たな」


 そこにいたのは雰囲気のある装備を纏った骸骨だった。イスに座って俺達を待っていた。


「……力を示せとか言って襲い掛かってこないよな」


「安心しろ。ワシは話をしたいだけだ。滅びに目をつけられたお主達とな」


 不穏な単語が聞こえてきたぞ。


「滅び?」


「ああ滅びだ。恐らく今の時代には伝わってはおるまい。魔国辺りは知っているかもしれんがな」


「…俺とベルが関係しているなら聞かせてくれないか」


「もちろんだ。そのために呼んだのだからな。だが、まずはこの日記を読んでほしい。ワシの仲間が書き綴った本だ。説明だけよりは分かりやすいだろ」


 骸骨が俺に渡した本は、あの日記と酷似している。ベージを捲ってみたが、やはり同じものだ。


「この日記なら、冒険者ギルドの隠し部屋で発見して持っているぞ。読んでないベージも多いが、最初の日記の部分は一通り読ませてもらった」


 そう言って俺は本を出す。骸骨は驚いた雰囲気を出したが、次第に笑い始めた。


「カーカッカ。ふざけて作った部屋が残っておるとはな。よくあそこから見つけたものだな。まさかスケベ心で全部読んだわけではあるまいな?」


「失敬な。暗号を解いたんだよ」


「カーカッカ。本当に笑わせてくれる。あのイタズラを解くとはな。いやー、二百年ぶりに笑ったぞ」


「それじゃあ、その礼にとっとと教えてくれよ」


「うむ。分かった」


 気を取り直して骸骨は話を始める。


「かつてこの世界は何度も滅びては復活を繰り返しておる。そして滅びの時には必ずとある魔物が関係しておるのだ。残念ながらその魔物の名前や姿はどの文献にも載っておらんかった。しかし、魔物が現れる前には必ず八体の魔物が現れるのだ」


 邪竜か?いや、それならシェリル達も来れるもんな。


「その八体の魔物は滅びの魔物への対抗策だ。味方にするか倒して武器にするかが必要となる。だがこやつらも一筋縄ではいかない魔物。滅びの魔物の前にこの八体の魔物によって世界が滅んだ事もある」


 とんでもない化け物だな。出会ったら逃げるしかないな。


「炎滅槍を司る地獄の支配者"炎獄獅子"、水滅鞭を司る裁きの水害"マザースネーク"、風滅棒を司る神風の賢者"マスターゴリラ"、土滅斧を司る怒れる大地"不動鬼神"、雷滅槌を司る雷の大砲"スパークアルマジロ"、氷滅剣を司る紅蓮の白刃"氷剣竜"、光滅大剣を司る聖剣"ホーリーエンジェル"だ。闇の魔物は名前も武器も伝わっておらん。ただ、滅びの魔物と同等に危険と言われている」


 何か情報が多すぎるぞ。一体は見覚えがある魔物だし、何なら氷滅剣は持っているし。……ただ、一番気になるのは何でゴリラとアルマジロなんだよ!?。まだ虎・恐竜・鮫・狐とか色々いるだろう。


 俺は頭を抱えてしまう。それを見て骸骨は口を開く。


「これらの魔物はとてつもない力を持っているが目覚めた直後は力が不安定で倒すチャンスがある。だが、完全に目覚めると倒すのは限りなく不可能に近い。ワシは生前、ガロン・ネイラートという名前でこの国の騎士団長をしておった。剣聖と言われる程度には腕に自信があった。王の命令で冒険者ギルドのギルドマスターやSランクと呼ばれる腕利き五人も含めた討伐隊を結成して“不動鬼神”の討伐を行ったが、封印するので精一杯だった。この辺りからは日記で確認できる事だ」


 確かに見たな。この後に研究者が出てきて、色々変わってしまうんだよな。


「説明を省くが、この状況を作り出した男はまだ生きておる。滅びの魔物を自分の力にするためにな」


「は!?」


「おかしな話ではないぞ。魔物になれば寿命は伸びる。さらに言うとあ奴は目覚めたばかりの"マスターゴリラ"を発見して倒し、風滅棒を手にしておる」


 え?それってヤバくないか。


「幸い、あ奴は風との相性が悪く力を制御しきれていない。ワシがこの地から出られぬように封印を施し、仲間が"不動鬼神"を別の地へと封印してくれた。だが、限界がきておるのだ」


 骸骨の体はよく見るとボロボロだった。所々にヒビや欠けた部分が目立っている。


「お主は何で自分がと思っておるだろう。だが、八体の魔物を倒した時点でお主達は狙われる存在となっている。ワシですらお主らの滅びの気配を掴めたのだ。あの男も掴んでいるだろう」


 その言葉に俺は疲れてしまった。俺は別に何かを成し遂げたいわけではない。シェリルやベル達と面白おかしく暮らせれば十分だ。それなのに何でこんな事に巻き込まれなくちゃいけないんだろうな。


「…ところでどうやって俺達が魔物と戦ったって分かるんだ?」


 何か理由があるなら対抗策をとれるかもしれないしな。


「あ奴らと戦った者は魂に匂いが付く。それを感じ取ったまでだ」


「…そうか」


 落胆している俺の気持ちに気が付いたのか、ベルは俺を元気づけようと体をすり寄せてくる。


「サンキューなベル。大丈夫だ」


 ベルの頭を一撫ですると俺は骸骨に向き直る。今は情報を集めるのが大事だ。悪い情報でも何でも聞いておこう。


「まだ聞きたいことがあるがいいか?」


「構わん。ワシも最後だろうからな」


「そうか。まずは滅びの魔物はいつ復活するんだ?」


「滅びの魔物は八体の魔物の復活の後に復活する。魔物達の復活は三百年程度のズレがあるらしいが、“ホーリーエンジェル”は三百年ほど前から、代々の勇者が聖剣として受け継いでいるはずだ。そう考えるとここ十年以内に復活する可能性が高い」


「勇者の聖剣ならそいつは味方なのか?」


「そうだな。他の魔物と違い友好的だ。問題なのは他の七体になるな」


 それは僥倖だな。…勇者に会いに行かなきゃならないのかな。


「他の魔物の所在はつかめているのか?」


「“不動鬼神”はとあるダンジョンの最奥に封印されているはずだ。そこに地図がある。それと先ほども言ったが“マスターゴリラ”は倒されて男の手に渡っている。近いうちに会う可能性が高いな。他の魔物は残念ながら知らんのだ。“炎獄獅子”は魔国に出現すると言われているがな。後は一体はお主が知っているのだろう」


 “氷剣竜”は俺が倒したから、居場所が掴めないのは“マザースネーク”、“スパークアルマジロ”、それと闇の魔物か。面倒だな。


「そうか。………最後に一つ聞くけど、俺達でどうにかなる相手だと思っているのか?」


「どうにかしないと死ぬだけだ。そしてどんな形かは知らんが、実際に一体倒しているお主らなら他の者より可能性がある。……もちろんタダ働きではなく報酬もあるぞ」


 骸骨は小瓶を二つ取り出して俺に渡してきた。


「これは?」


「媚薬と精力剤だ。効果は保証しよう」


「アホか!?この流れでこれはないだろ」


「何だと!?」


 本気で驚いている骸骨にこっちがビックリだよ。


「王や高官も喜んでくれたのだがな。他にはよく効く育毛剤もあるが」


「確かに需要はあるだろうけど」


「そうか。後はこんなのしかないが」


 今度は鈴を渡された。今度はどんな効果なんだよ。


「警告の鈴だ。普段は音が出ないが、身につけておると、危険が迫ってきた時だけ音が鳴るアイテムだ」


 うん。普通にいいアイテムだな。最初からこれを出せよ。


「ありがたく受け取ろう」


「そうか。それと生前ワシが使っていた装備を持っていけ、何かの役にたつかもしれん」


 目の前に置かれた鎧と剣。使い込まれているが、手入れはしっかりと行われている。俺はこれも受け取る事にした。


「ありがとうございます。それでは俺達は戻りますね」


「うむ。気を付けるがいい。お主がどんな選択をするのも自由だ。だが、相手はお主の選択を気にせず攻めてくるだろう。後悔はするな」


 俺は皆に何て説明するかを考えながら場を後にした。ちなみに媚薬・精力剤・育毛剤は押し付けられた。

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