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ブックメーカー ~異世界では好きに生きてみたい~  作者: 北村 純
初めての異世界生活
7/92

初依頼

「今日は初めての依頼だから気合入れていくぞ」


「キュー!」


「たぬー!」


 うん。俺以上に気合が入っているな。

 ベルもコタロウもガッツポーズをして張り切っている。何なら、俺より先に走って行こうとするので抱き上げて歩くことにした。


「キュ♪」


「たぬ♪」


 動きを制限されてもこれはこれで楽しいらしい。どんな事でも楽しめるのって良い事だよな。


 ギルドに着くとすぐに依頼の掲示板を確認しに行く。Fランクの依頼は街中の仕事しかないようだった。討伐や採取を考えていたからちょっと肩透かしを食らった気分だが、まあ街を知るためにも受けていいだろう。


「店の手伝いが結構あるな。お、これは昼食付か。屋台じゃなくお店の味も知りたいし丁度いいかもな」


 俺は依頼を決めて受付に持っていく。


「依頼の受注をお願いします」


「畏まりました。ではこの書類を持って行ってお店に向かってください」


 俺は書類を受け取ると依頼人のいるお店へと向かっていく。


「…ここだよな」


 目的の場所について俺は自信がなくなった。店はそこそこ大きく立地条件も良さそうなのだが、営業時間前という事を抜きにしても活気が感じられない。というか暗い雰囲気だ。

 

「営業開始すれば変わるのかな。まあまずは挨拶するか」


 ベル達と一緒に店の中に足を踏み入れる。


「すみません。ギルドの依頼で来たジュンと言います。どなたかいませんか?」


 声をかけると強面の大男がゆっくり歩いてきた。

 なんか昨日から俺こんな人達と縁があるな。…できれば美女との縁が一つでいいから欲しいけど。


「すまねぇな。今仕込み中で遅くなっちまった。俺はこの満腹亭の料理人のガンツだ」


「気にしないで下さい。これギルドからの書類です。ところで仕事の内容は店の手伝いと書かれていましたが、具体的には何を?」


 ガンツさんは書類を預かると俺達に仕事の説明を始める。


「…お前にはどうすれば店が繁盛するか考えて欲しいんだ。昔から料理が好きでようやく店を買ったんだが客が全然入らないんだ」


「は?」


「俺は料理の腕には自信があるんだ。自分で獲物を狩って高い食材を安い値段で提供したりもする。だが全然客が寄り付かない。余分な得物を売って店は維持できているが、このままだと潰れてしまう」

 

 ガンツさんはそう言って頭を下げてくる。藁にも縋る思いなのだろう。

 でも俺商売なんてやったことが無いんだけど。それにこれFランクの依頼じゃないだろ。潰れかけの店の再建なんて難易度高すぎないか。

 でも何かしなきゃダメだよな。


「とりあえず味見とかできますか。出来れば看板メニューで」


 どんな料理を作っているかを知らないと対策も何も無いからな。


「おう今持ってくるぜ」


 そう言ってガンツさんは厨房に戻ると三人分の料理を持ってきてくれた。何も言わずともベル達の分も用意してくれたようだった。


「これが俺の自慢の料理。満腹丼だ」


 出された料理は満腹丼と言う名前のステーキ丼だった。大きな器に大盛りのご飯がよそわれ、ご飯の上に厚切りのステーキが沢山置かれている。そして特製のソースがかかっているようだった。


「普通に美味そうだな」


 見た目は豪快だが決して悪いわけではない。匂いも食欲を刺激される。肝心の味は…


「美味い」


 ステーキの上にかかっているソースは肉にもご飯にもあっている。肉も厚いので固いかと思ったが、程よい程度の固さでスッと嚙み千切れる。一口食べればもう一口食べたくなる味だった。若干味が濃い気はするが、冒険者が多いこの街では好かれる味だと思う。

 横を見るとベルは既に完食しており、コタロウも勢いよく頬張っている。俺達の食べっぷりを見てガンツは嬉しそうにしていた。


「ガンツさんこれ美味しいですけど、値段はいくらですか?」


「大銅貨一枚と銅貨三枚だ。米も肉も俺が獲ってきているからこの値段で提供できている。」


 少し高いが量と味を考えれば問題ない範囲だな。ついでにメニュー表を見せてもらったが、大銅貨一枚しない料理も普通にあるから料金にも問題は無いな。

 後目立つのは店内の汚れかな。古いのは仕方がないにしても掃除が行き届いてない部分が見える。常連が付いているならまだしも、新規オープンだったら清潔感は大事だよな。


「掃除はどのくらいしてますか」


「テーブルやイスは毎日行っているぞ」


 じゃあ壁や窓のほかの部分は手入れ不足かもな。


「それじゃあまずは掃除をして店内の雰囲気を変えてみましょうか。今日は俺が持っているアイテムを使いますが、今後は定期的に他の場所の掃除もした方が良いと思います」


 俺は清潔の指輪を取り出して魔力を込める。すると店内の汚れが落ちてキレイになってきた。


「おお!これだけでも雰囲気が変わるな」


 ガンツさんは変わった店内の様子を見て嬉しそうだった。

 次は人を呼び込まなきゃダメだよな。味は良いんだから食べればリピーターは付くと思うんだけど。


「次は何かあるか?」


「いくつかの料理と値段を書いて外に出しましょう。何も目安になる物が無いと入るのに躊躇するかもしれませんし」


「分かった。じゃあこの板に俺の得意料理を書いておくぜ」


 料理と値段をすぐに書いて外に置いておいた。本当はデザインも考えた方が良いが、そこまではできないだろう。


「とりあえず、人が来るか待ってみますか。俺達はちょっと外に出て宣伝や聞き込みをしてきます」


 開店までは時間があるので、即席のプラカードを用意して宣伝しながら歩き回る事にした。

 ちんどん屋ってこんな感じだったのかな。


「さあ、お昼にガッツリ食べたいなら満腹亭へ。お値段以上の味と量。満腹丼がお薦めですよ」


 大声を出しながらなので人の目は集めている。中には「試しに行ってみるか?」なんて声も聞こえてくる。また、コタロウにも小さいプラカードを持たしているのでそちらに注目している人達も多くいる。この分ならだれか一人くらいは来ると思うけど。


 その後もしばらく歩き続けたので店に戻ってみる事にした。開店時間も過ぎているから何人かは集まっていると信じたい。


「マジかよ」


 店にはガンツさん以外誰もいなかった。ガンツさんは席に座って項垂れている。

 中に入ってガンツさんに状況を尋ねてみる。


「ガンツさん誰も来なかったんですか」


「いや、来るには来たんだが俺の顔を見ると帰っていった」


 …強面だとは思うが引き返すほどか?

 値段は提示したが詐欺だと思われたのだろうか?

 俺は考えてみるが答えは出なかった。


「とりあえず俺が客として入ってみるのでどういう接客したか見せてもらえませんか?」


 やっぱり実際の接客を見なきゃ答えは出ないよな。

 俺は外に出てから再び中に入る。


「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」


 ガンツさんは俺は出迎えてくれた。不気味な笑顔でな。

 間違いないこれが原因だ。この笑顔に嫌悪感を感じて帰っていったんだ。


「ガンツさん。笑顔を作らなくていいですよ」


「バカな。接客の基本だろうが」


「ハッキリ言って不気味です。ガンツさんは普段真剣に物事に取り組んで笑い慣れていないのでは?」


 ガンツさんは少し考えてから口を開く。


「確かに料理も狩りも真剣だから笑って行うことはしていないが」


「それと人と話したり接することは多いですか?」


「いや、一人で動くことが多いな。ギルドとかは事務的な手続きだしな」


「それじゃあ無理して笑顔は作らずに真剣に接していきましょう」


「それで大丈夫か?」


「無理した笑顔で人に逃げられるなら、真剣な表情の方が良いですよ。ただ心を込めて接してください」


「お、おう。しかしまた人は集まるか?」


「頑張ってみます。ちょっと試食用に料理をいくつか作ってくれませんか」


「分かった」


 ガンツさんは厨房で料理を数品作り持ってきてくれた。

 俺達は料理を持って外に出る。


「さあ皆さん。今日のお昼は満腹亭で食べていきませんか。強面店長のこだわりの料理です」


 店の外での呼び込みを開始する。視線は集まるが入ってくる人はまだいない。まあ、そんなに甘くはないよな。

 丁度良く四人組の女性冒険者パーティーが通りかかってくる。俺はすぐに声をかける。


「お姉様方、今日のお昼はここでどうですか?依頼のための栄養補給もばっちりですよ」


「あん?小さい店だな」


「そうね。どうせならもっとおしゃれな店がいいわね」


「私はどこでもいいですけど」


「全然人が入っていないじゃん。私はパスかな」


 評価は最悪だった。だが俺には考えがあった。この方法でダメなら俺にはこの依頼は達成できないな。


「それじゃあせめて試食してくれませんか。コタロウ」


 俺はコタロウを抱き上げる。コタロウは箸できちんと肉を掴んでおりそれを女性冒険者の口元に運ぶ。


「たぬ♪」


「え?え~と」


 一瞬迷ったようだが、コタロウの差し出したお肉を断る事は出来なかったようで口にしてくれた。


「お、いけるじゃん」


「本当?」


 一人が感想を述べると他の三人も興味を示す。


「私も一口いただけるかしら」


「私もお願いいたします」


「私はそっちのリスちゃんにアーンして欲しいな」


「キュ♪」


 コタロウとベルが肉を差し出すと四人とも食べてくれた。


「本当に美味しいわね」


「そうですね。このお店でいいのでは?」


「このリスちゃんと狸ちゃんの頼みは断れないね」


 四人の女性冒険者はこの店に決めてくれたようだった。


「ありがとうございます。それじゃあベル、コタロウ席まで案内してくれ」


「キュー♪」


「たぬ♪」


 ベルとコタロウが機嫌よく先導していく。その姿を女性冒険者たちは黄色い声を上げながらついて行く。


「いらっしゃい。好きな席に座ってくれ」


 ガンツさんが女性冒険者たちに挨拶をする。少々迫力があるが、冒険者である彼女たちには問題ないようだった。俺から見てもさっきのぎこちない笑顔よりよっぽど良い。


 俺は声を出して呼び込みなどを行い、ベルとコタロウは道を通る人に試食を行っている。段々と、従魔が試食をさせてくれると噂が広がったようで興味を持った人が集まりだす。


 最初に入店してくれた女性冒険者たちは帰り際に「美味かったぜ、また寄らせてもらうよ」なんて言葉をかけてくれた。

 行列ができるとまではいかないが、店内の席は大分埋まるようになってくれた。


 そして、お昼のピークが過ぎ去った。


「助かったぜ。こんなに客が入るとは」


「ガンツさんの料理の腕が良いからですよ。それとベルとコタロウの可愛さのおかげですかね」


「いや、お前が色々考えてくれたおかげでもあるさ。もしよければ明日も手伝ってくれないか。報酬は上げさせてもらうぞ」


「それじゃあギルドに依頼を出してください。明日もまた来ますから」


 こうして明日も満腹亭を手伝うことに決めた。

 

「分かったぜ。そういえば腹減っただろ。腕によりをかけて作るぜ」


 ガンツさんが作ってくれたのはちょっと上品そうなメニューだった。自家製のパン・煮込みハンバーグ・クリームシチュー・サラダが出てきた。

 

「これも美味いな」


 個人的には満腹丼の方が好みだがこっちも中々美味い。

 俺が食べている間にガンツさんはギルドからの書類に何かを書いて俺に渡してくれた。


「俺はこれから夜の仕込みがあるから、食べ終わったら帰って大丈夫だぞ。明日もよろしく頼むな」


「はい。それではまた明日」


 食べ終わると俺は書類を持ってギルドに向かう。書類を受付に提出すると驚かれた。


「凄いですね。最高の評価で報酬額も上がっていますよ。それに指名依頼で明日もお願いされています」


「運が良かっただけですよ」


「運だとしてもそれも含めての実力ですよ。明日も頑張ってください」


 俺は報酬を受け取ると隠れ家へと帰った。


―翌日


 隠れ家から出ると満腹亭へと向かう。昨日の事で俺達の顔を覚えた人がいるようで、歩いていると街の人達から話しかけられたりもした。ベルもコタロウも愛想よく対応しているために、人によっては物をくれたりもする。

 そうこうしているうちに満腹亭へと着いた。


「おはようございます」


「おはよう。今日もよろしく頼むぞ」


「昨日の夜はどうだったんですか?」


「それなりに人が入ってくれたぜ。昼に来た人が別の料理を食べにも来たしな」


 ガンツさんは笑っていた。今の顔なら自然なんだけどな。まあ、店が繁盛していく内にその辺は解消されるだろう。


「そしたら今日はベルとコタロウに呼び込みをやって貰って、俺は中で手伝いますか?」


「おう頼むぜ」


 昼の開店時間になると店内は混みだしてくる。ベルとコタロウ目当ての客もいるようだけど、普通に料理目当ての客も多くいる。この分なら店の方はもう大丈夫だろう。


 俺は店内をせわしく動き回り、ベル達も外で頑張って呼び込みをしてくれていた。ピークが終わるころには皆ヘロヘロになっていた。


「今日もサンキューな。おかげで自信がついたぜ」


「良かったですよ。ただ、手伝いは雇った方が良いですよ」


「ああ今募集をかけているよ。明日と明後日は休みだからその間に決めてみせるぜ」


 こうして二日にわたる初依頼は成功と言える成果を上げられたと思う。実際ガンツさんからの評価もギルドの評価も高く褒められている。

 明日は三人組の露店に行って試作品を確認してこないとな。

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