表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/92

一日の終わり

「中々広いの」


「便利な物だね。野宿して星空を眺めるのも美しくて好きだけど、このような家も落ち着けるから良い物だね」


 ミラージュハウスにグラバインさんとジェスターさんはご満悦だった。

 ただノルンさんは茫然とした様子だった。ベル達に促されて進んだのは印象的だった。


「部屋は空いてますので、好きな部屋を使ってください」


 もちろん俺はシェリルやベル達と同じ部屋だ。

 各自部屋を決めたところで、リビングへと集まる。


「風呂もあるので自由に使ってください。ただ入っているのが分かるように札を下げておいてくださいね」


「風呂もあるのか。まったく、ミラージュハウスは噂には聞いておったが本当に便利なアイテムじゃ」

 

「ところで明日はどこを調査するんだい?あのアイテムがあれば街中の隠し扉や怪しい場所を探すことができると思うけど」


「まずは、調査対象の場所から始めます。時間があるようなら街中も調べましょう」


「承知したよ」


「しかし、他の場所には手掛かりがあるといいの」


「今日のようなのは御免ですね」


 ノルンさんはご立腹だ。あの本は一度しっかり目を通してから皆に見せるかな。

 流し読みだけど日記のような感じだったから何か情報があるかもしれないしな。


「そういえばグラバインさんやジェスターさんは旧王都の事を知っているようでしたけど」


「若い頃はこっちにも訪れておったからな。事件以降は近寄ってはないが、話くらいは聞いていたからの」


「私は産まれる少し前の話だが、旧王都には縁があってね。それで情報は集めていたのさ」


 ドワーフって結構長生きなんだな。いや、グラバインさんが特別な部分もあるのか?そして、ジェスターさんの表情が少し曇った気がしたが気のせいか?


 まあ、それよりも情報を貰っておくか。本当は来る前にしなきゃいけない事だったけど。


「失踪や変死に関する話もありますか?」


「儂が聞いた噂は暗闇の中で異形の魔物に襲われるという話じゃな。強さも中々のようじゃ」


「私は夜に死者に襲われるという話だね。死者もゾンビのような風貌から、生きている者と間違えるくらいの者まで様々らしい」


「うーん、夜に調査してみる必要もあるのかな」


「わざわざ危険を冒す必要はないだろう。言われたところや街中の調査だけやればいい」


「しかしシェリル殿。貴公達は邪竜を倒した実績がある。それにSランクの方が二人いて、私も腕には自信がある。ならば大抵の魔物には後れを取らないのではないか」


 シェリルは消極的だがノルンさんは調査をしたいような感じだ。


「ノルンさんは何か聞いていたりしますか」


「いや。依頼書に書かれている内容しか聞いてはいない」


 皆の視線が俺に集まる。当たり前だが俺が決めるしかないらしい。


「…夜の調査は控える方向で。まずは依頼にある場所を調査していく。今回はあくまで調査が依頼だから、積極的な討伐は控えさせてもらう」


 ノルンさんは渋々と言った表情だった。グラバインさんとジェスターさんは別に戦闘狂と言うわけでもないので特にこだわることは無かった。


「ところで聞きたかったのだが特殊遊撃部隊とは何なのだ?一年ほど前には名前など聞かなかったと思うが」


「…半年ほど前にモラーク元帥がお作りになった獣人部隊だ。元帥は聡明で先進的な考えをお持ちのお方だ。獣人族にも差別なくチャンスをくれたのだ。ただ出来たばかりで実績が無いからな。空いている仕事はどんな仕事でも行っている」


「隊長となっているが他の者とはキチンと同等なのか?」


「残念ながらまだ形だけだな。給金を含めた待遇面で劣っているのは事実だ。だが、最低限の給金を貰えている上に部下たちには宿舎も用意してもらっている。安定を望む獣人にとっては好待遇な方だ。それに私達が実績を上げればきっと待遇も改善されるはずだ」

 

 そう言うノルンさんの目は輝いていた。よほど信頼しているのだろう。

 それと同時にコタロウ達が夕食を持ってきてくれた


「たぬぬ」


 出された料理は大量のおにぎりとステーキ。それとお味噌汁だ。

 夕食のいい匂いが充満する。自然と話が終わり夕食へと移行する。


「貴公達は従魔が料理番なのか?」


「一緒に作ることもありますけど、コタロウが料理にはまっているんです」


「まあ宿でも従魔が手伝いをしておるし、料理はできるじゃろうが」


「中々イケるね」


 ノルンさんとグラバインさんは首を傾げていたが、ジェスターさんは気にせずに食べ始めていた。

 それを見た二人も食べ始める。皆が食べるのを見てコタロウが満足そうにしている。食後にはベルの持ってきたフルーツをコタロウがカットしてリッカとムギが盛り付けして出してくれた。


「ふむ。満足したわい。儂は部屋で一杯飲ませてもらうかの。残っているステーキを少し貰っていくぞ」


 グラバインさんはご機嫌な様子で部屋に向かって行く。


「ここの部屋は防音性も高いようだね。私は部屋で曲を作るとするかな」


「私は休ませてもらう」


 ジェスターさんもノルンさんも部屋に戻っていった。やる事も特に無いので俺達も部屋に戻る。

 ベッドに腰を掛けてギルドから持ってきた青い本を俺は読みだした。


 その間シェリルはベル達の毛づくろいを始める。

 順番は相変わらずカードで決めている。今日はコタロウが一番のようだ。

 

 俺はベル達を微笑ましく思いながらも本をめくってみる。


『○月×日 俺は王からの依頼でギルドの選抜メンバーを連れて依頼の地へと向かった。城からも兵士が出るくらいの依頼だ。今までダンジョンがあった場所から強大な魔物が出現したらしい。ノーライフキング・八首竜・白銀獅子・リッチロード。ダンジョンが消えさったからそれくらいの怪物たちを覚悟しておかないとな』


『○月△日 俺達は依頼された魔物を見つけた。その瞬間に俺達は逃げた。逃げなかったのは騎士団長や連れて来たSランクの冒険者だ。俺はギルドマスターとして実力はあると思っていたが、あの魔物や彼らの前では塵も同然だった。俺達が逃げてから数時間後に彼らは戻ってきた。死者こそ出なかったものの彼らは重傷だった。後日談だが彼らは引退を余儀なくされた。もう二度と戦う事はできないだろう。そしてあの魔物は封印が精一杯だったと聞いた。あの魔物が生きていることに恐怖しかない。それは周りの者も同じだった』


『□月○日 王から呼び出しを受けた。城の要職に就いている者。凄腕の商人。有名な貴族など錚々たる者達ばかりだった。内容はあの魔物についてだった。そして魔物に対抗するために優秀な研究者を紹介された。俺達は今後この研究者の男に従わなければならないようだ』


『◇月▼日 依頼された魔物を用意した。ゴブリンとフォレストウルフだ。一体どうするつもりなのかと思ったが、とんでもない事を男はしやがった。魔物を融合させた。ケンタウルスのような姿だ。戦ってみると大した強さではないが、普通のゴブリンやフォレストウルフよりは格段に強かった。組み合わせ次第ではあの魔物を超えられんじゃないかと思ってしまった』


『◆月■日 どんどんキメラが生み出されていく。初めは戦力の強化に喜んでいたのだが、最近は恐ろしく感じるようになってきた。あの魔物じゃなくてもコイツ等が兵士のように戦えば俺達は殺されるんじゃないか』


『■月▲日 あの男は一体何なんだ!?魔物を人間に化けさせた。確かに変化ができる魔物はいるがオーガやゴーレムはできなかったはずだ。…この王都に魔物はどれくらい住んでいるんだ?』


『◎月◎日 陛下の命令でももうついていけない。人が魔物になった。死体が動いて戦っている。確かに強い。強いが違う。俺の気持ちが離れているのを男達は分かっている。陛下を含めた幹部も男の考えに賛同している。俺はもう長くないだろう。だから最後に嫌がらせをしてやろう。この本に男達の情報と作られた魔物の詳細を記してやる。複数冊作ればどれかは誰かの目に留まるだろう』


『●月○日 王都で大量殺人事件、王都周辺で無数の魔物の亡骸が見つかった。彼には感謝しかない。直接お礼を言えないのがもどかしい。彼に伝えたい。貴方は一人も殺していないと。貴方が殺したのは人に化けた魔物達や、無理やり動かされている死体だけだ。貴方のおかげであの男の計画が大きく頓挫した』


 …これ見て良かったのかな?

 俺は少し恐ろしくなった。


「おい。そろそろ本から離れたらどうだ。さすがにいい気はしないぞ」


 シェリルが若干不機嫌そうに後ろから被さってくる。ベルはジト目で俺を見ていた。


「勘違いだよ。これ読んでみろ」


 シェリルが本を受け取ると俺以外の全員がのぞき込む。ベルは何故か文字を理解しているようだったが、コタロウ達は分からないみたいで、本を見ていない俺の側に寄ってきた。


 シェリルとベルが本を読んでいる間、俺はコタロウ達と遊ぶことにした。


「…おい。何だこの本は。何故あんな場所にこんな本があるのだ」


「木を隠すのは森の中。本を隠すなら本の中って考えたんじゃないのか?」


「貴様は何で分かったんだ?」


「シェリルが俺に渡した紙に書いていたじゃん」


「あの紙にか?」


 分かっていなかったようだ。ちょっと意外だな。


「うん。あの手紙ってどう考えても変な文章じゃん。だから暗号かなと少し思ったんだ。とりあえず文章の頭だけを読んだらそれが当りだったんだよ。繋げると『右から二つ目の棚、上から五つ目の青い本』本だけは文字二つだったけど多分合っていると思う」


 俺の説明を受けてシェリルは目をパチクリさせていた。そんな意外だったのかな。


「はぁ。もういい。ところでこの本はどうするつもりだ」


「俺も内容はさっき知ったばっかりだったからそれを相談したかったんだ。この本の内容ってかなりヤバいよな」


「まあな。頭が痛くなる」


「正直、昔の話とはいえ城の関係者がガッツリかかわっているからノルンさんには教えたくないんだよな。子孫が今も要職にいる可能性もあるしさ」


「同感だ。まあグラバイン殿やジェスター殿に相談するのも気が引けるが、タイミングを見て相談するしかないな」


 俺はその意見に同意する。その後しばらくの間。俺達は本を見てキメラの情報などを頭に入れていた。

 そんな中で俺達は、あるページに書かれているキメラに度肝を抜かれた。


 名前:呪怨竜

 種族:竜

 人や魔物の負の感情をエネルギーとする竜。この魔物は基本的な能力は竜だけあって優れている。だが厄介なのは強力な呪いを持っていることだ。呪怨竜の呪いは呪怨竜の本体を倒すことでしか解けない。優れた解呪アイテムでは進行を遅らせるくらいなら可能。呪いで死ぬには長い時間がかかるが、死んだ方がマシなほどの苦痛が長い時間続く。また、強力な分身を作る事ができる。弱点は聖魔法だ。それと負の感情をエネルギーとするため、くじけずに立ち向かえるのならばそれは有効だろう。…コイツはヤバい。あのダンジョンの奥にでも閉じ込めてやる。


 俺とシェリルはそのページを見てから一度本を閉じた。


「今日はこれくらいにするか」


「そうだな」


 何だか精神的に疲れが溜まった気がした。

 俺達は自然とベル達を抱き寄せていた。


「寝る前に少し遊ぶか」


 この言葉で一気に喜びだす。

 今日はトランプを出して神経衰弱だ。


 正解するたびに大騒ぎになる。二回連続で当たると踊りだしていた。

 相変わらずの賑やかさが心地がいい。


 結果としてはシェリルが一位だった。悔しそうにするが皆笑顔だった。


 満足したのか皆でベッドにダイブする。今日はくっついて寝たいのか離れることは無かった。そして調査で気を張っていたためかベル達はすぐに眠りについてしまった。起きているのは俺とシェリルだけだ。


 ついついベル達の頬っぺたをつついたり頭を撫でてしまう。


「気持ちは分かるが、寝ているのだからやりすぎるなよ」


 少し呆れている表情のシェリルだが、よく俺と同じことをしているのは知っている。


「悪かったよ。しかし話は変わるけど、何だかアルレや邪竜に縁があるよな。ああ、正確には呪怨竜か」


「そうだな。依頼書の内容やさっきの本のにも書かれていたしな。…そう言えば貴様はアルレの宝玉を持っていなかったか?」


「ああ。ずっと袋に入れてポケットに入れているぞ」


 俺はポケットから取り出してみせた。


「念のため大事に持っておけよ。私のような事が無いとも限らんからな」


「ああ」


 俺はお守りを握りしめる。俺はシェリルが殺された瞬間を思い出してしまった。あんな光景は二度とごめんだ。


「まあ、死にそうになったら月光樹の実を食べさせてやるから安心しろ」


 俺の不安を感じたのかシェリルが軽い口調で話しかけてくる。

 そのままコタロウを俺の胸の上に乗っけてきた。コタロウは眠りながらもぎゅっと服を掴んでくる。撫でていると心が落ち着いてくる。


 ありがたいが、寝ているからやりすぎるなと言ったのは誰だよ。

 俺は少し笑ってしまう。


「そうだな。頼る状況にはなりたくないが少しは安心できるかもな」


 今回の依頼も良い予感はしないが、やれるだけのことはやっておこう。そう思いながら右手に温もりを感じ眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ