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旧王都

「うぉー!!」


「いきなり叫ぶな」


 朝から頭を叩かれた。ベル達もうるさかったのかジト目で見てくる。


「すまんすまん。久しぶりにガチャが十連になったから」


「ほう。素晴らしいな。今度はどんなアイテムだ?」


「今回す」


 全員が俺のステータスプレートをのぞき込む。俺は期待をボタンを押す。


 名前:戦姫の軍服

 物理・魔法耐性を高め攻撃力も高める。隠密性にも優れ状態異常への耐性も高い。戦う場所も選ばない優れもの。


 名前:鬼姫のドレス

 物理・魔法耐性を高め攻撃力も高める。戦闘時間が長引くほど効果が上がっていく。ただし限度があり、戦闘終了すると元に戻る。


 名前:隠れ家のオーブ(カスタム 発券機)

 壊すことによって隠れ家の能力を得られる。発券機からは回数券とパスポートを発券できる。回数券は書かれている回数分隠れ家の能力を使える。パスポートは書かれている日数分隠れ家の能力を使える。どちらも書かれている名前の持ち主しか使用できない。


 名前:黒炎槍

 炎を纏った槍。炎魔法の威力が上がるが扱いが難しい。


 名前:雷切丸

 雷魔法の威力と速度を上昇させる。切れ味が鋭く使い手によっては魔法も切る事が可能。ただし扱いは難しい。


 名前:ネクロマンサーの笛

 死者を操る笛。操られている者は自我を失い命令を遂行する。


 名前:名前:宝酒(二十本)

 市場に滅多に出回らない酒。人気が高く、貴族が大枚をはたいて買っている。


 名前:カトラリーセット

 特別な効果は無いが、材質やデザインにこだわった高価な物。


 名前:祈りの聖杯

 魔力を注ぐと上質な聖水が湧いてくる。


 名前:魔物の卵(不定)

 卵に注がれた魔力で産まれてくる魔物が変わる。通常では卵から産まれない魔物が出てくる事もある。


「…何か俺が使える防具が中々出ないよな。これどっちも女性用だし」


「あまり気にするな。武器もそうだがこの前みたいに交換できる場合がある」


「そうだな。それよりも発券機はかなりいいな。…ちょっと設置してみよう」


 オーブを壊しても何も変化が見られなかったので入り口へと移動する。すると入口の横に機械のような物が置いてあった。


「回数や日にちを選択できるんだな。名前は…シェリルとベル達のみか。中にいる人なのか俺が許可した人なのか後で検証してみるか」


 とりあえず全員に一年分のパスポートを発券した。

 

「これはアイテムボックスに入れていても効果はあるのか?」


「ちょっと実験してみよう」


 外に出たりして色々と試してみた。そこでいくつか分かったことがある。まずアイテムぼっくしに入れていても能力の使用は問題なかった。それとパスポートや回数券の持ち主が開いた入口は、開いた本人しか入る事はできない。出るときも本人が開けた入り口からしか出れなかった。


「これでどの出入り口も使えたら凄かったけどな」


「それができたら色々ヤバい事になるからな。これでも十分破格の能力だ」


 今日は朝から運が良かった。そしてベル達は魔獣の卵を見ると嬉しそうに囲んで踊り始める。一通り楽しむと、名残惜しいが隠れ家を後にしてギルドへ向かう。


「こちらが依頼になります。日取りが決まりましたらお知らせください」


 丁度良く依頼が届いたようだ。俺達はその場で確認する。


 旧王都は約二百年前の事件をきっかけに衰退していったようだ。その事件は当時ギルドでも一番と言われていたパーティーのリーダーが起こした大量殺人事件だ。リーダーは魔物だったらしく、突然街中で暴れ出して次々と市民を襲い始めた。腕利きの冒険者や兵士たちがすぐに駆け付けたが多くの者達が犠牲になった。


 これって…。とりあえず先も読むか。


 さらにその後、旧王都周辺の魔物が大量に死亡していたのが確認できた。これらの犯人は同一の者と考えられている。暫くの間は厳戒態勢が敷かれ犯人の追跡も行われたが発見することは無かった。だが異変が起き始める。旧王都では失踪者が頻繁に出るようになった。戦闘の跡や失踪者が多く変な噂が立ち始めたために、当時の王は近隣の大きな街(現在の王都)に遷都を決めた。遷都後は逸脱した数の失踪者が出ることは無かった。しかし、旧王都の解体や調査に向かった者達は、失踪したり変死体で発見された。そんな事件が続いたために旧王都は手つかずとなっている。二十年ほど前にも十名が調査に向かったが、七名が行方不明で三名が変死体で発見されている。それ以降は調査を行えていない。


 今回の調査では旧王都内での異変を探す事。期間は一ヵ月。王家所縁の物が発見された場合は王へ返還する事。ただし、その他の物は発見者に所有権がある。報酬は一人大金貨一枚。


 危険性すぎない!?つーか、かなりヤバイ案件じゃねえか!!こんな物を俺に頼むなよ!バカじゃないか。…危なくなったら逃げよう。シェリルの時と違って危険を冒してでも成功させる必要ないし。


 そもそもこんな危険な依頼を少人数に頼むのが悪いよな。


 俺は宿に戻ると内容をグラバインさんとジェスターさんにも伝えた。断られても仕方がないと思っている。


「こんな感じの内容ですが大丈夫ですか?」


「昔、城の者に聞いた通りじゃな。中がどうなっておるかワクワクするの」


「私も知人に噂は聞いていたから問題ないよ」


 二人は元々噂を知っていたようだ。ちなみにシェリルは危険で立ち入り禁止と言うのは知っていたが、ここまでとは知らなかったらしい。パニックにならないように緘口令でもしかれていたのかもしれないな。しかし、心強い。ちょっと安心してきた。


「それじゃあ三日後に調査に向かってもいいですか?」


「構わんぞ」


「私もです」


 二人は問題ないようなので、俺達は今度は“猫の尻尾亭”へと向かう。


「いらっしゃいませニャ」


 中に入ると出迎えてくれたのは白い猫だった。普通の猫が喋り掛けてきたので俺は驚いてしまった。


「人間の客は珍しいニャ。泊まりかニャ?ウチは獣人のお客が多いけど大丈夫かニャ?」


「いや、俺達はノルンさんに用があって来ました。今いますか?」


「今日はお休みらしいからいるニャ。呼んでくるからちょっと待つニャ」


 白猫はそのまま階段を上がっていく。待っている間、辺りを見回すと確かに獣人しか宿にいなかった。兎・虎・熊・鼬と色んな獣人がいる。彼らからは敵意は感じないが視線は強く感じる。


 そして少し待っていると白猫に連れられたノルンさんが降りてきた。


「待たせたな」


「そんな事ありませんよ」


「依頼の件なんだろ。いつ出発するんだ?」


「三日後の予定です。朝にギルド前集合でいいですか?」


「承知した」


 ノルンさんはそれだけ言うと部屋に戻っていく。


「俺達も行くか。ニルト商会で商品を見て行こうぜ」


「そうだな。それと図書館があるから旧王都について調べておくぞ」


 それから装備を整えたり調べものをしていると時間はあっという間に過ぎていった。残念ながら新しい情報は見つからなかった。そして出発当日。ギルド前に行くと馬車の側にはノルンさんとモラーク元帥がいた。


「おはよう。元気かね」


 何でいるんだよおっさん。しかも誰よりも元気そうだ。


「ええ。調査するには問題ありませんよ」


「ハハハ。期待しておるぞ。…しかし君達は恐ろしいな。まさか“殲滅の鉄槌”と“美しき音色”を連れて来るとはね」


「ちょっと縁がありましてね」


「ちょっとの縁で彼らに頼むとはやはり肝が据わっているな」


「私の好きな言葉にこんなのがあるんです。『小才は、縁に出合って縁に気づかず、中才は、縁に気づいて縁を生かさず、大才は、袖すり合った縁をも生かす』私は一人で何でもできる人間ではないですからね。存分に頼って生きていくつもりですので。元帥も種族や出自を気になさらないようなので、共感できる部分があると思いますが」


「全くだ。私も縁は大切にしたいと思っているからね。君とも末永い縁を期待しているよ」


「ありがとうございます。それでは出発いたしますね」


「うむ。きっと良い結果を聞けると信じておるよ」


 そう言ってモラーク元帥は手を振ってギルドの中に入っていく。


「じゃあ出発するか」


 今回は御者が別にいるようでノルンさんも馬車に乗り込む。御者は獣人でノルンさんと親しく話していたので部隊の者かもしれない。


 旧王都までは半日ほどかかった。だが道中はジェスターさんとムギの音楽が響いていたため、飽きることは無かった。


 そして旧王都に着くと、思った以上に立派な門があった。


「見張りの兵士もいるんだな。門も立派だし」


「変な奴らが入らないように常駐している。私が話をしてこよう」


 ノルンさんが門の兵士に話をするとすぐに門を開けてくれた。門の内側は門とは違い瓦礫の山だった。しかし、遠くには無事な建物がいくつも見える。


「なんであっちは建物が残っているんだ?」


「貴族街やギルド関連の施設なんだろう。一級品の素材で作られているから二百年くらいでは朽ちないのだろう」


 手入れも無しに二百年保つとか半端ないな魔法の素材。


 感心してしまうが、調査も早くしないといけないので依頼書を確認する。今回調査して欲しい場所は、ギルド・貴族街・事件現場・王城の四か所だ。可能な限り調べて欲しいようだった。


「とりあえず。ギルドに向かうか」


 周囲に気を付けながらギルドに向かう。大きい無事な建物なので遠くからでも分かりやすかった。

 外は少し汚れていたが、建物としてはしっかりしており少し手を加えればすぐにでも使えそうな状態だ。


 俺達はギルド内に足を踏み入れる。


「中も片付いておるの」


「ええ。しかし、こんなに広い建物に誰もいないのは悲しくなるね」


 周囲に目を向けると王都のギルドにそっくな造りをしていた。

 今の王都のギルドはここを参考に作ったんだな。


「どうする手分けして探すか?」


「依頼書の情報通りなら離れるのは危険だ。グラバインさんとジェスターさんはともかく、俺達は固まるべきだろう」


 離れて一番危険なのは俺だけど。


「了解した。貴様の安全のために側にいてやろう」


「キュ」


「たぬ」


「ベア」


「ピヨ」


 さすがシェリル分かっているな。

 そしてシェリルに便乗するベル達。俺は無言で撫で回す。


「貴公達よ。遊びはそれくらいにしておけ」


 ノルンさんは呆れ顔だった。その視線からは実力を疑われていることを感じる。


「申し訳ない。真面目に探すとするよ」


「そうしてくれ」


「じゃがどう探す?二つに分けるか。儂とジェスターのどちらかがいれば大丈夫じゃろ」


「うーん。とりあえずこれを使います。隠し扉や通路がないか見てみますね」


 久し振りに"導く鬼火"の出番だ。ランタンのボタンを押して、現れた鬼火は隠し扉や通路を探してゆっくりと動き出す。


「これは何だい?」


「探している物や場所に案内するアイテムです。ダンジョンの迷路を突破した実績があります」


「ほう。見事だね」


 俺達は鬼火の後を着いていく。周囲の警戒は怠っていないが近くに魔物等の気配は無い。


「止まった」


 目の前には豪華な部屋がある。ギルドマスターの部屋らしい。一番偉い人の部屋は金を掛けているな。


 部屋の中に入ると、広さもあり豪華な調度品や宝石が落ちていた。


 そして鬼火は机の前で地面に降りる。


「ここか」


「どいていろ」


 シェリルが魔法を放つ。しかし床には傷ひとつついていなかった。


「正解みたいじゃな。今の魔法でも壊れんくらいに大事な物が仕舞っておるのじゃろ」


「しかし場所が分かっても中に入れなければどうしようもないな。床を壊すレベルの魔法だと中の物も壊れるかもしれない」


 ノルンさんの言葉に全員が悩み出す。


「開く仕掛けがあるのかな」


「恐らくな。だが手掛かりすら無いぞ」


「…よし。今度はコイツの出番だ」


 俺は最近直ったばかりのマジックステッキをグラバインさんに渡す。


「儂は杖は使わんぞ」


「それは形が変わります。ハンマーでも意識してください」


 するとステッキは大きなハンマーに変化する。


「もしかしてこれで叩き壊せと言っておるのか?」


「ええ。それ硬さだけなら凄いですよ」


 邪竜でも壊すのに手子摺るくらいには硬いはずだ。


「…まあ物は試しじゃ。ふん!」


 勢い良くハンマーが振り下ろされる。


「ぐ、ぐぉー!」


 気合一閃。ハンマーが床にめり込んだと思うとそのまま穴を空けた。


「ほれ、これでいいじゃろ。しかし本当に硬い武器じゃな」


 俺はグラバインさんとマジックステッキに感謝をする。

 

「貴公の実力は分からんが、持っているアイテムは凄いと理解できた。早速降りるのか?」


「ちょっと待ってくれ」


 俺は次々と部屋の中の調度品や宝石を回収していく。放置しておくのはもったいないからな。


 ノルンさんは呆れていたが、他のメンバーは特に気にしていなかった。


 回収が終わったところで地下へと向かう。鬼火は下に着くと消えたので、恐らくここにはこれ以上の隠し扉等は無いのだろう。


「本棚がたくさんあるな」


 沢山の本棚にはびっしりと本が入っている。ここだけは何故か無事だった。魔法でもかかっているのだろうか。

 とりあえず適当に一冊手に取るのだが中身を見て俺は混乱した。これは官能小説じゃなえか!


 他の本も開けてみる。こっちも官能小説。こっちは写真のような絵だ。十八禁だけどな。


 ベルはコタロウ達にストップをかけていた。他のメンバーは平然と見ているが、ノルンさんだけ顔が赤い気がする。


「バカらしいな」


 そう言って呆れた様子でシェリルが俺に紙を投げてきた。中身はこの部屋について書かれている。


『皆。ギルドマスターの宝部屋にようこそ。かなり苦労しただろう。ラージタートルの甲羅で作られた床だからな。普通の者では開けられない作りだ。楽しんでくれただろうか。強い者以外は入れたくないからな。目指せSランク。伸びしろがあるお前達に本題だ。戦いだけでは潤いが無いとは思わないか。なので息抜きに用意したんだ。ウザイとか言うなよ。延々と悩んで作ったんだからな。過度な緊張状態が続いたらどこかで限界がくるぞ。楽を覚えるのも大切だ。いずれは死んでしまうからな。強いだけじゃつまらないだろ。つまりはおふざけでこの部屋は作っている。目を閉じて深呼吸でもしてみろ。のんびりとした気持ちにならないか。ありがとう何て言わなくていいからな。俺が勝手にやっている事だ。嫌な気分になったら早く帰って休みな。本当に伝えたいことは伝わったと思うから』


「…美しくないですね」


「よく分からんな」


「こんな部屋は壊すべきだ!ふざけてこんな部屋を作るなんて!」


 俺が朗読すると周りは呆れていたが俺はそうは思わなかった。意味不明過ぎて逆に怪しいだろ。


 俺はもう一度文章を見直してから、右から二つ目の棚の上から五つ目にある青い本を手に取った。


「貴公はまだ見たいのか!」


 ノルンさんから軽蔑の視線を感じる。この本は違うのに。まあ後でわかる事だからいいか


「とりあえず証拠品の確保は必要だからな」


「…シェリル殿。貴女はあんな男で良いのか?貴女ならもっと良い男と一緒にいられるのではないか」


「本の一冊くらいでガタガタいう必要はないだろう。それに私はあの男が良いのだ。やるときはやってくれるからな」


 …ちょっと照れてしまう。


「さてと、他の場所も調査しますか」


 俺は再び“導く鬼火”を使うが鬼火が動くことは無かった。なので後は主要な部屋を虱潰しに探していく。しかし、時間がかかると思ったのだが他の部屋は物がほとんどなかった。書庫や武器の保管庫もきれいさっぱりで部屋を見て回るだけ終わってしまった。


「この後はどうするんじゃ?」


「一度旧王都を出て休みましょう。今は何も出ませんが、休んでいる時に出ないとも限りませんし」


「貴公は休むたびに外に出るつもりか。入口まで移動するのも大変だぞ」


「大丈夫ですよ」


 ギルドの外に出ると俺は空飛ぶ絨毯を広げる。そして皆が乗ったのを確認して出発する。空飛ぶ絨毯はかなりの速さで旧王都の壁を乗り越えた。少し離れたところでミラージュハウスへと入っていく。

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