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つかの間の休息

 旧王都の依頼が来るまでは似たような生活を送るしかない。しかし、正直飽きてきた。


 "熊のお宿"は店主や従業員達も良くて住み心地は良いのだが、ずっと他人の家に泊まっている気分でどこか休めていない感じがする。


 ベル達は隠れ家に戻ってはいるが、あくまで月光樹や果樹園の世話なので休めてはいない。依頼前にリフレッシュさせたいし、俺もしたい。


「よし。今日は森で一日過ごすか」


「いきなり何を言っているんだ貴様は」


「隠れ家に戻ろうと思ってさ。少しはゆっくりしたいだろ」


「王からの依頼前にギルドが許すと思っているのか」


「逆だよ。俺達は最近宿にしか泊まってない。だけど、調査中は野宿になる。勘を取り戻すために森に籠るって事にするんだよ」


 シェリルは呆れた顔をしていたが、ギルドに掛け合うと少し時間はかかったが許可を貰えた。俺達はすぐに森へ出発して周囲を確認すると、隠れ家に入る。


「あー、久し振りの我が家だな。まずはセラピードルフィン達に挨拶でもするか」


「そうだな。彼らにも久しく会っていないからな」


 海に向かうとそこには変わらぬ景色があった。俺たち以外には人がおらずのびのびとできる空間だ。


「キューイ」


 遠くから懐かしい声が聞こえたので目を向けると、そこにはセラピードルフィンの群れがいた。もちろん子供のセラピードルフィンもいて、ブンブンと手を振っている。


「キュキュ♪」


「たぬたぬ♪」


「ベアー♪」


「ピヨヨ♪」


「キューイ♪」


 久し振りの再会で駆け寄っていく。セラピードルフィンも浮遊しながら近寄ってきた。


 そこからは楽しそうに遊び始める。そのまま鬼ごっこが始まったり、セラピードルフィンの背にのって海を泳いだりとしていた。


 俺とシェリルはその光景を眺めながら、群れのセラピードルフィン達と交流を深めている。久し振りにあったので、こちらも魚や果物を用意しておいた。


「準備がいいな」


「ダンジョンでは本当に世話になったからな。これからも仲良くしたいし」


 正直な話、ギルドの職員や貴族よりも役にたっていると思う。


 しばらくするとベル達が満足そうな顔をして戻ってくる。子供のセラピードルフィンにもお土産を渡すと元気に食べ始めた。


「キューイ♪」


「「「キューイ」」」


 セラピードルフィン達は機嫌良く去っていった。俺達も手を振りながら見送り、見えなくなると宿へと戻る。


「次は温泉か?」


「そうしようかな。疲れを流したいしな」


「キュキュ」


 温泉に行こうと思った俺をベルが引っ張ってくる。何かと思いついて行くと、案内されたのは月光樹よりももう少し離れた場所だった。


 そしてベルはアイテムボックスから苗木と種をいくつかとりだした。


「どうしたんだそれ?」


「キュー。キュキュー」


 身振り手振りでの判別だが、この前ニルト商会に行ったときに買ったようだ。そういえば金は渡してあるもんな。

 

「植えたいのか?」


「キュー」


 ベルはコクリと頷き真剣な目で俺を見つめてくる。


「たぬたぬ」


「ベア」


「ピヨヨ」


 コタロウ達もベルの様子を見て何かを感じたのか一緒に頼み込んでくる。

 こんな姿を見ると無条件で認めたくなってしまう。


「今度はどんな樹になるか怖いが、ベルがこんなに頼んでいるのだしいいんじゃないか?」


 シェリルもそう言うので許可することにした。正直何が生えるか興味はあったしな。ベルはバカじゃないから変な物は出てこないだろう。


 そして俺達が見ている前で苗木や種を植えて植物魔法を使った。みるみる内に樹は大きくなり種からは作物が作られていく。気が付けば大きな樹と無数の作物に囲まれていた。


「何だこれ?」


「調べてみよう」


 シェリルが鑑定で判別してくれる。俺みたいに収納する必要が無いから便利だよな。


「なる程な。あれはアビリティツリーだ。あの木には色んな属性が詰まった実が生るらしい。武器・防具・アイテムの素材になる。下の野菜はその恩恵を受けているな。食べるだけで一定時間耐性が付く食材だ。一応流通している食材だが珍しいぞ。味も格段に上がるから普通に貴族が買ったりしているしな」


 竜の肉は種類によって味に違いがあったけどそんな感じかな。


「これは凄いな。一時的でも耐性が付くなら冒険がしやすくなるな」


「どちらかと言うと、それは副産物だろうな。本命は樹になっている実だろう。ベルが使えば植物魔法の効果も合わさってかなりの威力が出るぞ」


「キュー」


 ベルはジッと俺を見ている。


「そうか。今後も俺は色んなことに巻き込まれそうだからな。頼りにしているぞ」


 そう言って頭を撫でると。ニッコリと笑って胸を叩いていた。


「いい相棒だな。貴様の事を本気で心配してくれているな」


「そうだな。コタロウ達やシェリルも含めて俺は仲間には恵まれている方だと思うぜ」


「厄介事には付きまとわれているがな」


「ハハ、皆で苦労も分かち合おうぜ」


 冗談を言いながらその場を後にして温泉へと向かう。


「久しぶりの温泉だ♪」


「珍しく浮かれているな」


「そりゃあ。久しぶりの我が家と言う感じだからな。羽を伸ばしたくなるさ」


「こんな感じか」


 シェリルは笑いながら翼を広げてみせた。最近見てなかったからすっかり忘れていた。


「この羽って普段どう仕舞っているんだ?」


「私にも分からん。普段は無いが意識したり感情や魔力の高まりで発生する感じだな。魔力によって形成されているとは思うが」


「へー」


 まあ、新しい力だから把握しきれていなくても不思議じゃないしな。


 温泉に着くと俺達はまず体を洗う。清潔の指輪を使っているから洗わなくても十分キレイなのだが、やはり洗いたくなる。 


 体を洗っているとベル達が水や泡などを飛ばして遊び始める。この光景も久しぶりだ。


 さっぱりしたところで温泉に浸かる。目の前では相変わらずベル達がプカプカ浮いている。


「やはり温泉は気持ちが良いな」


「本当だよ。このまま引きこもりたくなってきた」


「引きこもり生活は長続きしないとか言ってなかったか」


「今は引きこもってないから言いたくなるんだよ」


 シェリルと話をしているとベル達は露天風呂の方に向かい打たせ湯で遊び始めた。楽しそうで何よりだ。普通の温泉ではできないけどここには誰もいないし、俺の持ち物みたいなものだからな


「しかし。明日以降はまたしばらくは来れんかもな」


「そうだな。依頼中はグラバインさんやジェスターさん。それにノルンさんと一緒だからな」


「ミラージュハウスの出番だな。手に入れた時は必要ないかもと思ったが必要になりそうで良かったな」


「確かにな。あの時は売るかポイントかと思ったけど、持っていても損は無かったな」


「まあ。氷滅剣だけは使う機会がない方が良いがな」


「同感。邪竜の時も最終手段として考えていたけど、あれって俺達じゃ命を落としかねないからな」


 実際死にかけたしな。あの時より成長しているけど使える自信は一切ない。


「グラバインさん達なら使えるのかな?」


「難しいと思うぞ。得意な魔法とは違うからな」


「改めて考えると恐ろしい武器だよな」


「まあな。だが、そんな使わない武器よりも隠れ家をバレないようにしておけよ。Sランクの二人以外にもノルンもいるからな。あれもかなりの実力者だぞ」


「シェリルよりもか?」


「負けるつもりは無い。だが、油断すれば分からないだろうな」


 冒険者ならAランク相当の力を持っているということか。


「気が抜けないな。…うぉ!?」


 考え事をしている俺の顔に水が飛んできた。犯人はベル達だ。笑ってこっちを見ながら手招きしている。


「考えるのは後だよな。今は楽しまないと損か」


「ふふ。私達も露天風呂に向かうか」


 露天風呂の扉の側にはベル達が待機していた。そして期待するような目で俺を見る。


 俺はまず一番近くにいたムギを掴むと、そのまま露天風呂目掛けて投げ飛ばした。


「ピヨー♪」


 着水すると水飛沫が小さく上がる。ムギはそのまま泳いで露天風呂から上がると再び俺の側で待機し始める。


「キュキュ」


 並んでいるベルが急かしてくる。するとシェリルが参戦してきた。


「私もやろう」


 そう言ってリッカを抱き上げて高く放り投げる。


「ベアー♪」


「キュキュキュ―」


 いい加減早く投げろと言う事なので俺もベルを投げる。


「キュキュー♪」


 ご満悦な様子だ。俺とシェリルはぶつからないように離れた位置に投げていたが、その内近くに投げてほしそうにする。俺達は気を付けながら投げてみると、ベル達は空中で手を繋いだりして着水する。芸術点を上げたくなる。簡単にやってのけるのは魔物だからだろうな。普通の子供がやったら危なすぎる。


 結局一人十回以上投げた気がする。ようやく俺達は解放されて露天風呂に浸かる。


「ようやく入れるな」


「ふふ。楽しかったがな」


 ちなみに満足したベル達はサウナに入っている。


「まあな。あれだけ楽しんでくれるとこっちも楽しくなるさ。ところであいつらいつの間にサウナまで使うようになったんだ?」


「貴様が入っているのを見て自分達もと思ったんだろ。何度か入ってすぐに出ていくのを見たな。中々可愛らしかったぞ」


 すぐに出たのは熱さにやられたからか。慣れないと長時間は難しいからな。


「知らなかった。俺もその光景を見たかったな」


 呑気にそんな話をしていると、サウナから出てきて水風呂に入ったであろうベル達が、今度は外気浴をやりだした。


「結構細かく見ていたんだな」


「そうだな。それにしても気持ちよさそうな表情をしている」


 シェリルの視線はベル達に釘付けだった。

 やっぱりパーティーに参加したり王様に謁見するより、こんな生活を送る方が好きだな俺は。この生活が一番贅沢だ。


 その後はベル達と一緒にサウナに入ったりした。ロウリュをやった時は驚いていたが、いずれは自分達で普通にやりそうだな。


 充分に温泉を堪能した後は部屋でゆっくりする。久々のマイベッドにうつぶせで寝転ぶと背中にどんどん重みを感じる。ベル達が上からダイブしてきているようだった。


 一回だけじゃ終わらず何度も飛び乗ってくる。何か心地良い重さだな。マッサージされている気分になる。一段落したところで昼食の準備をする。


「今日は何にするかな。…今更だけど皆の好物って何なんだ?」


 大抵の物は美味しそうに食べていたからな。


「私は甘い物が好きだな。後は、最初に食べさせてもらったカツサンドとフルーツサンドは特別感が少しあるな」


「キュキュー」


 ベルもシェリルの言葉に反応する。ベルにとっては最初に俺から奪った弁当が特別らしい。あれは衝撃的な出会いだったな。味付けご飯・天ぷら・ステーキ・煮物・魚・果物と盛りだくさんだったけど、中身の大半は食べられたからな。


「キュキュー、キュキュ」


 それと果物が好物らしい。果樹園の果物も通販の果物も両方好きらしい。


「たぬたぬ。たぬぬー」


「ベアベアベア」


「ピヨヨ。ピヨ」


 一斉に好物を喋り出した。コタロウはシチュー。満腹亭の味が一番好きらしい。リッカはパスタ。ムギはご飯ものが好きだという事が分かった。何でも美味しそうに食べているから気が付かなかったな。


「貴様は何が好きなのだ?」


「俺は天ぷらや串揚げかな。色んな具材があるし、飯にも酒にも合うしな」


 好物の話で盛り上がったが、お昼は皆でざるうどんになった。まあ好物がバラバラなのと、今日は皆で同じ物を食べたいのが理由だ。


 機嫌良く食べていた所で、俺はベル達に伝えなければいけないことを思い出した。


「そうだ。ベル達は明日以降は隠れ家から召喚する形にするからな。月光樹の世話で戻るときに隠れ家を見られるわけにはいかないからな」


 表情は微妙だったが、必要な事だと理解してくれたようでコクリと頷いてくれた。本当は召喚されるよりもずっと一緒にいたいのだろうな。


「ありがとうな」


 そう言って撫でると機嫌が少し良くなる。


 昼食を済ませるとそれぞれ好きな場所で昼寝をする。何気に昼寝できるのって贅沢だよな。


………

……


「ピヨヨ」


「うん?」


 頬っぺたをムギにつつかれて目が覚める。大体一時間半くらい眠っていたようだ。


「さてこの後はどうするかな」


「決まってないならビリヤードでもやらんか?最近やっていないから練習しておきたい」


「それもいいな。ベルもやるか?」


「キュー」


 ベルもやるようだ。ビリヤード台は二階の大きく空いているスペースに置いてあるので移動する。コタロウ達はお菓子やジュースを準備しており、観戦する気満々だ。


「…シェリルもベルも上手くなるの早いよな」


「それでもまだ貴様が一番勝率が高いだろうが」


「キュキュ」


 二人はそんな事を言うが、殆ど大差がない。覚えてから二ヵ月程度と考えれば驚異的だよな。しかもここ一ヵ月は殆どやってないはずだし。


 結局夕食の時間までビリヤードをやり続けた。コタロウ達は飽きるんじゃないかと思っていたが、最後まで応援してくれたのはありがたい。俺なら途中で部屋に戻ってしまいそうだな。


 そして夕食は竜の肉のステーキだ。ガンツさんのようには焼けないが、皆でたくさん焼いて腹いっぱい食べる。


 久しぶりの隠れ家生活は充実して終えることができた。

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