ちょっとした交流会
あれから俺達は個室がある高級そうなお店へと案内された。
「まずは自己紹介をさせてもらいます。私はキーメイス・ニルトと言います。各地で商売をしておりますのでニルト商会をお願いいたします」
キーメイスさんはそう言うと深々とお辞儀をする。
「俺はパワードだ“喋る筋肉”のリーダーだ」
「同じくマックスだ」
「アタイはロゼだよ」
「私はウルクよ」
全員筋肉が凄い。パワードさんとロゼさんはガッツリ筋肉が付いている感じだし、マックスさんとウルクさんは絞り込んでいる感じだ。ロゼさんとウルクさんは女性だが、腕相撲で勝てる気がしないな。
「相変わらずね貴方達は。私はミランダよ。よろしくね。シェリルは久しぶりね」
「そうだな」
「…久しぶりの再会なんだからもうちょっと反応しなさいよ!それに呪いの件も私に相談してくれればよかったのに」
「知り合いなのか?」
「一応な」
シェリルは少々複雑そうな顔をしている。
「一応って酷くない!?あんなに可愛がってあげたのに」
「…ミランダの可愛がりは…ありがたいけどちょっとキツイ」
「ニャムまで!?」
「あ、…私はニャム。白猫の獣人。よろしく」
そう言うとシェリルとニャムさんはミランダさんに捕まる。まあ、楽しそうだしいいか。
「ワタシはシュンメイ。よろしくネ」
シュンメイさんの前には空の皿が積まれていく。底なしに食べ続けている。横ではベルが張り合うように食べており、二人で競い合っている。
いつの間にかコタロウ達も“喋る筋肉”の皆さんと仲良くなりポーズを決めている。
「それじゃあ俺達も自己紹介を早めに終わらせるか。俺は“旅する風”のリーダーをしているジュンです」
「シェリルだ」
ミランダさんの腕から抜け出したシェリルが少し疲れながら返答する。
「それとベル・コタロウ・リッカ・ムギです」
紹介するとベル達は食事やポーズを一旦止めて、皆揃ってキチンとお辞儀をした。
この行動には皆微笑んでしまう。
「自己紹介はこれで終わりですね。後は自由にお話でも致しましょう」
キーメイスさんの一言で再び交流が再開する。俺もなるべく多くの人と話をしようと思う。
まずはキーメイスさんと話をする。
「キーメイスさんは商人らしいですけど何を取り扱っているんですか?」
「キーメイスで構いませんよ。私の所は食料品関係かメインですね。ただ、今後は直営の料理店やアイテムショップなども展開していく予定ですよ」
「へー、王都に着いたら寄らせてもらいますね。ベル達は食べるのが好きなんで」
「そうみたいですね」
視線の先はシュンメイさんとベルだ。おかしいな。ベルは夕食を食べたはずなんだがな。
「…遠慮が無くてすみません」
「構いませんよ。ジュンさんには稼がせてもらいましたから。宝酒に白金貨三十五枚ですよ。この店の料理を全部食べても黒字ですよ」
本当に気にしていないようなのでホッとする。しかし、この二人の体はいったいどうなっているんだろうか?
「俺達も遠慮なく食べさせてもらっているが、あの二人は別格だな」
“喋る筋肉”の四人がコタロウ達を連れて話しかけてきた。
「どうもパワードさん。先程はありがとうございました」
「ああ、気にするな。あの程度は何ともない。それよりもダンジョンでの話を聞かせてくれないか。パーティーではゆっくり話す時間などなかったからな」
俺はダンジョン内でのことを話し始める。やはり冒険者達は興味があるのか、ミランダさん達や食事に夢中になっていたシェンメイさんもしっかりと話を聞いている。
………
……
…
「…て感じで、八十一階は諦めて戻ってきました」
「竜の後は鳥の集団か」
「字面だけ見れば簡単そうに思えるけどね」
「…大きい一体より、小さい集団の方が場合によっては脅威」
「竜と変わらない大きさの鳥もいるしネ。仲間意識も強いから撤退は正解ヨ」
情報を分析しながら自分達ならどうするべきかなどを真剣に話し合っている。
キーメイスさんも、話を参考に自分の店で何を扱うべきかを考え始める。
「真面目だな」
「本物の冒険者ならこんなものだ。他人の成功を羨むよりも、他人の経験を自分の物にして自らの成長につなげる。“歴戦の斧”や“大樹の祝福”も同じように聞いてきただろ」
確かに彼らにとっては最高到達階の更新も邪竜クラスの魔物の討伐も十分にあり得る事だからな。俺の功績よりもダンジョン内での出来事や攻略方法の方が興味あって当然だな。
「ところでアンタ達はダンジョンにまた潜るのかい?」
「気が向いたらな」
ロゼさんの質問にシェリルが即座に反応する。
俺自身もそんな感じだな。積極的に行こうとは思っていないが、せっかくなら完全制覇をしたいという気持ちもある。
ダンジョンの話で白熱するが、徐々に話題は変わりまたいくつかに分かれて話をし始める。
俺はミランダさんと話をする。
「ミランダさんはシェリルと知り合いなんですね」
「ええ。あの子がギルドに入る前から知っているわ」
「その頃はどんな感じだったんですか」
「そうねえ」
◆
あれは雨の日だったわね。王都といっても治安が良いのは一部の地域だけ、私は依頼の関係でスラムに近いような場所を歩いていたわ。
「待ちやがれガキ!」
「うるさい!」
そしたら一人の少女がゴロツキに襲われていたの。多分人攫いの連中でしょうね。
ただ少女は反抗的でゴロツキに向かって魔法を放っていたわ。それも九種類もね。正直目を疑ったわ。
「ハハ。容姿も良いし、これだけの魔法を使えるなら高く売れるぜ」
でもゴロツキにとっては少女は脅威じゃなかったわ。未熟な魔法何て怖くないから当然よね。むしろ価値が上がる要素を見つけて喜んでいたわ。
ゴロツキはすぐに少女を捕まえていたわね。
「ねえ。女性の扱いがなってないわよ。その子から離れなさい」
「誰だテメエ。邪魔すんじゃねえ!」
襲いかかってくるもんだから、ボロボロにして寝かしつけたわ。返り血を浴びたけど雨だった事に感謝したわ。
「大丈夫?」
「あ、ああ」
優しく声をかけたんだけど、攫われそうになった恐怖からか震えていたわ。本当にあのゴロツキは許せないわ。
「私はミランダ。貴女の名前は?」
「…シェリル」
「素敵な名前ね。家族はいないの?」
「知らない。私はいつも一人だ」
シェリルの目は全てを拒絶していたわ。誰も信じないという感じにね。
「ねえ良ければ私の家に来ない。そのままじゃ風邪をひくわよ」
「助けたくれた事には感謝するが、私に構うな」
そんな感じで生意気だったわね。ただ見るからに衰弱しているし、放っておけないから気絶させて連れ帰る事にしたの。
「えい」
「ひゃ!?」
強がっても体は弱っていたのね。すぐに気絶したわ。私はそのまま家まで連れて寝かせたの。寝顔は年相応で可愛かったわよ。起きたら仏頂面だったけど。
「おい。ここはどこだ。なぜ放っておかなかった」
「ここは私の家よ。目の前で子供が気絶したら放っておけないでしょ」
「気絶させたのは貴様だろ。騙されんぞ。どうせ貴様も私を売ろうとする気だろう」
「お金に困ってないからする必要なんてないわよ。それよりも貴女、早くご飯を食べなさい。それを食べたら特訓するわよ」
「特訓?」
「ええ。貴女は魔法の才能に溢れているわ。でも今のままじゃ宝の持ち腐れよ。むしろ魔法を扱いきれずに自分を傷つけてしまうわよ」
「関係ないだろ!」
「ダメよ。魔法の暴走は自分だけじゃなく周りも傷つけるの。だから逃がさないわよ」
にっこり優しく諭したからか大人しくなってくれたわ。それからしばらくは一緒に暮らしたのよ。古い友人もシェリルを気に入って一緒に教えてくれたわね。魔法の扱いを覚えてからは自分で魔物を狩って、素材を売りながら宿に泊まっていたけど、家に泊る事もあったわ。
十二歳になってギルドに登録してパーティーを組んだ時は嬉しそうにしていたわね。でも長くは続かなかったわ。
「私はもう二度とパーティーなど組まん」
そう言って悲しそうな目をしていたわ。何があったかは聞いてないけど予想はつくわね。下心と嫉妬はよくあるから。それからかしら、あの子から表情が消えていったのは。出会った頃は結構感情を出していたのに。
そしてあの子は一人で成長していったわ。十五歳でBランクに上がると周りからの注目は段違いだったわよ。それでも頑なに誰ともパーティーは組まなかったわ。でも十八歳でAランクに上がると、依頼の難易度を考えたからか“金色の竜牙”に入団したの。その時は大喧嘩よ。
「ちょっとシェリル。あそこは大きいけれど貴女には合わないわ。別の所を考えなさい」
「私はもう一人前だ。ミランダには感謝はしているが口出しは止めてくれ」
「嫌よ。口出しさせてもらうわ。あのクランはプライド高い連中の集まりなの」
こんな感じでヒートアップして険悪なムードになったわね。そして
「いい加減にしろ。親でもないのだから口を出すな!」
「…分かったわ。もう勝手にしなさい」
それからは家に来なくなったのよね。そして気が付けば邪竜の呪いを受けて“金色の竜牙”を退団して王都から消えていった。何と言われようと娘みたいに思っていたから悲しかったわね。頼ってくれても良かったのに。
◆
「こんな感じかしらね。もっと詳しく聞きたかったら後は本人に聞く事ね」
「ありがとうございます。…聞くのも失礼だと思いますが、シェリルとは仲直りできたんですか?」
「ええ♪さっき謝られたわ。そんなに気にしなくていいのにね」
そう言いながらもご機嫌な様子だ。この人は本当にシェリルの事を娘のように思っているんだろう。…そういや、この人いったい何歳なんだ?
「年齢は秘密よ♪」
「え!?」
俺声に出してなかったよな。
「そうそう、貴方にはお礼を言いたかったの。シェリルを助けてくれてありがとうね」
「俺も助けられたからお互い様ですよ」
俺の言葉にミランダさんは首を横に振る。
「ううん。あの娘はパーティーに対して良い思い出なんてほとんどないの」
人間関係のトラブルが続いていたみたいだしな。
「だから誰かと行動する事なく、一人で死んでしまっていると思っていたの。でも噂を聞いてパーティーでシェリルを見かけて驚いたわ。この娘は本当にシェリルなの?と疑ったくらいだわ」
だからパーティーの時は声をかけなかったのか。観察でもしていたんだろうな。
「ところで君はシェリルとどんな風に知り合ったの?」
俺は緊急依頼中の出来事をミランダさんに伝えた。そして、シャイニーとの決闘の部分では笑っていた。
「アハハ。それはあの娘も笑ってしまうわよ」
「そんなに変ですかね」
「効率を考えればいいと思うわよ。でも大勢の前で決闘する時って、少なからず良いところを見せようとしちゃうのよね。君はむしろ周りが引くような戦いをするから、あんまりいないのは確かよ」
負けるよりはマシだと思うけどな。
「…ミランダ。大笑いしてどうしたの?」
ニャムさんがシェリルとムギと一緒に話に入ってきた。ミランダさんの笑いが気になったようだ。
「彼からシェリルとの馴れ初めを聞いていたのよ♪」
「な///」
「…おおー、私も聞きたい」
「へー、面白そうだな」
「恋バナは気になるわ」
シェリルは顔を真っ赤にして、後からやって来たロゼさんとウルクさんも混じって、女性陣は目を輝かせる。ミランダさん遊んでいるな。
「おい!貴様は何を話したんだ」
「いや、緊急依頼時の話だよ。馬車の中の話とかシャイニーとの決闘とか、そんな感じだよ」
「…ミ~ラ~ン~ダ。紛らわしい言い方をするな」
「あら?知り合うきっかけも馴れ初めでしょう。間違ってないわよ」
追いかけるシェリルに逃げるミランダさん。どことなく楽しそうだな。
「たぬぬー♪」
「ベアー♪」
「ピヨヨ♪」
鬼ごっこをしていると思ったコタロウ達も混ざりだす。普通は鬼が一人なんだが、コタロウ達はシェリル側に付いたようでミランダさんは大勢に追われている。
騒ぎが収まると、コタロウ達も交えての賑やかな女子会が始まったので、こちらは男子会を開くことにした。ちなみにシュンメイさんとベルは未だに食事で語り合っている。
「珍しい光景だな」
「そうだよな。ミランダさんもだが、シェリルも当時とは全然雰囲気が違うよな」
パワードさんもマックスさんも王都にいた頃のシェリルを知っているようだった。
「私は噂くらいしか知りませんが、今が楽しく賑やかならいいではありまんか」
「確かに。俺らも楽しみましょうよ」
「そうするか。よし、腕相撲でもしてみないか」
突然の提案だったが面白そうなのでやってみることにした。対戦するのは俺とパワードさん。キーメイスさんがすぐにテーブルを用意してくれる。
「魔力による強化もありだ。全力で来い!」
「審判は俺がやろう」
向かい合って互いの手を握る。この時点でもう力の差を感じ取ることができた。
イメージとしては、巨大な石像を相手にしているような感じだ。
集中して合図を待つ。
「スタート!」
合図と同時に力を込める。一瞬動いたと思ったがすぐに止められて、そのままゆっくりと倒された。
「勝負にもならなかった」
「いや。その辺の冒険者よりは普通に強いぞ。正直驚いたしな。ただミスがあったのは分かるか?」
「ミス?技術的なものとかですか?」
「まあ技術も大事だがな。ジュンの場合は腕の位置を俺に合わせたのが一番の原因だ」
「あ」
パワードさんのがもう一度座って構えると、テーブルの中央じゃなく、パワードさんに近かった。そのため俺は必要以上に腕を伸ばしたため、力が乗らなかったのだろう。
「戦うときは自分の土俵に引き込むのも大事だぞ」
それから気を取り直してマックスさんやもう一度パワードさんと戦ったが惨敗だった。そのうち女性陣も合流したが、"喋る筋肉"の四人が一位から四位を占めていた。シュンメイさんも強そうだが、彼女はベルとの語り合い(食事)が大事なようだ。
そんな感じで時間はあっという間に過ぎていった。
「おや、もうこんな時間ですか。名残惜しいですが今日はお開きにしましょう」
キーメイスさんの言葉で交流会は終了となった。部屋に戻る前に全員に挨拶をする。
「キュキュ!」
「やるネ!」
シュンメイさんとベルの間には友情が芽生えたようで熱い握手を交わしていた。結局最初から最後まで食べていたな。譲れない何かがあったんだろうな。
「いやー、楽しかったな」
「まあパーティーよりは楽しめたな」
そう言いながらも笑っているのが見えた。ミランダさんと会えたのが嬉しいのかもしれないな。
部屋に戻った後はいい気分で眠りにつくことができた。