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パーティー前半

 気が付くとパーティー当日を迎えていた。

 今日までの間はいつもと何ら変わりのない生活を送る事が出来ていた。


 個人的には“栄光の宝剣”が何のアクションも起こしていないことに不気味さを感じるが気にしても仕方が無いだろう。今はそれよりも準備の方が大事だ。


「なあ変じゃないか?」


「安心しろ。似合っているぞ」


 今日はパーティー当日だ。パーティーは夕方なのでもう少し時間がある。今は失礼がないように身だしなみを整えている最中だ。


「キュキュ?」


「ピヨ」


「ベアー?」


「たぬぬ」


 ベル達も普段とは違い、リングだけでなく燕尾服も着ているため互いにチェックし合っている。


「無事に終わって欲しいよな」


「そうだな。私は“金色の竜牙”。貴様は“栄光の宝剣”と確執がある。両方とも来ている可能性が高いからな」


「“栄光の宝剣”も来るのか?」


「そういう噂だな。ノルマン家の息がかかっているなら可能性は高いと思うぞ」


「マジで何も起きないで欲しい」


 心の底からそう願う。アイツ等と顔を合わせると碌な事が無いからな。


「キュキュー!」


 ため息をつく俺に、ベルが頼もしく胸を張る。そして続くように同じ行動をとるコタロウ達。その姿を見るだけでも元気を貰える。


「ありがとうな」


 軽く撫でると気持ち良さそうに目を細める。

 俺も幾分か落ち着いてきた気がする。


「さてと、そろそろ出発するか」


「そうだな。今日もギルドが馬車を出してくれると言っていたから向かうか」


 隠れ家を出てギルトに到着するが、この前のような馬車は見当たらない。

 近くのギルド職員に尋ねるととんでもない事を言われた。


「馬車は“栄光の宝剣”の方々が使っておられますよ」


「…ナーシャには私達用に用意していると言われたのだが」


「なら代理に話をしてください。手伝いや打ち合わせで先にパーティーに行っていますけど」


 クスクスと笑いながら職員。殴り飛ばしたい衝動に駆られたがグッと堪えた。シェリルも明らかに不機嫌な顔をしている。


 とりあえずその場所から離れてシェリルと話をする。


「歩いて行くのは良くないんだよな」


「ああ。今回はナーシャ達ギルドの確認不足の面もあるからギルドの面子が潰れるのは仕方ないとしても、サクスム家の面子も潰す行為になるからな」


「どこからか馬車を借りるか」


「めぼしい馬車はもう無いだろうな」


 出だしからこの調子だと頭が痛くなるな。


「空飛ぶ絨毯か魔道船で向かうか?インパクトがあると思うぞ」


「そうだな。…だが魔道船は止めておけ。面倒事が増えるだけだ。空飛ぶ絨毯で向かうか」


 パーティーに不安を覚えながらも空飛ぶ絨毯に乗り込んで俺達はサクスム家に向かう。たまに下から声がするしそれなりに目立っているようだった。


 サクスム家が見えてくると、ちょうど馬車が何台か到着していた。その中の一台からは“栄光の宝剣”が降りてきていた。その姿はまあ何というか、目が痛くなる格好だ。白い燕尾服にこれでもかというくらいの装飾品の数々。良くも悪くも目立っている。


「金が掛かってそうだな」


「…あいつのクランには鑑定持ちはいないようだな。装飾品の大半が安物だぞ」


 何だか哀れに感じてしまう一言だった。本物が多い中、偽ブランドに身を包んで自分の方が凄いぞと言っているようなものだからな。


「まあいいか。俺達も降りるぞ」


 馬車の近くに空飛ぶ絨毯を降ろす。

 すると、俺達の周りに人だかりができた。その中から、上品な雰囲気の髭が立派な老人が声をかけてきた。


「君達は冒険者かね」


「初めまして。冒険者のジュンと言います。こちらはシェリル。それと私の従魔のベル・コタロウ・リッカ・ムギと言います」


「ほう。今宵のパーティーの主役ではないか。こんなにも若いとはな。いや若いからこそか。このアイテムは君達がダンジョンで手に入れた物か?」


「はい。空飛ぶ絨毯というアイテムでございます。少量の魔力で自在に動かすことができ、スピードも馬車とは比べ物にならない程出ます」


「ふむ。私にも体験させてもらえんだろうか?できれば動かしてみたいのだが」


 見た感じ悪意は無い。本当に興味を持っているようだった。


「構いませんが、万が一が起きるといけませんので私もご一緒することになりますが」


「うむ。それと私の護衛にも一人乗ってもらおう」


 そんな訳で老人と護衛と一緒に空飛ぶ絨毯に乗る。護衛は全身を鎧で包んでいるために、どういう人間かは一切分からなかった。


 そして空飛ぶ絨毯が動き出す。初めは護衛が運転し、危険がないと判断して老人が運転をする。


「これは凄い。本当に意のままだな!ベランド。このようなアイテムは多くあるのか?」


「空を飛ぶアイテムは他にもあります。ですが魔力の消費もほとんどなく、ここまで操作が簡単なアイテムは少なくとも私は見た事がありません」


「そうか、残念だな。だが、さすがは邪竜を討伐しダンジョンの最高到達階を更新した冒険者だな」


「ありがとうございます」


 満足したのか老人は空飛ぶ絨毯を下に降ろした。

 下では先程より多くの人が集まっている。


「礼を言うぞ。中々できない経験だった。私はアーベン・ルクトール。何かあったら相談に乗るから遠慮なく頼りなさい」


 そう言って老人は機嫌よく屋敷の中に入っていった。


「誰?」


「ルクトールは確か辺境伯のはずだな。国境の防衛も任されているから、名前よりも実力を取るお方だ。平民でも実力さえ示せば相応しい地位に就けると聞いたことがある」


 辺境伯とはまた凄い人が来たな。まあ嫌味な人じゃないから良かったな。


 ルクトール辺境伯が屋敷に入った事で、他の貴族や冒険者も屋敷の中に向かって行く。俺達も流れに乗って中へと入る。


 中には既に多くの人が集まっていた。仮面を着けている者も少なくはない。


「時間まで待っていればいいか」


「そうだな。無理に交流する必要も無いしな」


 中にいる人達は上品な雰囲気の人から、とにかく豪華な装飾を身につける者まで様々だ。性格がよく出ている気がするな。


 しかし、俺も周りを見ているが俺達も見られているよな。


「好意は少なく、敵意は半分。もう半分は興味かな」


「大体そんな物だろう」


 そうこうしている内にパーティーの時間になった。

 すると、ターティ様の声が響き渡る。


「皆様。今宵お集まりいただいた事、誠に感謝いたします。此度は我が街の冒険者ギルドに属している冒険者が、邪竜の討伐と数十年ぶりの最高到達階層を更新したということでパーティーを開催させていただきました」


 周りから拍手の音が響く。まあ礼儀的な物でしかないが。


「それでは紹介させて頂きます。"旅する風"のジュン殿とシェリル殿。そして、従魔のベル殿、コタロウ殿、リッカ殿、ムギ殿です。前にどうぞ」


 名前を呼ばれて前に進む。歩いていると"歴戦の斧"と"大樹の祝福"もいた。笑いかけてくれたので、少しだけ安心する。


「彼らが今回の偉業を成し遂げた冒険者です。ジュン殿、一言お願いします」


 え?何も聞いていないんだけど。事前に教えてくれよ。


 仕方がないから適当に話をするしかない。


「ただいまご紹介に預かりましたジュンと申します。今日はお集まりくださりありがとうございます。今後も精進して頑張っていく所存ですのでよろしくお願いいたします」


 お辞儀をするが拍手は疎らだ。それでも知らない貴族や冒険者とはいえ、周りの空気を気にせず堂々と拍手をくれる人がいるのは嬉しいものだ。


「ジュン殿ありがとうございます。それでは後で邪竜の素材やその他の竜の素材を展示したいと思います。それまでの間食事やご歓談をお楽しみください。なお、ジュン殿からは竜の肉を含めて多種類の料理の素材を用意していただきました。それと特別な物も用意しておりますのでお楽しみにしていてください」


 話が終わったのでターティ様に話しかけようとしたが、忙しいようなので簡単に挨拶を済ませて俺達も食事を楽しむためにその場を離れた。


「美味いか?」


「キュキュ」


「たぬぬ」


「ベア」


「ピヨ」


 用意された食事は口にあったようだ。

 ただ俺とシェリルは食事をしている暇が無かった。入れ替わりに貴族・冒険者・商人が話しかけてくるからだ。


「ダンジョンの中は」


「邪竜はどんな攻撃を」


「何かコツは」


 貴族は単純に好奇心、冒険者は自分達の成長のため、商人は素材などを聞いてくる感じがあった。話しかけてくる者は少ないと思っていたのだが、とりあえず話だけでもと聞いてくる者は案外多いようだ。


 後はシェリルにお近づきになりたいと考える者だろう。これは身分に関係なく一定数いる。しかし睨まれてスゴスゴと引き下がる。


「大変そうね」


「もうしばらくの我慢だな」


 "歴戦の斧"と"大樹の祝福"が労いの声をかけてきた。当たり前だが、普段の冒険者の服装ではなく、ドレスや燕尾服を身に纏っている。


「そうですね。あと数時間頑張りますよ」


「シェリルは男からのお誘いも大変そうね」


「あんな奴ら興味もない」


見知った人たちと話をすると安心してしまう。しかしそんな時間は長くは続かなかった。

 十名の冒険者が近づいてくるのだ。シェリルが露骨に嫌な顔をして“歴戦の斧”も“大樹の祝福”もそちらに目を向ける。


「久しぶりだなシェリル」


「ガローゾか。何の用だ」

 

「呪いは無事に解けたようだな。…それに新しい力を手に入れたな」


「貴様には関係ない事だ」


 分かる人には分かるのか。ちょっと感心してしまう。


「おい。ガローゾさんが声をかけてくれているのにその態度は何だよ」


 シェリルの態度に苛立ったのか赤い髪の男が前に出てくる。


「止めろハイダ。俺達はそんな事のために来たわけではないだろう」


 ガローゾが制止させると男は大人しくなる。そして、再びシェリルな向き直る。


「シェリル。単刀直入に言う。"金色の竜牙"に戻ってこい。お前にはその資格がある。"旅する風"という弱小ではなく俺達の元へ来い。俺達がお前の力を発揮させてやる」


「断る」


 熱く語ったガローゾに対してシェリルは冷めた態度でバッサリと断る。


 微妙な空気が流れる。周りの人達からの注目も集めている。


「何故だ」


「私を見捨てた者達より、助けてくれた男達の方が良いに決まっているだろ」


「言っておくが今回の成果を俺は疑っている。事実だとしても偶然でお前の力によるものだろ。男は荷物持ち程度、従魔は囮用か」


「おい。呪いに尻尾を巻いた貴様等程度が私の仲間を侮辱するなよ」


 シェリルから殺気が漏れる。俺はシェリルを抱き寄せてガローゾとシェリルの間に入るが、先に変な貴族が声をかけてきた。その貴族は小さく小太りで醜悪な顔をしている。それでいて身なりだけは立派なようだった。


「ガローゾ君。そんな無理矢理はいけないよ」


「ノルマン伯爵。これは失礼いたしました」


 どうやらコイツがノルマンという奴のようだ。って事は仲裁じゃなくて“金色の竜牙”の味方だな。実際ガローゾ達は先程までとは全く違う態度をとりだしてニヤッと笑っているし。


「いやいや。でも君達の気持ちも分かるよ。ギルドが認めたとはいえ、信用ができないだろうからね」


「それではギルドの方に異議申し立てをしてください。冒険者同士のトラブルはご遠慮ください」


「今日は彼らの偉業を祝福してのパーティーだ。失礼が過ぎるぞ」


 忙しそうにしていた、ターティ様にナーシャさんも現れてノルマンと“金色の竜牙”に注意をする。しかしそんな言葉を聞く奴等ではない。


「遺恨が残るよりここで決着をつけた方が良いでしょう。主要な貴族や一流の冒険者がいる前ですから、今後は誰も文句は言わなくなりますよ。それとも時間をかけたい理由でもあるのですかな?」


「一応聞きますけ、どどんな方法で決着をつけるつもりなんですか?」


「…お前のようなクズがノルマン様や俺に声をかけていいと思っているのか」


 うわ~。本当に碌な奴じゃないな。悪臭玉を投げつけなかった自分を褒めてやりたいぞ。そもそも、

ノルマンに話しかけたつもりなんだけど。

 

「はいはい。話が進まないから早く話してくれ。言葉遊びをしたいのであれば付き合ってあげるけどな」


「何!?」


 結構怒りの沸点が低いなコイツ。この程度で怒るとは思わなかった。


「ふむ。君は中々失礼な男のようですな」


 ノルマン顔を歪めて俺を睨んでくる。

 俺は二人に向かって半分バカにしながら口を開く。


「とんでもございません。失礼というのは他人が主役のパーティーにおいて、主役の顔を潰そうと画策して一切の敬意を払わないような者達の事を言うと思いますよ。ただ、私は上流階級の流儀を知りませんので、あえて主役の顔を潰す行動をとるのが常識なら申し訳ございません」


「「…」」


 二人は黙って俺を睨む。俺は自分達用にとっていた宝酒と盃をとりだして優雅に飲ませてもらう。

 宝酒に気が付いた周りの人々の目がガローゾ達含めて変わる。特に商人の目はガローゾやノルマンよりもある意味怖かった。


「…話し合いの席で酒を飲むのも失礼なのではないかね」


「パーティーの席ですよ。お酒はつきものじゃないですか。それに、あなた方は周りの人々を楽しませようと余興で言い出したんですよね。そうじゃなければこの席でこんな事を言いださないでしょ。それなら楽しくいきましょうよ」


 そう言って俺は今度は高価そうに見えるグラスとスピリタスをとりだしてグラスに注ぐ。


 先程出した宝酒の効果か、俺の出した酒に注目が集まる。


「さ、一杯どうぞ。強い酒なので気をつけて。ああ怖ければ飲まなくて結構ですよ」


 ムカッと来たのか二人ともグラスを受け取る。周りのメンバーが鑑定を使って毒かどうかを調べ出す。毒じゃない事が分かると飲み始めた。


 俺は内心ほくそ笑む。…顔に出ていたかもしれないけど


「「!?」」


「ノルマン様!」


「ガローゾ様!」


 二人が悶え苦しむ。

 周りに人が集まり回復魔法をかけ始める。

 すぐに魔法が効いたのかガローゾとノルマンはふらつきながらも立ち上がる。


「貴様何をした!!」


 取り巻きの一人が俺に対して剣を突き付けようとした。その瞬間に動き出したのはベルとムギだ。


「キュキュ」


 植物を操り武器を叩き落とす。そして。


「ピヨ―!!!」


 ムギの大声で周りの動きが止まる。


「落ち着けよ。俺は酒を渡しただけだぜ。毒かどうかは確認したんだろ」


 まあスピリタスをあんな一気に飲んだら危ないからな。良い子も悪い子も真似するなよ。


「ただの酒でこんな事になるかよ!」


「酒精が驚くほど高い酒なんだよ」


「だからってこんな事になるかよ!」


「なるんだよ」


 信じられないなら飲ませてやろうか。


「ほう。そんなに強い酒なら儂にも一口よこせ」


 俺と取り巻きが言い争いをしていると、ドワーフ族の男性が一人近づいてきた。

 周りの空気が一気に変わる。あれだけ俺を睨んでいたノルマンや“金色の竜牙”だけでなくターティ様や“歴戦の斧”も息をのんでいる。


(シェリル。このドワーフは有名なのか?)


(…Sランクのお方だ。今の今まで一切いる事に気が付けなかった)


 普段は勝気なシェリルも緊張しているのが伝わってくる。何ならベルも一切気を抜いていない。


 たまに思うが、無知で鈍感の方が幸せな事もあるよな。コタロウ達に至ってはドワーフの髭の方に興味がいっているようだし。


「どうした飲ませてくれんのか?」


「おっとすみません。構いませんよ」


 俺は同じようにドワーフの男性にスピリタスを注いで渡す。ドワーフの男性は匂いを嗅いでニヤッと笑うと豪快に飲み干した。


「がっはっは。まさに酒じゃな。坊主たちには刺激が強いが儂には丁度いいぞ。お代わりじゃ」


「酒に強いんですね」


「当たり前じゃ。ドワーフにとっては酒は水と同じじゃ」


 そう言いながら俺が渡したスピリタスの瓶をラッパ飲みする。

 

「ふー。儂が酒だという事を保証しよう。ちーと強い酒じゃがな」


「…グラバイン様。今は私達が話している最中なので下がってもらえませんか」


「そうですね。大事な話がありますので」


 急に態度が小さくなったガローゾとノルマン。Sランクというのは王都で一番のクランや地位の高い貴族であっても頭が上がらないようだ。グラバインさんらそんな二人を面倒そうに見ている。


「お主等の話など、ちんけなプライドを守るためのしょうもない事じゃろ。儂は酒についてこの男と語り合いたいんじゃがな。…よし。小僧が本物かどうか儂が調べるからそれで納得せい」


 話が変な方向に行ったぞ。え?このドワーフが俺の事を調べるのか。


 動揺する俺達に対して、ニヤリと笑うノルマンや“金色の竜牙”。今気が付いたが“栄光の宝剣”の奴等もいやがった。後ろで笑っていやがる。


「なるほど。グラバイン様が調べてくれるなら納得しましょう」


「そうですな。してどのように調べるおつもりですか?」


「ふん。証拠はギルドに提出しておるんじゃろうが。それで納得せんのは実力を疑問視しているからじゃろ。ならば儂が戦って見極めるだけじゃ」


「ちょっと待ってくれ」


 グラバインさんの言葉にナイルさんが反応して前に出る。


「ジュンとは俺が戦った。弱くは無いが英雄たるアンタが相手じゃ一瞬で殺されちまう。違う方法にしてくれよ」


「そんな事は分かっておるわ。見たいのは心意気じゃ。儂は一切手は出さんから安心せい」


 そう言ってナイルさんを押しのけ俺の前に立つ。デカいハンマーをとりだして担いで見せる。


「小僧。儂に攻撃してみるがよい。先程も言ったが儂は一切手を出さん。それと他の者は少し離れるんじゃ」


 自然と周りの人たちが下がっていく。それだけの迫力がこの人にはあるのだ。だが、シェリルやベル達は俺の側に立ったままだ。


「お主等もじゃ」


「断る。私達は同じパーティーのメンバーだ。リーダーだけを危険な目に合わせるわけにはいかないからな」


「その考えはワシは好きじゃが、小僧が本物ならば退くべきじゃ。お主等が一番小僧の実力を知っておるのじゃろう。信用しているなら下がるんじゃ」


「…俺なら大丈夫だから下がっていてくれ。手を出さないなら死ぬことは無いだろ」


「しかし」


「下がるんじゃ!!」


 “歴戦の斧”と“大樹の祝福”がシェリル達を下がらせる。


「さて、儂に一撃を入れればそれで終わりじゃ。さあいつでも攻撃するがよい」


 言葉が終わると同時に強烈な殺気や闘気が俺を包み込む。

 動いたら殺される。動かなくても殺される。呼吸も体を動かすのも許可が無ければしてはいけない。そんな思いに支配された。


 そして俺は気が付くと、狂嵐舞を握りしめてグラバインさんの顔面を殴っていた。


「合格じゃな」


 堪えた様子が一切なくニヤッと笑う。さっきまでの殺気が嘘のように晴れていた。安心した俺は膝から崩れ落ちる。


「ジュン!」


 すぐにシェリルやベル達が側に駆け寄る。俺は肩を借りて立ち上がる。


「見事じゃったぞ。さすがに間髪入れず攻撃して来るとは思わんかったぞ」


 アルレに感謝だな。アルレの恐怖や殺気に慣れていなきゃ絶対無理だぞ。


「ハハ。もう足がガクガクですよ」


「なんじゃだらしがないの。まあ、小僧の実力は儂が認めよう。文句がある奴は儂に言いに来るといい」


 豪快な笑いが会場に響き渡った。


「ちょっと待て!納得がいかない!あの程度なら誰でもできるだろう!」


 異論を唱えたのはガローゾだ。周りの仲間や“栄光の宝剣”含めた傘下のパーティーも同じような態度だ。


「ふむ」


 グラバインさんは“金色の竜牙”に、俺と同じような殺気と闘気を放った。

 

「ぐ!?」


 ガローゾ含めた数名は膝をつき呼吸が乱れながらも意識を保っているが、ほとんどの者が失神していった。


「だらしがないの。小僧に向けたのと変わらん強さなんじゃがな。まあこれで分かったじゃろ。小僧はこの状況で儂を殴ったんじゃ。お主達のように膝をつく事も無かったしの。これなら邪竜の討伐も階層の更新も可能性はゼロではない」


「…」


 ガローゾは何も言い返せないが睨み続けている。


「まったく呆れたもんじゃ。言っておくが他人の名誉を下げてもお主が上には上がらんぞ。小僧の実績が悔しければ、それ以上の実績を上げればいいだけじゃ。そっちの方が自分のためじゃぞ」


 何ともごもっともなお言葉で。ただそれができないのが普通なんだよな。

 グラバインさんが圧を引っ込めたことで徐々に失神した者達も立ち上がる。ガローゾ達は俺を睨みながらも引き下がっていった。


「さて小僧。まだ酒はあるんじゃろうな」


 グラバインさんはガローゾへの興味が無くなり、俺に酒をねだってきた。

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