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宿泊

「これはいったい?」


 ターティ様達は何が起きたか、頭がついていっていない様子だ。


「間諜か?」


「恐らくな。こんな物を持っているメイドなどいないだろうさ」


 シェリルは拘束されている女のポケットから小瓶を取り出した。


「たぬ!たぬぬ!」


先程のようにコタロウが強く反応する。


「毒薬か?」


「似ているが違う。これは呪詛水だ。飲食物に混ぜて使っていたのだろう。この程度の量なら即効性はないが体調を崩すには十分だ。それに長期間摂取すれば殺すこともできる」


「…まさか父の体調が崩れたり、私の調子がイマイチなのは」


「可能性はあるだろうな。最も領主なら忙しくて過労の可能性ももちろんあるがな」


 ターティ様は自分の屋敷の者から裏切り者が出たことにショックを受けている様子だ。セトナ様はターティ様を気にしていたがミコトちゃんを連れて別の部屋へと移動する。


「…この者達は一年以内に働き始めた者達だ。実は屋敷の人員はもっと少なかったんだ。働く者が大変だろうと思い人数を増やすように父に提言したのは私なんだ。父や執事長は増やすことには異論はなかったけど、審査が甘いと言われていたんだよ。あまり厳しくすると誰も来なくなると思って無理を通してしまったんだ」


 その結果かこれなら落ち込むな。父親が体調を崩して、家族にも危険がおよんだのだからな。当主様が言うように人を増やすのは悪くない事だけど、自分達の立場をもっと考えて調査が必要だったな。


 そして、周りの兵士やメイドは何と声をかけていいのか分からずに固まっている。

 仕方がない。このまま落ち込まれても進展が無いし声をかけておくか。


「ターティ様。落ち込むよりも、この者達が何者の命令で動いているのか探るのが先ではありませんか。結果だけ見れば当主様は死んでおらず、ご家族や屋敷の者もケガはありません。それにサクスム家に仇なす者の手懸かりを手にいれています」


 ターティ様は少しずつ顔をあげる。


「確かに人員を急激に増やしたのは失敗だったかもしれません。ですが世の中失敗何て当たり前です。失敗した後にどう動くかが大切じゃないですか。立ち止まっていたら何も変わりませんよ」


 人が死んだら失敗じゃ済まないが、さすがに今は言えないな。


「…そうだね。すまない弱気な所を見せてしまって」


 そう言うとターティ様は表情を引き締める。


「この者達を牢にぶちこんでおけ。自決しないようにアイテムでの拘束も忘れるな。目が覚めたら尋問を開始する」


 周りに響き渡る声だった。固まっていた兵士やメイド達も、各々の役割を持って動き始める。


「二人ともすまなかった。礼を言わせてくれ」


 頭を下げるターティ様に俺は慌ててしまう。


「いえ、こちらこそ無礼な言葉ですみません」


「ためになった一言だったよ。気にしないでくれ。それよりも申し訳ないが君達にお願いがあるのだが」


「何ですか?」


「今日だけでいいから屋敷に泊まってくれないか。ミコトが怯えてしまっていたからね。君の従魔を貸して欲しいんだ。父に手紙を送るが、屋敷の警備の強化は明日になるだろうからね」


 俺はベル達の方を見る。するとベル達は笑顔で首を縦に振ってくれた。


「構わないみたいです」


「そうかありがとう」


 こうして俺達は、サクスム家の屋敷で一泊することになった。ベル達はミコトちゃんの部屋に通されて、俺とシェリルは別の部屋を用意してもらった。


「何か大事になったな。面会してそれで終わりかと思ったけど」


「貴様は事件に巻き込まれる体質かもな。緊急依頼・邪竜・領主様暗殺?事件。のんびりする暇がないな」


「全くだ。この後はパーティーもあるんだろ。絶対にまた何か起きるだろうな」


 先を考えると気が重くなってきた。シェリルはそんな俺を見て笑っているが、巻き込まれるのはシェリルも一緒だからな。


「しかし、コタロウは何でメイドが怪しいとわかったんだろうな?」


「いや分かってなかったと思うぞ。私が戦いだした事には目を丸くして驚いていたからな」


「え?」


「反応したのは呪詛水だろうな。聖魔法の使い手だからか、危険性を誰よりも敏感に感じたんだろう」


 じゃああの時の行動は、危ない物を持っているから捨てなきゃとでも言っていたのか。戦ったのはシェリルが戦い始めたから一緒に動いただけかな。


「まあ結果オーライだな。コタロウにもケガが無かったし何よりだ」


「そうだな。所で私は暇だぞ。部屋は立派なのだが退屈だ」


「チェスやリバーシは置いてあるけど俺じゃあ相手にならないしな」


「何か面白い物はないか?ベル達かいれば毛並みを整えたりするのだがな」


 トランプやボードゲームは色々やっているしな。カラオケは無理だし。…ビリヤードかダーツでも用意するか。


 悩んだがビリヤードに決めた。理由は昔よく遊んだからだ。

 通販でビリヤード用具一式を購入して部屋の中に設置する。広いから全然余裕だな。


「これはどういう遊びだ?」


 俺は記憶を思い出しながらナインボールとエイトボールを説明する。後は実際にやりながら思い出せばいいだろう。


「まずはナインボールからやってみるか。ポケットに落ちなかったら交代で、先にこの九番を落とした方が勝ちだからな」


「ああ、先に手本を見せてくれよ」


 手本になるほどやってないけどな。学生の頃にやった以来だしな。


 俺は集中してブレイクショットを打つ。これで九番を落としたらカッコいいけど、落ちたのは二番だけだった。


「落としたから連続で俺だな」


 続けて手玉を打ち一番に当たり、それがまた六番に当たりポケットに入る。


「中々やるではないか」


「偶然だ。狙っても十回に一回くらいしか成功しないよ」


 コンビネーションショットは決まれば気持ちいいけどな。実際次に打った手玉は何も落とす事が出来なかったし。


「次は私だな」


 キューを持ち構える姿は様になっている。そして、なんと言うかセクシーだな。


 俺の邪な視線など気にせずにシェリルは手玉を突いて一番を狙う。少しずれたようで壁に当たり何もないところで止まる。


「難しいな。少しずれると全然違うところに行ってしまうな」


「だからこそ成功すると面白いぞ」


 そのままかなりの時間ビリヤードを続けていた俺達。シェリルの成長は凄まじく、すぐに上達していく。まだまだ俺の方が勝つが五回やれば一回は九番を落とされる。それもラッキーショットではなく、きちんと狙ってだ。


「さすがだな」


「まだまだだ。頭の中で思い描いた通りには全然いっていない。もう一勝負だ」


 熱中してくれるのは嬉しいが、このはまりようだと一ヶ月もすれば俺は追い抜かれる予感がする。


 そんな事を考えていると、ノックの音が部屋に響いた。


「はい」


「入ってもいいかしら?」


 声の主はセトナ様だった。用事があるのだと思い了承する。


「どうぞ」


「えへへ、遊びに来ちゃいました」


「キュー」


「たぬ」


「ベア」


「ピヨ」


「すみません。急にお邪魔してしまいまして」


 セトナ様以外にもミコトちゃんやベル達がそこにはいた。むしろ、セトナ様よりも先に部屋に入ってくる。


「これは何ですか?」


 好奇心旺盛なのか俺が出したビリヤード台に興味を示した。ベル達やセトナ様もビリヤード台を近くで眺めている。


 俺とシェリルで説明をしながら実践して見せる。するとベルとセトナ様がくいついてきた。ミコトちゃんやコタロウ達は見ているだけで満足らしい。


 ベルは器用に魔法でキューを固定し動かしていた。セトナ様とベルは同じくビリヤードに熱中しているシェリルに任せて、俺はミコトちゃん達の相手をすることにした。


「さて何がいいかな?」


「皆で遊びたいです」


 全員となると人数が多いからな。人生ゲームでいいか。…ああ、ジェンガでもいいかもな。ムギも念力で参加できるし、細い棒を用意すれば手の大きさも関係無なくなる。飽きたら、ドミノ並べにしてもいいし。


 内容を決めた俺は通販ですぐに購入して目の前に出して説明を始める。段々と目が輝いていくのが分かる。待ちきれないようなので早速開始する。今回はサイコロを振って出た色を取るルールにした。


「えい」


 ミコトちゃんが転がすと赤色が出た。


「それじゃあ、これと同じ色を引いてね。引いたら上に乗っけるんだ」


 恐る恐るブロックを抜いて上に乗っける。すると満面の笑みと周りからの拍手に溢れる。


 ほのぼのする光景だった。ふと気になり俺はシェリル達の方を向いてしまった。


 …三人の迫力が違う。セトラ様もシェリルとベルに負けないくらいの迫力だった。


 俺は視線を戻して和やかに遊ぼうと心に決めた。

 実際に誰が崩しても笑顔に溢れていた。崩した者は悔しがっていたが、周りと一緒に笑っている。


 だからこそ、隣のガチな雰囲気が目立ってしまう。


 夕食も部屋に全員分運ばれてくるが、食事もそこそこにビリヤードを再開している。


 俺達はそんな姿を眺めながら、食事や別の遊びを続けていた。


………

……


「それじゃあお休みなさい。とっても楽しかったです」


「私もです。すみません夢中になりすぎてしまって。でも楽しかったわ。シェリル。またよろしくね」


「ああ」


 満足そうな顔で皆戻っていく。ちなみにセトナ様はビリヤード一式を三セット購入してくれた。一セットにつき金貨一枚で。


「余程気に入ったんだな」


「家族で楽しむらしいぞ。私も負けていられんな」


 これは隠れ家に置くことになりそうだな。まあ二階に空いているスペースもあるから一台くらいは問題ないな。


………

……


「さて、そろそろ寝るか」


「本音を言えば温泉に入りたいのだがな」


「入浴できただけでも良しとしないと」


 屋敷には大浴場があるようで、特別に俺達も使うことができた。勿論一緒などは無理なので俺はベルと一緒に入らせてもらった。女性陣とコタロウ達は一緒に入り賑やかだったようだ。


 そんな話をしながらベッドに入る。ベッドは二つあるのだが、俺達はいつも通りに一つのベッドを使っている。


「しかし楽しかったぞ。あのゲームは中々面白いな」


「今日はナインボールだけだっただろ。エイトボールもまた違った楽しさがあるぞ」


「そうか。隠れ家に戻ったらそっちも練習するぞ」


 ベッドに入ったがすぐには眠れそうになかったのでシェリルとの会話を続けている。


「しかしベル達がいないと静かだな」


「本当だな。今までも何度かあったが、その時は酒を飲んですぐに眠っていたから気にならなかったがな」


「少し寂しく感じるな」


「こんな美女が隣に居るのに寂しいとは贅沢な奴だな」


 そう言って俺を抱きしめながらクスクスと笑うシェリル。まあ確かにそうなんだよな。


「顔が赤くなっているぞ。照れているのか」


「暗いのに何で分かるんだよ」


「それくらい分かるさ」


 不意に唇に柔らかい感触が。


「赤いだろ」


「勝てないわ本当に」


 ありがたいから文句は無いけど。


「だが貴様への礼は今日はここまでだ。人前や誰かの家でやる趣味は無いからな。おやすみ」


 そのまま俺に抱き着いた状態でシェリルは目を瞑り眠る体勢に入った。

 …生殺し状態だが仕方がない。俺も寝よう。


「おやすみシェリル」


 今日も色々あったが、この日の夜は何事もなく無事に過ぎていった。


 そして翌日。最近の恒例のようにシェリルに起こされて目が覚める。着替えを終わらせた所でノックの音が部屋に響く。


「どうぞ」


「おはようございます。一緒にご飯を食べに行きませんか」


 入ってきたのはミコトちゃんとベル達だった。ターティ様やセトナ様と一緒に、食堂で食べようとのお誘いだった。


 俺達はミコトちゃんの後ろに続いて食堂へと向かう。食堂には既にターティ様とセトナ様が座っていた。


「おはようございます」


「おはよう。よく眠れたかい?」


「ええ、おかげさまでグッスリと眠れましたよ」


「それなら良かったよ。それからビリヤードという遊戯。セトナから聞かせてもらったよ。私も朝に少し試させてもらったが中々面白かったよ。どこで手に入れたか気になるが、ひとまず置いておくとしよう」


「その方が助かります」


 ビリヤードだったら似たようなゲームがあると思ったんだがハズレたな。

 そのうち料理が運ばれてきたので食べ始める。


「ところで君達はまだ竜の肉は持っているのかい?」


「ええ。まだありますけど」


 肉がドロップアイテムの場合十キロから百キロ単位で手に入るからな。ベルのおかげでストックはまだまだある。


「可能な限り売ってくれないか。他にも料理が出るから百キロもあれば十分なのだがな。パーティーに出したいんだよ。あと何か珍しい食材等があったら買わせてほしい。もちろん、君達が手に入れた物だと明記させてもらうよ」


 竜の肉は大量にあるし、ベルも問題ないようなのでいいが、他の物か。果物はまだ数が多くないしな。ああ、酒があったな。


 テーブルの上に宝酒を出してみせた。


「それは宝酒!?」


 予想以上の食いつきに驚いたが話を続ける。


「これが十本あります。それとこんなお酒も」


 俺は持て余していたロマネ・コンティもテーブルの上に置いた。


「その酒も見事だな。…え~と、全部買いたいのだが宝酒は三本ほど私的に買わせて貰えないだろうか?」


 ターティ様は結構な酒好きのようだ。この三本が五本や七本と増えなければいいけど。


「構いませんよ」


「そうか、ありがとう。それなら宝酒は一つ金貨五枚、その見た事のない酒は大金貨一枚でどうだろうか」


 そんなに高いのか!?

 売るところに売ればもっとする気がするが十分な値段だ。


「良いですよ」


「ありがとう。竜の肉の代金も併せて支払わせてもらうよ。竜の肉はキロ金貨二枚で合計白金貨二枚と大金貨六枚でどうだろうか?」


「問題ありません。ついでなのでダンジョンで手に入れた魔物の肉もいくらか用意しておきますね」


「ありがとう助かるよ」


 話がまとまり食事も丁度終わる。その後俺達はサクスム家を出発する。ミコトちゃんはベル達と離れるのが寂しいようだったが、元気よく挨拶をしてくれた。


「ところで宝酒は二十本あるんじゃなかったか?」


「俺達も飲んでみたいじゃん。合わなかったら残りは売ればいいし」


「それもそうだな」


 隠れ家に帰ってからはビリヤードとジェンガで再び盛り上がっていた。

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