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準備期間

 俺達はベル達の装備の進捗具合を知るために三兄弟の店に向かっている。


「こんにちは」


「おおジュン。丁度いい所に来たな。一応完成したぜ」


 店に着くと、早速四つのリングをバーンさんから渡される。よく見るとそれぞれの名前が内側に彫られていた。

 ベル達が腕や足に付けようとすると、リングはフィットする大きさに変わる。


「とりあえずどんな環境にも対応できるように竜の素材はふんだんに使わせてもらったぜ。それとベル・リッカ・ムギには前話した内容の機能を追加している。他に何かあれば相談に乗るぜ」


「ありがとうございます」


 ベル達も満足そうな表情だ。コタロウは追加の機能は無いが、皆とお揃いというだけで嬉しそうにしている。


「キュキュ」


「たぬぬ」


「ベア」


「ピヨヨ」


 皆でポーズを決めたりして満足そうだ。


「見返りは貰ったからな。気にすんなよ。それとほれ」


 そう言うとバーンさんは腕輪を二つと同じようなリングを六つほど投げてきた。


「これは?」


「腕輪は人間用の物だ。収納の機能は無いが、水中行動や温度調整の機能が付いている。リングはコタロウと同じタイプの従魔用のリングだぞ。お前はいつの間にか従魔を増やしていたからな。それくらいは必要だろ」


 増える事が前提なのか。まあ増えてもいいけどさ。


「ありがたく受け取っておきますよ」


「おう。いつでも注文に来てくれよ」


「そうそう、お前の注文の品も出来ているぜ。とりあえず五十用意したがいいか?」


「ありがとうございます!」


「何を注文したんだ?」


 パッチさんと俺のやり取りをシェリルが不思議そうな顔をして聞いてきた。 


「悪臭玉だよ。食事会の日に頼み込んだんだ」


「コイツがあまりにも必死で頼むから折れちまったよ。本当は刺激玉に変更したはずなんだがな」


「まあ、確かに貴様はダンジョン内でも使ってきたからな。相手からすれば意外な攻撃だっただろうな」


 キーノ・妖狐・邪竜と格上にも効くからな。もう手放せないアイテムだ。


「何度もいうがお前達で使う分には構わないが、人にあげたり無くしたりするんじゃねえぞ」


「分かってます。下手なことをして売ってもらえなくなったら大変ですからね。ムカつく奴にしっかり使いますよ」


 そんな事になったら俺にとっては死活問題だ。常に切り札として大事にするつもりだ。


「それならいいがよ。……いや、いいのか?」


 パッチさんとの話が終わったところで、今度はクロスさんが話しかけてくる。


「それじゃあ最後に二人ともこの武器は必要か?最もこの間の席で色々手に入ったようだから要らないかもしれないが」


 目の前に置かれたのは、先端が赤色の棒と大鎌と鉄扇たった。


「棒は"火柱"という。魔力を流すことで誰でも先端の赤い部分から火を出すことができる。ただし形を変えたり、火魔法の強化などの効果はない」


 それでも面白いな。元々火魔法は無いから強化は無くても問題ないし、火が出るだけでもアンデット系と戦うときにはありがたい。


「大鎌は“リバース”だ。相手の目には攻撃が逆に映るという変わった武器だ。鉄扇は“息吹”鉄扇から発生させる風は相手の魔法攻撃の方向を変える。慣れれば跳ね返すことも出来るぞ」


 へー、リバースは面白そうだな。俺も使ってみたい武器だ。


「こんな感じだな。俺が作った武器だからダンジョン産やドワーフの作品には劣るな。一応身体強化と魔力は少しは強化されるがな」


「いや、十分使える。私は買わせてもらう」


「俺も買いますよ。俺自身は火の魔法を使えないから、武器に効果があるだけありがたいですし。いくらですか?」


「“火柱”は大銀貨三枚、“リバース”は大銀貨七枚、“息吹”は大銀貨五枚だ」


 やっぱり短剣や他の武器に比べると安いな。助かるが複雑な気分でもあるな。

 支払いを終えると俺達は店を後にする。


「それじゃあ、また来ますね」


「おう。まだしばらくは大変だろうが、体には気をつけろよ」


 次に向かうのはエリスさんの洋裁店だ。歩いている最中も、ベル達は新しい装備に目を輝かせている。


「気に入っているようだな」


「そうだな。作ってくれてクロスさん達には感謝だな」


 話をしていると突然影がかかる。上を見るとでかい飛行船が空を飛んでいた。


「何だあれ!?」


「一部の貴族や冒険者が使う魔道船だ。パーティーに向けて各地からやって来ているのだろう。見た目以上に中は豪華な作りになっていて広さもある。しかし、あれだけの魔道船が動くならかなり上の者が来るようだな」


「そうなのか。乗ってみたい気もするな」


「貴様も手にいれていただろう」


 あ、確かに。ガチャで引き当てたけど後回しにしていたな。今日帰ったら調べてみよう。

 そう思っているとシェリルの顔が歪む。


「しかし、嫌な予感がするな」


「どうしたんだ?」


「あれだけの魔道船が出るなら"金色の竜牙"もいるかもしれんな」


 ウンザリとした様子のシェリル。余程会いたくないのだろう。


「まあ、あまりにも絡んでくるようなら俺達が話をするから」


「キュキュ」


「たぬ」


「ベア」


「ピヨ」


 俺の言葉にベル達が続くように胸を張る。その光景にシェリルは少しだけ微笑んでくれた。


「気持ちは有難く受け取ろう。だがアイツ等はプライドの塊だぞ。新米冒険者や従魔の言葉に耳を貸さんと思うぞ」


「その時は悪臭玉をぶん投げてやるから気にすんな。ストックは十分ある。問題になったらダンジョンに逃げ込もうぜ。八十階に追いかけて来る事は出来ないしな」


「貴様は…まあいい。よろしく頼むぞ」


 呆れている様子だが機嫌は悪くない。そうこうしている内にエリスさんの店に着いた。


「失礼します」


「いらっしゃい。待っていたわよ。早速着てみて頂戴」


 中に入った瞬間。拉致されるように俺達は店の奥へと引きずられて、各々別の部屋へと通される。

 

「さあ着替えて着替えて♪」


 あっという間に着せ替えられ、俺は燕尾服を着せられていた。

 とても上品な仕上がりだが動きやすい。

 さらに俺の体にとてもフィットする。魔法で体に合うように自動調整もできるのだが、元々が細かいところまで完璧に合うようにされている。


「凄いですね」


「気に入ってくれた?」


「ええ、この手の服はあまり着た事が無かったんですけど、とても気に入りました」


「喜んでもらえて嬉しいわ。他にも訪問着や普段着も作っておいたから使ってね。それと全て竜などの高位の魔物の素材を使わせてもらっているから、下手な鎧より防御力は高いけど戦闘用の服ではないから注意してね」


「はい」


 エリスさんと話をしていると、ベル達が俺の通された部屋に入ってきた。


「キュキュキュ―♪」


「たぬー♪」


「ベア♪」


「ピヨピヨ♪」


 ベル達も俺と同じような燕尾服を着ている。こちらもそれぞれの体の大きさにしっかり合っている。窮屈な様子も無く気に入っているのが見て分かる。。皆が誇らしげに胸を張っており、つい笑みがこぼれる。


「お前ら似合っているな。パーティーでもきっと目立つぞ」


 俺の言葉を聞きさらに胸を張る。本当に可愛いなコイツ等。

 そんな俺達をエリスさんと店員たちが笑ってみていた。すると再び部屋の扉が開いた。


 中に入ってきたのはドレスを着たシェリルだった。気品のある感じで装飾品も多いわけではないのだが、人の目を引き付ける雰囲気を放っている。

 俺は見惚れてしまい少し黙ってしまった。


「おい、何か言ったらどうだ」


 普段ならからかってきそうな気もするのだが、シェリルもどこか恥ずかしい気持ちがあるのだろう。若干顔を赤らめていた。


 俺は何とか言葉を振り絞る。


「凄い似合っているよ。キレイすぎて言葉を失っていたよ」


「当然だろう」


 少しいつもの調子を取り戻した俺達は笑いあった。それから少し遅れてベル達の拍手が鳴り響く。…俺には無かったよな。


「本当にとてもお似合いですよ。クリスタルバードの羽根すら引き立て役になっていますね」


 シェリルの着替えを手伝った女性店員の言葉で気が付いた。確かにあのキレイな羽も付いていた。だが、やはり装飾品よりもシェリルに目がいってしまうな。


 他の服も着させてもらってから店を後にする。どの服も問題が無かったので、しっかりと使わせてもらおう。それこそサクスム家に訪問する時は今回用意してもらった服でもいいかもしれない。


 充実した気持ちで隠れ家に戻ると、俺達は海へと移動して魔道船を出してみる。

 すると飛行船ではなく、六十フィートくらいの大型のクルーザーが出てきた。


「クルーザーか。乗ってみたかったんだよな」


 俺は憧れもあったからワクワクした気持ちで近づいた。

 魔法陣から乗船するようで、地面にできた魔法陣に乗るとクルーザーの内部に移動した。そして俺は目を疑った。


「は?…え?」


 窓から見える景色は外の様子をしっかりと映しているのだが、明らかに中が広い。そしてちょっと高級なホテルのロビーのようになっていた。

 

「やりすぎじゃないか」


 俺の呟きなど気にせず、ベル達はこの広い空間で鬼ごっこをして遊んでいた。


「おい、こっちに簡単な見取り図があるぞ」


 シェリルに呼ばれて近くのテーブルへと向かう。テーブルの上にはシェリルの言う通りに見取り図が置いてあった。いや、見取り図というか説明書に近いな。


「移動は魔法陣が基本か。甲板に出るには黄色の魔法陣。客室に行くには緑の魔法陣。…施設もあるのか。鍛冶部屋や錬金部屋などは青の魔法陣。浴場が白の魔法陣。操縦室が赤の魔法陣か。ああ、外に出るときは黒の魔法陣なのか」


 正直この時点でお腹いっぱいだ。


「えーと、他には航海・飛行・潜水の三つの機能があるんだな。潜水中は適切な装備をしないと甲板にでると溺れるから注意だってさ。それに地形が分かっているところや地図を読み込ませれば自動で目的地まで運航してくれるようだな。武装兵器・マジックシールド搭載。光学迷彩による透明化、気配遮断も可能だって。それと所有者は俺みたいだな。俺の許可が無いと入れないようだ。隠れ家に入れるメンバーは自動的に許可されているみたいだな。逆は無理みたいだが」


 …今更だけどリッカとムギはいつの間にか許可されていたな。隠れ家の中で生まれたからなのかな?


「一応聞くけど魔道船としては普通なのか?」


「異常に決まっているだろ。…客室の中や設備も見に行くぞ」


 俺の問いかけには相変わらず呆れた様子で返答する。だけども確認の必要があるのですぐに動き出した。


 まずは客室へと移動する。客室は二十部屋あった。どの部屋も作りは一緒だがもうレベルが違う気がする。部屋の中には個室が四部屋。風呂・トイレ・リビングももちろんついている。


「貴様といると本当に退屈しないな」


「誉め言葉として受け取っておくよ」


 客室を後にした俺達は温泉へと向かう。こちらは男湯と女湯が分かれているタイプだった。両方ともプールのような大きな風呂が置かれているだけだった。広くゆっくりはできそうだが種類が無いのは残念だ。サウナと水風呂は置いてあったけど。


 ただベル達は広いお風呂が楽しいようで満足そうにしている。それなら、たまに使っても良いかもしれないな。


 その次は施設を見に行った。鍛冶・錬金・調合などができる店があり、最低限の道具も揃っているようだった。ただ、俺達が使う予定は無さそうだ。料理店もあったが、厨房の設備が整っているだけで自動的に料理ができたりはしない。


「ここは使うことは無いな」


「設備が良いだけにもったいない気もするがな」


 次に向かったのは操縦室だ。操縦自体は操縦桿を握って念じるだけで動いてくれるらしい。基本は自動操縦でも良いらしいのでありがたい。地図が無くてもある程度は障害物を避けて進み続けてくれる。だが、モニターやソナーの数が凄い。モニターでは四方どころか上下まで細かく映っている。ソナーも魔物を発見できるだけでなく、地形の把握にも役に立っている。


「ちょっと操作してみるか?」


「ゆっくり動かせよ」


 操縦かんを握り飛ぶように念じると魔道船は浮き始めた。だが中は何の影響も受けていない。そのまま魔道船を走らせる。初めはゆっくりだったが、徐々にスピードを上げていく。さらに一回転などもしてみたのだが中への影響は一切なかった。見えている景色は変わっているけど。


「このまま海中に行くぞ」


 空から海中へと潜ってみる。周りにセラピードルフィンがいないのは確認済みだ。海中は暗いのだが、そこはしっかりライトが付いている。途中でシェリルやベル達にも操縦を交代してみたが問題なく運航で来た。


「運転ってこんなに簡単なものなのかな?」


「詳しくは知らんが、魔道船の運転手は数が少なく高給取りのはずだ」


 やっぱり考えるだけ無駄だよな。


 最後に向かったのは甲板だ。甲板に出ると何故か安心した。特に変わったところがない普通の景色が広がっているからだ。…海を渡っている時はいいけど、空を飛んでいる時に甲板に出るのは怖そうだな。


「いやー、今回も驚きだったよな」


「昼に見た魔道船より価値が高いだろうな」


「でも使う機会がなさそうなのがな」


「贅沢な悩みだな。それなら、今日は魔道船の客室にでも泊まってもいいんじゃないか」


「そうするか」


 その日は魔道船の客室に泊ってみた。案外心地が良かったので、気分転換に泊る事はありそうだな。

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