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ギルドに報告

 久しぶりのギルドは以前と変わらない活気で溢れていた。


「お前達の件はナーシャに報告した方が良いだろうな」


 “歴戦の斧”に“大樹の祝福”もいるので取次は本当に楽だった。すぐに受付の職員がナーシャさんを呼んできてくれた。その隣にはメリルさんが付き添っている。


「お久しぶりですね。ダンジョンから無事に戻ってきてくれて何よりです。しかし貴方達には謝らなければいけないことがあります」


「“栄光の宝剣”ですよね。皆さんから既に聞いています。気にしなくて大丈夫ですよ」


 いまさら何を言っても変わらないしな。力のある貴族が横槍を入れてきたら思い通りに進まないのは分かる事だしな。


「…本当に申し訳ございません」


 ナーシャさんは深々と頭を下げる。メリルさんも同じように頭を下げていた。


「おい、ナーシャ。それよりも大事な話があるから別室に案内してくれ」


「大事な話ですか。分かりました。皆さんどうぞこちらに」


 “歴戦の斧”と“大樹の祝福”も一緒に移動する。依頼の報告はいいのか?と思ったが口には出さないことにした。そして人数が多いので会議室のような場所に案内される。


「それでどのような話なのですか?」


「今回は俺達じゃなくジュンとシェリルだ」


 ディランさんは俺の背中を押して前に出す。

 俺は満腹亭でした話をナーシャさんとミリアさんにも聞かせ始めた。


 話を進めていくと表情が変わっていく。そして最後にギルドカードと邪竜の素材を提出すると、もはや信じられないといった表情だった。


「これは本物なんですよね?」


「ルージュとルーシアも鑑定している。心配ならギルドでも鑑定すればいいだろ」


 ナーシャさんはすぐにギルドの鑑定士を数人呼んで邪竜の素材の鑑定を行った。


「私の鑑定では邪竜の素材で間違いありません」


「私もです」


「俺も」


 集められた鑑定士たちは邪竜の素材を本物と認定した。


「皆さんありがとうございます。ジュンさん、シェリルさん。いくつか質問よろしいでしょうか?」


「大丈夫です」


「構わん」


 その後は細かくダンジョン内の事を質問される。その間に他の竜の素材も確認してもらった。量があったため違う部屋で行われ、多くの冒険者やギルド職員が素材を目の当たりにした。盗難防止で手伝ってくれたナイルさんとガーネットさんには感謝だな。長時間の拘束だったが皆最後まで付き合ってくれていた。


「ありがとうございます。お疲れ様でした。それでは今後の事を伝えさせていただきますね。まず、事が事ですので一月ほどは調査に時間を頂きます。その時には協力をお願いいたします。調査が終わり次第すぐに邪竜討伐とダンジョンの最高到達階の更新を発表させていただきます。邪竜討伐は当然として、タカミの街のダンジョンは王国でもトップクラスの難易度です。なので王国中の関係者に公表することになります」


 俺の予想以上に大事になってきてないか。無名の俺が場違いに感じるんだが。


「しかし、シェリルはともかく俺の活躍を信じてくれますかね」


「証拠の素材やギルドカードがあるので問題ありません。それにこの映像を見れば、普通の冒険者なら納得してくれますよ」


 映像には俺とナイルさんの戦いが映っていた。シェーラさんはビデオカメラのような能力も持っているらしい。


「それと恐らくですがサクスム家主催でお祝いのパーティーが開かれると思われます。その際には王国の有力貴族やBランク以上の有名冒険者が集まるでしょう」


 面倒すぎる。内輪でやるパーティーくらいが俺には丁度いいんだが。


「え~と、俺達は参加しなければいけないんですよね?」


「気持ちは分かりますが、その通りです。発表後一ヵ月以内には開かれると思いますよ」


 ため息を吐く俺の肩にシェリルがポンと手を置いた。その目は諦めろと語っていた。


「ところで俺から質問があるのだがいいだろうか?」


 そんな時にディランさんから声が上がった。


「ええ、構いませんよ」


「今回の件で二人のランクはどうなるんだ?シェリルは元々Aランクだったが、呪いの件で降格だったんだろ。それにジュンはDランクながら実績が段違いだ。戦闘力に関してもBランクでもおかしくない程だが」


「…そうですね。シェリルさんは希望すればAランクに戻すことが可能です。ジュンさんに関しては少しお時間が必要になりますね。横槍が入るでしょうがBランクには上げられるかと思いますが」


「俺は別にDランクのままでも構いませんけど」


「そうはいかないわよ。過大評価も過小評価もギルドにとっては良くないわ。貴方の実績でランクが上がらないなら他の冒険者はどうすれば上がるのよ。貴方がシェリルの後ろに隠れついて行っただけならそれでもいいのだけどね」


 俺の返答にレベッカさんがピシャリと言い放つ。


「それならCランクじゃダメですか。俺は魔物との戦いは大丈夫ですが対人戦の経験が不足しています。ナイルさんとは手合わせだったので戦えていましたが、ダンジョンの中では実力的には下の賊にもピンチになりました。それに護衛の経験なども無いので、Bランクの仕事をこなせるかというと微妙だと思います」


「確かにBランクなら要人の護衛任務も出てくるからな。他にも闇ギルドの討伐も多くあるしな。魔物の討伐任務とはまた違った技術も必要になる。未経験のままBランクはきついかもしれんな」


「それではジュンさんは、その辺りを理由としてCランクには上げたいと思います。ですが、他の冒険者に比べてBランクへは上がりやすくしたいと思います」


 …物騒な単語が出てこなかったか?闇ギルドって何だよ。関わりたくねえ。


「シェリルさんはAランクに戻る事を希望なさいますか?」


「いや、私もCランクでいい。私自身に驕りがあったから呪いを受ける羽目になったのだ。解けたからと言ってAランクを名乗りたいとは思わん。ジュンと同じCランクで頼む。それが難しいならBランクでも構わん」


「分かりました。そのように進めてみますね。他に何か質問はありますか?」


「とりあえずは大丈夫です。分からないことがあったら聞きに来ますね。ああ、ギルドには毎日顔は出す予定なので、連絡がある場合はその時にお願いします」


「分かりました。それではお疲れでしょうからお開きにいたしますね。それと本当に申し訳ございませんでした」


 最後までナーシャさんとミリアさんは申し訳なさそうにしていた。そこまで気にしなくても良いと思うのだが、ギルド職員としての責任感が強いのだろう。


「ああ、すみません。一つだけ言い忘れていました。ジュンさんとシェリルさんが今後も一緒に活動を行うつもりならパーティー登録をお願いします」


 部屋を出る際にそんな事を言われた。


「貴方達パーティーを組んでいなかったの?」


 部屋を出るとレベッカさんが驚いたように俺達を見ていた。


「成り行きで一緒に行動してましたからね。特にパーティーは考えていなかったです」


「それでも今後も一緒なら登録はしておいた方が良いわよ」


「そうだな。リッカとムギの従魔登録もあるだろうし、ついでにパーティー登録を済ませるぞ」


 流れでパーティーを組むことになった。

 まあ俺としてはありがたいし嫌と言われるよりは全然いいな。


「リーダーは貴様だからパーティー名は貴様が決めろよ」


 最後に難題が言い渡された。


「…ディランさんとレベッカさんはどうやって名前を決めたんですか?」


「俺は曾祖父が冒険者で、代々受け継がれてきた斧があるからそれにあやかっているな」


「私は故郷に守り神として祀っている樹齢千年の木があるのよね。そこから名前を付けているわね」


 武器や故郷から名付けているのか。


「まあ名前何てあまり気にしなくてもいいと思うわ。自分たちがどんな冒険をしたいとか、自分の特徴や能力を名前に入れても良いだろうしね」


「ありがとうございます。参考にさせていただきます」


 その後俺達は“歴戦の斧”と“大樹の祝福”と別れて受付に移動する。まずはリッカとムギの従魔登録を終わらせる。


「これで登録完了になります」


「あとパーティー登録もお願いします」


「畏まりました。それではこちらの用紙に必要事項をご記入ください」


「シェリル、一応確認だけど俺がリーダーでいいのか?」


「当然だ。私はそんな面倒な役割御免だからな」


「さいですか」


 パーティーメンバーよりランクも実力も低いのはリーダーとして違和感があるが、シェリルのやる気がないのに無理やりやらせるわけにもいかないしな。


「ところで名前は決めたのか?」


「あー、文句は言うなよ」


「余程ふざけていない限りは怒らんから安心しろ」


「…あえて“光の剣”ってつけたらどうする?」


「皮肉にはなるだろうが縁起が悪いから却下だ。自分を安く見せるな」


「冗談だ。俺だって付けたくないからそんな名前」


 それに剣使いいないしな俺ら。短剣なら使うけど


「冗談はいいからさっさとしろ」


「“旅する風”はどうだ?一応リーダーの俺の能力だし、いろんな場所に行ってみたいしさ」


「ふむ、私は構わん。それでいいのではないか」

 

 そんな訳で俺達は今後“旅する風”として活動していく。一応邪竜討伐やダンジョンの最高到達階の更新は“旅する風”の功績になるらしい。


 登録を終えた俺達は人目を忍んで隠れ家に戻っていく。

 部屋に入るとソファーに腰を掛け、一緒に座ってきたムギを撫でながらくつろぎ始める。


「しかし、今日は何か大変だったな。ナイルさんと戦うことになるとは思わなかった」


「ナイル相手によく頑張ったと思うぞ。アイツは戦闘力だけならAランクでもトップクラスの男だ。万全の私も勝てるかどうかは分からん。その男の顔面を殴るなど運や偶然だけでは不可能だぞ」


「そこまで強かったのかナイルさん。ところで話は変わるけど、祝いのパーティーって何をすればいいんだろうな?」


「適当に笑って貴族の相手をするだけだ。私は苦手だから頼むぞ」


「俺も苦手なんだが」


 場を盛り上げるような会話するの面倒なんだよな。

 気を遣うのも面倒だし。


「貴様がリーダーだろ。今後も頼むぞ」


「へいへい頑張りますよ。そういえばシェリルはパーティー用の服は持っているのか?」


「持ってはいたが今は無いな。どこかで買わなければいかんな」


「売っている店は知っているか?」


「いや、興味が無いから調べていない」


「そうだよな。クロスさん達なら知っているかな。ベル達の装備の事も話したいから明日行ってみないか?」


「構わんぞ。その後は時間があれば近場で狩りでもしないか?新しい武器の性能も試したいしな」


 シェリルは一気に増えたもんな。試してみたくもなるよな。


「了解。じゃあ明日はそんな感じの予定でいいか」


「キュキュキュ」


「たぬぬ」


「ベアー」


「ピヨ」


 ベル達も賛成なようなので決まりだ。


「…なあ。パーティーってベル達も連れて行っていいよな?」


「普通は従魔は連れて行かないことが多いな。…だが聞いてみるべきだろう。誰が欠けても邪竜の討伐は叶わなかったのだ、ダメでもお願いするべきだろうな」


「そうだな。どうせギルドには行くしその時に伝えようかな」


「ああ。だが明日からは覚悟しておけよ」


「何にだ?」


「恐らく今頃はギルド内には邪竜の討伐とダンジョンの最高到達階の更新が噂になっている。後は言わなくても分かるよな」


 あー、素材は見られているからな。ギルドが発表しなくても誰かから話は漏れるだろう。噂はすぐに広まるし興味本位で聞いてくる冒険者が多いだろうな。しかもシェリルには聞きにくいだろうから俺に来る可能性が高すぎる。


「しょうがないか。“栄光の宝剣”の奴等じゃなきゃ気にしないよ。それにしてもあいつ等“光の剣”に付けたしするだけで分かりやすいよな」


「せめてもの抵抗なんだろ。解散を受け入れたが納得はしていないという表明だろうな」


「本当に面倒な連中だよな。関わりたくないけど絶対にもう一悶着はあるだろうし」


「邪竜やキーノと戦ってきた貴様が恐れる必要が無いだろう」


「アイツ等は戦いで俺を殺そうとしてきただけだしな。良い悪いは別として殺意はあっても悪意はない。それが本能みたいなものだしな。シャイニー達は最終的には殺そうと考えるかもしれないけど、色んな手段で貶めようと悪意を持って接してくる気がするからな」


「それが分かっていればいいさ。実力的には貴様は勝てるはずだ。アイツ等の装備は一級品だが貴様の装備も引けはとらない。油断だけはするなよ」


「心配してくれてサンキューな」


「貴様が死んだら私は生活に困るからな。責任はとってもらわないとな」


 隣に座り耳元で囁かれたのでかなりドキッとした。

 この不意打ちはズルいだろう。


「どうした何か言い返してこないのか?」


 クスクスと笑っているシェリル。

 

「約束を守ったから結婚してくれるんだろう。責任はとるに決まっているだろ」


 シェリルの手を握りなるべく真剣な表情で返す。

 一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑みを浮かべてきた。


「バカぬかせ」


「痛っ」


 すぐにデコピンをくらってしまった。残念、甘い雰囲気にはならなかったか。

 

「まだ早い。だから今はこれまでだ」


 目の前にはシェリルの顔がある。口には柔らかい感触。俺は呆気に取られてしまった。


「隙だらけだぞ」


 そう言ってシェリルは立ち上がりコタロウ達を連れて温泉に向かていった。

 茫然とする俺の頭をベルが叩く。そこで俺はようやく動き出した。


 その後は俺達も温泉に浸かり夕食を食べる。その後はそれぞれ好きな事をして過ごし始めた。印象的なのはリッカが何かを編み始めた事だな。何が出来上がるのだろうか?


 疲れていたのか眠るのも早かった。夢の中でも俺は普段の生活を送っていた。皆でプールで遊んだりしていた。ダンジョンが終わった解放感なのかもしれないな。

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