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懐かしい人々

 太陽の光が降り注ぐ。


「久しぶりの地上だ。何か開放感があるな」


 ダンジョンや隠れ家も広く何故か空まであるが、やはり気分的に違ってしまう。

 俺もそうだが、シェリル達も晴れ晴れとした表情だ。


「さてと、まずは久しぶりに満腹亭で腹ごしらえでもするか。今から向かえば大丈夫だろうし」


「最初にギルドに行こうとしないのは貴様らしいな。“光の剣”の事を聞かなくていいのか?貴様がダンジョンに来る事になった原因だろうが」


「腹が減っては戦ができぬ。ギルドに行ったらダンジョンの最高到達階の更新や“光の剣”の事で時間がかかる可能性が高いだろ。腹が減っていたら話も入ってこないしな」


「キュキュ」


 ベルが同意するように頷いてくれた。


「まあ言っていることも分からんでもないがな」


 少々呆れ顔だが反対ではなさそうだった。

 タカミの街に着くのはそう時間がかからなかった。そのまま俺達は満腹亭を目指して歩いて行く。道中、リッカとムギが建物や多くの人たちに興味を示していた。その都度、ベルとコタロウが説明しており楽しそうにしていた。


「しかし、街並みは何も変わっていないな」


「そうそう変わらんだろ。だが、懐かしく感じてしまうな」


「あら、ジュンとシェリルじゃない。久しぶりね」


 街を眺めながら歩いていると、誰かに呼ばれた声がして振り返る。


「レベッカさん。皆さんどうもお久しぶりです」


 そこにいたのは“大樹の祝福”の四人だった。


「久しぶりだな。前より逞しくなっているんじゃないか」


「お久しぶりでね。あのテントのおかげで野営がとても楽になりました。ありがとうございます」


 ガーネットさんとシャロンさんも続けて挨拶をくれる。レベッカさんは俺に声をかけてすぐにシェリルにも声をかけていた。シェリルはフレンドリーに接してくるレベッカさんに少し困惑しているようだったが話に付き合っている。


「皆さんはこれからどこに行くんですか?」


「私達は満腹亭で食事だよ」


「安くて美味しいですからね」


「それなら俺達と一緒ですね」


 俺はここで挨拶していない人がいる事に気が付く。辺りを見るとベル達を抱きしめてご満悦のルーミスさんがいた。


「ルーミス。挨拶くらいしろよ」


「あ、ジュン君シェリルちゃん久しぶり」


 それだけ言うと再びベル達との触れ合いを再開させる。

 ガーネットさんはため息をついている。


「すまないな。アイツはどうもマイペース過ぎてな」


「気にしないで下さい。ベル達も楽しそうですから」


「ところで従魔が増えていませんか?」


「ああ。従魔の卵を持ってましたからね。ハッピーバードのムギとリビングドールのリッカです」


「人形なのか。ブリザードベアか雪熊の子供だと思ったがな」


 話をしているとレベッカさんとシェリルも話の輪に入ってきた。


「ねえ、ジュンもシェリルも満腹亭で食事するつもりなんでしょ。一緒にどう?ちょっと聞きたい話もあるのよね」


「俺はいいけどシェリルはどうだ?」


「私も構わん」


「なら行きましょう。ルーミス行くわよ」


「は~い♪」


 大所帯で満腹亭を目指して進む。街の人達に見られているが気にしない方が良いだろう。満腹亭が見えると、これまた知っている人達が入っていくのが見えた。


「今入ったのって“歴戦の斧”だったよな」


「彼らも常連よ。結構ここで見かけるわね」


 ガンツさんの店って本当に人気になったよな。ベルとコタロウを使って客引きをしたのが懐かしく感じる。


 “大樹の祝福”が入っていくので俺達も続けて店の中に入っていく。


「いらっしゃい。ってジュン達もいるのかよ。久しぶりだな元気だったか?」


 俺達を見たガンツさんは昔と違って自然な笑顔で俺の背中をバシバシと叩いてくる。


「ええ。何とか全員無事に戻れましたよ」


「そうか。…何か増えてねえか」


「リビングドールのリッカとハッピーバードがムギです。どっちも俺の新しい従魔ですよ」


「ベア♪」


「ピヨ♪」


「元気が良いな。よろしくな」


 紹介すると元気よくガンツさんに挨拶をする。

 まだ営業中のため、ガンツさんはリッカとムギに触る事はしないが笑顔で挨拶を返してくれた。


「ところで、まだ食事って大丈夫ですか?」


「勿論だ。空いている席に座ってくれ」


 奥に進み店内を見回すと時間が中途半端なためか客は二組だけだった。一組は“歴戦の斧”でもう一組は三兄弟とメイヤ婆さんだった。…何だか老人をカモにしている賊に見えてしまうな。


「アイツ等の事を知らなければ犯罪現場に見えてしまうな」


 失礼だとは分かるが俺はシェリルの言葉に俺は大きく頷いた。すると向こうも俺達に気がついたようで声をかけてきた。

 

「「「よお、ジュンじゃねえか。久しぶりだな!」」」


「どうも。おかげ様で無事に帰還しましたよ。メイヤさんもお久しぶりです」


「おや覚えてくれているとは嬉しいねえ」


「キュキュ」


「たぬ」


 ベルとコタロウはルーシアさんから離れ三兄弟たちのテーブルに駆けていく。続くようにリッカとムギもルーシアさんから離れていった。その時のルーシアさんの顔は悲壮感に溢れていたな。


「何だ新しい従魔か?」


「これまた可愛い従魔じゃねえか」


「元気いっぱいだな」


 ベル達は三兄弟の頭の上に乗ったり、ペチペチと叩いたりしているが三兄弟は気にしていない様子だ。むしろ楽しそうにもしている。同じ席に座っているメイヤ婆さんもニコニコしながら眺めていた。


 しかしマジでこの三人には感謝しかない。クロスさんが用意してくれた鎮魂のおかげでシェリルは助かったし、バーンさんが予備の防具を勧めてくれたから邪竜との戦いの後もすぐに行動できた。そして何より悪臭玉の制作者であるパッチさん。あのアイテムが何度俺を救ってくれたか。


「お、懐かしい顔だな。緊急依頼以降だと初めてか?あの時はお前のおかげでスカッとしたぜ。それにしても“光の剣”との諍いでダンジョンに潜ったと聞いていたが、“大樹の祝福”と一緒にいたのか?」


 近くの席に座っていたナイルさんも俺達に声をかけてきてくれた。

 それと同時にディランさんとシスター服の女性がシェリルを見て驚いた表情をしていたのが見えた。


「どうも皆さんお久しぶりです。“大樹の祝福”とはダンジョンで一度あっただけですね。別行動でしたよ。ただ、この店でちょっとした縁があるんです」


 ダンジョンの中だとシェリル達以外と喋る事が無かったから新鮮な気分になるな。


「何だ知り合いが多いみたいだな。何なら席をくっつけて全員で座るか?」


 水を持ってきてくれたガンツさんがそんな事を提案する。


「私達は構わないわよ」


「俺達もだ。ベル達と飯を食うのは楽しいからな。婆さんもいいだろ」


「そうだね。賑やかなのは楽しいからね」


「ディラン。たまには俺達も他と親睦を深めるのもいいんじゃないか」


「…そうだな。このメンツならいいだろう。俺も聞きたいことがあるしな」


 皆でテーブルを動かし適当に座る。そのためシェリルとも離れてしまった。シェリルはレベッカさんと“歴戦の斧”のヒーラーの間に座っており、俺はナイルさんとガーネットさんに挟まれる形だ。

 

「そういえばジュン。“光の剣”とギルドマスターの件は聞いたか?」


 クロスさんの質問に俺は首を横に振る。


「まだです。飯を食ったらギルドに行くつもりでしたからね。教えてくれるならありがたいです」


「そうか。お前にとっては良い話じゃないけどな」


 そう言いながらクロスさんは事の顛末を教えてくれた。

 結果としてはギルドマスターは罰金と半年間の謹慎処分。ナーシャさんが副ギルドマスターに就任して現在は代理でギルドを運営している。また“光の剣”含めたギルドマスターに贔屓され、他の冒険者と揉めた事のあるクランやパーティーは解散したが、“栄光の宝剣”というクランを作り全員がそこに所属した。


 ナーシャさんは、ギルドマスターを解雇か軽くても一般職員への降格。“光の剣”達は罰金の上にランク降格にして同じような事を起こした際には除名処分を約束させようとしたらしいが、どこかの貴族が横槍を入れてらしくできなかったらしい。


「どこの貴族が邪魔したんですか?」


「王都のノルマン伯爵家だ。ハッキリ言って碌な噂も聞かんぞ。だが、とにかく財産を持っているからな。侯爵家などでも簡単には逆らえないらしい。庇う訳じゃないが、ナーシャも色んな方面から圧力をかけられたんだろうな」


 ため息をつくディランさん。他の面々もあまり表情は良くない。


「ノルマン家か。…確か“金色の竜牙”にも出資していたな。私も一度会った事があるが小さいオークのような男だったな」


「シェリル。それはオークに失礼だ。アイツ等は煮ても焼いても蒸しても美味いからな。あの男は何をしても食えん奴だぞ」


 ディランさんも結構言うんだな。それくらい酷い男なのか。


「ところでこの街の貴族は何も言わなかったんですか。いくら力のある貴族が相手とはいえ、自分の領地に干渉されたくないのでは?」


「この街を統治しているのはサクスム伯爵家だな。それなりに力がある家なのだが、当主様が病に伏せているようでな。ご令息も頑張っているのだが今回は相手が悪かったようだ」


 邪竜の件は終わったけどこっちは終わってなかったか。ギルドに行ったら俺も何か言われるんだろうか?


「面倒ですね。でもナーシャさんが期間限定でもギルドの運営をしているのであれば、少しは改善が見られるんじゃないですか」


 俺の言葉にレベッカさんが首を横に振る。


「残念だけどそれは無理なのよね。今回の件でギルドの方は結構混乱しているの。ギルドマスターは謹慎処分となっているけど、要は面倒な仕事をナーシャさんに押し付けているだけなのよ。何か見返りでもあればいいのに」


「確かにな。所属の冒険者が新しい遺跡の発見や、危険な魔物の討伐。ダンジョンの最高到達階の更新でもあれば、現在代理のナーシャさんに実績が付くんだがな。特にお前達が実績を残せば尚更だろうな。実際はどうであれ“光の剣”よりお前達に目をかけていると見られているしな」


 あれ?それって…


「ちなみにどうすれば討伐や最高到達階を確認できるんですか?」


「何だ知らねえのか?まあ気にしない冒険者も多いからな。遺跡の発見は職員を連れていく必要があるが、他の二つはギルドカードに自動的に登録されるんだ。魔物の素材もあればそれも証拠の一部になるな。ほら、俺のカードを見て見ろ」


 ナイルさんがギルドカードに魔力を流すと討伐した魔物の名前がズラッと出てきた。ただ、ダンジョンも何か所か潜っているようだがあまり進んではいないようだった。


「ダンジョンはあんまり攻略しないんですか?」


「俺達はダンジョンにはあまり向かないんだよ。戦闘力なら竜の巣でも通用するが、竜の巣まで進むのが困難なんだよ」


「反対に私達は竜の巣までは行けるが、竜との戦闘は微妙だな。一体や二体ならファイヤードラゴンとかでも勝てるだろうけどリスクが高すぎる」


 ガーネットさんもギルドカードを見せてくれた。タカミの街のダンジョンの到達階が七十三階と記されている。レッサードラゴンやワイバーンなら大丈夫なんだろうな。


「ところでお前達はどうなんだ?五十階にでも行ければ一人前で、“栄光の宝剣”に大きな顔をさせずに済むぜ」


これはどう答えるべきか。八十一階なんて言っても大丈夫なのだろうか。


「ジュン。貴様のカードを見せてやれ。どうせすぐに分かる事だからな」


 シェリルの言葉に頷く。

 俺は少しの不安を感じながらもギルドカードを見せることにした。

 隣に座っているナイルさんにギルドカードを渡すと、ナイルさんは面白そうにカードを見始める。


「お。ダンジョンも気になるが、どんな魔物を倒してきたんだ。えーと。ダンジョンは八十一階に到達で、危険度の高い魔物だと邪竜・烏天狗・マッドネスピエロの亜種・氷剣竜・ネイチャードラゴン。…ん?」


 場の空気が固まった。その中で平然とシェリルやベル達だけが気にせずに水を飲んでいる。

 ナイルさんは何度も目を擦っては内容を確認していた。


「…お前一体何してきたんだ?」


 俺はダンジョン内の出来事を話し始める。もちろん、隠れ家など話せない部分もあるが、大体は事実通りに説明したと思う。シェリルが補足説明をしてくれたり素材やアイテム等の証拠品を出すと、皆何も言えないようだった。


「正直信じられない話だけど、邪竜の素材やアイテムを見せられると信じるしかないわね」


「シェリルさんからも邪竜の気が消えてますからね」


「それに話の通りに魔物の気配が混ざっているわね。こっちは調和しているけど」


 レベッカさんに続いてシャロンさんと"歴戦の斧"のヒーラーの女性、確かルージュさんだったな。その二人が感想を述べていく。この二人は神官やシスターみたいな服をしているけど、邪悪な気とかを判別できるのだろうか。


「なあジュン。ちょっと手合わせでもしないか?」


「え!?」


「そんなに驚くなよ。邪竜や烏天狗とも戦って生き残っているんだろ。強さを確かめたくなるだろそんなの」


 ナイルさんはニコニコだ。戦闘狂なのかもしれないな。


「ジュン」


「うん?」


「やれ」


 シェリルから短く簡潔な命令が下された。


「いやでも」


「貴様は対人戦闘の経験が少ない。ナイルはAランクの冒険者で実力者だ。いい経験になるだろう。全力で戦ってみろ」


「よしやろうぜ。シェーラ頼む」


「はいはい」


 魔法使いの格好をしたシェーラさんは呪文を唱え始める。すると目の前の空間が裂けて草原が見える。


「これはシェーラの空間魔法だ。特殊なアイテムも使われているから中で死ぬことはないぜ」


 俺の隠れ家の修練場のような物か。


 流されている気はするが、俺はナイルさんに連れられて中に入る。

 因みに俺達の様子は外から見えるようだ。情けない姿は見せられないな。


 ナイルさんと対峙した俺は風鴉を構える。


「行くぜ」


 言葉と同時にナイルさんが槍を持ち、強烈な連続突きを繰り出してくる。

 目にも留まらぬどころか、目にも映らぬ速さだった。だが、見えない攻撃はアルレで慣れている。

 直感や風読みで攻撃は避けられる。


 俺の体は自然に動き槍を躱し続ける。


「ハハ。やるじゃねえか」


 ナイルさんは楽しそうだがこっちは必死だ。この槍は受け止めても危険だと本能が訴えているからだ。


「避けてばかりじゃ勝てねえぞ」


 それはその通りだ。このまま体力切れでの敗北は勿体無い。俺も仕掛けていく。


 もう片方の手にシャドーダガーを持つ。そして影の短剣を色んな方向からナイルさんに放つ。


「無駄だぜ」


 その瞬間、ナイルさんの体に電気が走る。そして今までよりも速いと思われる槍の一撃が俺を貫く。さらに貫くと同時に雷が放たれ、影の短剣は消されてしまう。


「…思ったよりも強くて楽しくなるぜ」


 ナイルさんは離れた位置にいる俺を凝視していた。せっかく幻魔法で騙せたと思ったが一瞬で見抜かれていた。


「短剣を出した時か?攻撃よりもこっちが目的だったか」


 やっぱりすぐ分かるのか。注意が逸れた瞬間に幻影と交代したのにな。しかも景色と同化していたのに見抜かれるし。


 まあ、集中する時間は貰えたけどな。


「雰囲気が変わったな。さっきより魔力を制御できてるな」


「それはどうも」


 挨拶代わりに八咫烏を飛ばしていく。威力も数も出したつもりだ。これなら簡単には捌けないだろう。


「いいねえ♪」


 ナイルさんは八咫烏に突きを繰り出す。普通なら槍を砕いて八咫烏がナイルさんに当たるはずだ。


「マジかよ」


 だが、俺の目の前で八咫烏は消されていく。力で押し負けた訳ではなくスッと消されていくのだ。


「この手の技は魔力が溜まっている核があるんだよ。その核を貫くと無力化できるんだぜ」


 予定変更で狂嵐舞に武器を替える。

 俺達の周囲には大雨が降り暴風が吹き荒れる。


「水は悪手じゃねえか」


 雷を放ってくるが水の壁に阻まれる。一応超純水をイメージしているから、他の水よりは極端に電気に強いだろう。まあ、魔法の世界だから当てにならないかもしれないが。


「変わった水だな。雷が効きにくいとはな」


 驚いている今がチャンスだ。ここで畳み掛ける。


 俺は爆音玉を投げつけナイルさんの聴力を強化する。


「!?」


 破裂した爆音玉の音が想像以上だったのだろう。膝をついて動かない。チャンスとばかりに、ナイルさん目掛けて大雨の弾丸を降り注がせる。そして力を溜めて、凝縮した竜巻を放った。


 いけるかもしれない。そう思った瞬間に嫌な予感がし、背筋が凍りつく感覚に襲われた。

 嫌な予感は的中するものだ。突然「ドドーン」と轟音が鳴ったかと思うと、大雨も竜巻も全てが消滅させられた。そこには何も無い。ナイルさんの姿もだ。


 恐怖が俺にナイルさんの居場所を教えてくれた。すぐ横だ。だが、分かっただけで体はついていかない。ギリギリ風で壁を作ったが、鋭い突きを受けてしまう。


「ぐあ!」


 思い切り隙を作ってしまった。そんな俺が目にしたのは、空から降ってくる狼の形をした雷だった。


 直撃を受けた俺は武器を手放した。それでも瞬時にブラッドダガーを取り出して体力と魔力を回復させる。


 たが回復できたのは一瞬だった。高速で突いてくる槍を避けるのが精一杯でこれ以上回復する暇はない。反撃を試みるが逆に武器を飛ばされてしまう。

 それでも風鴉・夢食い・蛇絞を取り出して攻撃を繰り出していく。だが、これらの武器も防がれると同時に弾き飛ばされてしまった。…鎮魂や破邪の短剣が残っているが、能力的に無意味だろう。


 それでもナイルさんは手を緩めずに槍を突いてくる。躱すことはできるが攻撃が通じない。体力的にも俺の方が不利だろう。


 ぶっつけ本番で俺はとあるパンチを繰り出した。

 パッと見は何の変哲もないパンチだ。多少速いくらいだろう。

 普通ならナイルさんには反撃を喰らうレベルのはずだ。


「なっ!?」


 それでも俺の拳はナイルさんの顔面を捉えた。

 ナイルさんは槍で受け止めるつもりだった。だが俺の拳は槍をすり抜けたのだ。


 殴られたナイルさんは数歩後退した。俺は逃さないようにもう一度パンチを放つ。

 ナイルさんは今度は避ける選択を取った。だが避けた先でもう一度俺の拳がヒットする。


 出来過ぎるくらいの成果だ。だけど俺の逆襲はここまでだった。

 二回目の拳が当たった瞬間にそのまま腕を掴まれた。抵抗したがピクリとも動かない。そのまま俺は投げ飛ばされた。


 体勢を立て直してナイルさんを見ると背後に黒い雷を纏った狼が見える。

 そして槍先が俺に向く。本能的にヤバいと思った俺は、ありったけの魔力で竜巻を作りナイルさんに向けて放つ。火事場のバカ力というやつで、威力だけなら狂嵐舞を使った時に匹敵すると思う。


 ナイルさんは槍先から黒い雷を出してきた。竜巻と黒い雷がぶつかる。一瞬だけ拮抗したが、すぐに竜巻はかき消されて黒い雷は俺を飲み込んだ。

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