タカミの街
五日ほどの時間が過ぎた。
その間は歩きながらたまに魔物と戦い、夜は隠れ家でゆっくりするという生活を繰り返していた。
ちなみにこの五日間のガチャの結果だが、風船・けん玉・フライドポテト・ノート・ロマネコンティだ。最後だけ価値が一気に上がっている。
でも俺は日本酒の方が好きなんだよな。それに三千円くらいのワインの方が美味しく感じる自信がある。
なので収納しておくことにした。ポイント変換や贈呈品など用途はあるからな。ちなみにフライドポテトや以前手に入れたチョコレートパフェは皆で美味しくいただいた。
「そろそろ人に会ってもいい気がするんだけどな。…うん?」
感覚魔法で視力を強化して遠くを見ると人影が見えた。それも一人や二人じゃない。それに道らしきものが見えてきた。俺は道じゃないところを通っていたために人に合わなかったのか。
自然と早足になる。ベル達は俺の肩や頭に乗って一緒に移動する。
そのおかげか昼前には街に着くことができた。
「思った以上に大きい街だな」
街の中に入るには検査も必要なようだった。列ができているので俺も並ぶことにする。身分証の確認とかがあるかもしれないが、金を払えば入れると信じたい。
「しかし…」
辺りを見回すと色んな人たちがいる。獣人・ドワーフ・リザードマン・エルフなど様々だ。冒険者らしき人や貴族っぽい人たちもいるが、その人たちはまた別の入口があるようだ。
ちなみに俺の服装は浮くことは無かった。もっと凄い服をしている人達が大勢いるからだ。ビキニアーマーなんて本当に着ける人がいるとは思わなかったな。後は上半身がほぼ裸のチンピラ風の男性やガッチガチのフルアーマーの人もいた。着ているローブは普通だか口元だけ開いた狐の仮面をつけている人も印象に残っている。大鎌が凄かったからな。
こんな感じで周りを見ていると俺の順番になった。検査をしているのはまさに兵士という感じの人達だった。
「身分証の提示と要件を」
「身分証を持っていないんだが入れないのか?」
「いや、別室で検査をして問題が無ければ仮の身分証が発行されて入れるぞ。ただし、大銅貨三枚かかる上に効力は三日間だけだ。三日経つと入るのにまた大銅貨を支払う必要があるから、入った後に冒険者ギルドで身分証を発行することをお勧めする」
「身分証は冒険者ギルドだけか?」
「役所で発行も可能だが、住居が無ければ難しいぞ。後は商業ギルドや農業ギルドなど各種ギルドでも可能だ。まあ、一番手軽なのが冒険者ギルドだな」
きちんと対応してくれる兵士に何だか好感を持ってしまう。
「ありがとうございます。それじゃあまずは仮の身分証の発行をお願いします」
「分かった。それじゃあこっちに来てくれ」
俺達は別室へと連れていかれる。
イスに座ると名前や簡単な質問を聞かれる。質問に答えるときに兵士は横に置いてある水晶を気にしていたが、あれは嘘発見器の役割があるのだろう。
俺は特に問題もなく、大銅貨を三枚を払うと仮の身分証が発行された。
「ありがとうございます。あ、冒険者ギルドってどこにあります?」
「入り口から真っ直ぐ進めば見えてくる。大きい建物だから見落とす事はないだろう。…冒険者の中にはチンピラのような者もいる。絡まれないように気をつけろよ」
「はい、忠告ありがとうございますね」
そして俺は街の中に入ることができた。ベルもコタロウも大勢の人を見てテンションが高い。俺も色々な店を見て回りたいが、忘れない内に冒険者ギルドを目指すことにしよう。
兵士の言うとおり、道を真っ直ぐに進むと大きな建物がすぐに見えた。中に入ると多くの冒険者で溢れている。デカイ狼や可愛らしい猫など従魔も普通に歩いている。
俺は案内板を確認して新規登録の受付に移動する。
「登録をお願いします」
「新規の方ですね。それでは身分証とこちらの紙に必要事項をお書き下さい。字が書けない場合は代筆しますので、遠慮せずおっしゃって下さい」
受付はウサギ獣人の女性で明るい雰囲気だ。ちょっとホッとする。
「身分証は街の入り口で発行された仮の物で大丈夫ですか?」
「はい、構いませんよ」
俺は身分証を提出して、紙に必要事項を書いていく。文字の読み書きが備わっているのは助かった。
「これでお願いします」
「はい、少々お待ちくださいね」
そう言って紙の内容を確認すると、その紙に印鑑をついた。すると紙がカードの形に変わっていく。
これだけ簡単にカード化すれば役所は大助かりだろうな。
「これで登録は終わりなのですが、その子達はジュンさんの従魔ですか?」
「そうですけど」
「それでは従魔登録をお願いします。こちらが書類になります」
受け取った紙には従魔の名前と種族を書く欄があった。
「それにしても、妖精リスと魔狸の子供ですよね。可愛らしくて羨ましいです」
…今妖精リスと魔狸って言ったよな。コイツらはデビルスクワールと天狸だ。だが、ここは話を合わせた方が安全な気がする。妖精リスと魔狸と書いておこう。
「これでいいですか」
「ベルちゃんとコタロウちゃんですね。それでは登録いたします」
紙の上に印鑑を押して先程作ったカードを置くと、紙はカードに吸い込まれていった。
「これで終了です。ジュンさんは今日からFランクの冒険者になります。よろしくお願いいたします」
カードを差し出してきたので受け取った。カードには俺の名前とランクや従魔が記載されている。
「ランクや昇級の説明を受けていかれますか?」
「お願いします」
「畏まりました。まずランクは上からS・A・B・C・D・E・Fの七段階があります。EとFが初心者、Dで一人前、Cはベテラン、B以上は才能がある者だけが到達できるレベルです。Sランクなどは国を救うレベルの功績や実力が認められないとなることはできません」
魔王退治とかか?正直そこまでは求めていないからな。
「基本的に昇級はギルドが認める事で上がっていきます。ですが、実力を認められて飛び級する場合は試験を受けてもらいます」
これだとギルドと仲が悪くなると上げてもらえないのでは?
「ギルドの不正を防ぐために、昇級の目安は入り口の案内板の横に書かれていますのでご安心下さいね」
女性は笑顔で話してきたが、心が見透かされたようでヒヤッとした。タイミングが良すぎるだろ。
「それとダンジョンにはEランクから入ることができますが、トラップで下層に落とされる事もあるのでご注意下さい」
ダンジョンか危険な香りはするが行ってみたくなるよな。要検討だな。
「これで説明は終わりになります。詳しく知りたい場合は書庫に規約の書かれた本がありますので確認してみてください。何か質問はございますか?」
「降格することはありますか?」
「勿論あります。依頼の失敗が多かったり、実力不足と判断されると降格処分となります。また場合によっては罰金などもありますのでご注意ください」
やっぱり降格もあるのか。罰金もあるなら地道に行くのがいいな。
「分かりました。ありがとうございます」
俺はベル達を連れてその場を離れようとすると、受付の女性に声をかけられた。
「あの、ベルちゃんとコタロウちゃんに触らせてもらえませんか?」
恥ずかしいのか顔が赤い気がする。とりあえず俺はベル達に声をかける。
「ベル、コタロウ。あのお姉さんが二人と友達になりたいらしいぞ」
俺がそう言うと、二匹はカウンターの上に登る。
「キュ♪」
「たぬ♪」
「はわ!?あ、私はメリルです。よろしくね」
二匹の元気のよい挨拶に女性はやられてしまうが、直ぐに立て直して二匹と握手をする。その後ベルは俺の方に戻ってきたが、コタロウを女性に撫でられて気持ち良さそうにしている。
「はー、ありがとうございます。とても可愛くて元気を分けてもらいました」
女性は満足そうな表情をしている。
俺はコタロウを抱き上げて頭に乗せる。
「それは良かったです。ベルもコタロウも楽しそうにしていますし、こちらこそありがとうございます」
俺達は出入口へと向かうが、頭の上のコタロウはメリルに手を振っていた。
「たぬ♪」
その仕草が可愛らしいようで、メリル以外からも黄色い悲鳴が出ていた。
ちょっとしたアイドルだな。
「さてと、今日は街をぶらついてみるか」
ギルドの外に出ると近くの店をひやかしながら回っていく。武器屋・防具屋・薬屋・雑貨屋・食堂などがたくさん並んでいる。俺はまず武器屋に入る。
「凄いな」
思わず見惚れてしまう。デザイン性に優れた武器もあり手に取りたくなってしまった。ベルは興味無さそうだが、コタロウは俺と同じように目を輝かせている。
しかし値段が半端なかった。特殊効果付きの武器は最低でも大銀貨一枚は必要になる。高い物だと大金貨が必要になってくるほどだ。
ガチャでいくつか手に入ったことに心から感謝した。
「そろそろ次の店に行くか」
次は防具屋に入ったが、こちらも同じような物だった。だけど驚いたのがビキニアーマーだった。特殊効果が付いている上に防御性能が意外に高かった。値段も相応だったが、着る人がいるのも納得だった。…でももう少し普通のデザインで良かったんじゃないか?
その後も薬屋や雑貨屋なんかも見に行った。まさに異世界という物が多くあり飽きる事は無かった。お昼は近くの屋台で串焼きを購入してみた。
「…物足りないな」
決して不味くは無いが、味付けが足りないように感じてしまう。塩や香辛料が高くて普段は使えないのだろうか。ベルもコタロウも少し残念そうな表情だ。匂いは良かったんだけどな。
気を取り直して歩いて行くと、露店が沢山出ている場所を見つけた。
店に比べて安い物が多く買い物客が多い。値切りの交渉なども多く見られる。
しばらく歩いていると近くの露店の客引きに掴まった。
「おい兄ちゃんよ。アンタ冒険者だろ。俺達の店に寄って行ってくれよ安くするぜ」
「武器・防具・アイテムと揃っているんだぜ。流石にポーションは無理だけどよ」
「従魔用の装備もあるんだぜ」
俺に声をかけてきたのはスキンヘッドで筋肉質の三人組だ。一見そっくりだが十字傷、火傷、眼帯の違いはある。チンピラっぽい感じで近づいてきて不気味な笑いで語りかけてくる。
断りたかったが、断って一悶着が起きたら周りに迷惑がかかるのでついて行くことにした。
「こっちだぜ。最近売り始めたばかりだから、良い場所取れなくて売れてないんだよ」
段々と人が少なくなってくる。はぁ、絶対に問題が起きるよなこれ。大勢の男達に囲まれてカツアゲされるんだろうか?その時はベルにも助力を頼もう。
露店通りの外れに着くと男達の足が止まった。
「ここだ。じっくり見てくれ」
「え?」
結論から言うと俺の思ったことにはならなかった。男達は嘘はついておらず、武器・防具・アイテムが売られていた。
「手に取ってみてもいいですか?」
俺は武器を売っている十字傷の男に聞いてみる。
「勿論だ。手に取ってみないと自分に合うか分からないだろうからな。ただ、壊したら買取してもらうぞ」
近くにあった短剣を一つ手に取り軽く振ってみる。
…結構いいかもしれない。重さのバランスが俺に合っているという感じだ。
値段は大銅貨三枚か。それなら試しに買ってみても良いかもしれないな。うん?こっちは銀貨一枚か。見た目は同じにしか見えないけど。
「これは何で値段が違うんです?」
「ああそれか。今手に持っているのは普通の素材で作られたものだが、値段が高い方は魔鉄を混ぜているんだよ。特殊な効果は無いが魔法との親和性が高いから、魔力を流すと違いが分かるぞ」
高い方の短剣も手に持ち、両方に魔力を流してみた。
比べてみると良くわかる。最初に持った方は、装備している如意棒や短剣と違って抵抗感があった。だが高い方は魔力がすんなりと溶け込む感じがある。
男に許可を貰ってその辺の石を切ってみると違いが明らかだった。
「いいなこれ」
「火の魔力なら熱を帯びたりもするから、状況に応じて使うといいぞ」
いくつか買ってもいいかもな。
「どうも。とりあえず防具やアイテムも見てから買うものを決めますね」
「期待しているぜ。金が足りない場合は素材との交換も受け付けるからな」
それは良い事を聞いたな。手持ちは色々あるから後で聞いてみるか。
「あれ?そういえばベル達はどこだ」
辺りを見回すと、ベルとコタロウは防具屋の火傷の男の所にいた。俺は何をしているのかが気になり近づいてみる。
「お前らよく似合っているぜ」
「キュー♪」
「たぬ♪」
ベルとコタロウはお揃いのスカーフを付けていた。二匹とも気に入っているらしく誇らしげにしている。
「お前ら何を着けているんだ?」
「おう兄ちゃん。ウチには従魔用の防具もあるから紹介していたんだよ。このスカーフは身体能力と魔力を若干上げる効果を持つんだ。買うなら一つ銀貨一枚だな」
ベル達も気に入っているみたいだし買ってやるかな。若干であっても上昇の効果があるようだしな。
「分かった、後でまとめて買わせてもらうよ」
ついでに、出されている防具を見せてもらった。鎧・兜・盾など色々あったが、残念ながら興味が惹かれる物がなかった。
最後に眼帯のアイテム屋を見る。
「おうじっくり見てくれ。欲しいアイテムがあれば紹介するぜ」
欲しいアイテムか。いざという時の逃走用のアイテムがあればいいな。
「逃げるときに役立つアイテムはありますか?」
「手頃な物だと、煙玉や閃光玉なんかがお勧めだな。後は一時的に能力を上げるアイテムもあるが、有効時間が短い上に反動が大きいから止めておいた方が良いだろうな」
目を潰すタイプか。魔物相手だと心許ないな。耳や鼻もどうにかできないかな?
聞いてみればいいか。
「…爆音や悪臭を出すアイテムはありませんか?」
「無いな。…だが面白そうだ。魔物は鼻が効くから悪臭は有効そうだ。三日時間をくれ。試作品を作ってやるよ」
眼帯は面白そうにニヤッと笑った。本人は楽しくて笑ったのだろうが、見ているこっちはビビってしまうよ。
「それじゃあ三日後にまた来ますね」
「おう期待しておけよ」
これで三軒とも見たが、どこも中々面白かった。後は素材がいくらで売れるかだ。現金も欲しかったので、少しでも高い物を出そうと思いアーミーベアの毛皮や牙を出してみる。
「…お前今どこから出した?」
「え?」
あ、これは失敗したか。アイテムボックス系の能力は珍しい物だったのかもしれない。
「まあいい。素材を見せてもらうぞ」
三人は目の色を変えて、俺が出したアーミーベアの素材を真剣に見つめ出す。
「…これで全部か?」
「同じ物があと八頭分ありますけど」
「売れる分だけ売ってほしい。一頭につき金貨二枚で買おう」
「そんなにするの!?」
思わず大声を出してしまった。だってポイントに変換した時は一頭五万の価値だったんだぞ。それが二百万になったら驚くに決まっている。
「普通はしない。アーミーベアの毛皮は加工しやすい上に物理・魔法耐性に優れている。牙や爪も武器の材料になるし、内蔵は薬、肉は美味くて人気があるんだ」
じゃあ高いのは当たり前だろ。
「だけどコイツらは、十頭以上で行動する上にかなりしぶといんだ。だから倒しても、毛皮はボロボロで穴が空いていたり、牙や爪は折れて使い物にならないんだよ。そうなると肉や内蔵もダメになっているから、銀貨一枚から五枚程度まで価値は下がる」
あー、ポイントに変換した熊は原型無かったもんな。解体で整理したから五万ポイントにはなったのか。
「だがコイツらはキレイなままだ。上質な武器や防具を作ることができそうなんだ。…他の店に持ち込めばもっと高値で買ってくれだろうが、俺達に売ってくれないか?」
十字傷の話が終わると、三人は一斉に頭を下げてきた。ベルとコタロウも、売ってあげなよと目線で訴えてきている。
ちなみにベル達は、俺が十字傷と話しているときは火傷と眼帯が、火傷と話しているときは十字傷と眼帯が、眼帯と話しているときは十字傷と火傷が遊んでくれていた。なので三人を気に入ったようだった。
「分かりました。それじゃあ俺も欲しい商品を選ぶので差額をください」
「恩に着るぜ。どの商品でも好きに選んでくれ」
俺はまず短剣を十本、煙玉、閃光玉、ベルとコタロウの装備を選んだ。だがまだまだ買うことができる。
「後何かお勧めはあるか?」
俺が尋ねると男達は集まって話し合いを始める。
ただただその光景を眺めていると、話し合いが終わったようで十字傷の男が武器や防具を持ってきた。
「俺達の店で用意できるお前に合いそうなものを選んでみた。この棒は“鎮魂”ソウルツリーから作られた武器だ。棒術は使い手が少ないから値段は控えめでこれは金貨五枚だ。だが、アンデッドやゴーストに効果的な武器だ。それと噂だが、死者の蘇生も可能と言われている。確かめた奴はいないがな」
見た目は普通の木の棒だった。ただ、試しに魔力を流すと淡い光を放っている。
振り回した感じ、重さも長さも問題は無さそうだ。
「俺が選ぶのは予備の防具だ。お前の着ている服は良さそうな物だが、万が一は考えておくべきだ。これはトライデントディアの革鎧だ。角なども余すことなく使っていて、防御性能以外にも身体能力の強化や微弱ながら体力回復の効果もある」
こっちの革鎧は、今着ている物と比べるとまさに冒険者の服といった感じの物だった。サイズも自動的に合うらしいので、大きさは大丈夫とのことだ。
「最後は収納袋だ。この大きさだが、倉庫二つ分の量が入る。アイテムボックスと違い時間停止の機能は無いけどな。この袋から出した方が問題は起きないぞ。まあ、収納袋を狙ってくる奴等もいるがな」
武器は使うだろうし、防具も確かに予備があった方が安心できるな。収納袋も今後の事を考えると必要だろう。
「短剣なども全部含めて金貨十五枚でどうだ?それでよければ金貨三枚と商品を渡すが」
「それでお願いします」
「了解だ。収納袋に入れておくからきちんと確認してくれ」
男は俺に収納袋を投げて渡してきたので慌ててキャッチする。中を確認するとちゃんと入っていた。
本物かどうかは隠れ家ですぐに確認しておこう。
「どうも。また三日後に来ますね」
「待っているぜ」
俺は男達の店を後にして、周りに人がいないことを確認してから隠れ家に入った。