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「コイツ等が弱いってことは無いよな」


 襲い掛かってくる分身達に希望的観測を持ってしまう。


「私が戦った事のある邪竜は本体よりは小さいがコイツ等よりはデカいな。コイツ等はレッサー種なのかもしれんな。それでもBランク以上だろうがな」


「そんな魔物が十体か。本体含めれば十一体。世も末だな」


 なので出し惜しみはしない。回復アイテムもここで使い切ってしまうつもりだ。


「コタロウ、ムギ。結界を張って少し下がっていてくれ」


 狂嵐舞を取り出して集中する。面白い事に隠れ家の中で特訓した時よりも上手く力を引き出せている感じがする。…勿論完璧ではないので力が暴走して傷ができていくけど。


「俺って練習よりも本番に強いんだな」


 邪竜達の周辺に嵐が吹き荒れる。風は体を刻む刃となり雨は体を打ち抜く弾丸となる。


「ほう、虫けらにしてはマシな攻撃だな」


 分身に対してはそれなりに効果があるようだが、本体はあまり動じていない。


「これでもこの程度なのかよ」


「いや上出来だ。分身の方には目に見えてダメージが入っている。十分な威力だぞ」


「キュキュ」


 畳みかけるようにベルが植物を操り邪竜へと攻撃していく。コタロウもそれに合わせて聖魔法を放つ。ムギは常に音魔法を展開して邪竜の気を逸らし、シェリルとリッカは魔法やアイテムで動きを阻害する。


「小賢しい」


 邪竜は光線を吐き出すとこちらの攻撃を全て遮ってしまう。

 そして分身達も本体の攻撃に呼応するかのように暴れ回る。


「危なっ」


 一体の分身が俺に向けて大きな口を開いて突っ込んできた。

 躱したために近くの壊れた建物に突っ込んだのだが、そんな事は気にせずにバリバリと建物を食べ始める。


「健啖家だな。脳震盪でも起こしてくれれば止めをさせるんだけどな」


 シェリル達は廃墟や木を上手く利用しながら邪竜の攻撃を躱していた。だけど何かしないとこちらが先に体力がきれるだろう。


「逃げるのだけは一人前だな。…ふんっ」


 邪竜本体の目の前に黒い球体が出現する。すると、周りの物が吸い込まれるように引き寄せられていく。邪竜の分身達には影響がないようで自由に動いていた。ズルいだろ。


「これはマズいな」


 俺は一度コタロウ・リッカ・ムギを隠れ家に戻した。ベルだけは頑なに断っていたので無理だったが、今回は万が一を考えてコタロウ達は隠れ家から召喚していたのだ。なので危険になったら送り返すことができるのだ。


「空間系の魔法か。我の前では二度は使えんぞ」


 黒い粒子が辺りに散らばり始めた。邪竜の言い方からして隠れ家や召喚を使えなくしたのだろう。本当にこの手の魔物が多すぎて困るんだが。事実召喚を試そうとするが無理だった。


 コタロウ達の安全は確保できたが、その分俺達に攻撃が集中する。だが、集まったことが裏目に出た。


「キュキュ」


 ベルの植物魔法が分身を飲み込んでいく。さらには本体へも攻撃し黒い球体を一撃で壊している。


「やはり貴様は危険だな」


 本体がベルに集中する。そして再び分身を作り俺達を襲わせる。

 ただ、急いで呼び出したから数は先程よりも少なく五体しかいない。


「早く終わらせて本体を倒さないとな」


 五体の分身達に俺は向かって行く。後ろからはシェリルが宵桜で援護をしてくれる。


「グァー!」


 咆哮と共に光線や闇魔法が放たれる。だがこの手の攻撃は普通の竜の攻撃のパターンとほとんど一緒だ。数が多いが援護もあるので躱すことはできる。


「はっ!」


 風魔法で一体の分身を無理やりひれ伏す形に持っていく。


「グァー!」


 他の四体が襲い掛かってくるが、タイミング良くシェリルが閃光玉を放ってくれた。

 効果は一瞬でしかないが十分な時間だ。地に伏せている分身に竜喰らいを突き立てる。


「グァー!?」


 やはり分身は本体に比べて格段に弱いようだ。しっかり刺すことができれば倒すことができるらしい。

 

「一旦下がれ!」


 シェリルの声で一度下がる。他の四体の分身達は先程まで俺がいた場所に光線や魔法を放っていた。


「サンキュー助かった」


「油断するな」


 すぐさま分身達を睨みつける。同胞が一撃で倒されたことで警戒しているようだった。


「おい貴様」


「うん?」


 シェリルが驚愕の表情で俺を見つめる。何かあったのか?


「顔が…」


「ガハハハ。我が分身を倒せたのは見事だな。だが、残念だったな。力を分け与えられなかったぶん我が分身は倒されると周囲に呪いがかかるようにしておったのだ」


 ご丁寧に教えてくれてどうも。体は…どこも問題ないな。魔力も異常はないな。まだ、装備の耐性の方が強いみたいだな。


 だけど呪われたのが俺で良かった。さっきの邪竜だったらベルが呪われた可能性もあるからな、その方が俺達にとってはキツイ。


「言っておくが我を倒さん限り呪いは解けんぞ。うん?よく見れば女の方も我が呪いを受けているのか、呪いの進む具合からして昔に放った分身から受けたものか。これは愉快だな」


「グァー!?」


 本体が喋っている間は何故か分身が動かなかったので、近くの分身を一体倒しておいた。


 邪竜は俺を憎々しく睨み付ける。戦っているのだから油断する方が悪いだろ。


「貴様は我が話を聞いていなかったのか」


「何で聞いて貰えると思っているんだ?俺とお前は友達か何かか?」


「ふざけおって!!」


「キュキュ!」


 俺に気を取られている隙にベルが大木の槍を邪竜目掛けて放った。

 邪竜は避けたが表情は苛立ちを見せる。


「主人が主人なら従魔も従魔だな。まあ、そこのリス以外は雑魚過ぎて足手まといだったみたいだがな」


「♪」


 コタロウ達が馬鹿にされた瞬間、突然音楽が流れた。その音楽は邪竜達の動きを鈍らせるタイプの物だ。


「何!?」


 邪竜達が驚いているところに人形が飛んできて目の前で爆発していく。


「これは!?」


 距離があっても微かに臭う。人形達は悪臭玉を持っての特攻だった。邪竜達は苦しみ動くこともままならない。さらに光の矢がいくつも飛んできて邪竜達に当たっていく。このチャンスを黙って見てるほどお人よしではない。


「「はっ!」」


「キュ!」


 ベルは本体に先程の大木の槍で腹を貫いた。俺とシェリルは。竜喰らい・ソウルイーターで分身を仕留める。さらに呪いが強くなるが構うものか。


「グァ―――!!!」


 邪竜の本体は空へと羽ばたいた。分身は消えたが本体は仕留められなかったようだ。それでも目に見えてダメージを受けているのが分かる。


「何故他の従魔がいる!!そいつらは戻したはずだろう!!」

 

「答えを教えるわけないだろが」


 まあ、種明かしを言えば隠れ家の入口を開けっぱなしにしただけなんだけどな。後は空飛ぶ絨毯とムギの隠形でゆっくり近づいて来てもらえばいいだけだし。隠れ家には登録者以外入れない仕組みだから開けっ放しでも気にする必要も無いしな。


「…貴様等のような存在に我の本当の姿を見せる事になるとはな」


 邪竜の体が変わっていく。体が一回り大きくなり、体の至る所に顔らしき物が浮かび上がる。その顔は竜だけでなく、色んな魔物や人間やエルフらしき顔まであった。


 その姿に俺達は息をのんだ。


「我は人や魔物の負の感情から生まれた魔物。生物がいる限り我が存在は完全に消えることは無い。これは貴様等の罪である。生き物が嘆き苦しみ憎しみや絶望を抱くほど我は強くなる。貴様等も絶望と共に散るがいい!」


「「「ア゛ア゛―――!!」」」


 邪竜に浮かび上がった顔が叫び出す。これが断末魔の叫びという物だろうか。非常に不愉快で耳触りの声が響く。

 立っていられないだけではない。周りの廃墟は瓦礫になり、ベルが生やした木や草花は朽ちていく。


「ぐ、あぁ」


 さらにシェリルが苦しみだす。今の俺なら何となく分かる。呪いが活性化しているのだ。さっき分身を倒したのも影響しているのだろう。

 こんな中でリッカとムギがすぐに動き出した。


「♪」


「ベア」


 ムギが正反対の音楽を奏でてくれる。押し負けているが、体が動く程度には楽になった。そしてリッカは月の雫を取り出して俺とシェリルだけでなくベルとコタロウにもかけてくれた。


「サンキューなリッカ、ムギ」


 俺達はリッカ達にお礼を言ってから改めて邪竜に向き直る。

 

「あのまま気絶でもすれば楽に死ねたのにな。まあ楽に死なせる気は無かったがな」


 そう言うと体に付いている口から火球が飛んできた。


「キュ」


 ベルが黒い渦で火球を飲み込む。


「まだ終わらんぞ」


 次々と色んな魔法が撃ち込まれていく。中には強力な魔法も混ざっている。それをベルが頑張って吸い込んでくれている。


「これじゃあ近づけないな」


 ありったけの力を込めて八咫烏を五体作り出して邪竜に向けて飛ばす。


「無駄だ」


「「「ア゛ア゛ー!!」」」


 叫び声によって八咫烏はかき消される。ハハ、俺の全力で作ったのに届きもしないのかよ。

 だけど落ち込んでいる暇はない。ここで死ぬなんて御免だからな。


 月光水とブラッドダガーの効果で魔力を回復させていると、邪竜に魔力が集まっていくのを感じた。


「これはヤバいな」


「ふん!」


 巨大な隕石が空から降ってくる。正直こんな技は想像していなかった。


「キュキュ!!」


 ベルが力を振り絞り隕石を吸い込んだ。コタロウとムギも結界で俺達を守る。だが隕石の衝撃波は凄まじい物で俺達は吹き飛ばされた。


 俺は咄嗟にうずくまっているシェリルを庇う。


「皆大丈夫か!」


「たぬ」


「ベア」


「ピヨ」


 ベルの声だけが聞こえない。


「ベル!」


 見回すとすぐ側で倒れているのを発見した。すぐに状態を確認する。


「ベル!返事しろ!」


「キュ、キュ~」


 生きているが酷いダメージだ。すぐに月の雫をかけて傷を塞ぐが意識はまだ朦朧としている。


「力の差を、種族の差が分かったか」


 俺達の側には邪竜が降り立った。相変わらずの上から目線で見下してくる。

 

「悪いけど俺バカだから分かんねえよ」


 狂嵐舞を握りしめる。

 まずは風でベル達を遠くへと飛ばす。俺自身が未熟だから巻き込まないとは限らないからな。


「無意味な事を」


「諦めるよりは良いだろうさ」


 言葉と共に風を纏った水が邪竜へと向かう。

 今までは嵐となっていた物を無理やり凝縮させた一撃だ。


 人間いざとなったら限界以上の力が出せる物だな。間違いなく俺の中で最高の一撃だろう。体が魔法に耐え切れずに激痛が走っている。


「うおぉぉ!!」


 邪竜は避ける事も無く受け止める。かなりの衝撃が発生する。


 そして静寂が訪れる。俺の魔法の余波で風と雨が降っているのだが耳に入ってこない。

 そんな俺の視線の先にはさっきと何も変わらない邪竜が立っている。

 邪竜は腕を振り払い俺を弾き飛ばす。ただの攻撃で意識が飛びそうになる。


「クハハハハ。人間とは本当に愚かだな。無駄だと思っていても一縷の望みに縋らなければ生きていけない。我は分身を通して人間を見てきた。いいか。我が分身を倒したことのある者は、その辺の雑魚ではない。然るべき能力を持った選ばれた人間だ。あの女もそんな選ばれた者だったがな。さて、貴様は自分が選ばれた特別な人間とでも思ってたのか」

 

 バカにするような口調だ。邪竜は俺を精神的にも痛めつけたいのだろう。


「愚かな貴様にチャンスをくれてやろう」


 そう言って顔を俺に近づける。


「仲間達を殺せ。難しい事ではないだろう。手伝ってやっても構わんぞ。そうすれば貴様の呪いを解いて助けてやろう」


 前にも聞いたなそのセリフ。魔物は裏切りと絶望のシチュエーションが好きだな。

 でも話に付き合ってやるよ。


「本当なのか?」


「我は噓などつかんぞ」


 俺の質問に嬉々と答える。俺が疑っていると思ってないのだろうか?だが、ブラッドダガーで回復する時間は貰えたな。


「そうか。とりあえずそんな提案はお断りだけどな」


 俺は悪臭玉をその場に落とす。


「!!」


 あの臭いが頭にあるのだろう。反射的に邪竜は飛び退いた。その隙に俺は月の雫で回復する。

 本当に月光樹を見つけてくれたベルには感謝だな。無料の回復アイテムが大量に無ければ詰んでいたな。


「ふざけおって!!」


 邪竜は十体程の分身を作り出した。そして分身は俺の方に来たかと思うと、俺を通り過ぎて後ろへと向かう。そこには、コタロウ・リッカ・ムギがいた。飛ばした後にシェリルとベルの手当てをしてから俺を手伝うために来たのだろう。


「こっちの方が貴様には効くだろう。助けに入ったら肉体的に傷つき、見捨てたら精神的に傷を負うだろう」


 邪竜が何か喋っていた気がするが俺は一目散にコタロウ達の元へ走っていた。

 竜喰らいで分身を刺していく。体が赤く痛い気がするがきっと気のせいだろう。


「ハハハ。いつまで持つかな。我が分身はまだまだいるぞ」


「「「キャハハハハ」」」


 邪竜の体の顔達も狂気的な笑い声をあげている。たまに「楽になろうよ」「一つになろう」「お前達だけ助かろうなんて許さない」などの声も聞こえる。


 コタロウ達も戦おうとするが邪竜の分身が多すぎて何もできない。俺はひたすらに竜喰らいを突き立てていく。すると、聞いたことのない声が聞こえた。


『竜喰らいが一定数の竜を倒したために進化が可能になりました。進化先は二つです。どちらかを選んでください』


 頭の中に情報が一瞬で流れ込む。


 名前:竜王(短剣)

 竜を倒すだけでなく使役する力を持った短剣。竜を従える姿は正に王と呼べる姿だろう。


 名前:竜滅(短剣)

 竜を滅ぼすための短剣。この短剣で少しでも傷をつければ竜は滅ぶ。ただしこの短剣は一度使うと消滅してしまう。


 迷うことなく竜滅を選ぶ。すると竜喰らいは形を変える。そして竜の本能なのだろう。分身達は俺から距離を取り本体も脅威を感じ取ったようだった。俺達のチャンスは今しかない。


 残っている全ての悪臭玉を取り出して、風で邪竜達の近くに持っていき破裂させる。邪竜達が一瞬俺達から顔を背ける。


「またこれか」


 邪竜は翼で風を起こして臭いを飛ばす。

 その時にはもう俺は邪竜に向かって走っていた。


 向かってくる分身はコタロウ達が戦闘人形や結界で足止めをしてくれる。


「バカな」


「うぉー!!」


 驚いている邪竜の体に手にした武器を刺す。

 そう、刺したはずだった。だが感触がなく邪竜は煙のように消えていく。


「は?」


「残念だったな」


 邪竜は俺の後ろに現れた。体勢を戻そうとした瞬間に、先程邪竜だった黒い煙が俺に纏わりついた。


「ああ!?」


 体に激痛が走り、魔力が感じなくなってくる。そして、体の機能が少しずつ停止していくような感覚に陥った。


「まったく、武器だけは特級の相手だったな」


 落とした武器が黒い煙に包まれていく。


「…忌ま忌ましい程しぶといな」


 邪竜はしばらく手子摺っていたが「パリン」と音がしたかと思うと、武器の破片だけが散らばっていた。


「これで希望は全て無くなったな。それにしても武器の進化は予想外だが、思い通りに動いてくれたな。冥土の土産で一つ教えるが、敵に背は向けん方がいいぞ。本物と偽物がすり替わっているかもしれんからな」


 コタロウ達を助けに向かった時に隠れたんだもんな。


 そんな事を考えていると、俺の事を甚振るように分身達が攻撃し始める。


「たぬぬー!」


「ベアー!」


「ピヨー!」


 邪竜にコタロウ達が向かっていく。本体を攻撃すれば分身達が俺から離れると思ったのだろう。邪竜は動じることなく、好きなだけやってみろと言わんばかりの余裕の態度だ。武器を壊した以上、脅威はもう無いと思っているのだろう。


 その上でコタロウ達には何をしても無駄だという絶望感を与えるつもりなのだろう。


 そんな邪竜の思惑に関係なく、ムギは懸命に音を奏で邪竜の怨嗟の声を抑えている。


 リッカは戦闘人形や爆弾人形で目を潰そうと奮闘する。


 そしてコタロウは


「たぬぬ!」


 人間に化けて、聖魔法を込めた集束の短剣を持って走り出す。


「聖魔法か。この魔法は忌ま忌ましい。潰してしまおう」


 邪竜はコタロウを潰すために足を上げた。

 そんな事はさせねえよ。


「おい黒とかげ!!」


 俺は気力を振り絞り、道化師の仮面を付けて叫んだ。


 すると邪竜はコタロウから目を完全に離して俺の方を向いた。


 失態に気が付きコタロウに目を向けようとするが、思わぬ所から邪魔が入る。


「ベア!」


「な、何だこれは!?」


 邪竜の体が鎖で縛られる。そして、倒れることもなくピクリとも動かないな。


 リッカは人形に束縛の鎖を持たせて、邪竜の動きを封じてくれたのだ。


「我が分身共よ!」


「♪」


 ムギが今まで以上に音を奏でる。その音色は分身達の動きを止められる程だった。


「くそ!忌ま忌ましい。聖魔法など。あの狸の目の前で主人を喰ってやろう」


「お前の方が先に死ぬから無理な事だな」


「何?」


 今まさに、コタロウが邪竜に剣を突き立てるところだった。そして邪竜は気がついた、短剣のデザインが変わっていることに。


「バカな!?ギャー!!」


 短剣は邪竜に刺さると消えていくが、邪竜の体も崩れていった。それと同時に俺の体が軽くなり、分身達も消えていく。


「何故だ!あの短剣は我が壊したはずだ」


「壊れたのは違う武器だ。後ろを向いていてもお前が隠れたのは感じていたから一芝居打たせてもらったよ。まあ賭けだったけど」


 壊れたのはマジックステッキだ。幸いにも悪臭玉を投げると邪竜達の視線はそっちに向かったからな。その間に竜滅はコタロウに託しておいたんだよな。俺の意図を察して動いてくれてありがたい。


「我を騙したのか!」


「幻魔法も使えるからな。騙すのは得意だ。しかも今回は傲慢で見下してくる相手だったからやりやすかったぜ」


 最初から殺そうとしてきたら完全に負けていたからな。


「…れだ」


「うん?」


「貴様達は道連れだ!」


 邪竜の体に異常な魔力集中する。

 コイツ自爆するきか。


「邪竜から離れるぞ!」


 そう言ったが俺達の体は満身創痍で思うように動かない。コタロウもムギも結界を張る余裕もない。


「くそ!」


「大丈夫だ」


 声の主はシェリルだ。いつの間にか隣にいた。そして俺達を抱き寄せる。


「じっとしていろ」


 そう言いながら宵桜を振ると俺達は離れた位置に移動していた。そう言えば縮地の能力があったな。


 それでも転移でないので邪竜が見える位置だ。このままだと衝撃は普通にくるだろう。


 そして邪竜が爆発するのが見えた。だが同時に黒い球体が邪竜を包み込み、衝撃を全て防いでしまった。そんな事ができるのはもちろん


「キュキュー」


 ベルだった。ベルは俺達の方に全速力で走ってきて飛び込んできた。


「ベル!」


「キュキュ♪」


 全員の無事が確認できて安心した。俺はその場に寝転がる。


「良かった。皆無事で。そうだ、シェリルも呪いが解けたんだよな」


 俺の質問にシェリルは頬笑む


「ああ。急に体が軽くなったからな。ステータスを確認したら呪いは解けていた。まあ、今は体力も魔力もほぼ無い状態だからな。実感するのは休んだ後になるがな」


「それじゃあ、今日は休むか。皆限界だしな。パーティーは明日以降だな」


「あら良いわね。この女の変わりに私が交ざろうかしら」


 シェリルの方から何処かで聞いた事のある声がした。だがそんな事は問題ではない。シェリルの胸を突き破り、心臓を掴んでいる手が見えたのだ。

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