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邪竜との対峙

「大分慣れてきたな」


 俺は最初にシェリルに話していた通りに三日間修練場に通い続けた。

 結局俺の攻撃がアルレに当たることは無かったが、避けたり防御するのは格段に上手くなったと思う。


「アルレと戦うのはこれで最後にしておくか」


 俺はアルレと対峙する。三日間頑張ったためか恐怖を感じても、冷静に思考でき体が動くようになった。


 そうするとアルレは独特の動きを見せる。キーノが見せた動きに近いがあれよりも精度が上だ。


 体が常に揺れており、近づいているのか遠ざかっているのか分からない。何なら幻魔法も使っているのか見えている場所と風で感知している場所が異なっていたりもする。


 そのため突然攻撃が飛んでくる。今回も気が付くとナイフが飛んできていたので薄皮一枚で躱す。

 体勢を整えるとすでにアルレは目の前だ。手にはクラブを持っている。


 このクラブは見かけ以上の力を秘めている。それこそ竜の剛腕と遜色ない。なので俺には避ける選択しかない。


 集中力を極限まで高めてギリギリで攻撃を躱す。少しでも失敗すれば一撃で沈むだろう。

 アルレはクラブを地面に叩きつけて、足場を崩してきた。


 そして次の攻撃を躱すことはできなかった。拳が腹に当たると風穴をあけられた上に壁に叩きつけられる。


 そこで戦闘は終了となった。


「手も足も出なかったな。だけど大分時間は稼げるようになったな。…いつかは一発ぐらいは殴ってみたいけど。さて、後は他の魔物で成果を試してみるか」


 アルレとの戦闘が、他にどんな影響を及ばしたかを知るために違う魔物を選択する。

 以前相打ちになったファイヤードラゴンにするかな。


「今回は勝ちたいな」


 ファイヤードラゴンの攻撃はどれも強力だが、アルレの攻撃と比べると予備動作がハッキリしておりタイミングが計りやすい。何よりアルレの得体のしれない恐怖と比べると竜の迫力を感じなくなる。

 そのためか、ファイヤードラゴンへの接近が以前よりも容易になった気がする。


「グォー!!」


 近づいた俺を遠ざけるために熱気を放つ。それに対して俺は水のカーテンを作り熱気を遮断する。

 そして収束の短剣に激流をイメージした水の槍を込めてファイヤードラゴンに投げつける。


 短剣は勢いよく飛んでいき、ファイヤードラゴンの腹に突き刺さる。すると、勢いよく水の槍が飛び出して腹に穴をあけた。そして竜は消えていく。

 

「よし。竜喰らいじゃなくても倒せるみたいだな。攻撃の手段が増えたのは大きいな」


 それに攻撃が良く見えるようになった。風に勘に恐怖と相手の動きを知る手段が増えてきたな。まあ、勘は無意識的に風と恐怖から判断しているだけかもしれないけどな。


 装置から出るとそこには皆がいた。今の戦いを見ていたようだった。


「ついにファイヤードラゴンも一人で倒せるようになったか」


「武器のおかげだ。無きゃ無理だ」


「それでもファイヤードラゴンの攻撃を躱しきっていただろう。アルレの攻撃にも対応できていたしな」


「キュキュ」


 皆が褒め始めるので照れ臭くなる。ベル達は俺の体によじ登って撫で始め、シェリルはそれを見て笑っていた。


 しばらくベル達にもみくちゃにされたが、落ち着いたところでシェリルに声をかける


「ところで周辺の情報は何か得られたか?」


「ああ。とりあえず言える事は竜は一体も見つかっていないことだな」


「一体もいないのか?」


 シェリルは頷き、話の続きを始める


「不思議な事にな。人魂はいくつも見つかっているが、竜どころか生き物すら見ていない」


「クリアドラゴンや影竜とかじゃ」


「無防備な人形に対してリアクションが無さすぎる。放った十体の人形が一体も襲われていないのはおかしいしな」


「まだ全部が確認できたわけじゃないよな」


「大体半分くらいだな。十体いるが慎重に動いてもらっているからな」


 それならあと三日ほどかかるか。


「確認できない以上、情報待ちだな。それで何も無かったなら慎重に進むしかないな」


「そうだな。貴様はまた特訓場を使うのか?」


「勘を鈍らせないためにも一日一回は使うけどアルレとはやらないな。竜を相手にするつもりだ」


「そうか。それなら少し息抜きをしておけ。コタロウ達などはあまり貴様と一緒にいれなくて寂しそうだぞ」


 考えてみればそうだな。ずっとベルと二人で行動していたからな。戻ってきても食事と休憩くらいで構う時間が少なかったしな。


「よし。久しぶりに遊ぶとするか」


 俺の提案にベル達が喜ぶ。再び俺の体によじ登りもみくちゃにしてくる。そのままの状態で部屋へと向かう。

 

 部屋に戻ると皆でトランプやボードゲームををすることになった。

 久しぶりのゆっくりとした時間。ベル・コタロウ・リッカ・ムギ。全員が楽しそうにはしゃいでいる。


 こんなに楽しそうにしているのは、最近構わなかったからだよな。理由があるとはいえ、もう少し気にかける必要があったな。


 内心反省しながら一緒に遊ぶ。相変わらずこの手のゲームはシェリルとベルが強いが、コタロウ達は負けても楽しんでいる。むしろ、シェリルやベルを褒め称えている。


「相変わらず強いな」


「カードゲームの類いは得意だからな。それでも勝てない人もいるがな」


「それ強すぎじゃないか。本当に人間か?」


「エルフだ。知り合いで、色々と面倒見てもらったよ。ちなみにSランクの猛者だ」


「…知り合いなら呪いの件を手伝ってくれたんじゃ」


「残念ながら場所がわからん。放浪癖があるからな。長命のエルフなら十年ぶりにあっても最近の感覚だしな」


 そんな感じで雑談をしていると急にリッカが慌て出した。


「ベア、ベアー!」


「どうしたリッカ?」


「ベアー」


 リッカは映像を映し出す。そこには黒く禍々しい竜が映っていた。

 そして、シェリルの顔つきが変わる。


「やはりいたのか」


「もしかしてこいつが?」


「ああ。邪竜で間違いない。少々私が戦った邪竜とは違うがな」


 俺達は静かに映像を見続ける。


「動かないな。寝てるのか」


「恐らくな。元々人を殺す事にしか興味の無い奴だからな。人のいないこの場所だと寝て力を溜めるしかすることがないのだろう」


 少しの間、人形が映し出し邪竜をいろんな角度から眺めていた。

 そこで俺は変な物を見つけた。


「何かタカミの街が見えないか?見覚えある気がするんだが」


 俺が見たのはタカミの街の入り口だ。廃墟のような景色の中に薄っすらと浮かんでいるのだ。他にも色々な景色が見えるし。


「…邪竜は突然現れて破壊を終えるとすぐに消えていく。私の時も急に村の近くに現れた。どうやら空間を移動しているようだな」


「つまり急がないとタカミの街が狙われる可能性があるのか」


「可能性は高いだろうな。まだ景色が薄いが濃くなってくれば分身を送れるだろう。しかもそう遠くない内にな」


「仕方がない。明日か明後日には攻撃を仕掛けるか」


 タカミの街に出現すると決まった訳ではないが、万が一出現したら甚大な被害が予想できる。ギルドマスターや"光の剣"などはどうでもいいが、薬屋の婆さんやガンツさん、三兄弟達などには被害にあって欲しくない。他にも顔見知りの冒険者達もいるしな。


「そうだな。早く行動した方が良いだろう」


「…ところで人形が近くにいても寝ているなら、竜喰らいを持たせて奇襲しかけてみるか?」


「無理だろうな。人形に気が付いてないのではなく無視しているだけだろう。竜喰らいのような脅威が近づいてくれば行動を起こすはずだ」


 残念。いい考えだと思ったけどそう上手くはいかないか。


「それだと集団で近づくのも危険か?」


「どちらとも言えん。バラバラの方が邪竜の注意を逸らせるが、少数で狙われた者の危険度は増すな」


 俺は悩んだ末に全員で行動する事に決めた。バラバラに行動するメリットは、注意を逸らしている間に他の者が奇襲を仕掛けられる事だが、距離があれば難しくなる。


 それなら全員で行動して、いざという時は隠れ家に逃げた方がいいだろう。


 話が終わった所で、遊ぶ気分にはなれずに皆でゆっくりと体を休めることにした。温泉に入ってご飯を食べて後は寝るだけだ。


 ベッドに入るとベル達も側に寄ってくる。俺やシェリルの体にしがみついたり、体を寄せたりしている。


 そんな可愛い従魔達を優しく抱きしめて眠りについた。


 そして、決戦の日の朝を迎える。


「さてと、早く終わらせて明日はパーティーでもするか。食べたい物を考えておけよ。何でも好きなだけ注文するからな」


「キュキュキュキュ!!」


 全員嬉しそうだったがベルが一番凄かった。さすがにポイントがゼロになるまでは食わないよな?…大丈夫だよな?


「痛い出費になりそうだな」


「大丈夫だ。ポイントはかなりあるからな」


「冷や汗が出ているぞ。ああ、私は貴様の世界の色んなデザートを出してくれ。余っても問題ないのだろう」


「たぬぬ、たぬぬ」


「ベアベアベア」


「ピヨヨヨヨ」


 次々とリクエストが増えていく。皆本当に遠慮がない。しかもまだベルは内容を決めていないのだ。

 邪竜を倒した後にゆっくりと決めるらしい。


 …竜の素材をポイント変換しないとな。


「それじゃあ出発するか」


「そうだな。…あ、ちょっと待ってくれ」


 俺は皆を呼び止めて幸運の金貨を出す。


「一人ずつこれに魔力流してくれ。ここまで来たら運も味方につけようぜ」


 俺達は一人ずつ魔力を流す。これで残りの回数は二回か。勿体ないけど必要なことだから仕方がないな。


 俺達は準備を終えると邪竜のいる場所に向かっていく。この階層に邪竜以外の魔物がいないのは確認済みだ。

 なので空飛ぶ絨毯で高速で移動する。これで邪竜がいなければ快適な空の旅なんだけどな。


「見えてきたな」


 シェリルの視線の先には黒い塊が見えた。邪竜は他の竜よりも大きいらしい。

 レッサードラゴンは二階建ての家。他の竜は三~四階建ての家という感じだ。邪竜はその倍くらいの大きさがある。


 俺達がもう少し近づこうとすると、邪竜も俺達に気が付いたのか飛んできた。


「うわ~、到着するまで待ってくれればいいのにな」


「案外ずっと一人だったから寂しかったのかもしれんぞ」


「この距離でも殺気を感じるんだぞ。寂しかったら殺気なんか振り撒かないだろ」


「照れているだけだったりしてな」


「そんな照れ隠し面倒すぎて俺には無理だ」


「同感だ」


 互いに冗談を喋りながら向かってくる邪竜に備える。


「キュキュ」


 ベルがアイテムボックスから何かの種や苗木を取り出して邪竜に向かって投げつけた。


 すると花や木に成長して邪竜に向かう。


 邪竜も口から光線を出すが木に阻まれて、花が邪竜の体に傷をつける。


 邪竜には一撃で決めるつもりだったのか驚愕の表情を浮かべて、その場で俺達を睨み付けた。いや、俺達ではなくベルだろう。


「…何者だ貴様」


 ベルは答えることなく魔法を放ち続ける。

 邪竜は会話が無意味と悟ると、空に向かって光線を放った。


 そして、黒い雨が降ってくる。


「避けろ。この雨に当たると体に穴が空くぞ」


 シェリルの声で俺とムギが風を操り雨を逸らす。遮るものがない空中は危ないと思い、絨毯はコタロウに仕舞ってもらい地上へと降りる。


 それを見届けた邪竜が俺達の側に降り立った。


「久しぶりに骨のある相手がいたと思ったが、他は雑魚か」


 邪竜は見下した目で見る。


「まあいい。久し振りの生きた餌だ。多少の事は目を瞑ってやろう」


 余裕を見せている邪竜に対して俺達は魔法を放つ。シェリルも宵桜に魔力を込めて遠距離攻撃を放った。


 だが邪竜はベルの魔法だけ注意して俺達の攻撃は歯牙にもかけない。コタロウの光魔法や聖魔法が当たるが気にしてもいない。


「眼中に無いみたいだな」


「分身も同じだったな。強者を見極めて他は全く気にしない。どうとでもなると思っているのだろう」


「さすがに癪だな」


 俺は風を操作して空を飛び邪竜の背中に乗る。


「ここまで近づいても完全に無視するのかよ」


 遠慮をする必要はない。竜喰らいを取り出して背中をに思い切り刺す。


「ぐぁっ!?」


 叫び声をあげて体を揺らす。さすがに背中に乗ったままは無理なので地上へと降りる。


「自分の力で戦えんゴミクズの分際で」


 どうやら俺は邪竜の怒りを買ってしまったらしい。邪竜の視線が俺へと向かう。

 

「たぬ」


「ぐぁっ!?」


 渡した集束の短剣に聖魔法を込めて、抜け目なく変化したコタロウが足へと攻撃する。思いがけない攻撃の連続で邪竜は顔をしかめている。


「♪」


 ムギが音魔法で澄み切った心地よい音楽を流し出す。俺達にとっては精神安定の効果があるようだが、邪竜にとっては逆の効果になるようで苛立ちが見て取れる。


「ベア!」


 畳みかけるようにリッカも爆弾人形を邪竜の目の前に飛ばす。


「このような物が我に効くと思っているのか!!」


 爆弾人形は邪竜の目の前で爆発した。

 邪竜は堪えていない様子だったが、一瞬のうちに絶叫する。


「ギャー!?」


 邪竜の巨体がひっくり返る。実は爆弾人形には悪臭玉を持たせていたのだ。


「ここまでのダメージを邪竜に与えるとは、悪臭玉恐るべしだな」


「何をしている、今のうちに叩くぞ」


 シェリルに促されて俺達は魔法で攻撃する。だが邪竜は翼で風を起こして攻撃を防ぎ上空へと逃げる。


「…さん…ら」


 何か言ってないか?


「許さんぞ!虫けら!」


 邪竜が怒りの言葉を吐くと、体から黒い塊が飛び出して小さめの邪竜が十体現れた。

 そして邪竜達は怒りの表情と共に俺達を襲い始める。


 出だしは好調だったけどここからが本番かな。

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