竜との戦い
翌日。俺とベルは七十二階の探索を開始した。
「風景は七十一階とあまり変わりは無いな」
「キュ」
周りは草原で一見何も変化はない。遠くに何体か竜の姿が見えるので視力を強化して確認する。
あれはレッサードラゴンか?いや、すこし色が違うよな。レッサードラゴンは黒めの竜だったけど、コイツは若干赤いな。しかも尻尾に火が付いているし。…ポ○モンにいたよな。可愛さが全然違うけど。
よく見ると他の竜たちもレッサードラゴンに似ているがどこか違う。角が生えてバチバチと帯電している竜や、緑色で体躯が一回り小さい竜など様々だ。多分属性が付いている竜なんだろう。
「ちょっと戦ってみるか」
俺とベルは竜達に近づいていく。竜達は小さい魔物を食べている最中だった。
近くで見るとレッサードラゴンより強さを感じる。体躯が小さい竜でもだ。少なくともワイバーンくらいの力はありそうな気がする。
(う~ん。戦ってみたいと思ったけど一度に相手するのは危険だよな)
(キュ)
俺の小さな呟きにベルが反応してくれた。そしてベルは分身して一気に駆け出す。
小さなベルが出てきたところで竜達は歯牙にもかけていなかったが、ベルはそんな竜達に攻撃を仕掛けていった。
「グァー!!」
ベルは当てるだけの軽い攻撃をしたようだが、竜達の逆鱗に触れたようだ。攻撃された竜達はベルや分身を怒りの形相で追っていった。
そして俺の目の前には攻撃されなかった、氷を纏っている竜だけが残っている。
竜は隠形が解けた俺を見つけると口から吹雪を吐いてきた。
「危な!?」
吹雪が当たった場所は見るとしっかりと凍り付いていた。ただの草が氷の彫刻のようだ。
「当たったら不味いよな」
装備の効果があるとはいえ、下手をすれば凍傷程度では済まないだろう。
俺は距離を取りながら魔法を放っていく。
竜は機動力も高いようで風の魔法でも躱していく。
「やっぱり機動力は高いな。ワイバーンと同じくらいはあるか」
俺は昨日と同じく幻魔法を使用する。すると竜は辺りを困惑したように見回した後に、体から魔力を放出させて全方位を凍らせようとした。
「こんな技もあるのかよ」
技の効果範囲から逃れたが竜の周囲は氷で覆われてツルツルだ。
だが大技だったのだろう。竜は肩で息するように疲れを見せていた。
今がチャンスだと思い風魔法を放つ。竜は反応できずに攻撃をくらう。ダメージは程々という感じだがいっゆん動きが止まった。すかさず近づき竜喰らいを突き立てる。すると雄叫びを上げて崩れ落ちて消えていく。
ドロップアイテムは牙だった。すぐに収納して名前を確認する。
名前:レッサーアイスドラゴンの牙
武器の素材に使うと氷の属性が付く。耐久力・魔法との親和性ともに優れており上質な武器が作れる。
レッサーアイスドラゴンか。大体予想通りだったな。はぁ、これでレッサーがとれたらどんだけ強くなるんだろうな。
俺がそう思っているとベルの分身が緑色の比較的小さなドラゴンを連れて来た。そして分身は消える。
分身が消えた事で緑色の竜はベルの分身から俺へと狙いを変えたようだ。口から涎を垂らしながら俺を見つめてくる。
「グァー!!」
咆哮と共に加速して迫ってくる。その速さはワイバーンや先程のレッサーアイスドラゴンとは比べ物にならない程だ。
鋭い爪の攻撃は的確に俺を襲ってくる。だが思ったよりも攻撃は軽かった。
これなら捌き切れるか。
「グァー!!」
焦れた緑色の竜は突然上空に急上昇していった。そして俺に向けて口から竜巻を放ってくる。
俺も負けじと風魔法を放つ。衝突した魔法の衝撃は凄まじく、周囲に人や魔物がいたら風の勢いで吹き飛ばされていただろう。
力は均衡していたが、俺は手からの魔法で竜は口からのブレス。竜は息が切れてしまい、そのまま俺の魔法に巻き込まれた。
「グァー!!」
それなりに強い魔法を放ったはずだが、風魔法は効果が薄いようだった。
「やっぱり幻魔法と竜喰らいが一番いいのか?いや、その前に感覚魔法も試しておくか」
俺は竜の五感を奪いにかかる。だが抵抗が凄まじい。竜相手に感覚を奪うことができないようだ。
それならと思い俺は聴覚と嗅覚を強化させる。
「グァ!?」
急に匂いや音に敏感になったためか混乱しているようだった。すかさず爆音玉と刺激玉を取り出して投げつける。
「グァ――――!?」
緑色の竜は地面で悶えている。反撃する余裕は無いみたいだ。
回復しないうちに竜喰らいで止めを刺す。ドロップアイテムは皮だった。
名前:レッサーウインドドラゴンの皮
防具の素材に使うと風の属性を得られ、移動速度が上昇する。軽いが防御力に優れている。
「レッサーでも属性が付くと強敵だな。なるべく一対一で戦いたいけど、余裕があるうちに集団戦も経験しないとな」
そんな事を考えているとベルの分身が次の竜を連れてきてくれた。今度はレッサーファイヤードラゴンか?
修行になるよ本当に。
………
……
…
「さすがに疲れたな。ほとんど進んでないけど一度隠れ家に戻るか」
「キュ」
あれからもベルの分身たちが一体ずつ竜を連れてきてくれたので、一通りの竜とは戦うことができた。そして俺の予想以上の種類がいて疲れてしまった。ちなみにベルは俺の見えないところで戦っていたらしく戦利品をたんまり持ってきていた。
面倒だからレッサーの部分は省略だが、ファイヤー・ウォーター・ウインド・サンダー・アース・アイス・ウッド・ロック・アイアン・ソード・シールド・マジックドラゴンなどだ。
それぞれ特徴があるから今のうちに戦えてよかったと思う。他にもいるかもしれないがもう体が限界だ。
時間も昼近くなのでちょうどいいだろう。ベルと共に隠れ家へと戻る。
「ただいま」
「キュー」
家に入るといい匂いが漂ってきて腹が減ってくる。
そのまま進むとシェリル達が料理を作っていた。
「おや?今日は早かったのだな」
俺達に気が付いたシェリルは料理をしている手を止めて近づいてくる。
コタロウ達も嬉しそうに駆け寄ってきた。
「料理を作っていたんだな」
「まあな。気分転換には丁度良い。午後は貴様が用意してくれた音楽を聴く予定だ。しかし、料理を作って待っているつもりだったが失敗したな」
「あ~、何かスマン。思った以上の種類の竜がいて戦い疲れたんだ」
俺がそう言うとシェリルは笑いながら口を開く。
「謝る必要などないだろうが。それよりも一度風呂にでも入って汚れを落としてこい。上がるころには料理ができているだろう」
俺とベルはお言葉に甘えて一度風呂へと向かう。
海を眺めながらボーっとしていると結構時間が経っていた。
「そろそろ料理も出来ているだろうし上がるとするか」
「キュー」
プカプカ浮いているベルを肩に乗せて風呂から上がる。リビングへ戻ると予想通りに料理が並んでいた。ご飯・味噌汁・サラダ・ハンバーグ・目玉焼きのハンバーグ定食と言った感じだ。
「たぬたぬ」
「ベアー」
「ピヨ」
コタロウ達が俺達を引っ張って席につかせる。
皆が座ったところで食べ始めるのだが、コタロウ達はジッと俺とベルを見つめていた。
「コタロウ達が感想を求めているぞ。ちなみにハンバーグを担当してくれたぞ」
ああそういうことか。
俺はハンバーグから手を付ける。食レポのように気の利いたことは言えないが、普通に味は美味しいと思う。少し大きめに作られて食べ応えがあるし、目玉焼きの黄身と絡めても悪くない。何よりコタロウ達が作ってくれたというのが嬉しい。
「美味しいぞ」
「キュ♪」
俺達の反応を見たコタロウ達はホッとしてから笑顔を見せる。そして、安心して食事を始めた。
コタロウ達も自分で作った料理を笑顔で食べている。
「ところで午前中はどうだったのだ?疲れていたようだが」
「予想以上の種類がいたよ。あれでレッサーなら普通の竜達はどんな強さなんだよ」
「どんな竜達がいたのだ?」
ドロップアイテムを見せながら説明をしていく。シェリルは真剣な表情で黙って聞いていた。
そして俺の話が終わると同時に口を開いた。
「本来はそんなに簡単に倒せるものではないのだがな。竜喰らいはかなり効果的みたいだな」
「そうだな。魔法だけでもなんとかなる気はするけど絶対に時間はかかるだろうし」
実際止めは毎回竜喰らいだからな。竜への効果が凄まじすぎる。
「だが過信しすぎるなよ。何事も例外的な魔物は存在するからな」
「肝に銘じておくよ。シェリルやベル達を置いて死にたくは無いしな」
「当たり前だ。貴様が死んだら隠れ家どうなるか分からんからな。生活の水準を下げたくないから絶対に死ぬなよ」
そう言ってシェリルはクスクスと笑う。
「分かっているよ。俺だって今の生活を手放したくないからな」
そう話している間に料理は食べ終わっていた。
「それじゃあ俺は昼寝でもするわ」
俺は寝室に移動して横になる。すると、ベル以外にもコタロウ達が一緒に布団に入ってきて、甘えるように俺の体の側に寄ってくる。
「どうした?一緒に寝るのか」
「たぬ」
「ベア」
「ピヨ」
可愛らしく思い頭を撫でていく。
「一緒に寝るのはたまにあるが、今日は甘えてくるな」
最近は片方のベットでベル達が寝ているからな。
「それはそうだろ」
シェリルも寝室へやってきて横になっているコタロウ達を撫でだした。
「コタロウ達の主人は貴様なんだぞ。貴様と離れ離れになっている上に貴様自身は危険地帯に赴いているんだ。表面上は平気にしているが心配なんだろう」
「そうか」
俺はベルやコタロウ達を抱きしめる。本当に俺にはもったいないくらいの従魔達だな。
申し訳ない気持ちがある反面、慕われていると思うと嬉しくなってしまう。俺はそのままコタロウ達を抱きしめながら眠りにつく。
………
……
…
「キュキュ」
目を開けるとベルが俺の顔をペチペチと叩いていた。ああ。もう時間なんだな。
隣ではシェリルやコタロウ達がまだ眠っていた。黙っていくのも何か言われそうなので俺は起こすことに決めた。
「おい、俺達はそろそろ竜の巣に向かうからな」
「うん?ああ、もうそんな時間か。思ったよりも寝てしまったな」
シェリルが起きるとコタロウ達も眠そうな目をこすりながら一緒に起き出した。
「おはよう。俺達は出かけてくるからな」
そう言うとコタロウ達は俺に飛びついてきてぎゅっとしてくる。
「ちゃんと戻ってくるからな」
「キュキュ」
しばらくの間抱きしめていると満足したのかベッドに飛び降りてこちらをじっと見る。そしていってらっしゃいと手を振ってくれた。
「行ってきます。…ところでシェリルはぎゅっとしてくれないのか」
笑いながら言うと頭を叩かれてしまった。
「バカ言っていないで、さっさと行ってこい」
「残念」
「キュ」
ベルにも呆れられた目で見られたが気にしないでおこう。とりあえず俺達は再び七十二階の探索を始めることにした。
そして午後の探索では自分に一つ課題を出してみた。それは竜喰らいを使わずに一体倒してみることだ。ここまでの戦闘は竜喰らいに頼り過ぎていたので、使わないとどれくらいの戦闘になるのかを把握しておきたい。
気配のする方に向かって行くと、すぐに竜は見つかった。
「まだ別の竜がいるのかよ」
今度は亀の甲羅がついている竜だった。恐らくタートルドラゴンとかそんな感じの名前だろう。見かけ的に防御主体だよな。
「ベルは待っていてくれ。ただ、俺じゃあダメだと思ったら助けてくれ」
「キュ」
ベルは頷くと隠形を使い隠れだす。
「さてと」
竜に向かって風魔法を放つ。
魔法は竜の首にぶつかるが少しの切り傷ができただけだった。
「グォ?」
効いた様子がほとんどない。
それでも竜は俺を見つけると口を開いて水を放ってきた。
元々口から何か出してくるだろうと思っていたので、落ち着いて避ける事ができた。
そして避けながら攻撃を繰り返していく。ワイバーンなどを傷つけたレベルの魔法なのだが、何発撃ってもダメージを与えられていない。
「さっきも何度か戦ったけど防御特化の竜は面倒だな。せめて雷の能力が使えればな」
段々とイライラしてくる。しかもこれでレッサーなのだから始末が悪い。
俺は風鴉を手に持ち集中する。幸いにもこの竜は動きが緩慢なため力を溜める余裕が少しはある。
烏天狗との戦いを思い出しながら力を解放していく。脅威を感じたのか竜の攻撃が激しくなってくるが何とか力を溜めることはできた。
機動力は現状俺の方が上だ。速さで翻弄しながら隙を伺う。そして風で八咫烏を作っていく。
「グォ!!」
竜は甲羅の中に首や手足を引っ込めて、スピンしながら水を出し始めた。
「ゲームのキャラみたいな攻撃しやがって」
首を狙うつもりだったので、正直キツイ。更に言えばスピンしながらの動きは中々の速さを持っている。
俺は覚悟を決めて八咫烏を竜にぶつける。
竜と八咫烏は互いに押し合っている。俺はその間に八咫烏を更に作り上げて、ぶつけていく。
「グ、グォ」
竜の甲羅にヒビが入り苦しげな声が響いた。
そして「バリン」と音がしたかと思うと、甲羅は砕けて竜の体は崩れていく。
俺の足元にはドロップアイテムの竜の甲羅の一部が落ちていた。
「疲れた」
「キュキュ」
ベルが近づいてきて労いの言葉をかけてくれる。そしてドロップアイテムを四つ程出してきた。
「これどうした?」
「キュキュ」
どうやら俺と竜が戦っていると、引き寄せられてきた竜がいたとのことだ。戦いの邪魔にならないようにベルが倒してくれたらしい。
「竜を倒しても慢心はできないな」
ベルとの力の差を実感してしまう。だけど俺の現在の力がどれくらいかを少しは認識できた。俺の力など未熟もいいところだ。竜喰らいは使わなかったが、風鴉もかなりの武器だ。この武器を使ってギリギリ押し勝てた感じだ。つまりは武器が無かったら勝つことはできなかっただろう。
「今の能力には不満は無いけど、今だけチート級の魔法を使いたいもんだ」
「キュ?」
「おっと、何でもないよ。それよりドロップアイテムを確認させてもらうぞ」
俺は考えを切り替えて戦利品の確認をすることにした。
名前:タートルドラゴンの甲羅
防具の素材になる甲羅。防御力が高いが、加工の難易度は高い。
名前:ファングドラゴンの牙
武器の素材に使うと切れ味が増す。下手な職人が加工を行うと大ケガをするので、加工する際には注意が必要。
名前:二首竜の皮
防具の素材に使える。腕の良い職人でないと扱えない。
名前:木竜の瞳
装備全般に加工できる。植物の力を授かる。
…竜ってこんなに種類いる物なのか?多すぎない。
そんな疑問が頭をよぎるが、竜の巣と言われるくらいなのだから色んな竜がいてもおかしくないと思うことにした。
その後は竜喰らいを成長させながら進んで行き七十三階にたどり着くことができた。