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進化する武器

 空間が元に戻っていく。俺を見つけたコタロウ達が駆け寄ってきた。

 コタロウたちは何も無かったようだが、不安だったのか俺から離れない。


「モテモテだな」


 シェリルも疲れた様子で話しかけてきた。シェリルに対してもコタロウたちは抱き着き離そうとしない。

 そんな中ベルだけがいないのが気になり辺りを見回す。すると横たわっているベルを発見した。


「ベル!」


 俺に続いて皆が駆け寄ってくる。ベルに触ると呼吸はありケガも無さそうだった。どうやら眠っているようだ。


「良かった」

  

 俺は安心したのと烏天狗との戦いの疲れでその場に座り込む。


「大丈夫か?」


「何とか。シェリルも大丈夫なのか?」


「結構辛いな」


「それなら隠れ家に戻るか」


 入り口を出現させて中へと入る。ベルはコタロウが優しく運んでいる。

 部屋に着くとコタロウはベルをベッドに寝かせる。俺とシェリルもすぐに横になって眠りについた。



―コタロウ・リッカ・ムギ


 ジュン・シェリル・ベルはベッドでスヤスヤと眠っている。

 コタロウ達は心配で眺めていたが大丈夫だと判断するとゆっくりベッドから離れた。


 コタロウ達はソファーに座り先程の事を思い出す。

 ジュン達が天狗に連れられると三匹はただただその場で待っているしかなかった。


 待っている場所には危険は無かった。だが時間が経つにつれて不安だけが募っていく。自然と涙が溢れてきていた。コタロウ達は身を寄せ合ってジュン達が無事に帰ってくるのを祈るしかなかった。


 何もできない自分がもどかしい、自分の力の無さが悔しい。コタロウ達はそんな思いで一杯だった。

 

 そして待望の瞬間が訪れた。皆が戻ってきた。主人であり父親のようなジュンが戻ってきたのを見かけると一目散に駆け出した。ジュンもシェリルも優しく撫でてくれた。それが凄い嬉しかった。


 だがそんな時にジュンの悲痛な声が聞こえた。駆け出す方向には兄とも言えるベルが動かなくなっていた。

 

 再び泣きたくなった。でも寝てるだけだと分かって心底安心した。いつも思っていたが、危険な戦闘は三人がメインとなっている。自分たちは守られているだけだ。今回も余程疲れたようでぐっすりと眠っている。


 皆の力になりたい。そう思ってコタロウ達は顔を見合わせて頷き合う。

 そして三匹は部屋を出て庭へと向かう。


 三匹は庭で訓練を始める。さすがに手合わせは危険なので、それぞれで特訓メニューを考えることにした。

 コタロウは人への変化、リッカは人形魔法、ムギは結界だ。


 コタロウは特訓を開始すると同時に人間へと変化する。まずはこの状態の維持から始める。リッカは質の高い戦闘人形を作り出す練習を始める。ムギは結界の維持だ。三匹は根気のいる作業をひたすら繰り返していく。


 特訓は決して順調とは言えない。コタロウは変化の維持は十分も持たない。部分的に変化が解ける事も多い。リッカも人形の性能に限界を感じていた。ムギは結界が歪むことが多く耐久力もまだ低かった。


 それでも腐ることなく三匹は特訓を続ける。少しずつだが改善されてくる。一時間ほどしたところで一度休憩を取る。冷蔵庫から持ってきていた果物を仲良く分け合って食べ始める。


 休憩が終わったところで再び訓練を開始する。その後も一時間ごとに休憩を取りながら訓練を続ける。全ては大切な家族のために。



―ジュン


 目が覚めると眠ってから四時間ほど経っていた。

 冷蔵庫から飲み物を取り出して喉の渇きを潤す。


「あれ?コタロウ達はどこに行ったんだ」


 部屋の中にコタロウ達がいない。隠れ家の外に行ける訳がないから、近くに居るのだろうが心配になる。


「探してくるか」


「どうしたのだ?」


「キュキュ?」


 眠そうな目をこすりながらシェリルとベルが目を覚ました。


「スマン、起こしたか?」


「気にするな。それより何かあったのか?」


「コタロウ達が部屋にいないんだよ。だから探しに行こうかと思って」


「なんだと」


 シェリルは部屋の中を見回して心配そうにする。

 そして探知の能力を使う。


「…気配は庭の方だな行くぞ」


 ベルも心配なようで俺の肩に乗る。そして庭に出ると訓練しているコタロウ達が目に入る。

 俺達は何となくコタロウ達の心情を察した。一段落するまで物陰で待つことにした。


 そして特訓が終わったところで俺達は声をかける。


「コタロウ、リッカ、ムギお疲れ様」


「たぬぬ♪」


「ベアー♪」


「ピヨ♪」


 コタロウ達は駆け寄ってきたので俺は抱き上げる。よく見ると皆汗をかいて汚れもある。

 シェリルも気がついたようで声をかけてきた。


「一度皆で温泉に入るか。今日の疲れを汗と共に流すぞ」


 皆で温泉へと移動する。

 俺はいつも通りに露天風呂でゆっくりする。

 いつもは賑やかなベル達も疲れているのかプカプカ浮いている。


 正直この光景が好きだったりする。


「今日の温泉は体に染み入るな」


 隣に座るシェリルも温泉を満喫中だ。

 

「本当だな。しかし、今回の試練の部屋の魔物は強敵だったな。正直勝ちを譲ってもらった感じだったよ」


 俺は烏天狗との戦いを思い出していた。


「まあな。特にベルは大変だっただろう。私達の相手より数段上だったと思うぞ」


「やっぱりそうなのか」


「実際に戦ったわけではないから推測だが、私や貴様だったら負けていただろうな。呪われていない状態の私でも戦いたくない相手だ。まあ、私達の相手も何かしらの制限があって全力ではないと思うがな」


「何かよく分からない魔物だったな。まあ個人的には指導してくれたことには感謝しかないけどな」


 ところであの烏天狗って本当に死んだのだろうか?また会うようなことを言っていたけど。…まあいいか。


「そういえば烏天狗のドロップアイテムを確認していなかったな。と言うか宝箱すら開けてないな」


 ベルの事で気が動転して忘れてた。後で取りにいかないと。


「まあ盗られる事は無いだろうが上がったら取りに行くか」


「そうだな。ところで三日ほど休みにしてもいいか」


「勿論だ。私も暫くは休みたいしな」


 温泉から上がると一度皆で宝箱を取りに外へ出る。


「え~と、宝箱は…あ、あった」


 皆で宝箱に駆け寄る。

 全員一度は宝箱を開けたし疲れていることもあるため、今回は俺がすぐに開けることにした。


「え?これだけ」


 中には種が一粒入っていただけだった。

 かなりの強敵だったので、良い装備やアイテムが入っていると思っていた俺は結構ショックだった。


「まあ良いものかもしれんし収納しておけ」


「そうだよな。…ついでに七十一階を見てきていいか?」


「ああ」


 七十一階の扉を開ける。そこには草原が広がっていたが、少し遠くでは竜が飛んでいるのが見えた。 

 遂にここまで来たんだな思いながら部屋へと戻る。そこでシェリルとベルからもアイテムを受け取って収納する。


 名前:烏天狗の羽

 武器に使用すると武器の性能を上げる。ただし相性があるため全ての武器が強化されるわけではない。


 名前:女天狗の宝玉

 女天狗の力が込められた宝石。


 名前:女天狗の羽

 扇や団扇に使うと強化される。


 名前:大天狗の数珠

 珠の数だけ相手を封印することができる。ただし相手の強さによっては封印は解かれてしまう。


 名前:再生の種

 一度だけ手足などの欠損した部位を元に戻す。内臓などは不可。失った命には効果がない。


 再生の種も恐ろしい性能だけど何気に大天狗の数珠がヤバくないか。


「これはまた豊作だったな」


「そうだな。ところで羽は鉄扇に使うのか?俺は二つあるから嵐舞と風鳥の短剣に使うつもりだけど」


「正直迷っている。今の性能でも十分に強いからな。変化することで使いにくくなっても困るしな」


 結局シェリルは悩んだ末に使う事に決めたようだ。 

 小瓶の中の水を鉄扇にかけると。鉄扇は一度光を放つ。

 

 俺も嵐舞と風鳥の短剣に羽を置くと、二つとも羽を吸い込んで形が少し変わった。


 名前:狂嵐舞(如意棒)

 烏天狗の力が宿り強化された嵐舞。今まで以上の威力の魔法が使える。ただし魔法の威力を上げ過ぎると、制御が難しくなり失敗すると自身を傷つけるために取り扱いには注意が必要。


 名前:風鴉(短剣)

 風鳥の短剣に烏天狗の力が宿り変化した武器。風魔法に特化している。魔力も身体能力も全般的に上昇するが移動速度が特に上昇する。空を飛ぶことも可能となる。


 名前:宵桜(鉄扇)

 女天狗の力が宿った鉄扇。身体能力・魔力が上昇する。空気中の魔力を取り込み魔力を回復し続ける。振る事で縮地・分身・幻影・風雨・火炎の能力を使える。


「風の鳥が風の鴉になったのか」


「風鴉は魔物にもいるぞ。暴風の中に住む魔物でどんな暴風でも風を切って飛ぶと言われているな。Aランクの魔物だ」


「それじゃあ俺も相応の実力をつけないとな。能力もかなり上がったみたいだし。しかしシェリルの鉄扇も凄い変わったよな」


「私の戦った相手は違うが、天狗と呼ばれる魔物は羽団扇を武器にするからな。相性が良かったのだろう。…しかし、ソウルイーターや着ている防具もそうだが、トップクラスのクランやパーティーに劣らない装備ばかりだな」


「全部売ればかなりの金額になりそうだな。勿論そんな気は無いけど」


「そうだな。特に私達が着ている防具と貴様の短剣はオークションで中々の値が付くだろう」


「その鉄扇も高くならないか?狂嵐舞も」


「需要が少ない」


「ああ」


 そういえばそうだった。俺達が使う武器で流通が多いのって短剣だったな。優れた能力の武器が高い訳じゃ無いもんな。


 その後アイテムを仕舞った俺達は夕食を選び始める。今日は皆で食べたい物を選んでいく。

 俺はエビグラタン・コーンポタージュ・サラダ、シェリルはカルボナーラとサラダ、ベルは一キロステーキ、コタロウはおにぎりと味噌汁、リッカは天ざるうどん、ムギはリゾットだ。


 自分の体以上の大きさの食事を摂ったり、魔法・念力・箸を使ってご飯を食べる姿は何度も見ても異世界という事を実感させられる。


 食べ終わった後は皆でのんびりと過ごす。最近のベル達のお気に入りはシェリルによるブラッシングだ。俺がやっているのを見てシェリルも真似してみたらベル達が気に入ってしまった。今じゃ俺はベル達に断られる始末だ。


「皆眠そうにしているな」


 シェリルのブラッシングが気持ちいいのか、途中で瞼が閉じていく。

 俺は眠ってしまった従魔達を順番にベッドへと運んでいく。


「ベルは眠くなさそうだな」


「キュ」


 ベルも俺達も一度眠ったためまだ眠くはない。


「それなら三人で飲むのはどうだ?」


「お、それはいいな」


「キュ♪」


 シェリルの提案に賛成して俺達は隣の部屋へと移動する。


「「お疲れ様」」


「キュー♪」


 何となく乾杯をしてつまみと一緒に頂く。ちなみにつまみには豚足・ソーセージ・ナッツ・チーズだ。無くなればまた購入する。


「キュキュ♪」


 ベルは梅酒が気に入ったようでグビグビのみ始める。俺もベルと一緒にでロックで飲む。


「ベル今日は本当にありがとうな」


「キュ~///」


 飲んでいないときにベルの頭を軽く撫でる。キーノの時も無理して頑張ってくれたし本当に頼りになる相棒だ。


 しばらくの間雑談をしていたが、会話が途切れるとシェリルが俺とベルを見て突然お礼を言ってきた。


「しかし貴様やベル達には感謝しかないな。礼を言うぞ」


「急にどうした?」


「当然だろ。私は本来ならば一人でダンジョンに行くつもりだったのだ。装備やアイテムも今より格段に低い状態でだ。諦めるつもりは無かったが、ここまで順調に進む事はできなかったはずだ」


 そう言って手にした酒を一口飲む。


「それにここまで楽しめなかっただろうな。毎日美味い食事と温泉を満喫し、睡眠もしっかりとれる。他にも海やプールなどで遊ぶ事もできる。周りには可愛いらしく頼りになる従魔もたくさんいるしな」


 シェリルの手がベルの頭に伸びて撫で始める。


「王都での生活より本当に心地良いぞ。呪いには悩まされたが、幸運だったのかもしれん」


「楽しんでくれているようで何よりだ。俺もシェリルやベル達のおかげで生活が楽しいしな」


「当然だろ。私と一緒で楽しくないわけがないだろ」


「ハハ、そうだな。これからもよろしくな」


「ああ」


 そんな話をしていると部屋の扉が突然開いた。


「たぬー」


「ベアー」


「ピヨー」


 途中で目が覚めたコタロウ達が俺達を探しに来たようだ。


 それぞれ駆け寄ってきて俺達の側でつまみを食べ始める。


「皆も飲むか?」


「た…たぬ」


 コタロウは考えた末に飲むことにしたようだ。ちなみにリッカとムギはジュースやミルクを飲んでいる。


「コタロウ、無理して飲む必要は無いからな」


 シェリルはコタロウを膝の上に乗せて、撫でながら優しく声をかける。


「たぬ~」


 甘いカルアミルクだったが、やはり普通の飲み物の方がよいみたいだ。飲み干すと次はジュースを注いでいた。


「それにしても、皆でこの時間に起きているのは珍しいよな」


 普段は疲れてすぐに眠る上に、コタロウ達は基本的に規則正しい生活を送っている。そのため夜も更けた時間に皆で騒ぐ事は今まで無かった。


「たまにはいいだろ。眠くなったら寝ればいい」


 シェリルは機嫌よく酒を飲み、楽しく騒いでいるベル達を見つめている。


「まあそうだな。ところで明日はどうする?」


「そうだな。ゆっくりするのは最終日の方が良いしな。海かプールで遊んでもいいんじゃないか」


「そうするか。ところで少しだけ訓練してもいいか?今日の感覚を忘れないようにしておきたいんだ」


「ならば海で行うか。セラピードルフィンに話をすれば、海の生き物を遠ざけてくれるだろう」


 明日の予定が少しずつ決まっていく。コタロウ達も特訓という言葉に反応していたので午前中は特訓で、午後に遊ぶことにした。

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