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ブックメーカー ~異世界では好きに生きてみたい~  作者: 北村 純
初めての異世界生活
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二匹目の従魔

 森を出て四日ほど経った。ベルの指導の下で魔物と戦いや素材採集に明け暮れている。隠れ家でもベルとの戦闘訓練だ。そのため村探しはあまり進んでいない。


 だが魔法の練習もできたのでその成果は少しは出ている。風と水魔法は威力とコントロールが少しはマシになったし、幻魔法も少しは使えるようになった。そして感覚魔法で五感を強化することにも成功している。


「ところでベル。村や街がどこにあるか分かるか?」


 ベルは黙って首を横に振る。まあ、そうだよな。森の中で生活していたから外の事は分からないよな。

 俺も知っているはずがないので、適当な方向に進んでく。村や街とは言わないが、人に出会えればいいな。


 そんな思いで歩き続けるが何も見えてこない。

 森の中だと見えない場所に隠れている魔物の警戒などもあったが、見晴らしの良いこの草原ではそれも無い。ひたすら歩き続けるだで景色も変わらないため、案外退屈に感じてしまう。


「身体強化して走れば早く着かないかな。風や風鳥の短剣を上手く使えばさらにスピードが上がるだろうし」


「キュ!」


「痛っ」


 俺の独り言に、ベルは俺の頭を叩いてから腕でバツを作る。そして、肩で息をするような仕草を見せる。


「すぐに疲れると言いたいのか?」


 ベルは大きく頷く。


「ちなみに慣れれば可能か?」


 再び頷く。たんに俺の実力不足か。

 仕方がないから諦めよう。でも、いずれはできるように訓練は必要だな。

 出来るようになれば移動の時間が短縮できるだろうからな。


「地道に歩くしかないか」


 しばらく歩き続けると、村などは見えないが森が見えてきた。

 また森かと思ったが、景色が変わっただけでマシに感じてしまった。

 

「キュキュ!」


 森の近くを通りかかると嫌な風を感じた。同時にベルが森の方を向き臨戦態勢に入る。

 俺も嵐舞を構えてすぐに動けるようにしておく。

 どんどん何かが近づいてくる気配がする。


「たぬー!」


「は?」


「キュ?」


 二足歩行の仔狸が俺達の方向に走ってきた。俺もベルもポカーンとしてしまった。

 え?こいつが嫌な気配の正体なのか。全くそんな風には見えないけど。


「たぬ、たぬ」


 仔狸は俺の足にしがみついて震えて泣いているようだった。


「キュ!」


 ベルの声で再び森の方を見ると、今度は緑色で人型の生き物が五体ほど出てきた。

 デカいしゴブリンよりはオークの方が可能性が高いかな。


「エサフエタ。オレウレシイ」


 オークかどうかは別として、俺の敵なのは確定だ。遠慮する必要はないな。

 ベルが攻撃しようとするが俺はそれを制止して、熊の時と同じように水の中に閉じ込めた。


 同じようにもがいているが、やはり水の中からは抜け出せない。


「たぬ…」


「キュキュ」


 俺の足にしがみついていた仔狸が後ずさっている。ベルが仔狸の頭に乗り何か話しかけていた。

 そんなにダメかなこの戦い方。時間はかかるが効果的だと思うんだけどな。傷もつかないから状態も良いだろうし。


 少し落ち込んだが、オーク?達の抵抗がなくなったので魔法を解いて収納する。説明を見るとやっぱりコイツ等はオークだった。


「たぬー♪」


 オークを収納していると、安心した仔狸が俺の方に近づきお辞儀をしてくる。


 可愛らしいと思うが、警戒心が無いなコイツ。無邪気にすり寄ってきてるぞ。

 俺はしゃがんで仔狸と目線を合わせ問いかけてみる。


「お前、親や仲間はどうしたんだ?」


「たぬ~?」


 言っている意味が分からないのか、首を傾げている。


「キュキュ?」


「たぬ?」


「キュー」


「たぬ」


 俺の代わりにベルが話をしているようだ。

 しばらくすると、ベルが俺の方を向いて腕で×を作っている。


「仲間とはぐれたのか?」


 腕は×のままだ。


「元々一人だったのか?」


「キュ」


 腕をおろして大きく頷いた。

 どういう理由なのかは分からないが、この仔狸はずっと一人だったみたいだ。


 キュルル


 不意に不思議な音が聞こえた。音の方を見ると仔狸がお腹を押さえて悲しそうな顔をしている。

 腹が減っているようなので通販で弁当を買って渡してみる。すると、俺達の隣に座り美味しそうに食べ始める。

 …なんで箸を上手に使えるんだろう。まあ、いいや。


 ついでなので俺もベルも食事をすることにした。

 仔狸は料理を口に運ぶたびに、幸せそうな表情をしている。見ているとこっちまで気分が良くなってくる。

 和やかに時間が流れる。だけども、そんな時間も終わりが来る。

 皆が弁当を食べ終わってしまったからだ。


「俺達はそろそろ出発するんだけど」


「たぬ~」


 しょぼんとした表情で、仔狸は一人佇んでいる。

 俺とベルは互いに目を合わせ頷き合った。

 そして、再びしゃがみ込んで仔狸に声をかけてみる。


「お前も一緒に行くか?」


「たぬ♪」


 仔狸は勢いよく頷くと、嬉しそうにはしゃぎ始め踊り狂っている。


「おいおい、落ち着けよ」


 笑いながら仔狸を見ていたが急に倒れこんでしまった。


「どうした!?」


「キュ!?」


 俺もベルも慌てて近寄った。…喜びのあまり興奮しすぎて過呼吸を起こしてしまったらしい。

 仔狸を介抱していると、次第に落ち着いてきた。


「大丈夫か」


「たぬ~」


 返事はするが、まだ声に元気はない様子だ。

 とりあえず仔狸を抱き上げて歩き出すことにした。


「そういえば名前も欲しいよな。いつまでもお前じゃ変だしな」


「たぬ」


 さて、ベルの時もそうだったけど悩むんだよな。ネーミングセンスに自信なんてないしな。

 悩んでも仕方がないし直感で決めるか。


「それじゃあコタロウ。お前はコタロウだ」


「たぬ♪」


 返事をすると一瞬光に包まれた。

 これで従魔契約は成立だ。ステータスの従魔の欄にはコタロウの名前が追加されていた。

 コタロウの名前をタッチして能力を確認してみる。


 名前:コタロウ

 種族:天狸

 主人:ジュン

 状態:普通

 魔法適正:光魔法 聖魔法

 その他:変化 結界 念力 硬質化 幸運 奪取


 天狸って天狐の狸バージョンか?それよりもこのスペックなら、オークに勝てるんじゃないか?いや、仔狸だから力の使い方が分からなかったかもしれないな。戦闘に関してはベルに教育係になってもらうか。


 さて、能力も確認出来て進みたいところだがコタロウはまだぐったりしているし、今日はもう休むことにするか。


 隠れ家に入るとコタロウは再び驚きながらも喜んでいる。踊る体力はまだ無いようだな。

 部屋に入ってベッドに寝かせる。ベッドの上で飛び跳ねることはできるようでコタロウは遊び始めた。ベルも一緒になって、壁からのジャンプを繰り返している。


「元気だな」


 俺は甚平に着替えて飲み物を飲みながら二匹を眺めている。その時俺はある事を思い出した。それはガチャの存在だった。実は昨日は引き忘れてしまっていたのだ。

 引き忘れると持ち越すわけじゃないのでもったいないことになってしまう。

 俺は急いでガチャを引くことにした。


「…一個か」


 十連ガチャがすぐに来るわけじゃないと分かってはいるがどこか期待していた。


「まあしょうがないよな」


 ガチャの結果は生チョコだった。箱に結構な数が入っている。


 味見でチョコを一つ頂く。…味はいいな。

 もう一つ口に入れると、俺はベルとコタロウを呼んだ。

 

「ベル、コタロウ。ちょっと来てくれ」


「キュ」


「たぬ」


 二匹とも遊ぶのを止めて、すぐに近づいてきた。コタロウも動けるくらいには回復したようだ。

 近づいてきた二匹の口元にチョコを押し込んでみる。


「キュ♪」


「たぬ♪」


 幸せそうな顔をして味わって食べている。残りのチョコは二匹で分けてもらった。

 あっという間に食べきってお代わりを要求された。もう一つだけ渡すが今日はここまでだ。


 しばらく部屋で休んでから、二匹を連れて温泉へと向かう。


 温泉に着くとコタロウははしゃぎ始める。やはりジャグジーバスが楽しいらしい。体を洗う時も泡だらけになるのを楽しんでいた。外の温泉でもベルと一緒に打たせ湯にいる。まあ、コタロウの大きさだと打たせ湯や寝湯が丁度良い深さになるけど。


 しばらく温泉に浸かるが、コタロウがのぼせる気がするので早めに上がることにした。


 部屋に戻るが夕食を摂るにはまだ早い。通販で時間を潰せるような物を探す。


「お。これ何かいいかもな」


 俺は人生ゲームを選択した。正直コンセントがあって電気も通っているので、テレビやゲームという手もあるが、それを出すと引き籠る気がしたので止めておいた。


 簡単にルールを説明する。文字は読めないみたいだが俺が読み上げるのでそこは問題なさそうだった。

 ジャンケンで順番を決めると、コタロウ・ベル・俺の順番になった。早速コタロウがルーレットを回してゲームを開始する。


………

……


「キュー♪」


「たぬー♪」


 結果は一位がベル二位が俺三位がコタロウだった。コタロウは皆で遊べれば満足なようで、結果はあまり気にしていないらしい。


「たぬたぬ」


 コタロウは俺の服を引っ張ってもう一回やりたそうにしているが、今度は別のゲームをしてみよう。手軽なところでトランプを準備する。最初はババ抜きで遊ぶが、コタロウは顔に出やすかった。


 ババじゃな方を取ろうとすると。


「たぬ…」


 緊張した表情でジッとカードを見つめる。

 ババを取ろうとすると。


「たぬ♪」


 明らかに上機嫌でニコニコだ。

 分かりやすいがとても可愛らしい。


 ベルも空気を読んで、たまにわざとババを引いている。

 

 トランプで遊んでいると日が落ちてきたことに気が付いた。


「そろそろ飯にするか?」


 二匹とも賛成のようでその場で飛び跳ねる。俺は通販で料理を選ぶ。コタロウを見ると何だかお子様ランチが良い気がするけどな。…大人のお子様ランチっていうのもあるのか。たまにはいいか。


 大人のお子様ランチには、オムライス・キノコソースのハンバーグ・ホタテグラタン・エビフライ・サラダ・コーンポタージュ・抹茶プリンと美味しそうだった。個人的にはホタテグラタンが嬉しい。これ買うと高いんだよな。


 ポタージュと抹茶プリン以外は一枚のプレートにまとまって出てきた。皆でテーブルを囲んで料理を頂く。ホタテグラタンに手を伸ばすと、身がぎっしりでとても美味い。

 俺は気が付くとキレイに食べ尽くしていた。


 少しするとベルとコタロウも食べ終わった。コタロウは満腹になったことで眠くなったのか、うつらうつらしている。


「コタロウ寝る前に歯を磨くぞ」


「た…ぬ…」


 半分寝ているコタロウの歯を磨いてからベッドに連れて行く。その頃にはもう俺の腕で眠っていた。ダメだとは思いながらも頬っぺたをつつきたくなってしまう。何なら抱き枕にしたい感じの大きさだ。


「おやすみコタロウ」


 欲望を抑えながらベッドに置いて離れようとしたのだが、コタロウは俺の腕を掴んで離しそうにない。

 ベルと顔を見合わせて二人で笑ってしまう。俺とベルもベッドに入り寝ることにした。


「う、うん」


 しばらくは眠っていたのだが、早く寝たので途中で目が覚めた。部屋についている時計を見るとまだ午前三時だ。二度寝する気にもなれないし温泉にでも行くかな。


 コタロウの俺を掴む手が離れていたので、朝風呂に入るために温泉へと向かう。

 いざ温泉に入ったから感じたことだが、午前三時に広い温泉に一人で浸かるのはちょっと怖い。あまり鏡を見たくないので露天風呂に入ることにした。


 一人でゆっくりしていると色んな事が頭をよぎる。俺がいなくなった後はどうなっているのだろう?特に両親に心配をかけたり悲しませてしまっていないだろうか、友人や仕事の関係者はどうしているだろう。そんな思いが何度も思い浮かんでしまう。いっそ、俺の存在が皆の記憶から消えてくれている方がありがたい。


「弱いな俺は」


 未練や後悔があったのだろう。転生してあまり時間が経っていないためか、まだまだ昔のことを思い出してしまうらしい。


「キュキュ!!」


「たぬ!!」


 落ち込みかけていると突然ベルとコタロウがやってきた。


「お、おいどうしたんだ?」


「キュー!」


「たぬー!」


 二匹とも怒っているようだった。俺は突然のことで慌ててしまう。

 どうやら俺が黙って温泉に入った事が気に障ったらしい。二匹とも皆で一緒にいたいようだった。


「悪かったよ。今度は黙って行かないようにするから」


 謝った後にチョコを渡す約束もして何とか許してもらえた。機嫌が直った二匹は打たせ湯で遊び始める。

 さっきまで悲観的になっていたが、ベル達といるとそんな事を考えなくて済むらしい。今はベル達を見て楽しさで満たされて気分が上がってくる。


「そら」


 俺も打たせ湯に移動してお湯を二匹にかける。二匹は目をパチクリさせていたが、二匹で手を組んで俺にお湯をかけてきた。


「キュ♪」


「たぬ♪」


 俺達以外に誰もいないからできることだな。俺達は気のすむまで温泉で遊び、時間は四時を回っていた。

 部屋に戻ると皆で朝食を頂く。何だか気分がスッキリした気がする。今日は機嫌よく歩けそうだな。

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