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迷宮での幸運

 俺達は現在迷路の階層を進み続けている。

 今までの階層に比べると壁と言う制限があるため、俺は短剣をシェリルは鉄扇をメインに使っている。

 ただ、この階層は魔物よりも罠の方が厄介だった。罠がある場所とない場所の違いが分からないので本当にゆっくり進まなければならない。


 第六感を強化をしているがやはり限度はある。ラビリンスシェルの迷路は本当に迷路がメインで魔物は出てこなかったが、この階層は魔物にも気をつけないといけないから疲れてくる。それに惑わすだけじゃなく、殺す気の罠も多々ある。

 

 迷路・罠・魔物に対して気をつけないといけないから疲れてくる。第六感を強化しても対象が一つじゃないから猶更だ。


「これが十階分あると思うと気が滅入るな」


「同感だ。それでもこの階層を楽しめているコタロウたちは凄まじいな」


 ベルは周囲の警戒をしているからそうではないが、コタロウ・リッカ・ムギは迷路を楽しんでいる。分かれ道など選択肢が必要な場所だとどれが当たりかを、それぞれ考えていた。

 それでも走り回ったりせずに、しっかりと周りには注意しているから凄いと思う。


「まあな。どんな環境でも楽しめるのは相当な強さだよな」


 これは一種の才能だよな。俺一人だったらここでやめて帰りそうだもんな。いや、砂漠の時点で帰っているか。


 まあ皆と一緒なら何とか行けるかな。


 気持ちを切り替えてそのまま迷路を進んで行く。


「エサダ。ミツケタ」


「…何で今更ゴブリンなんだ?」


「この階層は今までの階層の魔物も出てくるんだ。もちろん階層特有の魔物もいるがな」


「まあいいけどさ」


 とりあえずゴブリンはあっさりと倒した。ドロップアイテムの魔石がやけに小さく感じてしまうな。


 簡単に倒せるのは良いのだが、こんなに下の階層まで来てゴブリンは思うところがある。だが、そんなことは言っていられないので倒しながら進んでいく。


「…ストップ。あの辺りに罠がある気がする。ベル頼めるか?」


「キュ」


 ベルが魔力を放出すると壁の一部が剥がれ落ちる。どうやらあの部分に罠があったようだ。


「これで進めるな」


 今回は何事もなく罠を抜けられた。だが、これと同じような場所が何ヵ所もある。七十階のボス部屋に着くまでに何度経験するのだろうか。


 罠を抜けた先は十字路になっていた。さて、どの方向に進むか。


「たぬたぬ」


「ベア」


「ピヨ」


 コタロウは右、リッカは左、ムギは真っすぐを指さしている。でもどれも違う気がするんだよな。


「どれを選ぶんだ?」


 悩んだ末に俺は来た道を戻る事にした。すると先程とは道が変わっていた。

 正解を外したコタロウたちは悔しそうだったが、次こそ正解してやる気とやる気十分だ。さらに、三匹はシェリルとベルも誘い始めた。

 少し悩んだがようだが、足を止めている時くらい気分転換もあった方が良いと思ったようで、次の場所からはシェリル達も勝負に参加することになった。


 そしてあまり時間が経たない内に七色の扉が現れた。扉は赤・青・黄・緑・茶・黒・白だ。早速皆が考え始める。


 その結果面白いことが起きた。皆が一斉に指を指したら、ムギは黄色の扉で俺を含む他の皆は白い扉を選んだのだ。


「ピヨ…」


 一人仲間外れのムギは寂しそうな感じだった。皆が慌ててムギを慰め始める。そんな中俺は一人ムギが選んだ黄色の扉を見つめていた。


「おい、貴様も声をかけてやれ」


「…」


「聞いているのか!」


 シェリルの声が少しだけ大きくなった。そこで俺は皆に声をかけた。


「よし!ムギの選択した黄色の扉に向かうか」


 この言葉に皆は驚いていた。


「黄色の扉が正解なのか?」


「いや、多分出口に向かうなら白の扉が正解だと思う。でも黄色の扉も何かありそうな気がする」


 俺は気をつけながら扉を開けて中へと入る。皆も続いて入ってくる。しばらく進むと行き止まりになっていたのだが、壁の前には宝箱が置いてあった。


 皆で宝箱を開けて中を調べるとランタンと短刀が入っていた。収納して能力を確認してみる。


 名前:導く鬼火

 ランタンの灯りをつけると、使用者の望む道を教えてくれる。


 名前:白夜(短刀)

 光魔法の威力をあげる。魔力を込めて攻撃することで相手から光を奪うことができる。


「ムギ、お手柄だぞ。お前の選んだ扉には一番欲しいお宝があったぞ」


 そう言ってムギの頭を撫でる。


「ピヨ///」


 先程までとは変わり一気に嬉しそうな顔へと変わっていく。そして、俺の後に続いてベル達もムギを撫で始める。


「そんなにいいアイテムだったのか?」


「ああ、出口まで導いてくれるアイテムだ」


「それはありがたいアイテムだな」


「それと光魔法の威力をあげる短刀だな。俺は光魔法が使えないからシェリルが使うか?」


「短刀か…」


 俺が短刀を取り出してシェリルに見せると悩みこんでしまう。するとコタロウが俺の服を引っ張ってきた。


「どうした?」


「たぬ、たぬ」


 コタロウが短刀を指をさして訴えている。

 多分短刀が欲しいのだろう。上手く持てるとは思えないが念力があるから多少は使えるだろう。それに光魔法はコタロウのメインの魔法だ。威力が上がるなら持っていた方が良い気もするけど。


 シェリルに目をやると、好きにしろと言いたげに微笑んでいた。結局俺は白夜をコタロウに渡すことにした。


「たぬ♪」


 コタロウは武器をちゃんとすぐに収納してくれたが、嬉しいのが見てわかる。


「…」


 ふと視線を感じるとベルがジーっと俺を見ていた。


「ベルも武器が欲しいのか?」


「キュ」


 ベルは首を横に振る。しかし何か物欲しそうにしている。


「他に何か欲しい物があるのか?」


「キュ」


 今度は首を縦に振る。そして植物を育てるジェスチャーをする。


「植物の種でも欲しいのか?」


「キュ!」


 両手で大きな丸を作る。


「いいけど、メイヤ婆さんの店と違って通販で買える普通の物しかないぞ」


「能力で買っている時点で普通ではないと思うがな」


 シェリルのツッコミは気にしないでおこう。

 ベルはそれで構わないようだったので、色んな植物や花の種を購入してベルに渡した。ベルは受け取るとすぐにアイテムボックスに収納したようだ。


「さてと、今日はもう休んでいいか?体力は大丈夫なんだが、感覚を強化しすぎて疲労感がヤバイ」


 便利なアイテムを見つけた安心感からか、疲労が一気に襲いかかってきて地面に座り込む。


「大丈夫か?スマンな負担をかけていたようだな」


「いや単なる緊張が解けただけだから気にしないでくれ」


 今日はもう終わりにするという事で皆で隠れ家へと入る。俺がベッドに横になり休んでいるとベル達もベッドへダイブしてくる。


 そしてそのまま俺へと寄って労うように撫でてきたり、体を擦り付けてくる。少し暑いがそれぞれの毛並みや感触が気持ちいい。

 

「羨ましい程貴様らは仲がいいな」


 シェリルはベッドに腰を掛けベル達を撫でている。


「それならシェリルも混ざろうぜ」


 するとシェリルは少し考えるそぶりをする。そして、撫でていたベルとコタロウを抱き寄せてからベッドに倒れこんだ。


「そうだな。私も混ざろう」


 いつもより全員の距離が近い。寝るときもシェリルは手を握ってくれているし、ベル達もすぐ側で寝ているのだが、今は皆が触れ合っている感じだ。


 多少暑苦しい気はするが、そんなことは小さな問題で気が付けば皆眠っていた。


ー翌日


 昨日は気が付くと夕方になっていた。皆で温泉に浸かり、夕食を済ませるとすぐに寝ていたらしい。ガッツリと昼寝をしていたのによく眠れたよな。


 そんなわけで今日は体調がすこぶる良い。気持ち的にも、昨日アイテムをゲットできたことで楽になっている。


 早速迷路の階層で使うことにした。


「このボタンを押せばいいのかな?」


 ランタンにはボタンが付いていたのでそれを押してみる。すると人魂のような炎が飛び出してきた。


「これが鬼火か」


 鬼火はふよふよと宙に浮いていた。そして俺が歩こうとすると出口の方向に鬼火が移動を始める。鬼火は常に俺から一定の距離の場所に浮いているようだった。


「こんどはこっちか」


 鬼火のおかげで迷うことなく進めるようになった。ただし、魔物や罠に関しては分からないので、これらに関しては俺達で注意をしながら進むしかない。しかし、正しい道考える必要がなくなっただけで凄い楽に感じる。結構、勘で正解を探すのも辛かったんだよな。


 ただ、コタロウたちは少々残念そうだ。正解を当てるのが楽しかったらしい。頑張ってくれているし、今度楽しそうなゲームでも用意するか。


 そんな事を思いながら鬼火の後をついて行く。出口に向かって進んでいるので宝箱を発見することは無かったが、まあそれは仕方がない事だ。欲をかき過ぎるとどうなるか分からないからな。


「それにしてもこんな便利なアイテムがあるんだな」


「ダンジョンでは常に新しいアイテムが生み出されるらしいからな。それに触発されて職人たちも新しい装備やアイテムを作り出してくれている。未知のアイテムはまだまだ眠っているぞ」


「それは面白そうだな。…ところで何かおかしくないか?」


「何がだ?」


 俺が感じた異変には誰も気が付いていないようだった。


「さっきから進んでいる気がしないんだが」


「道は変わっているような感じはするが」


「何ていえばいいのかな。一定の距離進むとまた戻されているような感じなんだよな。戻った際に道は変わっているようだけど」


「無限回廊の罠か」


「罠と言うより術者がいそうな気がするんだよな。ただ、どこにいるのかが俺も検討が付かない」


 皆が俺の言葉を聞いて周囲を調べてくれるがやはり分からなかった。


「う~ん。俺の勘違いか?」


 ここまで探しても何も無いので、俺は自分の勘違いかと思ってきた。しかし、それはシェリルが否定する。


「いや、その可能性は低いと思うぞ。ここまで高い的中率できたのだ。今回だけ完璧に外すとは思えないな。まあ術者ではなく罠の可能性くらいならあると思うが。それに魔物が全然現れなくなったのもおかしい。貴様の勘が当たっている証拠だろ」


「でも見つからないときついな。一度隠れ家に戻るか?」


「それはギリギリまで待っておけ。相手が人だったらバレるとまずいからな」


「了解。だけど少し休憩にするか」


「そうだな」


 俺達はランタンを消してその場に腰を下ろして休むことにした。しかし、足止めは喰らうのは面白くないな。何とか打開策を見つけないとな。


 そんな中、暇だったコタロウたちは石を滑らせて遊んでいた。ペタンクのように小さい石を目印にして、誰が一番近くに寄らせるかを競っているようだった。


「たぬ!」


「チュ!?」


 聞きなれない声に驚きコタロウたちの方を見る。するとコタロウが投げた石が一匹のネズミにぶつかっていた。


 ネズミは怒ったようにコタロウに向かって行く。

 しかしコタロウは冷静に結界を張り光魔法でネズミを撃退する。すると周りの風景が一気に変わった。


 俺もシェリルも唖然とした表情だ。


「はぁ?」


「今のネズミが術者だったようだな。貴様の勘や私やベルの探知から逃れるほど隠密にも長けていたようだが、素の戦闘力は最弱クラスだったみたいだな。コタロウの投げた石で正体を見せてしまう程だったからな」


 しかし、よく偶然ぶつかったな。…あれ?確かコタロウって幸運持ちだったよな。それが働いたかもしれないな。


「ところで今の魔物は何ていう魔物なんだ?」


「スマンな。今の魔物は私も知らないのだ。隠密性が高くてあまり見つかったことが無い魔物なんだろう。帰ったらギルドに報告するぞ」


 ギルドに報告するのは冒険者同士で情報の共有を行うかららしい。新種や珍しい魔物などを知らせることで冒険者の死亡率を少しでも下げようとしている。ただ中には情報を独占して稼ごうとする冒険者もいるらしいが。


「たぬ、たぬ」


 コタロウたちが何かアイテムを持ってきてくれた。あのネズミのドロップアイテムのようだな。

 …これってネズミが描かれた金貨だよな。


 名前:幸運の金貨

 金貨に魔力を込めると使用者の運が限界を超えて上昇する。使用するたびに色が黒くなる。真っ黒になるとこのアイテムは消滅する。(残り使用回数十回)


 ギャンブル用のアイテムだな。だがこれはこれで使う場面はありそうだ。

 昔だったら宝くじを買う前に使っただろうけどな。使用回数もあるし仕舞っておくか。


「ありがとな」


 皆を労ってから進み始めるのだが、ベルだけが後ろを向いて止まっている。どうしたのだろうか?


「ベル?」


 ベルは一度俺の方を向いてからまた後ろを向く。そして首を傾げてから俺の方に寄ってきた。


「何かいたのか?」


「キュキュ」


 ここでも首を傾げるだけだ。少し気になるが俺の勘もシェリルの探知にも引っかからない。ただ先程のネズミの件もあるので、後ろを警戒しながら進む事にした。


 またこんな能力を持っている魔物に襲われたら大変だからな。


 俺達は今までよりも警戒を強めながら順調に迷路を進んでいった。気を張っているため、休憩の回数は増えているが、それでもペースは速い方だった。


 そして気が付くと迷路の階層に入って二週間ほど経ち、現在は六十七階の途中で小休憩中だ。


「結構進んだけど。段々複雑になってきているし、この分だと後二週間以上はかかるか?」


「そうだな。六十七階は今日中に終わりそうだが罠の数や魔物の強さも上がってきているしな」


「しかし俺達は隠れ家とこのアイテムのおかげで進めているけど、普通の冒険者達はここをどうやって攻略しているんだ?」


「攻略する必要は無いのだろう。迷宮のダンジョンだけは入口に戻る事が可能だからな。宝箱や魔物の素材を手に入れるのが目的だろう。迷路は宝箱の数が多い上に、他の階層の魔物も出るからな」


「確かに攻略を考えなければ夢がある階層だな。ところでどうやって戻るんだ?」


「ああ、迷路のダンジョンだけは一つの階層に一ヵ月いると強制的に戻されるんだ」


 そんな機能があったのか。便利と思うべきか。


 とりあえず俺達は迷路の中を再び進んで行く。複雑になった道は、時に重力が反対になっとように天井を歩いたり、見せかけの壁なんてのもあった。だが一番大変だったのはミラーハウスだ。合わせ鏡で鬼火もどれが本物か分からず、一度皆バラバラになったりもした。召喚ができたからよかったが、できない場所だったら本当に危なかったと思う。


 そして何とか下に続く扉までたどり着けた。周辺は開けており、この迷路の中だと開放感を感じる。


「よし今日はここまでだな。速く下に降りようぜ」


 扉を開けて皆が中に入ると嫌な予感に襲われた。不味いと思って引き返そうとしたが遅かった。


 振り向くと暗闇に包まれて誰の姿も見えなくなっていた。

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