表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/92

新しい従魔

「朝だぞ。そろそろ起きろ」


「…おはよう」


「まだ目が覚めていないな。顔を洗ってこい。私は部屋に戻っているぞ」


 洗面所で顔を洗うと段々と目が冴えてくるが、若干気持ち悪い。昨日は結構酔っぱらったようだな。


「あれ?何か良い事があった気がするけど何だっけ?」


 プールでのラッキーハプニングは覚えているが、寝るときにも嬉しい事があった気がするんだけどな。

 思い出せないまま身支度を整えて元の部屋に戻る事にした。思い出せないのはしょうがない。


「おはよう」


「キュキュ」


「たぬ」


 部屋に戻るとベルとコタロウも既に起きていた。挨拶を済ませると、皆で卵に魔力を送る。


「大きくなっているよな?」


「そうだな。もうすぐ産まれるかもしれんな」


「たぬ///」


 愛おしそうにコタロウが卵を撫で始める。ベルも続くように卵を撫でる。本当に俺の従魔達は仲が良くて可愛いな。

 見ていて飽きないが、そろそろ朝食も食べないとな。


 卵を囲んでいるベルとコタロウ。そして卵も撫でてから朝食の準備をする。


「何を食うかな」


 酒も少し残っているしあまり重い物は食べたくない。

 うどんにでもするかな。ベル達には天ぷらをつければいいだろう。


「さあ飯にするぞ」


 呼びかけると皆が集まってくる。そして席に座り朝食を摂り始める。


「ベア、ベア」


「うん?」


 食べていると、可愛らしい声とズボンが引っ張られる感覚があった。視線を向けるとリッカが俺の足元でズボンを掴んでいた。


「はぁ!?」


 一度目線を外し、目を凝らしてもう一度目を向ける。


「ベア?」


 首を傾げて俺を見るリッカ。

 うん。間違いなくリッカが動いている。

 シェリルに顔を向けるとシェリルも茫然としていた。


「キュキュ?」


「ベアー」


「たぬ?」


「ベア♪」


「キュー♪」


「たぬー♪」


 ベルとコタロウは単純に仲間が増えて喜んでいる様子だった。


「なあシェリルこんな事ってあるのか?」


「まあ、死んだ人間が魔物化する事もあるからな。それに人形の魔物も確かに存在している。ただ普通は恨みなどの負の感情から生まれるからな。卵以外でこんな風に穏やかに生まれる魔物は私は初めてだ。ところでリッカは貴様の従魔なのか?」


 確かに名前も付けたからな。ステータスを確認しないと。え~と従魔にリッカの名前は…入っているな。どんな種族で能力だ?


 名前:リッカ

 種族:リビングドール

 主人:ジュン

 状態:普通

 魔法適正:氷魔法 人形魔法

 その他:傀儡 浮遊 念力 擬態 休息



「うん。俺の従魔だな。こんな感じの能力だ」


 ステータスをシェリルに見せると固まってしまう。


「…もういい、考えるのは止めだ」


 何かを諦めたようだ。とりあえずリッカは何かしらの理由で魔物になったんだな。


「でも魔物化した原因が分からないな」


「考えても正解は出ないだろう。ただ貴様のガチャは魔法の要素を含み、人形はそこから作られている。さらに魔物も生まれているダンジョンに近い要素を持つこの空間。それに卵に魔力を込めるときにいつも側にいたから多少の魔力が流れていたのかもしれんな。それらが偶然重なって生まれたのかもな。同じ条件を揃えても生まれるとは思えないが」


「そうか。でも従魔になったならもう仲間だからな。一緒に頑張っていくか」


「そうだな」


 楽しそうにしている三匹に目を向け、リッカに声をかける。


「リッカ、これからよろしくな」


「ベア♪」


 喜びの声と共に飛んできたリッカを受け止める。それに続くようにベル達も飛び込んでくるから大変だった。


 少しの間慌ただしかったが、落ち着くと朝食の続きをとる。少し冷めたが、誰も文句は言わない。リッカも料理を食べられるようで美味しそうに食べている。


「ところでリッカの人形魔法と傀儡はどんなことができるんだ?」


 食べ終わってリッカに聞いてみると、リッカは皆を外に連れ出す。


 外に着くとまずは傀儡の能力を見せてくれた。


「ベア」


「たぬ!?」


 リッカの手の動きに合わせてコタロウが動く。良く見るとコタロウから糸が見える。これで操っているようだ。

 

「複数人を操る事もできるのか?できるなら俺に使ってみてくれないか」


「ベア」


 頷くと今度は俺の手が勝手に動いた。これが操られる感覚か。

 試しに抵抗してみると、体は重いが自分の意思で動かせる。


「複数人同時に操ると精度が落ちる感じか」


 コクンと頷く。そして俺とコタロウから糸を外す。今はこれくらいでも力をつければ凄い武器になるなこれは。

 そして次は人形魔法を見せてもらう。 


「ベア」


 リッカの周りに数体のテディベアが現れる。剣を持っていたり魔法使いの格好だったりと様々だ。そしてそれぞれが動き始める。魔法も一体につき一種類だが使う事が出来ている。

 そしてさらにリッカは一鳴きする。

 

「ベア!」


 人形たちが光り出し動きや威力が上がっている。戦闘人形を出すだけでなく強化もできるようだ。


「すごいなリッカ」


「確かにこれは素晴らしいな」


「キュキュ」


「たぬ」


「ベア///」


 皆に褒められたリッカは照れていたが、人形魔法はまだ終わりではないようで別の人形を召喚した。

 今度の人形は三体で何も持っていない。何をするのかと思っていると急に透明になりいなくなった。

 

「おお!?」


 さらにリッカがステータスプレートのような物を出現させる。そこには宿の中が映し出されている。


「偵察用の人形か?」


 俺の質問に頷くと、映像を切り替えて今度はプールが見える。

 これは戦闘人形より凄いな。ただ、誰かに見られると危ないかもしれないな。


「リッカ。この能力は凄いが使うのは俺かシェリルが指示した時だけにしてくれ」


「ベア」


 俺の言葉を聞いたリッカは偵察人形を戻してくれた。

 素直な子で良かった。バレると変に勘繰る奴が出てきそうだからな。

 これで終わりかと思ったがまだあるようだった。今度はキーホルダー程度の小さい人形だ。動くことも武器も持っていない。


「ベア」


「私か?」


 俺に人形を渡すと、リッカはシェリルを連れて宿の中に入っていった。

 何か考えがあるのだろうと思って待っていると、手に持っている人形が急に喋り出した。


「聞こえるか?」


 その声はシェリルの声だった。人形の口が開きシェリルの声で喋っている。


「ああ聞こえるぞ。そっちはどうだ?」


「問題ないな。今度は映像を送るぞ」


 すると、先程リッカが出していた画面が現れる。画面には海が映っていた。


「今海にいるのか」


「まあな」


「こっちの映像もそっちで見られるのか?」


「人形の見ている映像が映る。人形を持って念じるだけでいい」


 言われた通りに映像と念じてみる。


「問題なく映っている。これから戻るぞ」


 すぐにシェリルとリッカは戻ってきた。この人形は一度作るとそのままらしいので、全員分作ってもらおうかと思ったが一日二つまでしか作れないらしい。とりあえず、俺とシェリルが持つことにした。


 その他にリッカは身代わり人形と呪い人形を作れる。身代わり人形は一定以上のダメージを代わりに受ける人形で、呪い人形は人形に攻撃すると本体にダメージを与える物だ。どちらも髪の毛や爪などが必要になるらしい。だが、今のリッカでは上手く使えないようだった。


 大方の能力を紹介してもらったので、一度海へと向かう。そしてセラピードルフィンとリッカの顔合わせを行う。


「キューイ♪」


「ベア♪」


 問題が無いようだ。また後日遊ぶことを約束してから部屋へと戻る。さて、このあとはタコパが待っている。


 道具や材料を用意すると、ベル達はジッ眺めてソワソワし始める。笑いそうになりながらシェリルと準備をしていく。


「それじゃあ作り方を説明するからな」


 説明と実演をしていると、三匹とも真剣に見つめており、ひっくり返すと拍手をくれるのでちょっと照れてしまう。


 出来上がったたこ焼きを皆に配るとすぐに食べるのだが、熱かったらしく飲み込むのに時間がかかっていた。それでも食べ終わるとお代わりを要求し始める。


「材料は用意したから、適当に好きな物を入れてくれ」


「こっちはフルーツやチョコ等の甘い物だぞ」


 俺の方は普通のたこ焼きで、シェリルの方はベビーカステラだ。

 目を輝かせながら好きなものを入れていく。ベーコン・チーズ・ぎゅうすじ・エビ・イカ・明太子・ツナマヨ。甘い物だとチョコ・マシュマロ・バナナ・クリームチーズなどが入れられていく。

 それらを焼いていざ実食だ。


 それぞれ適当に食べ始める。俺も選んだたこ焼きを一つ口に入れる。


「熱っ」


 焼きたてなどで熱々だ。気になる具材はエビだった。プリッとした身が美味い。続いてベビーカステラをいただく。中身はマシュマロだった。チョコソースをかけて食べると、この前食べたスモアに近い物を感じる。

 

 他の人の反応が気になるので、ベル達の顔を見ると満足そうにしていた。口に合ったようだ。そのため一回目に焼いたものはすぐに無くなり、二回目の焼きに入る。

 

「たぬ、たぬ」


 するとコタロウがひっくり返したそうにしていたので任せることにした。念力で道具を操り上手に行っていく。たまに焼き過ぎな事もあるがそこは俺の方でフォローしていく。そして見事に焼き上げた。

 一つ食べると具材はホタテ。食べた事が無かった具材だが普通に美味かった。


「上手に焼けたな」


「たぬ♪」


 褒めると喜び嬉しそうにする。シェリル達も褒めるとコタロウは照れたように体をよじらせていた。

 無くなったら再び焼き満足するまで食べ続ける。


「リッカ、美味しかったか?」


「ベア♪」


 リッカも楽しめたようだった。食べ終わるとベルとコタロウと一緒に遊びだす。仲が良くて何よりだ。

 俺はテーブルを拭いて後片付けを行う。


「中々美味かったぞ。色んな具材に合うのだな」


「俺もここまで種類を揃えたことなかったから驚いたよ」


「夕飯も期待しているからな」


「…頑張るよ」


 何しようかな。たこ焼きも結構食ったし、明日からは探索だから程々にしないとな。揚げたての天ぷらを食べたいけど明日に響くだろうし。…まあ後で考えよう。


 片付けを終わらせるとベル達に合流する。昨日とは違い、トランプやボードゲームで時間を過ごす。


 初めて遊ぶリッカが一番楽しそうにしている。明日からはまたダンジョンの探索を頑張らなければいけないから、俺も今の内に楽しませてもらおう。


 笑い声が響く中で時間が過ぎていく。気がつくと日も沈んできた。


「そろそろ終わりにするか。飯の前に温泉に入ってくるか」


「ベア?」


 リッカは温泉を分かっていないようなので、ベルとコタロウが説明する。説明を聞いたリッカは楽しそうな表情を浮かべていた。


「ベアー!!」


 温泉に着くとその広さに驚いていた。海とプールに連れて行ったらどんな反応するか気になるな。

 走ろうとするリッカを捕まえて、まずは体を洗いに行く。


「ベア♪ベア♪」


「暴れるな。洗えないだろう」


 洗っているのだが、くすぐったいようで手足をばたつかせる。機嫌は良いからいいけど洗うのも一苦労だな。


 何とか洗い終わるとベルとコタロウがジッと俺を見ていた。これは洗えという事なのだろう。シェリルは隣で体を洗いながらこちらを笑ってみていた。


 最近は一緒に入ることが当たり前になってきたからこの光景にも慣れてしまったな。


「モテモテだな」


「まあ嬉しい事だからいいけどな」


 ベルとコタロウを洗い始めるが、リッカの真似をして手足をばたつかせている。苦戦しながら洗い終わると今度は三匹で俺の体を洗い始める。


「ちょっとやめろ、わざとやっているだろ。アハハハ」


 きちんと洗っているのだが明らかにくすぐっている三匹。俺は笑いをこらえきれない。洗い終わるころには疲れ切っていた。


「何で温泉で疲れているんだ俺?」


 そう呟きながら露天風呂に浸かる。隣のうたせ湯から声が聞こえるので、目を向けるとベル達が遊んでいる。


「本当にいつも元気だな。リッカもすぐに馴染んでいるし」


「いいじゃないか。従魔同士でギスギスするより、仲良く遊んでいる方が微笑ましいだろ」


「まあな。でもこの先、卵も孵るとどれだけ賑やかになるんだろうな」


「案外今と変わらないんじゃないか。ところで貴様はどんな従魔が欲しいのだ?ゴブリンが産まれる事を心配していたが」


 そう言われて俺は少し考える。個人的には移動できる大型の狼や馬も憧れるな。でもそうすると、この宿の中で一緒に遊べないよな。


「悩むな。以前なら馬や狼が欲しかったけど、今はアイツ等と遊べる魔物が良いな。猫とか丁度いいかもな」


「貴様は可愛い従魔に縁がありそうだから本当になるかもしれんぞ」


「そうだと嬉しいな」


 どんな魔物が産まれるかは分からないが、楽しみに待っておこう。

 それからしばらく温まったところで温泉から上がる。


 部屋に戻ると皆で夕食だ。夕食は簡単にオムライスとサラダとスープにした。食事中も賑やかなままだ。ケチャップを口まわりに付けたり、何回もお代わりを要求していた。


 そんな食事も終えると後は寝るだけだ。ベッドには三匹がすでに寝転んでいる。あれほど賑やかだったのに、スイッチが切れたかのように静かに眠っている。


「お休み」


 軽く頭を撫でてから俺も横になる。さてと、明日からまた頑張るかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ