プールで遊ぼう
砂漠の階層を抜けた翌日、俺達はいつも通りに朝食を食べていた。
苦手な場所が終わった事もあり俺の心は楽になっていた。
「それで今日は何をするんだ?」
「キュキュ」
「たぬぬ」
シェリルの質問にベルとコタロウが目を輝かせて答えを待っている。
俺は少し考える。海もいいがここ最近はずっといるからな。プールで遊ぶ方が良いかもしれないな。少ししか見ていないが、飛び込み台やウォータースライダー、流れるプールもあったよな。
「今日はプールで遊んでみるか。海とは違った楽しさがあるぞ」
「キュ♪」
「たぬー♪」
ベル達も乗り気なのでそのままプールへと向かう。
まあベル達はどこでも楽しんでくれそうだけど。
「海とは違って色々置いてあるのだな」
「遊ぶための施設だからな。結構楽しいぞ。流れるプールを浮き輪でゆったりするのも案外気持ちいいし」
「よく分からんが楽しませてもらうぞ。ところで着替えはどこでするのだ?」
「更衣室っていう着替える部屋があるからそこでだな。え~と、女性用はあそこだな」
周囲を見回すと更衣室を発見したので、シェリルをそこに連れていき説明する。
俺も男子更衣室で水着へと着替える。そこで思ったが、別に俺達しかいないんだから更衣室に入る必要はなかったな。
「それに俺達しかいないのにこの広さは無意味だよな」
広い更衣室の中で俺だけが着替えをしている。
贅沢というよりは寂しさを感じてしまう。なので着替えをさっさと済ませてベル達が待っているプール前に向かう。
「キュ、キュキュ」
「たぬ、たぬ」
プールの前ではベルとコタロウがラジオ体操をしていた。どこで覚えたかは疑問だがプールに入る前に体操するのは良い事だ。
俺も一緒になって体操を始める。
それから少しするとシェリルがやってくる。
相変わらずの美貌だよな。ここが日本だったらナンパの嵐だな。
「待たせたな。ところで何をしているのだ?」
「準備体操だ。シェリルもやっておいた方が良いぞ。やらないと足をつったりするからな」
「そうか。なら私も混ぜてもらうか」
体操が終わるとまずは流れるプールに向かう。
プールはドーナッツのような形で、途中に何か所か上がれるように階段が付いている。
色んなタイプの浮き輪も近くに置いてあったので、適当にプールの中に放り込んでおく。
「キュキュキュ♪」
「たーぬー♪」
ベルは流れている浮き輪の上を飛び跳ねて移動し、コタロウはボート型の浮き輪に乗ってベルを追いかけているようだった。
俺はマット型の浮き輪の上で寝転ぶ。揺られるのが心地よい。
「隙だらけだぞ」
「!?」
シェリルの声が聞こえたかと思うと、マットが横転してプールに投げ出される。どうやら下からマットを持ち上げられたようだ。
「危ないじゃないか」
「無防備な貴様が悪い。それに遊ぶつもりで来たのに、貴様がそれでは私が退屈になるだろ」
ムスッとした表情で言われると言い返しにくい。
ベル達がいるじゃんと思うが口には出さない事にした。
「悪かったよ。でも初めから飛ばすと後がキツイぞ」
「一日中遊んでも問題ないくらいに体力はあるから心配するな」
それなら何をしようか考えているとベルとコタロウの声が聞こえてきた。もう一周してきたらしい。
二匹に目を向けると俺は驚いてしまった。
「キュー、キュ!」
「たぬ!」
二匹は戦車型の浮き輪に乗っていた。ベルの指示でコタロウが操作をしている。
そして砲塔が俺の方に向くと水が飛んできた。
「うぉ!?」
最近の浮き輪には放水機能も付いているのかよ。
そして少し前にも同じことをされた気がするんだが。
「やられてしまったな」
隣でシェリルは笑っていた。ベルもコタロウも楽しそうにしている。
俺は顔を拭いてからベル達に近づいた。
「これどうやって放水したんだ?」
「たぬぬ」
覗いてみると水鉄砲が付いていた。これで水を下から吸い上げて放水していたのか。
結構色んな浮き輪ができているんだな。
俺達も戦車型や他の浮き輪を使いながら数周の間楽しんだ。
全員で戦車型に乗って水をかけあったり、マット型の上で誰が最後まで残れるかを競い合ったりと童心に返っていった。
数周遊び続けて大分満足したので次の場所に移動する。
次はウォータースライダーだ。何種類か置いてあるので色々と試すつもりだ。とりあえず一番近い所に移動する。
「これは滑るだけか?」
「ああ。単純だけど面白いぞ。それと基本は一人ずつ滑るからな。このランプが青になったら滑ってもいい合図だ。ダメな時は赤く光っている。あとは滑り終わったら横に避けるようにしてくれ。その場所に留まると次の人とぶつかるかもしれないからな」
簡単に説明をするとコタロウがさっそく滑り出した。
「たぬー♪」
声が段々と小さくなり、下のプールから水しぶきあがるのが見えた。そしてコタロウはすぐにプールから上がると走ってこちらに向かってくる。
「キュキュ♪」
すると今度はベルが滑り始める。ベルは小さいので視力を強化して下にプールに着いたのを確認した。
ここのランプはベルの大きさでも作動していたので安心した。
「次はシェリルが行くか?」
「そうだな。先に行かせてもらうぞ」
シェリルが滑り出し下に着いた後に俺も滑り出す。
このウォータースライダーは青い筒状の物で滑り始めると先が見えない。そして急に角度が付き一気に加速していく。
「うぉー♪」
それなりのスピードが出て着水する。久しぶりの感覚だったが楽しいと思ってしまう。
「スッキリした顔をしているな」
「何だ待っていてくれたのか」
シェリルはプールサイドに立っていた。俺もプールから上がり側による。
「他にも何種類もあるのだろう。中々スリルがあって楽しかったが他の場所も体験したいからな」
「それじゃあ、次にベルとコタロウが来たら移動するか」
その場で待っているとコタロウの声が聞こえてきた。
「たぬー♪」
滑り終わったコタロウは上機嫌だ。また登ろうとしたので一度引き留める。
「コタロウ。次は別のウォータースライダーに行くぞ」
「たぬ…たぬ♪」
一度他のウォータースライダーを見回してから上機嫌に頷いた。
そしてベルも滑り終わり、コタロウと同じようにまた登ろうとしたので引き留めて説明をする。
その間シェリルはクスクスと笑っていた。
「次は皆で滑るタイプのウォータスライダーに行くか」
幅が広いウォータスライダーを見つけたので行ってみることにした。予想は当たり、上には二人乗り以上のボート型の浮き輪が置いてあった。
皆でボートに乗り込み滑り出す。一人とは違った楽しさで勢いよく滑り出す。先程とは違って景色も見ながら滑っていく。カーブの所で乗り上げそうになったりするが、そのスリルがまた楽しい。
下に着くと、ベルとコタロウがもう一回滑ろうとねだってきた。シェリルと顔を見合わせて頷くと、もう一度滑るために登っていく。三回滑ってからまた別の場所へと向かう。
今度は足元の床が抜けるタイプの物だ。本来は係員がボタンで操作するが、ここでは指定の場所に立つとカウントダウンが始まる。ゼロになると床が開いて滑り始めるのだが、角度がキツく、かなりのスピードがでる。すぐに下まで着くのだが床が抜ける感覚にこのスピードは中々のスリルがある。
「たぬ!?」
説明はしたのだが、驚いた顔のコタロウが忘れられない。まさに青天の霹靂といった感じで落ちていった。俺もシェリルも心配したが、再び上機嫌で駆け上がってきたので安心した。
でも落ちるたびに何度も同じ表情をしていた。
その次は最後に下へと落っこちるタイプだ。初めは普通のウォータースライダーなのだが、終着点がドーナッツのように真ん中に穴が開いている。滑っていると最後は穴にたどり着いて下のプールに落ちてしまう。これもまた違ったスリルがあって楽しかった。
こちらはベルが心配だったが、本人はやる気満々の上シェリルもこれくらいの高さなら問題ないと言うのでやってもらった。
「キュキュキュ♪」
俺の心配は杞憂で普通に楽しんでいた。俺の従魔達は見かけ以上に頑丈だから当然と言っちゃ当然か。でも心配になるんだよな。
流れるプールに四つのウォータースライダーを滑ったところでお昼になった。
近くの休憩スペースに向かい、焼きそば・たこ焼き・ホットスナックなどを用意する。
「キュキュ♪」
「たぬたぬ♪」
勢いよく唐揚げやたこ焼きを食べだすベル達。食い尽くされそうなので俺もシェリルも食べ始める。
冒険の後の飯も美味いけど、遊んだ後の飯も美味い。
食べ終わった後は少しの休憩だ。ベル達は遊びたそうにしているが、そこは止めさせてもらった。
「ところで明日の予定はあるのか?」
退屈なのかシェリルが話しかけてくる。
「明日はまた料理でもしようかなと思ってる。色々料理は考えていたけど、このたこ焼きを作るのも面白そうなんだよな」
「作れるのか?」
「専用の道具はあるからな。中身も変えられるから面白いぞ。甘いお菓子風の物もできるしな」
「それは美味しそうだな」
「たまにハズレの具材を使って人に食べさせたりするのも楽しみの一つだぞ」
「そうか。それは良い事を聞いたな」
シェリルがニヤッと笑ったように見えた。…余計な事を喋ったかもしれない。明日は別の料理にしようかな?
それから一時間ほど休憩を取ったので、再びウォータースライダーに向かう。午後の一発目は複数人で競争できるタイプの物だ。コースは真っすぐで単純だが、皆で競争というのは楽しく感じる。それに最初はこれくらい緩い方がありがたい。
「キュキュ♪」
「たぬ♪」
競争関係なく何度も繰り返し遊んでいる。他より短いので、すぐに登れるのが良いらしい。満足したところで次の場所に向かう。次は円形のボートで滑るタイプだ。皆でボートに乗り込み滑っていく。幅が広くボートが回転するので後ろ向きに滑った感覚もあり面白い。
それにしても、これだけプール遊んだのは何時ぶりだろうな。高校以降は部活や勉強で忙しかったからな。就職後に行くことも無かったし、マジで二十年ぶりくらいかもしれないな。
そして次は俺が楽しみにしていた物だ。最後がジャンプ台になっているタイプだ。角度なども数種類ある。
一番手はコタロウだ。勢いよく滑り出した。
「たぬー♪」
最後は喜びの声と共に飛んでいった。勢いよく水しぶきがあがり、今回もまた駆けて戻ってくる。
次はベルだ。こちらも勢いよく滑り出し最後は大ジャンプ。よく見ると何回転も決めていた。
プールから上がったベルは、俺が視力を強化して見ているのが分かったようで、こちらにポーズを決めていた。余程嬉しかったんだな。
「次は貴様が行ったらどうだ」
「いいのか?」
「貴様は顔に出やすいからな。他の時より興味を持っているのが丸わかりだ」
そんなに顔に出ているかな?でも興味があるのは事実だし、お言葉に甘えさせてもらおう。
「それじゃあ遠慮なく」
頭から滑り出す。結構スピードは出ておりジャンプする。そのまま前宙を決めて着水する。
あー気持ちいいな。
プールから上がるとシェリルが滑るのが見えた。俺と同じく頭の方から滑り出す。だけどジャンプ後に一回転してキレイに頭から着水していた。俺とは比べ物にならないな。
そのまま潜水して俺の方に近づいてくる。
「どうだ見事だっただろう?」
そう言いながら立ち上がるシェリル。だけど俺はこの時シェリルの言葉を聞いていなかった。着水の衝撃で上の水着が外れていたからだ。
「どうした?何か言ったらどうだ」
本人はまだ気づいていない。俺も目が離せずただ固まっていた。
「黙ってどこを見て…い…る」
時間が止まった気がした。シェリルは顔を赤くして片手で胸を隠し、もう一方の手を振り上げる。
パチンッと音が鳴り俺の頬には赤いモミジができた。
「別の水着を出せ」
「はい」
ワンピースタイプの水着を渡すとシェリルは着替えに行く。俺は反省も込めて戻ってくるまでベルとコタロウの大ジャンプを眺めていた。
「貴様はもう遊ばんのか?」
戻て来たシェリルは不思議そうな顔をしていた。
「いや、さっきの反省で…」
「思い出させるな///それにもう済んだことだ。今日は楽しむための日なんだから楽しんでこい」
呆れた口調だが表情が柔らかい。その言葉を受けて俺はありがたく遊ばせてもらう。
(責任は取ってもらうがな)
「何か言ったか?」
「何でもない。さっさと行くぞ」
それから何度か飛んだところで別の場所へと移動する。ウォータースライダーはまだあるが、そろそろ別な物も良さそうなので水上アスレチックに向かう。
水上アスレチックは、とある筋肉の番組の出てくるコースを思い出させる作りだ。ベルやコタロウだと動かせないような物もあるので皆で進んで行く。
ジャングルジムや滑り台などの公園系の遊具もあり、子供でも楽しめるコースもあった。
「先程までと比べると穏やかだな」
「それでもジャンプしたり腕力で移動したりするけどな」
そう言いながら俺はコタロウとロープにぶら下がり勢いをつけてプールにダイブして遊んでいる。ベルはジャングルジムのてっぺんを陣取り、シェリルは滑り台の上から俺達を眺めていた。
一通りアスレチックを楽しみ、最後は普通のプールに向かう。普通のプールといっても定期的に波が発生するプールでたまに高い波も出てくる。
コタロウとベルはビート板を使って奥へと向かっていく。
俺達は大きめのマット型の浮き輪に乗りゆっくり話をしている。
「あいつら見ていると遊園地にも連れて行きたくなるな」
「それは何だ?」
「遊ぶための施設で、ウォータースライダーよりも速い乗り物や高いところまで見渡せる乗り物とか、色々楽しめる物が多い場所かな」
「そうなのか。いつか見てみたいものだな」
「このプールがあるくらいだからな。ダンジョンの宝箱を開けている内に見つかるかもな」
「そうだな。ベルとコタロウに期待するか」
笑いながらベル達を見ると、丁度波が発生して俺達の方に流されてきた。
「キュキュー!?」
「たぬー!?」
流されてきた二匹をキャッチして一緒に波に揺られる。並が収まると再び二匹は再びビート板で奥へと向かっていく。そうこうしている内に時間も過ぎて俺達はプールを後にすることにした。
「いやー、楽しかったな」
「キュキュ♪」
「たぬ♪」
二匹は俺の言葉に頷き、また来たいというようなジェスチャーをしている。
「気に入ったようだな。また一段落したら今日のように遊ぶのもいいだろう」
「そうだな。とりあえずこの後はシャワーで体を洗ってから温泉に行くか」
俺達は着替えを済ませると、冷えた体を温泉で癒すことにした。いつもは泳ぐベルとコタロウも遊び疲れたのかプカプカと浮かんでいるだけだ。
温泉から上がると久しぶりに宿の部屋に戻る。ちなみに卵とリッカも連れてきている。
部屋で食事をしていると、ベルとコタロウはすぐに眠ってしまった。なので俺とシェリルは書き置きを残して隣の部屋で二次会を開始する。
「いい肉だな。とても美味い」
「そうだろ。奮発したからな」
プレートを二つ用意して焼き肉をしている。片方は塩、もう片方はタレ用で分けている。夕飯に食べるために大量に買ったのだが、ベルもコタロウもすぐに眠ったため余ってしまったのだ。まあ。いつでも買えるからベル達とはまた今度食べればいいだろ。
牛タン・ロース・カルビ・ホルモン・豚トロ・ジンギスカン・ラムチョップなどを自由に焼いて日本酒と一緒にいただく。シェリルも口に合うようでパクパクと食べていく。他愛のない話をしていたのだが、俺も疲れていたのかいつもより早く酔いが回ってきた。
「何だ眠そうだな」
「俺も疲れていたみたいだな。酔いが回ってきた。スマン、俺もそろそろ寝るよ」
欠伸をしてベッドへと向かう。こんな時にも使える清潔の指輪はありがたいな。
「ふむ。一人で飲むのはつまらんからな。私も寝るか、私にも魔法を頼む」
魔法をかけて汚れや臭いを落とすと、シェリルもベッドに入ってきた。そして、正面から抱きしめられた。
「!?」
「頑張っているから褒美だ。昼の件もあるから必要ないとも思ったが、あれは別カウントにしてやろう」
ラッキーと思ったが疲れと酔いで眠気が強い。こんなご褒美が待っているなら酒はもう少し抑えたのに。