ダンジョン進行中
「よく眠っているな」
「確かにな」
寝ているベルとコタロウを軽く撫でる。
俺達はベルとコタロウが眠っているのを確認して、見張りのために外に出る。
外では他の冒険者達も焚火をして見張りをしていた。
「なんか新鮮な気分だな」
「普通の冒険者なら当たり前なのだがな」
夜食にはハンバーガーとフライドポテトにオニオンリングを用意した。
それらをつまみながら焚火にあたり、他愛のない話が続いていく。
「格別に美味いわけではないが手が止まらないな」
「分かるな。俺はこのオニオンリングがもっと食べたいと思ってしまうしな」
「この辺の食べ物はベル達も好きそうだな」
「夜食として差し入れしておくか」
冷めてしまうのはしょうがないか。
交代の時に皆の分を用意してルーミスさんとベルに渡しておこう。
「…ところですまなかったな」
突然シェリルが神妙な顔持ちで謝ってきた。
一体何の事だ?
「どうしたんだ急に?謝られる事なんてあったっけ?」
「昼間の事だ。貴様がナンパしたと思ってつい」
別に気にすることないけどな。
「なぜニヤニヤしている」
自分でも気が付かないうちに笑っていたようだった。
「いや嫉妬でもしてくれたのかと思って」
「調子に乗るな///貴様が女に現を抜かすと進行に遅れが出るからだ」
「痛ッ」
頭を軽くはたかれてしまった。
この話はここで終わりにしておいた方が良さそうだな。
「ところで“大樹の祝福”の四人って強いはずだよな。でも緊急依頼の時っていたっけか?」
「“大樹の祝福”はダンジョンで活躍しているBランクのパーティーだったはずだ。恐らくだが、ゴブリンの集団発見時もダンジョンに潜っていたために連絡が付かなかったか、街の防衛に当たっていたんじゃないか」
「なるほど。というか“大樹の祝福”を知っていたんだな」
「半年ほど前から名前は聞いていたな。ただ、ダンジョンにいることが多いから顔までは知らなかったがな。ところで貴様はこの場所で気になる冒険者はいるか?」
シェリルの質問に俺はまじめな顔で返答する。
「あの三人組かな。あっちの焚火の前で刀を持って座っている爺さん、堂々と大の字で眠っている女性、木の下で立ったまま寝ている口だけ仮面を着けている男かな。他にもベテランっぽい人達と、隙あらば盗みでもしようとしている小悪党もいるけど」
特にあの爺さんが妙な迫力あるんだよな。寝ているか寝てないかすらよく分からないし。
「そうだな。今の三人と“大樹の祝福”が頭一つ抜けている感じだ。何かしてくるタイプではなさそうだが、念のために気を付けておけよ。テントを出してからたまに見られているぞ」
「そこまでは気が付かなかった。気を付けるよ」
「そうしてくれ」
その後も話をしていると、いつの間にか交代の時間になっていた。
テントからルーミスとベルが現れて声をかけてきた。
「お疲れ様。交代に来たよ」
「キュ♪」
二人とも夜なのに元気いっぱいだった。そんな二人にハンバーガーとポテトを人数分用意したことを伝えて、俺達はテントに戻って休むことにした。
………
……
…
「たぬたぬ」
体を揺すられ目を開けると、目の前ではコタロウが俺を揺すっていた。
そのままコタロウを抱きしめて体を起こす。
「おはようコタロウ」
「たぬ」
挨拶すると、元気に手を上げて挨拶を返してきた。そして俺から離れるとベルとシェリルを起こし始める。コタロウは朝から元気だな。
俺は外の空気を吸うためにテントの外に出た。外ではシャロンさんが焚火の片づけをしていた。
「おはようございます」
「ジュンさん、おはようございます。よく眠れましたか?」
「おかげさまでゆっくり眠れました。コタロウは迷惑かけませんでしたか?」
「大丈夫ですよ。先程まで張り切って見張りを一緒にしてくれました。機会があればまた一緒にお願いしたいです」
「それなら良かったです」
シャロンさんと話をしていると、シェリル達も“大樹の祝福”の残りのメンバーも外に出てきた。
全員で挨拶を交わして軽く立ち話をする。
「ところで、夜食は口に合いましたか?」
「「「「夜食?」」」」
「「…」」
俺の質問に対して首を傾げる四人と、顔色が変わっていく二人。この時点で何となく察してしまった。
二人で全部食ったのだろう。
「この食べ物を全員分用意したんですけど」
こっそり通販でハンバーガーを購入し、首を傾げた四人に渡す。
「美味しいですね。でも私達は食べていませんね」
「たぬ」
シャロンさんとコタロウはレベッカさんとガーネットさんを見る。
「私達も今初めて食べたわ」
「こんな夜食を用意してもらっていたら、まず朝に礼を言うしな」
「そうなると残るのは」
シェリルの言葉で皆の視線はルーミスさんとベルに向かう。
「ベル」
「ルーミス」
「キュ~」
「ごめんなさい」
俺とレベッカさんが声をかけると二人は観念したかのように頭を下げた。
理由を聞くと手が止まらなかったという単純なものだった。初めはキチンと残すつもりだったらしいが美味しくて気が付いたら無くなっていたらしい。
「ベル。今回は注意で済ませるけど、次やったらしばらく飯抜きだからな」
「キュ~」
「皆にキチンと謝ってこいよ」
俺も次は書き置きでも残しておこう。
ベルはその後、コタロウや“大樹の祝福”に謝りに行った。皆優しくベルの事を許してくれたのだが、ルーミスさんはコタロウ以外からは許されなかったようだ。常習犯だったらしい。
「ごめんなさいね、食い意地が悪くて」
「いえ俺も書き置きでもしておけばよかったですし」
この件はこれで終わりという事にして朝食の準備に取り掛かる。
大勢の冒険者が近くにいるので、ダンジョン内で手に入れた肉や野草を調理することにした。
あく抜きが必要ない野草もあるので、肉と一緒に炒めて食べることにした。肉の切り分けや炒めるのはコタロウが張り切っていた。
「「「「…」」」」
料理をする従魔が珍しいのか注目の的となっている。“大樹の祝福”以外の冒険者達もコタロウを見ている。
とりあえず視線を無視して食事を済ませるとそれぞれ今日の準備を始める。
「ところで貴方達は今日はどうするの?」
「俺達は試練の部屋を攻略するつもりです」
「そう、気を付けてね。私達はしばらくはこの辺で狩りをしているわ。また会いましょう」
挨拶をしてから俺達は別れて進みだす。
「今回の魔物は何が来るんだろうな」
「貴様は何が来ると予想する?」
「人狼かリザードマンあたりかな。もしくはアーミーベアの変異種か上位種とか」
「どれも可能性はあるな。ランク的にはそれくらいだろう。よく出る魔物は疾風狼だからな。人狼の可能性が高い気がする」
いつも通り扉の前で小休憩を取ってから中に足を踏み入れた。
魔法陣が光り魔物が現れる。
「大蛇か」
「ああ大蛇だな」
出てきた魔物は大きな蛇だった。それこそアーミーベアでも一飲み出来そうな大きさだ。
「デカすぎないか」
「大きさもそうだが、蛇は魔法耐性も高いから気をつけろ。単純な力や速さはミノタウロスの方があるだろうが油断はできんぞ」
「シャー!」
大蛇は大きな口を開けて突進してきた。
俺達は飛んで避けたのだが、蛇が嚙みついた場所には毒のような液体が撒かれていた。
「あれは麻痺毒だ。死ぬような毒ではないが動けなくなったら丸呑みされるから気をつけろ」
生きたまま丸呑みなんてゴメンだ。魔法で牽制しながら距離を取る。
「牽制とはいえあんまり魔法も効いていないな」
風鳥の短剣に持ち替える。大蛇は尻尾や毒で攻撃してくるが躱しながら近づいてみる。
大蛇の頭に近づき短剣を突き刺す。
「硬っ」
短剣は弾かれてしまう。強化しているのだが大蛇の防御力の方が上らしい。
…大蛇の鱗でこの防御力なら竜になればどれほどの物になるのだろうか?
「ジュン離れろ!」
俺が離れると同時にシェリルが火の魔法を放つ。
蛇は俺を仕留めるために毒を飛ばすがコタロウの結界がそれを阻む。
「シャー、シャー」
大蛇は火を嫌がるような素振りを見せる。
そういえば蛇は温度の変化が苦手だったよな。
「シェリル。大蛇の周りに高温の火を維持できるか?」
「考えていることは分かるが今の私だと厳しいな」
「そうか。それなら一瞬だけは可能か?」
「できるが弱らせるほど持続は無理だぞ」
「それでも構わない」
「考えがあるのだな。ベル、コタロウ少しだけ大蛇の動きを止めてくれ」
「キュ」
「たぬ」
ベルが分身をして大蛇をかく乱する。大蛇はうっとおしそうにするが素早く動くベルの分身を捉えられない。その間にコタロウが結界の中に大蛇を閉じ込める。大蛇は結界を壊そうと暴れ出す。
「たぬぬ」
コタロウが必死に抵抗するが結界にはヒビが入っていく。
「もういいぞコタロウ」
コタロウが結界を解除すると、力を溜めたシェリルが火の魔法を蛇に放つ。
「シャー」
大蛇はあからさまに火を嫌がり体全体を動かして火を消し始めた。
「やはり維持は無理か」
「あれだけやってくれれば十分だ」
俺は幻魔法を発動させて火の幻を見せる。幻は成功しているようで大蛇は何もない空間を攻撃し始める。
蛇は視力が弱く温度を察知するから、効かない可能性があったけど効いてくれて助かった。
「援護する」
シェリルは先程の様な威力の火魔法は撃てないが、それでも何発も火の魔法を放っていく。
俺も風の刃を鋭くさせて大蛇の体に傷をつけ弱らせる。
「シャー!」
ベルとコタロウは植物魔法と結界で大蛇を拘束する。熱さと傷で体力の落ちてきた大蛇は拘束から逃れることができなかった。
「止めは私が」
シェリルが火の魔法をソウルイーターに纏わせて大蛇に切りかかる。
弱っていた大蛇は抵抗できずに切断される。
そのまま大蛇は消えて、ドロップアイテムと宝箱が現れた。
「ドロップアイテムは短剣か。素材かと思っていたけど」
手にした短剣を収納し能力を確認する。
名前:蛇咬(短剣)
切り付けた相手の動きを鈍くする。回数を重ねるごとに効果が増す。
結構いい効果だな。短剣は四種類めで充実しているな。後は棒の予備がもう一本欲しいところだな。
「どうだったんだ?」
「当たりだったよ。切り付けた相手の動きを鈍くするみたいだ」
「良かったな。後はメインの宝箱だぞ」
「…コタロウ、また開けないか?」
「たぬ」
コタロウは首を横に振る。
「ベルはどうだ?」
「キュ」
さっさと開けろと言っているようだ。
「シェリ…」
「いいから開けろ。何が出ても文句はいう奴はいないだろ」
覚悟を決めて宝箱を開ける。中には小さいリングが二つ入っていた。
「何だコレ?」
再び収納して確認する。
名前:アイテムボックス(リング・魔物用)
六畳部屋分のアイテムを収納できる。中の物は時間の経過を受け付けない。装備者の意思で取り出すことができる。
「これは凄いのが当たったな」
「何なのだ?」
「魔物用のアイテムボックスだよ。ベルとコタロウにぴったりだ」
俺は効果を説明して二匹の腕に付けてみる。ベルもコタロウも嬉しそうにはしゃいでいる。
「俺の運も上がってきたかな」
「…」
俺は喜んでいたのだがシェリルは隣で何とも言えない顔をしていた。
「シェリル?」
「喜んでいる貴様には言いにくいのだが、実は今回のアイテムはハズレと言われているんだ」
「え!?」
アイテムボックスって便利アイテムじゃんか。どうしてだ?
「確かにアイテムボックスは有用なアイテムだ。冒険者だけじゃなく商人も大金を出してでも買いたいものだ。だが魔物用となると話が変わってくる。普通の冒険者は従魔に持たせようなんて思わないからな。そもそも、知能の問題も出てくる」
確かにそうだ。従魔は収納ができても取り出すときは分からなくなる可能性は高い。何ならポーションの類を臨機応変に使うのは難しいだろう。
「まあ私達にとっては十分当たりだろう。ベルもコタロウも知能が高く問題は無さそうだがらな。いくつかのアイテムと本人達の欲しい物を用意すればいい」
「そうだな」
ベル達が喜んでいるから良しとするか。アイテムの選別は後でゆっくり行うかな。
「今日は少し早いが切り上げるか。次の階層からは環境も変わってくるからな」
確認のために一度三十一階に降りる。照り付ける太陽と一面の砂がやる気を奪っていく。
「隠れ家に戻るか」
俺の言葉に皆が頷き隠れ家へ入っていく。ベルとコタロウは一目散に海の扉を開けて走って行った。
「卵とリッカが心配だったんだな」
俺達も後を追って海の扉をくぐり家へと向かう。家の中では卵とリッカに寄り添う二匹がいた。
とりあえず最初に皆で卵へ魔力を送る事にした。
そして食事を済ませて一休み。俺はデッキテラスに付いているイスに座って眠りにつく。