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 目が覚めると当たり前だがいつもとは違う光景だ。青い海や波の音が心地よく響いている。


「これはこれでいいな」


 毎日だと慣れて何も感じなくなると思うが、たまにだと気分転換にはもってこいの景色だ。

 そのまま海を眺めているとシェリル達も起き出してくる。


「ふむ。目が覚めて海が見えるのもいい気分だな」


「そうだよな。気分転換にはもってこいだよな」


「泳ぎたくなるが今は我慢せんとな。準備をするか」


 もう少し海で色々見たい気持ちはあるが、それを抑えて皆で二十一階の探索へと向かう。この階層は荒れ地となっていた。


「キュ~」


「大丈夫かベル」


 ベルはこの荒れ地を見てどこか悲しそうにしている。恐らく、森で生きていたベルにとっては枯れた草木を見るのが辛い事なのだろう。


 頭を撫でると身を擦り寄せて来る。ベルを慰めながら進むと魔物の気配を感じた。


「ガルル」


 そう遠くない位置に魔物はいた。向こうも俺達に気が付くと走ってくる。近くにきた魔物は黒い狼で体も大きく牙もデカい。


「コイツは魔法は使ってこないが、今までの魔物より凶暴で身体能力が高いから油断するなよ」


「ガウッ」


 確かにスピードが速く容赦なく急所を狙ってきている。だが避けるのは難しくない。躱しながら短剣を頭に突き刺すとその場に倒れた。

 一匹しか見当たらないのでこれで終わりなのだろう。


「ドロップアイテムは牙か」


「武器の素材になるからそれなりの価値があるぞ」


「そうなのか。…ところで魔物が集まりすぎじゃないか」


 まだ離れてはいるがこちらを目指して動物型の魔物が集まってきていた。どいつもこいつも凶暴そうな見た目で雰囲気を感じる。


「この階層の特徴だ。好戦的な魔物が多いからな。隠れる場所も少ないから周りには気を配っておけよ」


 魔物を倒しながら進んで行く。だけどシェリルの言う通り戦闘を仕掛けてくる魔物が多いため進行スピードは少し遅い。稼げるから良いのだが少々疲れてしまう。


「あれ?あそこだけ緑が多いな」


「あれは…急ぐぞ!もしかしたら宝箱があるかもしれん」


「マジで!?」


 俺達は急いで進んでいく。近づいていくと大きな木がありその周りだけ緑が溢れていた。そして木には口のような穴があり、その中に宝箱が入っていた。


「これがダンジョンの宝箱か」


 まあボス部屋でも宝箱は見ているが、やはり確定じゃない宝箱の発見は心が踊ってしまう。


 俺は宝箱をとり地面に下ろす。


「それじゃあ今度はシェリルが開けてくれ」


「ここは貴様が開ける流れるじゃないか?自慢じゃないが私は運に自信はないぞ」


「シェリル。最近の俺のガチャの戦績は知っているだろ」


 ここ最近のガチャは本当にひどい。以前までの食べ物はかなり良いものだと感じる程だ。一番ひどいのはつまようじが一本だぞ。せめて百本入りにしてくれ。


「何が出ても文句は言うなよ。ベルとコタロウ程の物を出せる自信はないからな」


 宝箱を開けて中のアイテムを取り出した。シェリルの手の中には少し大きめの卵があった。


「卵?」


「魔物の卵だな。数日間魔力を込めて育てると産まれてくるはずだ」


「何が産まれるんだ?」


「それは貴様の方が分かるんじゃないか」


 俺は収納して説明を確認する。


 名前:魔物の卵(不定)

 卵に注がれた魔力で産まれてくる魔物が変わる。通常では卵から産まれない魔物が出てくる事もある。


 面白いな。ただこれでゴブリンが産まれたら泣きたくなるな。


「どうだ?」


「注いだ魔力で変わるみたいだ。何が産まれるかは分からないらしい」


「そうか。当たりともハズレとも言えないな」


「十分当たりだよ。今度はどんな仲間が増えるのかな。コタロウもお兄ちゃんになるな」


「たぬ…たぬ!」


 お兄ちゃんという言葉を聞いてコタロウが張りきりだした。張り切るのはいいが、前に出すぎないようによく見ておかないといけないな。


 卵はそのまま収納しておくことにした。隠れ家に戻ってから魔力を注ぐことにして再び進み始める。


 徐々に他の冒険者パーティーを見るようになってきた。そのためか、魔物の数は多いのだが戦闘の機会が減ってきた気がする。


「最初は大変かと思ったけどなんとかなりそうだな」


「そうみたいだな。この辺を狩場にしているパーティーが多いようだ。確かにドロップアイテムもそれなりに良いものが多いみたいだしな」


 放っておいても魔物も寄ってくるから、探索が苦手なパーティーにはもってこいかもな。

 ただその分気が抜けないところもあるがな。


 二十三階にたどり着いた所で隠れ家に戻ることにした。ただ、冒険者が多いので目を盗むのは骨がおれる。早く次の場所に進みたいものだ。


「今ならいいか。早く入るぞ」


 急いで隠れ家に入る。すると、ベルとコタロウは駆け出して海の扉の前に止まっている。


「今日はそっちに泊まりたいのか?」


 俺の問いかけにコクンと頷く。

 余程海が気に入ったんだな。


「どうする?」


「いいんじゃないか。ベルもコタロウも頑張っているんだ。これくらいの頼みは問題ないだろ。扉を使えばすぐに温泉にも行けるしな」


 シェリルも問題ないということで、今日は水上ヴィラに泊まることになった。

 扉をくぐると青い海は夕陽で染まっている。俺達は足を止めてその光景に魅入っていた。


「いや~、良い物見れたな」


「そうだな。こんな光景を独占できるとは贅沢だな」


 いい気分で家の中へと向かう。中に入るとベルとコタロウは一直線にプールに飛び込んだ。


「キュー♪」


「たぬー♪」


 プールの中ではしゃいで泳ぎ回っている。さらに、賑やかな声のせいか家の光のせいかは分からないが、セラピードルフィンが数匹近寄ってきた。その中の一匹は子供でベルとコタロウをじっと見ている。


「キュ?」


「たぬぬ?」


「キュイ、キュイ」


「キュキュ♪」


「たぬ♪」


「キュイ♪」


 会話の内容は分からないが楽しそうな雰囲気だ。


 せっかくなので俺は通販でボールを買ってベル達に投げ渡す。


「キュ?」


「それで皆で遊んだらどうだ」


「キュ♪」 


 そこからベル達はキャッチボールをして遊び始めた。セラピードルフィンの子供は頭や尾ひれを上手に使い返球してくる。多少ボールが逸れても関係なかった。


「微笑ましいな」


「そうだな。俺達も今度混ざるか?」


「それも楽しそうだ」


 俺達や周りのセラピードルフィンは、しばらくの間ベル達の遊んでいる姿を見つめていた。


「キューイ」


「キュイ」


 大人のセラピードルフィンが鳴くと子供の方は遊びのを止めて大人の側に寄っていく。


「キュイ」


「キュキュ」


「たぬ」


 どうやら帰るようだ。ベル達は手を振って帰っていくセラピードルフィンに挨拶をしている。しかしコタロウの表情はハンマーコングの時と同じ顔をしていた。…今までの状況を考えると家族が羨ましいのかもしれないな。


 俺はプールに近づいてベルとコタロウを持ち上げる。

 すると、シェリルも同じように側に寄ってきてコタロウの頭に手を置いた。

 

「おーい。俺達はたまにここで過ごすから明かりがついていたらまた来てくれよ。なあベル、コタロウ皆で遊びたいよな」


「キュ♪」


「たぬ♪」


 コタロウも少し元気になったみたいだった。俺の腕の中で元気に手を振っている。


「「「キューイ」」」


 俺達の言葉に返事をするようにセラピードルフィン達の声が聞こえる。危険もないしベルもコタロウも喜ぶから是非また来てほしい。


「ベル、コタロウ。そろそろ夕飯にしないか。ジュンが美味しいご飯を用意してくれるぞ」


 期待されてはやるしかないな。せっかくの海だから海産物の料理を出すことにするかな。

 テーブルの上は海の幸でいっぱいだ。魚だけではなく貝類やエビやカニも用意している。


 個人的に好きなのは殻付のホタテを焼いたものだ。汁も美味いし熱々の身が堪らない。もちろん他の料理も美味しく、しっかり海の幸を堪能した。


 そして今日は温泉ではなく、海を見ながら家の風呂に入った。

 これはこれで良いものだな。上がった後は寝るまでゆっくりとした時間を過ごしていた。すると遠くで海が光だした。


「なんだあれ?海が光っているぞ」


「いや、よく見ろあれは魚だぞ」


 目を凝らして見ると確かに魚だった。一匹一匹が光ってとても幻想的に見える。


「あれも魔物なのか?」


「シャインフィッシュという魔物だ。絶滅したと言われている魔物で私も実物を見るのは初めてだ」


「絶滅種がいるのかこの海は。あれだけキレイなら乱獲でもされたのか?」


「いや、あの魔物は弱い上に夜に光っているから見つかりやすく補食されてしまったんだ」


「…何でそんな進化をしたんだろうな」


「さあな」


 疑問はあるがキレイだから良しとしよう。考えても分からないことは沢山あるしな。それにしても絶滅種まで知っているのは凄いな。


「そういえばシェリルは博識だよな。鑑定で調べたのか?」


「いやキチンと勉強したさ。確かに昔は鑑定で見ていた部分もあるが鑑定も万能じゃないからな」


「やっぱり見えない相手がいるのか」


 漫画とかでも格上のデータは不明だったりするしな。


「それもだが、それだけではないな。鑑定で得られる情報には限界がある。例えば手長熊という魔物だが、鑑定では長い手を活かして攻撃してくると表示される。だがどんな風に使うかまでは分からない。長い手を振り回すのはもちろんの事、大きな木にぶら下がって勢いをつけて攻撃して来る事もある。それに長い手で地面を思い切り押して凄い勢いで迫ってくることもある。この辺の情報は鑑定以外で調べなければ分からないことだ」


 勝手に鑑定は万能とか思っていたけど経験を積むことや勉強も必要か。


「前にも似たような事を言ったが、貴様も冒険者を続けるなら魔物の生態は勉強しておいた方が良いぞ。無知ゆえに死ぬことも珍しくないからな」


「肝に銘じておくよ。ダンジョンから出たら俺に教えてくれよ」


「…ああ、そうだな。そうしよう」


 一瞬悲しげな顔をしたが、それを振り払って笑顔で返してきた。…この後の冒険も頑張らないとな。


「しかし、絶滅した魔物も覚えているのは凄いな」


「ダンジョンに入ると稀に絶滅したはずの魔物と出会う事もあるからな。図鑑で確認くらいはしているんだ。まさかここで見られるとは思わなかったがな。…王都のクランで色んな所に行ったが、ここまできれいな景色はそうそうないぞ」


「喜んでもらえたようで何よりだよ」


「ふふ、貴様といると退屈しないな。また何か面白い事も起きそうだ。クランにいた頃より充実しているぞ」


「それは光栄だな。ところで話したくなければ話さなくていいんだけど、王都のクランではどんな生活をしていたんだ?」


 俺の問いかけにシェリルは少し考え込んだ。


「そうだな。窮屈な生活だったよ。潤沢な資金や装備はあるが自由に使えるわけではなかった。男達からの誘いや女達からの嫉妬も面倒だったな。主要メンバーでの会食もあったが楽しくなかったな。話すことと言えば自慢話か仕事の話しかない。食事も味は良い物も多くあったが、食べ方や食べる順番まで指定されたよ」


 あ、俺は絶対に無理だ。料理は好きなように食いたい。多少のマナーならいいけど堅苦しい食事は苦手だ。


「だからこそ今の方が楽しいな。温泉や海もそうだがベルやコタロウの様な人懐っこい魔物もいるからな」


「そうなのか?」


「ああ、クランにも従魔を持つ者はいたが竜種や狼のような戦闘に秀でた魔物が多かったな。そして魔物たちもプライドが高いのか高圧的で触る事などできなかったぞ」


 そう言いながら近くでくつろいでいたコタロウを抱き上げた。

 俺の中での従魔はベルとコタロウが基準だからあんまり想像がつかないな。


「まあベル達が特別かもしれないけどな。…そういえば従魔と言えば卵に魔力を注ぐのを忘れていたな」


 卵を出してテーブルの上に置くと皆が集まり出してじっと見ている。


「流した魔力で産まれる魔物が変わるんだよな。全員で魔力を流してみるか?」


「ふむ試してみるか」


「キュ」


「たぬ」


 全員で卵に触れて魔力を流す。流すというより吸われている感じがあり、少しくすぐったかった。


「こんなもんか?」


 吸われる感覚がなくなったので魔力を送るのを止めにする。


「たぬ~」


 コタロウが卵を気に入っているようで撫でている。早く産まれてきて欲しいようだった。

 卵はその後安全な場所に置きタオルでくるんで置いておくことにした。だけど寝るときに寝室に向かうとコタロウが卵も一緒に持ってきてしまった。仕方がないので今日は卵も一緒にベッドで眠る事になった。落とさないように気をつけないとな。

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