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賊退治

「おい。朝だぞ。起きないか」


「キュ」


「たぬ♪」


 体の揺れに頬っぺたの違和感。それに腹の上で何かが飛び跳ねている感覚で俺は目が覚めた。


「…おはよう」


「ようやく起きたか」


 俺はいつもは早く起きる方なのだが、今日は一番最後だったようだ。まあこんな日もあるだろう。


 腹の上に乗っているコタロウを抱き上げながら体を起こす。コタロウ、ちょっと重くなったか?


 着替えを終えると朝食を用意して皆で食べ始める。


「ところで今日は二十階のボスが目標か?」


「いや、二十階にたどり着くのが目標だ。今日だとボスと戦う頃には疲れが溜まっている可能性があるからな。ボスは明日で倒せればいい」


「了解だ」


 朝食を食べて準備を済ませると、ダンジョンへと戻る。


 今日も草木を掻き分けて進み続ける。ゴブリンやオーク等の人型の魔物はあまりいないが、狼・猿・熊・蛙・蛇・鳥・虫と多種類の魔物が出てくるのでいい経験になる。


 十七階まで順調に進んでいくとこっちを監視しているような人の気配を感じた。シェリルやベルも気づいたようで小声で話しかけてくる。


(気づいているようだな、誰かに見られているぞ)


(“光の剣”の関係者か?)


(いや、品定めをしているような視線だ。賊の可能性の方が高い。まあどちらにしても襲ってくるようなら返り討ちにするだけだがな)


(だけど隠れ家を使えないのは痛いな)


(嘆いても仕方がない。適当な場所で休憩を取るぞ)


(了解)


 少し移動すると丁度良い広場があったのでブルーシートと結界石を使用して昼休憩を取る。


「結界のおかげでようやく普通に喋れるな。それでも監視されているのは気になるけどさ」


「そうだな。だが、結界をすり抜けて監視や盗聴するアイテムがあるから気をつけろ。今回は使っている様子はないみたいだがな」


「そんなアイテムもあるんだな。勘弁してほしいな」


 適当に雑談しながら昼食を用意する。今回は念のために収納袋から缶詰と飲み物を取り出すことにした。


 それぞれが食べたい物を選んで食べ始める。一応視線の存在に注意しながら体を休める。だが常に気を張る必要があるので案外大変だった。


「周りに注意しながら休むのって大変だな」


「貴様の能力がダンジョンでいかに有用か分かっただろう。賊や魔物を気にせず睡眠できるのはかなり重要だ。まあ今回のように知られないようにするのに気を遣うがな」


 緊急依頼は大人数でベテラン勢やギルドの方が中心で夜の見張りもしてくれていたからな。実際に自分でやると全然違うよな。


 気が滅入っていたが結界内で走り回っているベルとコタロウが目に入る。


「キュキュー♪」


「たぬぬ~♪」


 こんな状況でも楽しんでいる二匹を見ると少しだけ心が軽くなる。シェリルと一緒に眺めているとベルとコタロウが寄ってきた。


「キュ♪」


「たぬ♪」


 飛びついてくるベル達を互いに受け止める。そのまま撫でまわすとなんだか楽しくなり、監視を気にしていた自分が馬鹿らしく感じてしまう。


 監視の視線はその後も途切れることは無かったが、ベル達のおかげで気にせずに休むことができた。体調が整ったところで次の階層に向けて出発する。


「それにしてもアイツ等暇人だな本当に。だけどこのまま監視だけで終われば楽なんだがな」


「どうだろうな。とにかくいつでも動けるように準備だけはしておくぞ」


 森の中を歩いて行く。監視は気になるがそれよりも襲い掛かってくる魔物にも気をつけなければならない。気を引き締めながら進んで行く。


「アイツ等の方を襲ってくれればな」


「まったくだ。共倒れしてくれれば楽なのだがな」


 適当に話をしながら魔物を倒していく。その間も監視はあるが襲ってくる様子は無かった。そしてシーフモンキーを倒したところで次の階層に向かう扉を見つけた。


「案外すんなり見つかったな」


 俺は扉に向かって進んで行ったのだが嫌な予感がして足を止めた。


「どうした?」


「いや、何故か進んじゃいけない気がする」


 まだ消えていないシーフモンキーがいたのでそれを投げてみる。

 すると、魔法陣が現れてシーフモンキーを拘束した。


「やっぱり罠か」


 罠を確認した瞬間に俺達の周囲には魔法陣が現れて、そこからいい装備を付けている女と賊っぽい男達が出現した。


「あーあ、大人しく捕まっていれば痛い目には合わなかったのにねぇ」


「貴様等も諦めていれば捕まる事にはならなかったのにな」


 女とシェリルが睨み合う。


「言うねぇ。アンタ確かシェリルだったよね」


「何だ貴様でも知っているのか」


「元とは言えAランクの冒険者くらいは把握しているさ。それに呪われたとはいえアンタを捕まえれば箔がつくだろ」


「捕まえられればな」


 シェリルは挑発するように言葉を投げかける。


「この人数差を見てもそう言えるのかい。こっちは二十人、アンタらは二人に弱そうな従魔が二匹だけだろ。男の方も強そうな感じがしないしね」


「見た目で侮ると痛い目を見ると思うがな」


「口が減らないねえ。…ねえアンタ。私達の仲間にならないかい。私達は世間から爪弾かれた存在。呪いなんて気にしないよ。ムカつく奴等に一泡吹かせようじゃないか」


 突然女盗賊はシェリルの勧誘を始めた。この言葉には嘘は無さそうだ。

 だがシェリルは考えるそぶりは一切無く申し出を断った。


「ムカつく奴はいるが今の方が楽しいから関わるつもりはない。貴様等も他の方法を考えたらどうだ」


「…そうかい。アンタなら仲間になれると思ったんだけどね。それならアンタらには地獄を見てもらうよ。顔が良ければ呪いを持っていても気にしない物好きは案外多いからね」


「そんな物好きは間に合っている」


 そう言って俺を引き寄せる。


「…ムカつくね。お前らやっちまいな。女はなるべく生け捕りに、男や従魔は好きにしな!」


「「「うぉぉぉ!!」」」


 女の号令で男達は動き出す。四方から俺達に襲い掛かってくる。


「まあそうくるよな」


 俺もシェリルも武器を構えて応戦する。男達はそれなりに強いが黒いゴブリンや忍者ゴブリンの方が強いと感じた。それでも連携がとれているため中々倒せていない。


 戦っていると一人の男が俺に声をかけてきた。


「お前結構強いけど人を殺したことないだろ」


 男の言葉は俺の動きを止めるには十分だった。すぐに気を取り直したが攻撃が腕を掠める。


「ああクソっ!ミスった」


「図星のようだな」


「…」


 俺は男の言葉を聞き流して攻撃を仕掛ける。

 男の言う通り確かに俺はこの世界でも人を殺したことが無い。殺すことに躊躇いもある。でもコイツ等程度なら殺さずに無力化できると思っていた。


 男の腕を狙い武器を落とそうと切りかかる。すると男は近くにいた仲間を引き寄せて盾にした。しかも俺の攻撃が致命傷になるように。


「ぐぁ!?」


 飛び散った血が俺の顔にかかる。攻撃を受けた男は地面に倒れて少しの間苦しんで動かなくなった。血の匂いが気持ち悪く、吐きたい衝動を無理やり抑え込み距離を取った。


「あ~あ。お前のせいで仲間が死んじまったよ。怖い怖い。俺も殺されちまうな。ひと思いにこの辺を狙ってくれよ」


 男はニヤニヤしながら首や心臓を指さしてから、両手を広げて無防備な姿勢を取る。


「…」


 短剣をしっかり握りしめて男の腕を狙った…はずだった。攻撃は男の横に逸れて空を切る。すれ違い様に男に思い切り殴られ後退する。


「ぐぁ!?」


 装備のおかげで肉体的ダメージは少ないが精神的なダメージはあった。短剣を持つ手が震えているのが分かる。

 立ち尽くして隙だらけな状態の俺を賊たちが見逃すはずがない。


「その程度か」


 男の攻撃を躱す。そのままカウンターを入れようとしたのだが、殺してしまった男が思い浮かんで体が動かない。


「おらぁ!」


 再び攻撃を受ける。ガードはしたが後ろへと飛ばされた。飛ばされた先には別の男達がいて武器を振りかざしていた。隙だらけだと思ったが何故か体が動かなかった。


「何をしている!動けこの馬鹿!」


「キュ!」


「たぬ!」


 シェリルたちの声が聞こえる。それでも体が動かない。そして武器が振り下ろされた。


「たぬ!」


 一番近くにいたコタロウが思い切り男に体当たりして邪魔をしてくれた。

 気がつくとベルも俺の前に立っていた。


「このクソ狸!」


「たぬ」


 男は怒りの形相でコタロウを押さえつけて殺そうとしていた。コタロウはもがくが男の手からは抜け出せない。


「たぬぬ」


 コタロウが苦しんでいる。俺は気が付くと男を殺していた。不快感はあるし吐き気もある。でもコタロウが殺されるよりは全然マシな事だ。


「コタロウごめんな」


「たぬたぬ」


 大丈夫と言うように胸を張るコタロウに救われる。


「感動的だな」


 俺を吹き飛ばした男が襲い掛かってきていた。

 ニヤニヤした表情がウザイ。攻撃を躱し首に剣を突き立てる。


「!?」


 声を出すことも無く男は崩れ落ちていく。

 俺が男を眺めているとシェリルとベルが周りの男達を倒しながら駆けつけてくれた。


「大丈夫か」


「ああ大丈夫だ。ゴメン心配かけたよな。ベルもコタロウもさっきはありがとうな」


「ならさっさと終わらせるぞ。もうひと踏ん張りしろよ」

 

「ああ」


 それからはピンチになることは無かった。一人ずつ確実に倒していく。しばらくすると女以外は動かなくなっていた。そして女の方もシェリルに追い込まれている。


「そんなバカな。こっちは二十人いたんだぞ」


「勝てる相手ばかり選んで成長していなかったんだろう」


「い、嫌だ。死にたくない」


「そう言った冒険者達を見逃したのか?」


「くそ!」


 最後の悪あがきで剣を振るってきたが、シェリルに当たる前に体ごと真っ二つになった。

 俺は気が抜けてその場に座り込む。


「気を抜くな魔物が寄ってくるかもしれんから早く進むぞ」


 シェリルに促されて扉に向かおうとすると、ベルが別の方向を見て俺達を呼ぶ。


「キュー」


「どうしたんだ?」


 ベルがどこかに向かっていくのでそれを追っていく。着いた先はテントがいくつか張られており、結界石も置いてある。恐らく賊のアジトなのだろう。


 一つずつテントの中を確認する。ほとんどの場所は寝るだけの場所で何も無かったが、倉庫代わりのテントとボスのテントには色んなアイテムや宝石なども置いてあった。


「これらはどうする物なんだ?」


「賊の持ち物は討伐した冒険者に権利がある。持ち主が生きている場合は冒険者の匙加減だな」


「それなら回収するか」


 ベルとコタロウは魔物が来ないか見張りをしてくれているので、俺とシェリルは手分けをして回収していく。


「こっちは終わったぞ」


「私もだ。仕分けは後でゆっくり行うか」


 俺達は元の場所に戻り十八階へと降りていく。

 そのまま進もうと思ったのだがシェリルに止められる。


「今日の探索は終わりだ。隠れ家に戻って休むぞ」


「いいのか?体力的にはまだ大丈夫だけど」


「いいから戻るぞ」


 シェリルの気迫に押されて隠れ家へと戻る。旅館を見てほっとした瞬間に俺は力が抜けて倒れそうになった。


「だから言っただろう」


「ありがとな」


 倒れる前にシェリルが支えてくれていた。そのまま肩を貸してもらいながら部屋へと進んで行く。


 部屋に着くとベッドに倒れこむ。ベルとコタロウが心配そうに近づいてくる。そんなベルとコタロウの頭を撫でながら俺は眠りに落ちる。


………

……


『人殺し!』


 血だらけの男に責め立てられる夢を見た。男の発した一言で俺は目が覚めた。


 皆はいつも通りに眠っている。部屋の中は寝息だけが響いている。落ち着いてくるとさっきの戦闘が頭によぎってくる。俺の手には先程の感触がまだ残っている。人を殺してしまった現実が俺を責め立ててくる気がした。


 気分を変えたくて書き置きを残して温泉へと向かう。


 露天風呂に浸かるが気分は晴れない。気持ち悪さと不快感が襲ってくる。


「これは結構キツイな」


 家族や友人の事を考えた時も気分が落ち込んだが今回はその比ではない。押しつぶされそうな感覚がある。


 俯いているとドアが開く音がした。またベルとコタロウが来てくれたのかと思い振り返る。そこには確かにベルとコタロウがいたが、一緒にシェリルもいたのだった。


「は!?」


 もちろんタオルは巻いているが思わず固まってしまった。


「キュ?」


「たぬ?」


 固まっている俺をベル達がポンポンと叩いてくる。それで俺はハッとした。


「いや、何でシェリルもいるんだよ」


「不服か?頑張った貴様へのご褒美だ。体を洗ってやるからこっちに来い」


 俺は洗い場へと連れていかれる。イスに座るとシェリルが背中を洗ってくれる。

 嬉しいシチュエーションだが複雑な気持ちだ。


「ごめんなシェリル」


「何がだ」


「賊との戦闘の事だよ。俺が足を引っ張ってしまって」


「違うぞ。あれは私のせいだ。私は勝手に貴様が賊とも戦ったことがあると思っていた。ダンジョンに潜る前に人との戦闘経験は把握しておくべきだった。私の確認不足だ」


「いや単に俺がきちんと戦えていれば良かっただけだし、シェリルのせいじゃないだろ」


「最初から人を殺せる者はそういない。戦えなくなって当然だ。むしろよく戦ったと思っているぞ」


 優しい言葉は止めてくれ。涙が堪えきれなくなるだろうが。


「そんな事は無いよ。情けなく動けなくなったしな。ベルやコタロウがいなければどうなっていたか。それに正直に言うと今も引きずっている」


 自分の右手を見ながらそう話すと、シェリルが後ろから抱きしめてきた。俺は驚きで再び固まってしまう。


「自分を必要以上に卑下するな。人を殺すのに躊躇いがあってもコタロウのピンチを救っただろう。情けない男にそんな事ができるはず無いだろう」


 あ、ダメだ。これは泣いてしまう。もう俺は涙を堪えることはできなくなっていた。

 シェリルはそんな俺の頭を撫で続けてくれる。


 甘えるように俺は色んな思いを吐露していた。日本にいる家族への思いや人を殺した罪悪感、コタロウを危険な目に遭わせた事などだ。


 途中から自分でも何を言っていたか覚えていないが、シェリルはたまに相槌を打ちながら俺の思いを聞いてくれていた。


 言い終わると、少しスッキリした気がする。根本的な問題が解決したわけではないが、話を聞いて受け止めてもらうだけで全然気分が変わってくる。


「はぁ、悪いな色々愚痴をこぼして」


「気にするな。たまには吐き出すべきだろ」


「ありがとな」


「落ち着いたなら、ベルとコタロウに構ってやれ。心配そうに見ているぞ」


 振り向くとベルとコタロウがじっとこちらを見つめていた。恥ずかしい場面を見られた気もするが、気にせず二匹に声をかける。


「ベルもコタロウも心配かけたな。俺はもう大丈夫だから」


 そう言うと二匹が走って駆け寄ってくる。俺はそれを受け止める。


「せっかくだからベルとコタロウも洗っていくか」


「キュ♪」


「たぬ♪」


 上機嫌な二匹が動き回ったり俺もふざけたために、皆が泡まみれになってしまったが楽しい時間を過ごす事ができたと思う。あー、一人じゃなくて本当に良かった。


 部屋に戻ると夕飯を食べ始める。どんな時でも飯だけは食べておかないと。するとシェリルから声がかかる。


「明日は一日休みにするぞ」


「え?」


「今の調子で試練の部屋に挑むのはリスクがある。一日かけてしっかり休んだ方がいい」


 確かに今日の俺は万全とは言い難いし明日も引きずる可能性はあるよな。ここは言われた通りに休むか。


「わかった。明日は休ませてもらうよ」


「その方がいい」


 俺の返事を聞くと安心したような表情をする。しかし一日休みでもすることが思い付かないんだよな。


「そうだ。シェリル今日酒でも飲まないか?」


「ふむ。…まあ飲みすぎなければ付き合うぞ」


「おお、久しぶりの酒だ♪」


 シェリルの返事を聞き俺は嬉しくなった。酒は基本的に誰かと飲む方が楽しいからな。


「早速夕食に合わせて一杯飲むか?」


「頂こう」


 俺はとりあえず自分の好みの辛口の日本酒を取り出して、俺とシェリルの分を用意する。


「色が無い酒か。私は初めて飲むな」


 興味深く日本酒を見てから口に含んだ。表情から察するに気に入ってくれたようだ。

 俺も久しぶりの日本酒を堪能する。


「あ~、やっぱ好きだわこれ」


 飲んでいるとベルとコタロウも興味があるのかじっと見てくる。


「飲みたいのか?」


 二匹ともコクンと頷いた。飲ませていいのか考えたが、魔物だから大丈夫だろうと思いほんの少しだけ飲ませてみる。


「キュー♪」


「…たぬ」


 両極端の反応だった。ベルは好きなようでおかわりを要求してきたが、コタロウは口に合わないようだった。


「無理に飲まなくてもいいからな」


「たぬ~」


 コタロウはしょぼんと落ち込んでしまった。俺達が美味そうに飲んでいるのに自分だけ飲めないのが嫌なようだ。


 俺はそんなコタロウを見て果実酒とカルーアミルクを出してみた。


「こっちを飲んでみるか。種類は違うがこれもお酒だぞ」


 コタロウが恐る恐る果実酒を一口飲んでみる。


「たぬ♪」


 これは飲めるようだった。次はカルーアミルクを試すとこれも大丈夫だったようで機嫌が直っていく。


「私も一口貰うぞ」


「キュ」


 シェリル達も気になっていたようで一口ずつ飲んでいく。まあこれくらいならチャンポンにはならないだろう。


「思った以上に甘くて飲みやすいな。これなら誰でも飲めそうだ」


「俺も昔は日本酒がダメで専ら果実酒とカルーアだったな。ウイスキーや焼酎、ビールは飲めるけど好きじゃないんだよな」


 ちなみに今は日本酒か梅酒しか飲んでない。会社の飲み会ではビールは少し飲むけど。


「色々あるのだな。その辺の酒も興味があるから次の機会に出してくれ」


「了解だ」


 飲み続けているとコタロウが眠くなってきたようで目がトロンとしてきた。

 疲れとアルコールのせいかな。


「今日はお開きにするか」


 テーブルの上を片付けて寝る準備をするとベルが何か訴えてきている。


「コタロウの面倒は自分が見るから、私とジュンは別室で飲んでこいと言っているのか?」


「キュ♪」


 正解と言うように腕で丸を作る。


「ならベルの厚意に甘えよう。隣の部屋でもう少し飲むか」


「ありがとなベル。それならテーブルの上に数種類の酒とつまみを置いて行くよ」


「キュキュ」


 俺達は隣の部屋へと移動する。作りはほとんど同じだが、冷蔵庫などは用意していないので少し寂しい感じがする。だけどそんな事は気にせずに、日本酒とつまみを出していく。つまみは個人的な趣味満開だ。


 クリームチーズのみそ漬け・鮭とば・豚足・豚の角煮・あたりめ・枝豆・刺身などだ。

 量が多い気がするが余った物は後で食べればいいだけだ。


「ところで貴様は酒を飲むのはそんなに久しぶりなのか?」


「この世界に来てからは飲んでいないな」


「そうなのか?」


「ああ。色々やる事があったしな。それに飲みたい気持ちはあったけど美味い店や飲み友達もいなかったのも原因だな。一人で飲んでもつまんないし」


「ふふ、私なら毎晩でも晩酌に付き合うぞ。美味い酒とつまみを用意すればな」


「是非。と言いたいけど毎日は飲みすぎだな。少なくともダンジョンにいる間は休養日の前日しか飲めないな」


 他愛のない話をしながら飲み続ける。俺は酒豪ではないので大分酔っぱらってきた気がする。だけどシェリルはあまり変わっていないようだった。


「強いな」


「顔に出ないだけだ。これでも酔っているぞ」


「全然見えないけどな。さてと、酒もつまみも無くなってきたしこっちもお開きにするか。しめは何にする?」


「貴様のお薦めを頼む」


 俺は少し考えて鯛茶漬けを出した。熱いので少し冷ましてから頂く。


「落ち着く味だな」


「パフェにでもしようか迷ったけどな」


 俺は甘い物も結構好きだからな。ワッフルやハニートースト何かもいいな。


「パフェ?」


「フルーツ・クリーム・アイスとかが乗っている甘い物だな」


「それも食べるから出してくれ」


 甘い物好きなんだな。迫力に押された俺はチョコレートパフェを出すことにした。

 言葉には出さないがシェリルは本当に美味しそうに食べていく。甘い物は別腹って本当だな。俺はもう入らないけど。


「堪能したぞ。今日は気分よく眠れそうだ」


「それなら良かった。俺もシェリル達のおかげで普通に寝れそうだ」


 部屋に戻るとベルとコタロウはすっかり眠っていた。テーブルの上を見るとキレイに食べ尽くされていた。かなりの量を置いたんだけどな。さすがベルだ。


 俺達も寝る準備をしてベッドに横になる。するとシェリルが同じベッドに入ってきて俺の右手に手を重ねて握ってきた。


「美味い物の礼だ。貴様は飲んでいる時も右手を気にしていただろ。私の感触で上書きしてやろう」


「敵わないな」


 今は右手に嫌な感触は無く温かさを感じる。シェリルの気遣いに感謝しながら俺は眠りについた。

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