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ブックメーカー ~異世界では好きに生きてみたい~  作者: 北村 純
初めての異世界生活
17/92

隠れ家でのひと時

「ジュン。貴様はどこに宿を取っているんだ?一ヵ月程度だが護衛をしてやる」


 さて、どうしようか。…あれ?いっそ本当のこと言って俺もダンジョンについて行けばいいんじゃないか。ダンジョンの中ならアイツ等が何かをしてきても、こっちも何でもできるしな。訓練にもなる上にシェリルの呪いを解く手伝いもできる。

 嘘をつくのも整合性を考えるのが面倒だし話してしまおう。


「シェリル。ちょっとこっちに来てくれ」


「お、おい」


 シェリルの手を引っ張って人気のない場所を探す。


「こんな所に連れてきてどうするんだ?ここで野宿でもしているのか?」


「そんな感じだな。快適すぎる野宿だけど。ベル、周りに気配はあるか?」


「キュ」


 誰もいないようだったので俺は隠れ家を出現させる。


「これは?」


「入ってくれ」

 

 俺はそのままシェリルを中に入れて入り口を閉じる。


「何だここは」


 唖然とした表情で固まっている。まあ、いきなり目の前に旅館が現れ夜桜がキレイに舞っている光景を見れば誰でもこうなるな。


「シェリル、中で説明するから付いて来てくれ」


「あ、ああ」


 まだ混乱中だが、とりあえず部屋に連れて行きイスに座らせる。


「少しは落ち着いたか?」


「ハッキリ言ってまだ混乱している。何なんだ貴様は」


「それを説明するところだけど大丈夫か?」


「…頼む。早めに終わらせたい」


「それじゃあ説明するぜ」


 俺は地球で死んだ事から能力の事まですべて話した。普段凛とした顔のシェリルが、話していく内に色んな表情をしてくるのが面白かった。


………

……


「ってな訳だよ。信じられないと思うけど」


「変わった奴とは思っていたが渡り人とはな」


「それは異世界人ってことか?」


「ああ、各地で色んな伝説を残している。現在でも聖王国の勇者や聖女、Sランクの"豊穣の女神"と呼ばれる者は渡り人のはずだな」


 他にもいるもんなんだな。機会があれば会ってみたいが勇者やSランクとなると難しいだろうな。


「しかし、渡り人は強大な力を持つと言われているが、貴様は変わった力を持っているな」


「まあ俺はこの能力を気に入っているけどね。この空間はアイテムのおかげだけど。それより今後の事でお願いがあるんだけど」


「なんだ?言ってみろ」


「俺もダンジョンに連れて行ってくれ。アイツらからも身を隠せるし、ちょっとは手伝えると思うし」


 俺の言葉を聞いたシェリルは表情がキツくなったが俺も引く気はない。そのまま、目を逸らさずに返答を待つ。


「確かに貴様の能力は魅力的だ。来てくれるなら心強い。だが、ダンジョンは危険だぞ。逃げたくても逃げられん場所や罠も普通に仕掛けられている。刺客がいなくても、賊のような者達も普通にいるのだぞ」


「危険なのはどこも一緒だろ。ゴブリン退治ですら黒い変異種がいたんだからな。それにダンジョンに一緒に行く方が色々学べそうだしな」


「死んでも知らんぞ」


「刺客に殺されるよりは、挑んで死ぬ方がまだましかな。まあ隠れ家もあるし、回復薬も大量にあるからすぐに死ぬ気はないけどな」


「それならこの家に引きこもっていれば"光の剣"との件は片付くんじゃないか」


「経験上俺は引きこもり生活は一週間が限界だ。それに隠れ家に入っているところを見つかる可能性もあるしな」


「後悔するなよ」


「しないよ。それに上手くいけば美人な嫁さんが手に入るかもしれんしな」


「…!」


 思い出したのか顔が若干赤くなった。


「貴様、あの時の話しか」


「嘘はつかないんだよな」


 俺は笑いながら話しかける。


「もういい。足を引っ張ったら許さんからな」


「頑張るよ。ただ、ダンジョンの事を調べていなかったから教えてくれるとありがたい」


 呆れたような顔をされてしまった。

 だが悪い雰囲気ではないと信じたい。


「仕方がない。真面目に覚えるんだぞ」


「了解だ。その前に今日は色々あったし甘いモノでも食べないか?」


「そうだな。私も驚き疲れた」


 …まだ驚かす要素があるのは黙っておこう。


 そんなシェリルの前にショートケーキと飲み物を用意した。すぐにベル達も来ると思ったので全員分用意する。

 案の定、食べ物の気配に敏感なベル達が走ってきた。


「キュキュー♪」


「たぬたぬー♪」


「それじゃあ食べますか。いただきます」


 シェリルは何か言いたそうだったが、甘いモノには勝てず結局は皆でケーキをいただいている。


「美味いな。本当に貴様の能力は変わっている」


「変わった能力のおかげで美味いものが食べられるならいいじゃん」


「まあな。夕食も期待しているからな」


「任せろ」


 俺は一足先に食べ終わったので甚兵衛へと着替える。やっぱり部屋の中は楽な格好をしていたい。


「その服も貴様の世界の物か?」


「まあね。甚兵衛といって家で着る服だな。動きやすくて結構気に入っているんだよ。ちなみに女性用のデザインの物もあるぞ」


「なら私にも出してくれ。落ち着ける部屋の中では楽な格好がいいからな。ちなみにいくらだ?」


「料金はいいから、ダンジョンの素材を少し多めに貰ってもいいか?そっちの方が俺の能力的にはありがたいんだ」


「構わんぞ。むしろ宿代や食事代を考えれば大部分は貴様の物でいいと思うぞ」


「その辺は後で話し合おうぜ。ところで色とかの希望はあるか?」


「任せるぞ。キチンと私に似合うものを選んでくれよ」


 プレッシャーがかかるな。まあ、シェリルなら大抵の物なら似合いそうだし深く考えなくてもいいか。…うん、この白に青い模様の入っているのにしよう。


「これでいいか?」


「ふむ。悪くないぞ。着替えるから覗くなよ。覗いたら分かっているな」


 和室の障子を閉めて着替えに入る。シェリルに殺されるなんて御免なので大人しく待っている。少しすると障子の開く音がした。


「似合っているか?」


 見せびらかすような仕草のシェリル。美人は本当に絵になるな。


「凄いキレイだぞ」


「当然だ」


 自信満々に胸を張っている。ベルとコタロウはそんなシェリルを見て拍手している。

 シェリルも満更でない表情でベルとコタロウを撫でまわす。


「楽しんでいるところ悪いんだが、今度は外に来てもらってもいいか」


「なんだ、外に何かあるのか?」


「まあな」


 ベル達も一緒に外へと向かう。目指すは勿論、月光樹だ。


「なぜ星が見えるのだ?」


「知らない」


「この空間の広さは?」


「測ったことはないな。ただ奥の方は草原しかなかったな」


「不思議な能力だ…な」


 目的地に近づくにつれて、シェリルの表情が驚愕へと変わっていく。


「おい、あそこに生えているのは」


「月光樹だ。一つ言っておくけど、これに関しては俺じゃなくベルだからな」


 皆の視線がベルへと向かう。

 ベル、照れているが誉められているわけじゃないからな。


「聞くのも怖いがどうやって手にいれた?」


「店で売っていたランダムツリーをベルが是が非でも欲しがったんだよ。それを植えてベルが魔法を掛けたらこうなった」


 俺の説明を聞いて頭を抱える。

 もしかして俺の想像以上の物だったのか。


「主人が規格外なら従魔も規格外だな。コタロウ、強く成長するのはいいが方向を間違えるなよ」


「たぬ?」


 シェリルはコタロウを抱きしめ頭を撫でる。コタロウは分かっていない様子だが撫でられること自体は嬉しいようだった。


「貴様はこの樹がどういう物か分かるか?」


「詳しくは知らないが貴重だとは思っているぞ」


「そうだ。貴様の想像の何十倍と貴重だ。その効果の高さから国や種族で保護しているほどの貴重な物だ。確認されている数も多くはない。間違っても個人で所有することなどないぞ」


「…ランダムツリーから出てきただけなんだけど」


「普通は育たん。育つにしても百年はきちんとした世話が必要なはずだ。一日程度で育ったら国家規模で狙われるぞ」


 さすがにそれは勘弁だ。"光の剣"でも面倒だと感じるのに、国家レベルならそんな事をいう暇さえないだろう。


「以後気をつけます」


「キュー」


 ベルも察したのか俺と一緒に謝っていた。まあ、隠れ家に生えているからバレないとは思うが、回復薬は注意しないとな。


「…貴様ら他に隠していないだろうな。世界樹や太陽の樹も持っていると言わないだろうな」


 ジト目で睨んでくるので慌てて俺は否定する。


「ないない、樹はこれだけだって。もう一ヶ所案内するところはあるけど」


「まだ何かあるのか。今度は何だ?装備の製作所か?金銀財宝の宝部屋か?」


「見れば分かる。使いきれない程の金よりも価値はあるぞ」


 再び建物の中に入り、今度は温泉の方へと向かっていく。


「この作りは」


 脱衣場を見て察したようだった。

 俺は答え合わせのために扉をあける。


「どうだ?凄いだろう。自慢の温泉だ」


 扉を開けた瞬間にベルとコタロウは温泉へと駆け出してダイブする。

 その光景を見ながらも、まだ信じられないという顔をして固まっている。


「お~い、聞いてるか?」


 肩を揺すったり、軽く頬っぺたつねるが返事はない。


「どうしようかな?」


 一度部屋に連れて行こうか考えていると、ようやく動き始めた。


「貴様と一緒にいると私の中の常識がおかしくなってしまうな」


 そう言いながらも温泉には興味津々で中を細かく見始める。


「おい。これは何なんだ?」


 シェリルはシャンプーなどが入ったボトルを指さした。


「これは髪用のこっちは体用の石鹸だな。ああこの辺のはベルとコタロウ用の物だから使わないでくれよ」


「従魔専用の物もあるのか」


 従魔用と言うかペット用のシャンプーだけどな。


「まあな。シェリルが使うならこっちのボトルで最初に髪を洗ったら、今度はこっちのボトルでもう一回洗ってみてくれ」


「違いは何かあるのか?」


「最初の方は汚れを落として、次のは髪の保護や保湿だな」


「…使ってもいいのか」


「勿論いいよ。合わなかったら他にも種類があるから言ってくれ」


「分かった」


「それじゃあ、俺は先に部屋に戻るから温泉を堪能してくれ」


「すまない。感謝するぞ」


 俺は一足先に部屋へと戻る。その際にベルは温泉から上がり俺の肩に乗ってきたが、コタロウはシェリルと一緒に入浴することを選んだ。…美女と入浴か。羨ましいな。


………

……


 シェリル達が上がると、今度は俺とベルが入りに行く。互いに温泉に浸かり今は夕食の時間となった。せっかくなので今日は温泉宿っぽい食事を提供してみた。俺としては美味しそうなのだが、刺身を見て全員固まっている。…シェリルは分かるが、ベルとコタロウは俺と会うまでは生肉を喰らっていたんじゃないのか?


「これはどう食べるのだ?」


「この醤油って言う調味料に付けて食べるんだ。こっちの緑色のワサビを少しつけるとさらに美味くなるぜ」


 恐る恐るだが刺身に箸を伸ばして口に運ぶ。反応が気になるのかベル達もそれをじっと見ている。


「む、案外イケるな」


 食べられることが分かったので箸が進み始める。ベル達もテーブルの上の料理を勢いよく食べていく。

 個別に分けられているので俺はゆっくり食事を進める。


「どれも本当に美味い。貴様等はいつもこんな食事を摂っているのか?」


「まあな。基本は俺が通販の能力で買った物だな。後はガンツさんの店で食べるくらいだな」


「貴様は料理をしないのか?」


「出来ないことは無いけど面倒なんだよな。シェリルはどうなんだ?」


「私はしていたぞ。野営をするなら簡単な料理くらいはできないと大変だからな。特にダンジョンで同じ保存食を食べ続けると精神的に疲労が溜まってくるぞ。アイテムボックスが無ければ、保存食も不味くなってくるからな。現地で手に入れた物で料理をしないと泣けてくるぞ」


「なるほどな。俺も久しぶりにが料理しようかな」


「能力的に必要ないだろうが、できて困ることは無いだろうな」


 厨房もあるし気分転換にやってみるかな。案外ベルやコタロウも楽しく手伝いそうだしな。それなら、簡単にホットケーキとかにするかな。もしくは、時間はかかるけど、酒にもご飯にも合う角煮を作るのもありだよな。


 何を作ろうか考えているとシェリルから声をかけられる。


「ところでジュン。貴様の通販では保存食やテントも買えるのか?」


「買えるけど必要あるか?能力的に買う必要が無いと思うが」


 食料は通販で問題ないし、薬も月光樹の水がたんまり湧いているからな。テントも隠れ家あればいらないしな。


「一通りは買って収納袋に入れておくんだ。万が一能力が使えなくなったら困るからな」


「了解。なら明日は通販で色々見てみるか。後は月光水を瓶に何本も詰め込めばいいか」


「そうだな。午前中には済ませてゆっくり休むぞ。ダンジョンには明後日からだな」


「そんなすぐに向かって大丈夫なのか?」


 元々は半月くらいは準備に当てるといっていた気がするが、俺に気を使ってくれたのか?


「貴様の能力があれば準備がいらなくなるからな」


 話をしていると、いつの間にかみんなの食事は終わっていた。

 それにしてもこんなに種類があれば一品くらい残しそうな物なのだが、みんなキレイに食べるよな。


「そろそろ眠りたいのだが、貴様等は皆でここに寝ているのか?」


「そうだな。片方のベッドに皆で寝ているな。たまに、この和室一杯に布団を敷いて寝る事もあるけど。ああ、部屋はどこも空いているから好きな部屋を使っていいからな」


 ベルとコタロウが楽しそうに転がるからたまにやるけど、片づけは面倒なんだよな。


「そうか。なら空いているベッドで眠らせてもらうぞ」


「へ?」


「構わんだろ。それとも私は別の部屋で一人寂しく寝ないといけないのか?」


「たぬ!、たぬ!」


 シェリルの言葉を聞いてコタロウがポカポカと俺を叩いてくる。痛くもなく可愛らしいが、誤解は解かないと。

 

「あーコタロウ。ダメな訳じゃ無く驚いただけだから」


 俺がコタロウを宥めだすと、それを見たシェリルはクスクスと笑っている。

 結局シェリルも同じ部屋で寝ることになった。そしてシェリルの腕の中ではコタロウがスヤスヤと眠っている。俺も早く眠らないとな。


 同じ部屋にシェリルがいるので眠りにくいかと思ったが、そんなことは無く気が付くと眠りについていた。

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