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ブックメーカー ~異世界では好きに生きてみたい~  作者: 北村 純
初めての異世界生活
16/92

トラブルは続く

 ハンマーコングを発見した翌日。一部の冒険者以外は帰る事になった。俺は勿論帰る組である。シェリルとは帰りも同じ馬車に乗っている。

 

「貴様本当にいいのか?」


「どうせ俺には使えないんだ。使ってくれて構わないよ。その代わり一ヵ月は俺の訓練を頼むな」


「ああ、全力でやらせてもらおう」


「…ちょっとは手心を加えてくれよ」


「約束はできんな」


 俺達は昨日キャンプ地に帰った後に話し合いをしていた。話し合いの内容は装備についてだ。出会ってから数日程度だがホワイトコングの話を聞いた後に返してなんて言う事はできない。そこで装備を譲る代わりに、ダンジョンに行くまでの準備期間は鍛えてもらう事と“光の剣”がちょっかいを出してくる場合の護衛を約束してもらったのだ。


 元々鍛えてもらう約束はあったからか、シェリルは釈然としない顔だが俺はこれくらいで問題ない。


「しかし、アイツ等別の街に行かないかな」


「あんな奴らの事は気にするな。それよりもちゃんと周りを警戒していろ。依頼の成功後に帰路で命を落とす冒険者は案外いるものだぞ。貴様も討伐に向かう時より気が緩んでいるぞ」


 痛いところをつかれたが本当に頼りになるな。この一ヵ月で学ばせてもらわないとな。


「まったく、まだまだ未熟だな。なあコタロウ」


 コタロウはシェリルの膝の上で熟睡中だ。そんなコタロウを優しく見つめながら撫でている。もはやシェリルの従魔と言われても疑う人はいないだろうな。むしろ親子か?

 ちなみにベルは俺の頭の上で涎を垂らしながら眠っている。なんだろうなこの差は。ベルももちろん可愛いけどさ。


「いったん休憩になります。二時間後にまた出発します」


 馬車が止まり休憩の声がかかる。ベルとコタロウはその声で目が覚めたようで、欠伸をしながら起きてきた。


「さて、今日は何にするかな?」


「期待しているぞ。貴様の用意する物は珍しくて美味い物が多いからな」


 期待値が上がると何を出すか悩んでしまうな。…今日は稲荷寿司や巻物でいいか。巻物もヒレカツやエビカツを混ぜておこう。


「今日はこれだ」


 皿の上に用意すると、ベルはすぐに巻物を一つ取り恵方巻のように口に入れていく。

 シェリルとコタロウも後に続いて食べ始める。


「これも食べやすくて美味いな」


「たぬ♪」


 皆どんどん食べていき、無くなるのには時間がかからなかった。

 次は寿司でも出そうかな。


「しかし、今回の依頼中は干し肉や黒パンしか食べられないと思ったが、貴様と知り合ったおかげで食事の不自由がなかったぞ」


「喜んでもらえて何よりだ」


「保存が効く物を売ってもらうことは可能か?」


「構わないよ。ああ。準備期間中の飯は用意するからな」


「遠慮なくいただこう」


「キュ」


「たぬ」


 シェリルの言葉にベルとコタロウも大きく頷いている。


「いや、お前らは元々遠慮なんてしたことないだろ」


「キュ?」


「たぬ?」


 俺の言葉には何の事?と言うように二匹揃って首を傾げている。


「フフ。本当に退屈しないな」


 そう言いながらベルとコタロウを撫で始める。街に着くまでの間、楽しいひと時を過ごしていた。


………

……


「お、街が見えてきたな。久しぶりに感じるな」


「これで少しは落ち着けるな」


 街に着くと日も落ちて夜になっていた。冒険者達は宿に向かったり、そのまま夜の街へと消えて行ったりする。


「ジュン。特訓の方は何時から行う?私は明日からでもいいが、用事があれば終わらせて落ち着いてからでも構わんぞ」


「いや、特にないし明日からでいいよ」


「ふむ。なら明日の朝にギルド前に集合だな」


「了解」


 シェリルは宿屋へと帰っていった。

 色々気にかけてくれるし温泉好きなようだから隠れ家に招待したい気持ちもあるが、この能力も大っぴらにできないからな。…でもダンジョンに行く前には招待しようかな。


 そして隠れ家に入ろうと思った時に“光の剣”の五人が目に入った。


「この時間にギルドに行くのか?面倒事にはならないでくれよ」


 気にはなるが、とりあえず俺達は隠れ家に戻り温泉に入る事にした。


「いやー、やっぱり温泉は良いな。魔法で汚れは落とせるけど、こうしてお湯につかるのが最高だよな」


「キュキュキュキュー」


「たぬたぬー」


 久しぶりの温泉にベル達もテンションが高くなっている。広い浴槽で泳ぎながらはしゃいでいた。

 楽しいのだがシェリルの事が頭によぎってしまう。ベル達も懐いていたし、特にコタロウは休憩中はべったりだったからな。


「まあ考えても仕方がないよな」


 少し思うところがあったが、ゆっくりと温泉を堪能してから部屋へと戻る。


「夕飯は焼き鳥にでもするかな」


 定番の物からちょっと珍しい部位まで用意してみた。

 ベル達も待ちきれない様子なので早速食べることにする。


「それじゃあ食べるか。いただきます」


 俺は皮からいただく。焼き鳥だとこれが一番好きだ。ジュワッと広がる脂がたまらない。他にもつくねやぼんじりなどを食べていく。そして鶏の白子の焼き鳥があるのを初めて知った。

 どちらかというと、魚の白子の天ぷらが食いたい気もしたが。


「キュキュ♪」


「たぬぬぬ♪」


 ベル達も好みの焼き鳥を見つけて手に何本も持ちながら食べている。

 腹も一杯になったし、今日はベッドでゆっくり眠れるぞ。

 たまに野営する程度なら楽しめるがやっぱり我が家が一番だよな。


―翌日


「今日もガチャはハズレか。やっぱり十連ガチャはでてくれないな」


 当たったハンガーをポイントに変換する。本当にガチャは当たり外れが激しいな。


「さてと、ブラッドダガーとシャドーダガーは修復完了したみたいだな。嵐舞はまだかかるか。鎮魂があるけど、武具箱を使うか?…いや、まだ早いか」


 これらの武器は黒いゴブリンとの戦闘の後に修復を開始していた。もっと早く修復が終わると思ったのだが、特殊効果が付いている装備は時間がかかるようだった。


 俺はブラッドダガーを装備すると、ベル達を連れてギルドへと向かう。

 ギルドの入口前には既にシェリルが着いていた。


「早いな待たせたか?」


「今着いたところだから気にするな」


 べたなやり取りだなと思いながらもギルドの中に入る。

 訓練も兼ねて依頼を探すのだがどれが良いだろうか?


「オークあたりでいいだろう」


「そうだな。早く行って訓練した方が良いしな」


 早々に依頼を決めてオークの出る森へと出発する。


(なあシェリル。つけられてないか?)


(正解だ。恐らく“光の剣”だろう。何かしかけて来るなら対処するぞ)


 思わずため息が出てしまう。こんな事をしている暇があれば、別の依頼や訓練をすればいいのにな。

 少々憂鬱な気分になったが、気合を入れなおして進んでいく。森に着くまでの間、“光の剣”は手を出してくることは無かった。


「さてオークはどこにいるか」


「向こうに何かいるな。オークかは分からないけど」


「依頼中も思ったのだが、貴様は探知の能力があるのか?妙にゴブリンを発見することが多かったが」


「まあな。視力と聴力を強化したのは見ていたよな。同じように俺は第六感も強化できるんだよ。それと風が見えるというか感じるんだよ。嫌な風が流れる先には魔物がいるな。最近は強弱も少しわかるようになってきた」


「なるほどな。その能力は貴様の戦いにも役に立つかもしれんぞ」


「どんな感じでだ?」


「まあまずは戦ってみろ」


 魔物がいる場所へと向かっていく。そこには目的のオークがいた。俺はブラッドダガーを装備しオークに襲い掛かる。


「ダレダ!?」


 オークが気が付いた時には首を掻き切っていた。


「不意を突いて急所を一撃か。暗殺者だな」


「嵐舞が使えないからな」


「そういえば、その武器もかなり疲労していたと思うが」


「…直すアイテムを持っているんだ。嵐舞も修復中だ」


「貴様は何でもありだな。まあいい、しばらくは戦い続けてくれ」。


 素材を回収しながら魔物を探していく。オーク以外とも戦っていると昼になっていた。

 ついでにコタロウはベルと一緒に特訓をしている。俺と一緒に休まずに頑張っている。


「一度休憩するぞ。昼食にしよう」


 既にベルはシェリルの肩の上に、コタロウは腕の中で休んでいる。

 適当に開けているスペースを見つけ結界を張り皆で腰を下ろす。

 これで一息付けるな。


「どうだった、俺の戦いは?」


「貴様は勘が鋭いな。相手の攻撃に対して動きが早い。今後は相手の動きを見てどこを狙っているかを意識しろ。貴様なら攻撃の道筋が見えてくるかもしれんぞ」


「できるかな」


「慣れろ。数をこなして体に染み込ませるんだ」


 マジか。この後何体の魔物と戦うんだろうな。…まずは休んで栄養補給にするか。体力をつけないとやってられないからな。


 昼食はシェリルの希望でサンドイッチだ。フルーツサンドが特にお気に入りのようでパクパクと食べていく。

 俺も疲れているからか甘いモノが美味しく感じる。カツサンドなども好きなのだが、気がつくとフルーツサンドを沢山用意していた。


「美味かったぞ。やはり甘いモノは素晴らしいな」


 機嫌の良いシェリルと共に午後の訓練を始める。内容は午前と変わらないが、相手の動きに注意しながら戦うようにした。


「どうだ手応えはあったか?」


「分からん。ただいつもよりは疲れた」


「まだ体に染み込んでいないから、余計な力が入ってしまったのだろう。貴様なら三日もあれば変わってくると思うぞ」


「シェリルの言葉を信じさせてもらうぞ」


 今日の訓練はこれくらいにして、オーク退治の報酬をもらうためにギルドへと向かった。


 帰りも“光の剣”の奴らが後ろを歩いてくる。結局何もしてこなかったがいい気はしない。明日以降も同じことをしてくるなら対策を取らないとな。幻魔法の練習にでも使うかな。


 ギルドに着くとすぐに受付に向かう。


「オーク退治の報酬をお願いします」


 ギルドカードと討伐の証拠としてオークの耳を提出する。

 受付の女性は確認を行うとすぐに報酬をくれたのだが、帰りに引き留められてしまう。


「ジュン様。ギルドマスターがお会いになりますのでお待ちください」


「何で?」


「お会いになれば分かります。ギルドマスターからのご命令ですので帰らずにお待ちください」

 

 早く帰りたかったんだけどな。“光の剣”についての件かな?


「シェリルごめん。俺はもう少し時間がかかりそうなんだ」


「構わんぞ。私も待つとしよう」


「ありがとうな」


 それからしばらく待っているが一向にお呼びがかからない。

 さすがに飽きてきたところで“光の剣”の五人がやってきた。


「やあ。君もギルドマスターに呼ばれているんだろ。僕たちもなんだよ」


「へぇ~」


「お前そんな態度とらない方が良いぜ。お前の今後がどうなるか分かんねぇぞ」


 ニヤニヤしながら話しかけてくるアークフット。コイツの話し方からするとギルドマスターはコイツ等の味方かな。…念のためにいくつか準備しておくか。

「お待たせいたしました。ジュン様、“光の剣”の皆さま。ギルドマスターがお待ちです」


「私も同行させてもらうぞ。私はジュンの関係者だからな」


 職員に有無を言わさずシェリルは着いて来てくれた。

 そしてギルドマスターの部屋の前に着く。


「例の方々を連れてまいりました」


「入ってちょうだい」


「失礼いたします」


 部屋の中には高そうな服と装飾品を身にまとった女性がいた。

 女性は俺に侮蔑の視線を向けた後に“光の剣”の五人に視線を移してにっこりとほほ笑んだ。


「久しぶりね。昨日は会えなくてごめんなさいね。でも報告書はちゃんと読んでいるから安心してね」


 ギルドマスターの言葉に満更でもない笑顔になる五人。

 さっさと本題に入ってくれないかな。


「貴方は始めましてよね。私はギルドマスターのアリーシアよ」


 口調は普通だが表情は冷めている。むしろ敵意すら感じる。だが、礼儀としてあいさつは返さないとな


「初めましてDランク冒険者のジュンです。今日はどのようなご用件でしょうか?」


「その前にどうして関係ない者がいるのかしら?呼んだ覚えは無いのだけれど。それに従魔を連れて来るなんて常識が無いのかしら」


「“光の剣”と俺が呼ばれているなら依頼中の事ですよね。彼女は初日からずっと俺と行動していましたから無関係ではないですよ。それと、急に呼ばれたものですから従魔を預ける暇が無かったんですよ。事前に通達してもらえれば考えたんですが」


 考えるだけで連れて来ると思うけどな。


「…まあいいわ。さっさと座って」


 促されるまま席に着く。席に着いたのはギルドマスターとシャイニーと俺だけで、他の人達は立っている。


「単刀直入に言わせてもらうけど、“光の剣”から貴方への金貨三枚は無効よ。むしろ迷惑料として金貨十枚を支払いなさい」


 ギルドマスターは意味不明な事を自信満々に言い放っている。金貨三枚の収入が金貨十枚の罰金になるなんて理解できない。その言葉を聞いて“光の剣”の五人はニヤニヤと俺を見ている。


 俺はため息しか出ない。ギルドマスターもこの程度なのか。


「嫌ですよ。理由が分かりません」


「貴方は顔もいまいちだけど頭も足りないのね。卑怯な手段で挑んだ決闘なんて無効に決まっているでしょ」


「卑怯?話もちゃんと聞いていないのにどうしてそんな判断になったんですか?“歴戦の斧”やギルド職員が立会人なって認められていますけど」


「私が無効と言ったら無効なのよ。それに話は“光の剣”からの報告書とリアネから聞いているわ」


「俺の話は何も聞いていないですよね。片方の話しか聞かないのはどうかと思いますよ。それに他の職員の話は聞きましたか?“歴戦の斧”からのお話は?」 


「そんなの必要ないのよ。貴方と“光の剣”じゃ信頼度が違うわ」


「そうだろうな。ジュンの話の方が正しいと思うからこそ、個室で他の職員を排除して物事を決めようとしているんだろう」


 シェリルが俺に助け舟を出してくれる。だけどもギルドマスターは意見を変えることは無い。


「呪い持ちのブスが私に意見しないでくれる」


「貴様は顔と性格と頭どころか目も悪いようだな。呪い持ちは否定しないが私ほどの美人はそうそういないぞ」


「はぁ、顔に黒くて気持ち悪い痣があるのに」


 勝ち誇った表情でシェリルに暴言を吐くが、シェリルは意に介さない。


「どこにだ」


 そう言って仮面を外したシェリルの顔には痣などなかった。どうやら不死鳥のドレスの力で、時間と共に外見的な部分は見えなくなってきているようだ。


「な!?」


「ふむ。貴様は化粧で隠しているが実際はどうだかな。私はスッピンでこれだぞ。ケアはしているがな」


 シェリルが勝ち誇った顔をしている。一体何の勝負をしているんだよ。


「何を言っているのかしら。あなたこそ顔はともかく貧相な体ね。胸元が寂しいわよ。ああ、だからそんな低級冒険者しか寄ってこないのね」


「つまり貴様は体で男を引き寄せているのか。今の地位も体で手に入れたのか」


 女同士の譲れない部分があるようだ。俺はこの勝負に入っていける度胸は無い。そして、シェリルは決して小さくないと思うけどな。


「とにかく、私はもう必要な情報を聞いて決定をくだしたからこれで終わりよ」


「上に立つ者のセリフじゃないですね。情報はとにかく集めた方が良いですよ。自分に都合の良い情報だけじゃいずれ大きな失敗に繋がりますよ」


「もう決定よ!ハッキリ言うけど、その辺の冒険者なんてどうでもいいのよ。“光の剣”みたいに有望な一部の冒険者の方がよほど大事だわ。他の冒険者は私の決定に従っていればいいのよ」


「つまりは俺の意見は必要ないと」


「当たり前じゃない」


 なんでコイツがギルドマスターになったんだ?普通思っていても口に出さないよな。俺としてはありがたいけど。


「おい。そういう訳だからちゃんと金を払えよ」


「一応聞くけど“光の剣”の総意だよな」


「僕たちは今後も皆のために頑張っていかないといけないからね。卑怯な手段を取った君に金貨三枚という大金を取られるわけにはいかないんだよ」


「書類も作成して立会人がいる正式な決闘を反故にするのか?」


「反故にするんじゃない、無効なんだよあれは。君が正々堂々と勝負をすればこんな事にはならなかったんだよ」


「きちんと勝負しただろうが。そのうえでお前は負けたんだよ。反故にするって事はお前も普通の冒険者は眼中にないってわけか」


「そんなことは無いが、僕らは他の冒険者とは意識も実績も違うのは確かだよ」


 眼中にないじゃなくて見下しているってわけか。冒険者じゃなくて他の職に就けばいいのに。


「そうかよ。一応聞くけどこの事はギルド内に広めてもいいよな」


「貴方本当に馬鹿ね。ギルドマスターの私が否定すればそれで終わりなのよ」


「話してもいいと解釈するぞ」


「やってみれば」


 俺は立ち上がって扉に向かう。

 シェリルが無言で魔法を放ちそうだったけど、それを制止して引っ張って部屋の外に出る。


「言っておくけど、一週間以内に支払わないと資格剝奪の上に犯罪者扱いだからね」


 部屋の中は笑い声であふれていた。


「おい、あんなことを言わせたままでいいのか?」


 シェリルが詰め寄って揺さぶってくる。


「ちょっと待ってくれ考えがあるから」


 俺は懐からICレコーダを取り出し再生させる。


「これはあいつらの声だな。凄いが音が小さくないか」


「まあな。そこは考えがあるから、まずは受付にでも行くぞ」


 受付に着くと、冒険者や職員で溢れている。そこで俺はICレコーダーをスピーカーに接続させ、最大音量で流す。


 最大音量と言っても、この広い空間全てを満たすわけではない。しかし近くの者が足を止めると他の者たちも近づいて録音した内容に耳を傾けていく。


 録音した内容は何度もリピートさせているので、どんどん俺たちの会話内容を知る者は増えていく。ギルドマスターやシャイニー達の態度に怒りを露にする者も多くいる。


「くそ!やっぱりなのか。俺達も“光の剣”とトラブった時に罰金になったけど繋がっていたのかよ」


「俺達もだぜ。アイツ等に獲物を横取りにされたのに、こっちが悪者だったんだぜ」


「もしかして“竜の鱗”も同じじゃない。私達喧嘩になったんだけど、アイツ等お咎めなしだったのよ」


 どんどん冒険者たちの不満があふれ出す。

 他にも俺の事を聞いてくる冒険者もいた。


「このジュンって冒険者って誰なの?卑怯な手段って何?」


「お前は街に残っていたから知らないか。依頼中にシャイニーに喧嘩を売られて決闘になったんだよ。その時に異臭を放つアイテムを投げつけてその隙をついて勝ったんだよ」


「どこが卑怯なの?アイテム禁止のルールだったの?」


「そんなのねえよ。アイテムの使用も許可だったしな。剣だけで戦いたいなら、冒険者じゃなくて騎士でも目指せばいいのによ。それにシャイニーの従魔はジュンを殺そうと横入りしたんだぜ。卑怯なのはシャイニーの方だ」


「負けたことも認められないって、顔だけのバカ集団ね。一緒に行動したくないわ」


「“歴戦の斧”の指示も無視したんだぜ。知識も無いのにゴブリンキングから倒しちまうから、バラバラになったゴブリン共の退治が本当に面倒だったしな」


「最悪ね」


 録音の再生を止めたが、冒険者達は集まる一方だ。録音を聞いていなかった者には近くの冒険者が大げさに伝え始める。むしろ音声を止めた事で色んな付属の情報が増えていく。


「お前はギルドマスターとシェリルさん。どっちが美人だと思う?」


「俺は呪われる前の姿を見たことあるけどかなり美人だったな。エルフにも匹敵するぜ」


「だけどどっちも怖いよな」


「まあな。見る分には目の保養だけど一緒にいるのはちょっとな」


 …ちょっと変な話も混じっているが大混乱中だ。

 職員が場を収めようと頑張っているが、それで納得して引き下がる者はいない。


「静かにしなさい!!何をやっているのですか!!」


 誰かが報告に行っのか、ギルドマスターを始めとした幹部職員たちがやってきた。“光の剣”もいるな。


「これは何の騒ぎですか」


「偉そうにしてんじゃねえぞ、贔屓野郎が!」


「中立の立場を守ろうとしないギルドのマスターなぞ辞めてしまえ!」


「今までの事も責任取りなさいよ!」


「な、何を言っているのですか」


 冒険者たちの剣幕にギルドマスターも押されてしまう。

 そんな中、一人の眼鏡をかけた女性職員が前に出る。


「静かにしていただけますか」


 大きい声ではない。しかしその声は響き渡り、騒がしかった空間が一気に静かになる。


「何があったか教えていただけますか?」


 俺は録音を再生させた。


 先程の会話が流れる。「それを止めなさい!」、「これは嘘だアイツの陰謀だ」などと喋ってくる奴らはいたが近くの職員や冒険者が押さえつけている。そして最後の笑い声が響き渡った。


「これが騒ぎになった原因です。私のような被害者が出ないように注意喚起のために流したのですが、すでに沢山の冒険者が被害を受けいたためこうなってしまいました。申し訳ありません」


 社交辞令として謝っておく。本心は悪いなんてこれっぽっちも思っていない。むしろ、こんな奴をギルドマスターにしているギルドの怠慢だと思っている。


「頭を上げてください。今回の事はメリルから相談されていたのです。こちらの不手際の方こそ申し訳ありません。事前に“歴戦の斧”からも話は聞いていましたので迷惑料も必要ありませんのでご安心ください。そして金貨三枚は当然の権利です」


「ナーシャ。古参の職員とはいえ、タダの職員程度がギルドマスターの決定に意見できると思っているの」


 ギルドマスターが眼鏡の職員を睨みだすが、職員は雰囲気を一気に変えて逆に睨み返す。


「うっせえぞアバズレが。お前を見ていると本当に先代達の子供なのか疑わしくなるぜ。ギルドはお前の私物じゃねえんだよ」


「ひ!?」


 後ろには大蛇が見える。その迫力に圧倒される者は少なくない。


「さすがだな」


「知っているのか?」


「彼女は“蛇眼姫”と呼ばれた元はAランクの冒険者だ。引退したと聞いていたがギルド職員になっていたのか」


 視線を向けると何名かの職員が必死に抑えているのが見える。ギルドマスターは詰め寄られて腰を抜かしているし、“光の剣”は睨まれて動けずにいる。


 こちらが見ていることに気が付いたナーシャさんは、詰め寄るを止めて全体に向かって声をかける。


「ごほん、皆さん今回はギルドの失態を見せてしまい申し訳ございません。この行為はギルドの信用を著しく下げる行為と、重く受け止めております。今後このような事が起こらないようにギルド内の調査を一斉に行います。皆様も情報があればお知らせください。被害があった方には何かしらの形で謝罪を致しますので、調査が終わるまでお待ちください」


 ナーシャさんの言葉でこの騒ぎは終了となる。ギルドマスターや“光の剣”の奴等が憎らし気に俺を見ていたのは気になった。

 

「ジュンさん。少々よろしいですか?」


 気が付くとナーシャさんが側にいた。


「どうしたんですか?」


「今回は本当に申し訳ありません。責任をもって沈静化にあたりたいと思いますが、貴族なども絡んできますので時間がかかると思います。その間にバカどもが刺客を放つ可能性もありますのでお気を付けください」


「分かりました。ありがとうございます」


 貴族とか面倒な気しかしないな。刺客も放たれるんじゃ訓練にも支障きたしそうだしな。

 今後はどうするかな。

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