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ブックメーカー ~異世界では好きに生きてみたい~  作者: 北村 純
初めての異世界生活
14/92

トラブル再び

 爆発音がしたのでその場所に向かうと、シェリルが立っていた。


「シェリル大丈夫か!」


「問題ない。貴様等の方も勝ったようだがボロボロだな」


 そう言ってクスリと笑う。

 

「まあな。シェリルの方はキレイだな」


「何だ私に惚れたのか?仕方のない事だが、この場面で話すとはムードが無いな」


「そっちの意味じゃねえよ」


「そうか。本気だったら貴様には恩があるから少しは考えてやったんだがな」


「考えた結果断るんだろ」


「フフ、どうだろうな。…まあ冗談はこれくらいにするか。あのゴブリンくらいなら時間はかかってしまうが問題ない。武器が強力でも本体が未熟なら意味がないからな。つけ入る隙はいくらでもある」


 耳が痛いセリフだ。…俺も訓練頑張ろう。


 取り敢えず俺達は互いにどんな状況だったかを伝えあった。


………

……


「そうか、魔槍も消えたのか」


「魔剣も同じような感じなんだな。魔剣とかは壊れると消えるものなのか?」


「普通は消えんな。誰かの思惑が関わっているのかもな」


「そんなことがあるのか」


「技術は進歩するものだ。それに周辺国との関係も良いわけではない。実験として使われた可能性はある。ま、ここから先は私達の仕事ではない。証拠は無いが“歴戦の斧”とギルドには報告しておくぞ」


「そうだな。とりあえず俺達は残りのゴブリンを退治するか。おっとその前に」


 俺は通販で狐の半面を買って渡した。デザインも似ているからいいだろう。


「いいのか?」


「何の効果もない普通のお面だから気にするな」


 シェリルはお面すぐに着ける。その後俺達は周辺のゴブリン退治を開始する。他の冒険者も大分倒してきたようで、数は少なくなっている。それでも上位種は出たりするが、黒いゴブリンの様なイレギュラーは見かけない。


「この周辺にはもういないようだな」


「そうだな。ベルの探知でもいないっぽいな」


「ならキングはここから離れた場所かもう討伐されたかだな」


「そうなのか?」


「キングは周りに多くのゴブリンを従えている。一体で行動する事は無い」


「倒すのも面倒だな」


「まあな。ゴブリンの場合は先にキングを倒すと、一斉に逃げ出して周辺に被害を及ぼすからな。周辺の事を考えるなら地道に数を減らしてからじゃないとキングは倒せないんだよ」


「先に頭を潰せば良いわけじゃないんだな」


「魔物の生態は勉強しておけよ。普段は群れだが、一匹だけになると戦闘力が増す魔物や、雌を先に倒すと雄が凶暴化する魔物もいる」


 単純に倒すだけじゃダメな魔物も結構いそうだな。


「サンキュー、勉強になるよ」


「礼なら飯で示してくれたらそれでいい」


「夕飯はちょっと豪華にするかな。一緒に食べるか?」


「遠慮なくいただこう。さて、そろそろ移動するぞ」


「了解。一応視力を強化して周りを見ておくな」


 念のために周辺をもう一度確認する。すると遠くに“歴戦の斧”のメンバーが見えた。ただ雰囲気がおかしい。


「あっちの方向に“歴戦の斧”がいる。ただ怒っている雰囲気があるな。近くには王冠を被った巨大なゴブリンとウィザードとは違うマントと杖を持ったゴブリンの死体がある」


「キングとセージだな。これでほぼ終わりのはずなのだがな。その雰囲気なら何か他に近くにないか?」


「他にか…あ!」


「どうした?」


「“光の剣”がいる。他にも冒険者が多数いるけど。…帰ろうか」


「同意したいが、“歴戦の斧”がトラブルになるとまとめ役がいなくなる。一応様子を見に行くぞ」


「俺達が行く方が騒ぎにならないか。“光の剣”の奴ら絡んでくる可能性があるし」


「私達とのトラブルになった方がマシだ」


 面倒とは思ったが“歴戦の斧”の場所へと向かった。

 たどり着くと既に多くの冒険者が集まっており、"歴戦の斧"と"光の剣"は睨み合っていた。


「一触即発の雰囲気だな」


「私は手堅く“歴戦の斧”の勝ちに銀貨一枚だ。人数の差はあるが士気の高さと実力は“歴戦の斧”の方が圧倒的に上だからな」


「賭けるなよ。それに賭けるとしたら俺も“歴戦の斧”に賭ける。“光の剣”は慢心や油断が大きいからな。“歴戦の斧”の方がどう見ても優勢だ」


「なんだつまらん。男なら大穴に賭ければいい物を。しかし、結構な数の冒険者が揃っているな」


「本当だな。あ、ガンツさんや三人組もいる」


 俺が知り合いを見かけると向こうも俺達に気付き近くに寄ってきた。


「よお、お前らも無事だったか」


「皆さんもご無事で良かったです。ところで何かあったんですか?」


 俺の質問に代表してクロスさんが答えてくれた。


「俺達も現場にいた冒険者に聞いたんだがな」



「お前ら!キングとセージはこの奥にいる。追いつめているのは俺達だ。目の前の敵に集中して確実に叩いていくぞ。ギガントスとシェーラは別動隊を率いて逃げ道を塞ぐんだ」


 “歴戦の斧”がベテランの冒険者を率いて、このゴブリン達の本拠地に攻め込んたんだ。


「数はゴブリンどもの方が多い。上位種も多数いる。変異種が混じっている可能性もあるから無理はするなよ。ゴブリンだからと侮るな」


 ディランの指揮のもと、冒険者たちは統率が取れていたんだ。他の場所の討伐を終えた冒険者もやってきたが、“歴戦の斧”が上手くまとめていたんだ。そんな時にな。


「行くぞ!“光の剣”の強さを見せつけるんだ!目標はキングとセージだ。頭を潰せばゴブリンどもはバラバラになるぞ」


 “光の剣”の連中がやってきて勝手な行動をとり始めた。

 マジでバラバラになるから厄介なのに何考えているんだろな。


「おい!勝手に前に出るな」


「悠長な事は言っていられない。最初に敵のボスを潰すべきだ」


「そうそう。それに俺達は強いから敵陣のど真ん中でも平気なんだよ」


「やめろ!今倒すとこの数のゴブリンがどこに逃げるか分からんぞ!」


 ディランの制止を振り切り好き勝手暴れ始める。時に味方に魔法を撃ちそうになったり、ゴブリンを擦り付けたりと最悪だったらしい。


「このままだとまずいな。おいルージュ。お前も別動隊を率いて逃げ道を塞いで来い。今の段階でキング達がいなくなると、この場で全部の処理はできなくなる」


「分かったわ」


 “光の剣”の連中はキングとセージを倒したが、ディランの予想通りゴブリン達はバラバラに逃げ始めた。ディランが人を配置していたから逃がす事は無かったが、パニックになったゴブリン達のせいで不要なケガ人は増えていった。しかも“光の剣”の連中はいち早く退散していたらしいぞ。



「ってな訳だ。しかも謝りもしないから質が悪い。“歴戦の斧”の連中が説教をかましているが、まともに聞いちゃいなくてな」


「働く無能って強敵より厄介だよな」


 俺の言葉に周りにいた冒険者も含めて全員がうんうんと頷く。


「ところであのままにしておくのか?まだ処理は残っているだろう」

 

 シェリルが“歴戦の斧”の方を指さして尋ねると、パッチが返事をする。


「今は休憩中で、交代で周囲の警戒や逃げたゴブリンの捜索を行っている。それとギルド職員を呼びに行っているぜ」


 ギルド職員か。まさかリアネじゃないよな。あの女が来たら絶対に拗れるぞ。今も争う声が聞こえてくるしな。メリルさんが来てくれないかな。いや、中立なら誰でもいい。


「お前らその態度は何なんだよ。一言くらい謝罪しろ。勝手な行動で必要ないケガ人が増えたんだぞ」


「僕は冒険者として間違った事をしたつもりはありませんよ。頭を叩かなければ勝ちじゃないでしょ。ケガをしたのは未熟だっただけです。現に僕らはケガ人はいませんからね」


「ゴブリンはリーダーが死ぬと一斉に逃げ出すんだよ。だから初めは雑魚を減らさないと、いろんな場所に逃げられて村に被害が出ることがあるんだよ」


「それなら僕たちだけに任せてくれれば。広域魔法で一撃ですよ」


「お前はこの森を消すつもりか。森が無くなれば魔物の住処も変わるし、森の恵みで生活していた魔物が生きるために人を襲いだすこともあるんだぞ」


 ナイルさんとシャイニーが言い争っている。ディランさんも止める気は無いようだ。

 ハラハラしながら見ているとギルド職員がやってきた。…リアネと取り巻きっぽい連中だ。シェリル達も微妙な表情をしているし。


「一体何をしているんですか。まずは離れなさい」


 一旦言う事聞いて距離を取って休憩を取っている。それでも“歴戦の斧”の苛立ちは伝わってくる。

 リアネは周りの冒険者から話を聞いているが、どんな判決を出すのやら。


「なるほど分かりました。“歴戦の斧”の皆さん、この件は終了にしてください」


 もうヤダこの職員。空気読んでよ。中立をしっかり守れよ。


「どういうことだ」


 ナイルさんが掴みかかりそうな雰囲気だったが、それを制止してディランさんが静かだが怒りを乗せた声で尋ねる。


「彼らも最善の策を考えて動いています。死者も出ていませんし、報告を聞く限り討ち漏らしもほとんどいないようです。それであれば責任を取る必要などありません。ですが確かに謝罪が無いのはいけない事ですので、“光の剣”は謝罪をして下さい」


「リアネさんがそう言うなら分かりました。申し訳ありませんでした」


 めっちゃ適当な謝罪だな。頭すら下げていない。言わない方がマシだろあれなら。“歴戦の斧”どころか周りの冒険者の顔見ろや。


「謝りましたのでこれで終わりです。“光の剣”は強いとはいえ、まだ新人なんですよ。貴方達は先輩冒険者として寛大な心を持ってください。何事も命令するだけでは人は付いてきませんよ」


 コイツ等は酔っぱらっているのかな。まともな感覚していたらこんな事は言わないだろう。

 冒険者の何名かは武器に手をかけて必死にこらえている。その中には“歴戦の斧”のメンバーもいる。


「リアネさん、すみませんでした。僕達のせいで余計な仕事を増やしてしまって」


「気にしないで下さい。私は貴方達を応援していますよ。これからも世のため人のために頑張ってくださいね」


 謝る相手が違う。

 周りを気にせず和やかに話をするのはある種の才能だよな。

 そしてお前らの行動が人のためになっていないことに気が付けよ。不要なケガ人まで出しておいて。


「このままじゃまずいよな。冒険者の不満が溜まってる。ちょっとしたことで喧嘩になるぞこりゃ」


「だがどうするんだ?貴様に何か考えがあるのか」


 そう言われて俺は考える。アイツ等はディランさんの言う事を聞けという約束も守っていないし痛い目にあっても良いと思う。


「無理矢理だけどな。全員ちょっと離れていてくれ巻き込まれるぞ」


 俺は悪臭玉を取り出した。


「ほう。それを使うのか」


「離れた方が良いぞ」


 ガンツさん達は離れたがシェリルはまだ近くにいる。


「面白そうだから近くにいよう。巻き込みは気にするな」


 本人もそう言っているからいいか。それじゃあ。


「あー、大変だ。アイテムを落としてしまった。逃げてくれ」


 悪臭玉を“光の剣”の方に投げつけ棒読みで危険を促す。“光の剣”以外が被害を受けないように風を操作していたが、“歴戦の斧”や周りの冒険者はすぐに飛び退いた。さすがだ。

 だが緩んだ空気の“光の剣”には直撃したけどな。


「おぇ!?」


「ああ!!」


「あー!!なになに!?」


「いやー!?」


 阿鼻叫喚の地獄絵図。さっきまで怒りの表情を見せていた冒険者達も哀れみの視線を向けている。


「アハハハハ」


 唯一、俺の隣のシェリルだけが笑い飛ばしている。


 “光の剣”で聖魔法を使えるエリックやクミンが魔法を使用したのか徐々に臭いが薄れていったようだ。まだフラフラだがシャイニーとリアネが俺に怒りを向けてきた。


「何するんだお前は!!」


「意図的な攻撃。これは問題ですよ!!」


 その怒りを無視して俺はその場の冒険者たちに聞こえるような声で話をする。


「皆さま迷惑をかけて申し訳ございません。アイテム整理をしていましたら手が滑ってしまいました。ですが私は、冒険者になってまだ一か月程度しかたっていないド新人。まだまだ未熟な者ですので寛大な心を持っている先輩冒険者の皆様は許してくれると確信しております。死者もいませんし謝ったから許してくれますよね」


 俺の言葉を聞いて周りの冒険者たちからは笑い声が響き始めた。その中には“歴戦の斧”のメンバーもいる。


「ハハハ、しょうがないから許してやるよ。冒険者なら避けれるものだったしな」


「俺も先輩冒険者として許してやろう。新人は失敗して当然だからな」


「そうね、一ヵ月程度の新人ならありえるミスだわ。この程度で怒る先輩冒険者はいないわよ」


「次は失敗するなよ。学ばずに繰り返すのは新人でもダメだからな。先輩冒険者の忠告は聞いておけよ」


 俺の意図を察した人たちが悪乗りを始めた。

 “光の剣”やリアネの顔が赤くなっていく。


「お前ら静かにしろ!」


 ディランさんが俺の横に立ち声をかけると辺りが静まった。


「まあ、新人のやったことだからな。多少は目を瞑ってやらんとな。だが」


 俺の頭に「コンッ」と拳骨が落ちた。もはや撫でる程度だな。


「何も罰が無いのは違うからな。だから俺が拳骨をした。これ以上は責めてやるなよ。“光の剣”も謝って終わりだから、コイツに関してもこれで終わりだ」


 周りの冒険者達が再び笑い始める。ディランさんは去り際に小さい声で「気が晴れたぜ、サンキューな」と言っていた。その後もナイルさんを始めとした“歴戦の斧”のメンバーが俺の背中を叩きながら声をかけてくれた。ちょっと痛かったけど。


「さて、そろそろ戻らなきゃいかんしな。ルージュ、アイツ等を回復させてやってくれ」


「はーい」


 ルージュさんが魔法をかけると臭いがとれて気分も落ち着いたようだった。

 さすがトップクラスのパーティーメンバーだな。


 だが、“光の剣”の連中はお礼も言わず、俺を睨むとさっさと帰っていった。 


「貴様は“光の剣”に喧嘩を売るのが上手いな。退屈しないぞ」


「俺もこんなに口が回るとは思わなかった」


「まあ、ほどほどにしておけよ。さて、見張りをしている奴らはいるがそろそろ一度森を出るべきだな」


「そうだな。結構うるさくしたしな」


 同じことをディランさんも思っていたようで、この後すぐにキャンプ地に戻るように号令が下った。

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