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ブックメーカー ~異世界では好きに生きてみたい~  作者: 北村 純
初めての異世界生活
13/92

魔剣と魔槍

 建物から出ると黒いゴブリンはまだ俺達を探しているようだった。

 どうやら本当に探知能力は優れていないらしい。だが、予想外の事が一つ起こっていた。


「なあシェリル。俺は幻を見ているのかな。槍を持っている黒いゴブリンが見えるんだけど」


「奇遇だな、私も同じ物を見ている。案外私達は相性がいいのかもな」


「ハハ、なら結婚でもするか」


「構わんぞ。ただし結納金は白金貨十枚だ。もしくは解呪の手伝いでもいいぞ。それで私のような美人が手に入るなら安い買い物だぞ」


「嘘じゃないだろうな」


「私は噓などつかんぞ」


「それじゃあ、頑張って役に立つというアピールでもしようかな」


「そうか。私のために頑張ってくれ」


 この世界にも結納金があった事にはちょっと驚いた。とりあえず互いに冗談を言い合う余裕はあるな。


「それにしても何か話しているな」


 聴覚と視力を強化してゴブリン達の会話に集中する。


「テコズッテイルナ キョウダイ」


「ムシケラハ シブトイカラナ テツダイヲタノム オレノ マケンハ タンサクニ ムカナイ」


「マカセロ キョウダイ ワガ マソウノ ノウリョクヲ ミセテヤル」


 魔槍のゴブリンが地面に槍を突き刺す。そして、何かを感じ取ったかのように俺達のいる方向を指さしている。さらにジェネラルが部下を率いてやってきた。力関係は黒いゴブリン達の方が上のようだ。


「場所がバレたみたいだ。そして魔剣とか魔槍とか言っていたぞ。槍を持っている方が俺達を見つけている。そしてジェネラルが部下を率いて近くまで来ている。」


「仕方がない、魔剣の方は私一人で充分だ。魔槍とジェネラル達を頼めるか?」


「いいけど大丈夫なのか?」


「問題ない。貴様が貸してくれた装備があるからな」


「そうか無理はするなよ」


「貴様もな」


 俺達は武器を構えながら戦いやすそうなな場所に移動する。

 やはり場所が分かるようで、少しするとゴブリン達がやってきた。


「ミツケタゾ コロシテヤロウ」


「ワレラアイテニ カテルトオモウナヨ」


 まずは別々に分けないとな。


「コタロウ」


「たぬ」


 コタロウが結界で魔剣のゴブリンを包み込んだ。


「フン コンナケッカイ イチゲキダ」


 だがその前に、俺は身体強化と風を纏い他のゴブリンを嵐舞で殴り飛ばした。

 魔槍のゴブリンはガードの成功したが他のゴブリンはダメージを与えている。しかし、殴った際に嵐舞にひびが入る音が聞こえた。

 この戦いだけは最後まで持ってくれよ。


「それじゃあ、魔剣のゴブリンは任せるぞ」


「ああ貴様達も頼むぞ」


 ベルとコタロウを肩に乗せて、殴り飛ばした先へと向かう。

 たどり着くと魔槍のゴブリンとジェネラルが武器を構えていた。部下のソルジャーたちは殴ったダメージが残っているようだが、戦意はある様子だ。


「ナカナカノ イリョクダッタゾ キサマハ ワガマソウノ カテニシテヤロウ」


「ギャギャギャ!」


「オマエタチノ キモチモ ワカルガ ココハ オレニヤラセロ」


「ギャ」


 魔槍のゴブリンの命令でジェネラル達は大人しくする。統率も取れてタフさもあるし、初めに戦ったジェネラルの軍団より格上かもしれない。


「ベルとコタロウはジェネラル達が動いたら対応してくれ」


 魔槍のゴブリンと打ち合いが始まる。魔剣のゴブリンとは違い、黒いオーラを出してくることは無いが何か能力があると思っていいだろう。


 しかし普通に強いな。武術の腕だけなら俺より上なのは確かだな。


「ミジュクダナ オンナニスレバ ヨカッタ」


「どっちを選択しても負けるのには変わらないぞ。お前も魔剣の方も」


「バカガ ワガチカラ ミセテヤル」


 気合を入れたようだが外見的な変化はない。力も速さも特に変わりが無いようだけど。


「ハッ!!」


 観察していると今までよりも力のこもった突きを繰り出してきた。

 威力はけた違いだが隙が大きく、逆にカウンターで顔面に一撃を入れた。

 首がねじ切れ死んだと思ったが信じられない光景を目の当たりにした。


「イキナリハ アタランカ」


 ねじ切れた首を掴み体に乗っけると何事もなかったかのようにしている。

 これが魔槍の能力か。


 特攻されると厄介だな。

 俺は幻魔法で自分の分身を作成する。これで少しは時間が稼げるだろう。


「ムダダ」


 槍を地面に突き刺すと、本物の俺を睨んできた。


「オマエダナ」


 確信を持って攻撃を仕掛けてくる。一体なぜバレたんだ?地面に突き刺す行為が関係しているとは思うけど。


 分からないまま戦いは続いていく。こちらの攻撃は当たるが意にも介さない。反撃を無視した攻撃は徐々に俺を捉え始めていく。

 このままじゃまずいと思い、閃光玉を投げつけた。


「クソ!」


 目を瞑って大きな隙を見せる。俺は両腕を切り裂いてやった。


「ギャー! …ナンテナ」


 千切れた腕から触手のような物が伸び、体にくっつくと元通りになってしまった。


 魔槍を切り離してもダメなのか。


「コレデオワリカ ナラ コチラノバンダ」


 再び槍を地面に突き刺す。すると俺の周囲が揺れて体勢を崩してしまった。

 そして魔槍が振り下ろされた。


 嵐舞での防御は間に合ったが、魔槍は震えていた。そして「バキッ」と音が鳴り嵐舞は壊れてしまった。そのまま俺は攻撃を受けて吹き飛ばされる。


「マダ イキテイルカ」


「簡単に死んでたまるかよ」


 代償は大きかったが魔槍の能力はなんとなくわかった。強力な再生能力と振動だと思う。探知に関しても、地面に差して土から伝わる振動で感じ取っていると予測する。

 個人的には魔剣より嫌な能力なので壊しておきたい。ゴブリンだからこの程度だが、もっと知能の高い者が使うと本当にヤバくなると思う。


 俺も勝負に出ないと。勝てそうもないよな。

 風鳥の短剣を装備して攻撃を仕掛ける。風も纏って速さは俺の方が上だ。


「ナニヲシテモ カチメハナイゾ」


「そうか?お前の槍もヒビが入っているぞ。俺の武器を壊した時にでも入ったんじゃないか」


「ナニ!?」


 ゴブリン自慢の魔槍には確かにヒビが入っていた。常に自分の優位を疑わなかったゴブリンが、焦りの表情へと変わっていく。


「能力弱まっているんじゃないか?キズが治らなくなってきているぞ」


「バカナ!?」


 魔槍のゴブリンは今切られた頬に触る。ゴブリンの手には血がついていた。


「ソンナ ソンナ ソンナ ソンナ!!」


 明らかなほど動揺している。待ってあげるほどお人よしではないので遠慮なく攻撃を入れる。


「ギャー!?」


 短剣はゴブリンの片目を貫いた。魔槍のゴブリンはもうパニック状態だ。


「メガ メガ クソ ミエナイ ナンデ オレハ ムテキノハズナノニ」


「あーあ、もう魔槍は壊れたんじゃないか。ほら」


 ゴブリンが魔槍に目を向けると「バキッ」と音が鳴り、壊れてしまった。


「イヤダー シニタクナイ オマエラ コイツラヲコロセ」


 ジェネラル達に号令をかけて何とか助かろうとするが無駄だった。動こうとした瞬間に、ジェネラル達はコタロウの結界に阻まれベルにより蹂躙されていく。


「クソー」


 魔槍のゴブリンは折れた魔槍を投げ捨てて逃亡を開始した。


「逃がすわけないだろ」


 速さは俺の方が上だ。回り込んで短剣を構える。


「ギャギャ」


 魔槍のゴブリンはもはや普通のゴブリンになっていた。黒い体も緑色に戻り言葉も話せなくなっていた。


「さよなら」


 首を跳ね飛ばして止めを刺した。先程とは違いもう動くことは無かった。

 

「ベルとコタロウは…もう終わるな」


 ベル達の方を見るとジェネラルに止めを刺すところだった。


「いやー、思った以上に効果があって良かった」


 俺はその場に座り込みさっきの戦いを思い出す。

 嵐舞を破壊されたあの後に俺は幻を見せ続けた。実際は魔槍は壊れるどころかヒビ一つ入っていないし、ゴブリンの体にも傷は無い。言葉で誘導してそれらしい幻を見せたので、現実だと思い込んでくれて助かった。感覚魔法で視力を奪うのに成功したのも幸運だったな。あれでパニックにならなければ、槍が壊れても重さが変わらないことに気付かれたかもしれないしな。


「課題がまだまだ多いな。おっと、魔槍や嵐舞を回収しないとな」


 投げ捨てられた魔槍へと近づく。魔槍は命を持っているように脈動していた。


「不気味だな」


 収納しようと思って手を伸ばすと。槍は壊れて消えていった。


「マジかよ。…壊れた物はしょうがない。諦めて嵐舞を回収しよう」


 俺が嵐舞を回収しているとベル達が駆け寄ってくる。


「よくやったな。ケガはないよな?」


「キュキュ」


「たぬ」


 元気アピールしてくる二匹を撫でる。


「さて、シェリルの所に向かうか」


 俺達は移動を開始する。



―シェリル視点


「オレノアイテハ キサマカ チカラブソクダナ ダガ オイシククッテヤロウ」


「探知能力が低いだけじゃなく知能も低いとは可哀想だな」


「ヌカセ」


 魔剣のゴブリンは先の戦いで、私の攻撃は脅威にならないと判断したのか剣にオーラを纏わせ攻撃してきた。

 まあ実際先程までの私なら勝つ手段は無かったが、変わった男のおかげで戦う手段はいくらでもある。魔法が使えるようになったので身体強化もでき、靴の能力と相まって速さにもついていけるな。


「クソ サッキハ テヲヌイテイタノカ」


「貴様の剣技が下手なだけだ」


 攻撃が当たらないことにイライラしているな。攻撃が単調になりがちだ。私は攻撃に合わせて大鎌を振るう。


「ギャ!?」


「致命傷は避けたか」


 油断している内に仕留めようと思ったがそう簡単にはいかんか。ふむ、警戒して距離を取り始めたな。


「クソ オマエハ ゼッタイニ クッテヤル ナイテ アヤマッテモ ユルサナイ」


「この戦いが終わる時に泣いて謝るのはどちらになるか」


 私は魔法を発動させる。呪いのせいで威力は出ないが十分だ。


「ナニ!?」


「どうした避ける事しかできないのか。力不足だな」


「クソガ オレノマモリハ ヤブレナイ」


 体からオーラを発生させて防御に徹するか。


「それなら色々試させてもらうぞ」


 火・水・風・土・雷の魔法の矢を放つ。放った矢は黒いオーラに触れると消えていく。

 …どれも同じように消えたか。属性による差は無いみたいだな。


「オドロイタガ ソノテイドカ」


「もう少し続けようか」


「ムダダトイウノニ」


 次は氷・闇・光・毒だ。

 ふむ、これらも無駄か。やはりあのオーラは物理・魔法関係なく防いでしまうな。しかし、音は通じていたな。音の魔法の使い手なら案外楽に戦えるかもな。…目つぶしは効くかな?


「そら」


「キカン アキラメタラドウダ」


 光はオーラがサングラスのような役割をしているか。後は温度を確かめさせてもらうか。森だから氷にしておくことにしよう。


「ナンダ?」


 ゴブリンの体は徐々に震えていく。膝をつき魔剣を落としそうになる。

 温度の変化にも対応はできないようだな。


「キサマ!!」


 ゴブリンは防御を捨てて攻撃を仕掛けてきた。さっきよりも速く全力で私を仕留めにきたな。


「シネ シネ シネ」


「むっ」


 剣のオーラが増したかと思うと力・速さ共に格段に上がっている。この分だと耐久力も上がっているだろう。


「ハッ!!」


 剣のオーラが私の仮面を掠めて仮面が壊れてしまった。気に入っていたのだがな。

 そして私の素顔を見たゴブリンは表情を歪ませる。


「キサマ ノロイモチカ ケガレテイル クイタクナイ グチャグチャダ」


「やれやれ、私ほどの美人などそうそういないのに、もったいないな。人も魔物も変わらんか。いや、例外は何人かいるか」


 せっかくのチャンスだというのに、私の顔に驚き手を止めるとはな。さて私の番だな。


「そら」


 地面を隆起させてバランスを崩していく。それでも私から視線をそらさないのは見事だな。

 だが手を休めるつもりはない。全方位から魔法放つ。


「クソ」


「またそれか。いい加減飽きたぞ」


「ソレナラ ノゾミドオリニ タタカッテヤル オレノニクタイハ マホウモリョウガスル」


 さらにオーラが増したな。剣技はおざなりだが速さだけで魔法を叩き落とすか。何発かは当たっているがあまり効いていないな。


「焦らん方が良いぞ」


「ナニ?」


 私の目の前でゴブリンは消えた。簡単な話落とし穴に落ちただけだ。地面を隆起させた際に一緒に作っていたのだ。

 落とし穴に落ちゴブリンは苦しんでいる。どうやら黒いオーラを出していなければ毒は通じるらしいな。


「キサマ ナンダ コレハ」


 落とし穴の中は紫色の液体で埋まっている。ゴブリンは血を吐きながら私を睨みつけてくる。


「毒だ。強力ではないがその量だと中々効くだろう。体を簡単に蝕んでいくぞ。私は呪いで実力が十分に発揮できないからな。小細工だって使うさ」


「ヒキョウナ」


「私は本気で勝ちに行くだけだ。卑怯と言われても死ぬなんて御免だからな。あれだけ戦えば、落とし穴に落とすなんて思わなかっただろう」


「マダダ マダオワッテイナイ」


 落とし穴からジャンプして出てくるゴブリン。

 私は大鎌に魔力を込めてゴブリンの首を狙う。

 大鎌の威力はすさまじくゴブリンの首を簡単に刈り取った。毒で弱っているのもあるが、単純に切れ味が違うな。 


「まだ動くのが」


 首が無くても体だけで襲ってくるか。


「それなら腕を貰おう」


 魔剣を持っている方の腕を刈り取ると動きは止まった。強力な武器だがどうするかな。


「うん?」


 目の前で魔剣が塵となり消えていった。ゴブリンを見ると体の黒さが無くなり、普通のゴブリンと変わらない緑色になっている。


「これが自然発生なのか人為的な事なのか。どちらにせよ面倒にならなければいいのだがな」


 分からない事は残っているがとりあえずは無事に終了だな。


「さて、アイツ等は無事かな」


 ここ数日で出会った者たちを心配している自分に笑ってしまった。

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