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ブックメーカー ~異世界では好きに生きてみたい~  作者: 北村 純
初めての異世界生活
12/92

黒いゴブリン

「ジュンさん、シェリルさんお疲れ様です。役割を伝えに来ました」


 俺の元にはメリルさんが来てくれた。静かに内容に耳を傾ける。


「お二人の役割は東側での陽動です。通常のゴブリン達を引き付けて欲しいとのことです。ソルジャー・ナイト・ウィザードなら状況に応じて戦ってもいいそうですが、それ以上の上位種や変異種が出た場合は即時撤退だそうです」


「分かりました」


「作戦開始は今から三時間後です。食事を軽くとって所定の位置に移動して合図を待っていてください。すでに所定の位置周辺にはBランク以上の方が控えていますのでその方が合図を出します。何かあった場合もその方の指示に従ってください」


 そう伝えると、メリルさんは他の馬車に移動していく。


「さてと、あんまり食べない方が良いか。ベル、コタロウ。昼食は軽めにするからな。シェリルも一緒にどうだ?」


「せっかくだから頂こう」


 通販からカロリーメイトとウィダーインゼリーを購入して配る。普段の食事と比べると質素になってしまうが、ゼリーの感触などが面白いらしくシェリルやベル達から不満は出なかった。

 そして食事を済ませると、俺達は東側へと移動を開始する。


「さすがにゴブリンが多いな」


「異常なほどだな。ゴブリンしかいない。元々この森はハンマーコングが支配していたはずなのだがな」


「ハンマーコング?」


「力自慢のゴリラだな。三十程度の群れで行動している。力・速さ・耐久力と揃っている。普通は魔法を使えないが、長生きした一部の個体は使えることがあるな。一見危険に見えるが知能が高く友好的な魔物だぞ。こちらが手を出さない限りは襲ってくることも無い」


 話を聞いて見回すがゴリラの姿などの見かけない。見かけるのはゴブリンだけだ。騒ぎを起こしたくないので、極力避けながら目的の場所へと移動をする。

 

「シェリルとジュンだな」


 目的地に着くと狼獣人の男性に声をかけられた。

 迫力があるけど、ワイルド系でカッコいい感じだ。


「はい。貴方は?」


「俺はナイル。“歴戦の斧”のメンバーだ。この東側の指揮を任されている」


「ナイルさん、よろしくお願いします」


「ああ、時間まで静かに待っていてくれ。時間になったら存分に暴れろ」


 待っているとどんどん人が集まってくる。


「よう、お前もこっちだったか」


「ガンツさん」


 どうやらガンツさんも同じ場所だったみたいだ。大きめの斧を持っており、いかにも力で押す格好だった。もしかしたら三人組もいるかと思って見回すがこちらにはいないようだった。


 そして時間は過ぎていく。


………

……


「全員行動開始だ」


 ナイルさんの合図で俺達は戦闘を開始する。それにしても、音魔法で連絡を取っているらしいが便利だな。


「はぁっ!!」


 先陣もナイルさんが務めてくれた。大声と共に槍を繰り出し壁が崩れる。そこから中に入る道ができた。


「ギャギャ!?」


「ギャー!?」


 突如現れた冒険者の集団に、ゴブリン達は驚き固まっていた。しかし、数はあちらの方が多い。今のうちに減らせるだけ減らさないと。


 俺はブラッドダガーで近づいてくるゴブリンを仕留めていった。ベルは闇魔法をコタロウは光魔法で矢を作って援護をしてくれる。

 最もベルの闇魔法をくらったゴブリンはそのままくたばっているけど。


「はは。ベルやコタロウも強いじゃねえか」


 ガンツさんがベル達の戦いぶりを見て驚いていた。


「そりゃ優秀な仲間ですからね」


「これを弱小と言っていたのかよ」


「見かけで判断は危険ってことですよ」


「違いない」


 そう言いながらガンツさんは斧を振り下ろし、ゴブリンは真っ二つになった。


 俺なら受けれるかな?…いや無理だな。避けた方が絶対にいいな。


 周りを見ると、今のところはこちらが押している。


「このままの調子でいければいいんだがな」


 結構な数を倒しているつもりだが、一向に数は減らない。それくらいに大きい村ができているということだろうな。


 さらにまだ上位種が出てきてない。それらが出始めてからが本番なのだろう。


「ぐぁっ!?」


 近くの冒険者のやられた声が聞こえた。視線を向けると黒衣のローブを着たゴブリンが短剣で切りつけていた。


 切りつけられた冒険者は傷が浅いようで、一度距離をとっている。


「変異種だな。アサシンタイプで速さ重視で攻撃して来るぞ!攻撃は軽いから焦るなよ!」


 シェリルが叫び情報を伝達する。

 本来であれば、Dランクの俺は変異種が出たら撤退の予定だったが、一体ではなく集団で現れたので応戦するしかない。

 普通のゴブリンとの戦いに集中して、囲まれていたのに気が付かなかったのは失敗だった。


 ゴブリンアサシンは冒険者達を狙って攻撃を始めた。普通のゴブリンとは違い、ヒットアンドアウェイで来るので仕留めるのに時間がかかってしまう。

 それにゴブリンアサシンに気を取られている内に、普通のゴブリンの接近を許してしまう事もあった。


「なるべく二人一組になって互いの背中を守りながら戦え。それにゴブリンアサシンはゴブリンとしては速いが、対処できない速さじゃない。落ち着いて戦え」


 ナイルさんの声で冒険者は落ち着きを取り戻していく。アサシンの存在で少し崩れかけたが、持ち直して対処できている。


 そしてそのまま戦闘は続いていく。


「ギャギャー!!!」


 物凄い雄叫びが聞こえると、ゴブリンの集団は森の中へと消えて行く。


「不味いな。…Cランクの冒険者は森の中のゴブリン達の討伐を任せる。二人一組で行動して不意打ちに注意しろ。Dランクの冒険者はここで待機だ。Bランク以上は村の中の様子を探りに行くぞ」


 各々が行動に入る。撤退でないのは、ゴブリンアサシンも森に入ったからだろう。森の中の方がアサシンの力が活きてくる。スペースが広いこの場所の方が安全と判断したようだ。


 しかし、比較的安全と考えられるだけで危険なのはどこも一緒だ。


「ギャギャギャ」


 その証拠に重厚な鎧を着たゴブリンがソルジャーやナイト等を引き連れて俺達の方に向かってきた。


「あれはゴブリンジェネラルだな」


 シェリルがそう言うと、冒険者達は何組かに分かれて森へ入っていった。瞬時にアサシンを相手にする方が良いと判断したのだろう。パニックになっている人もいなかったし、逃げられそうだな。


「貴様は逃げないのか?」


「取り敢えずやれるだけやってみる。シェリルの方こそ逃げなくていいのか?」


「ダンジョンでもっと手強い相手と戦うつもりなのだ。ここで逃げるようなら、どのみち私に未来はない」


「そうか、でも俺が戦ってもいいか?」


「構わん。ヤバそうなら助けてやる。報酬は甘いものか酒でいいぞ」


 そう言ってシェリルは微笑んだ。


「じゃあ、これ終わったら一緒に宴会でもするか。ベル、コタロウサポートを頼む」


「キュ」


「たぬ」


 俺は逃げずに戦う選択肢を取った。ベル達もやる気満々だし、自分がどれくらいできるか試してやる。

 シャドーダガーを装備し、魔力を込めて短剣を作ると、二十ほどの黒い短剣が宙に浮かんでいる。俺はそれをコントロールしてゴブリン達に向けて放つ。ベルとコタロウも俺の攻撃に合わせて、闇魔法と光魔法で剣や矢を作り攻撃する。


「ギャギャ」


「「「ギャー!?」」」


 ジェネラルは攻撃を防いでいたが、他のゴブリン達は対応できずハチの巣状態になった。


「ギャギャ!」


 仲間を殺されてジェネラルは怒りの表情だ。


 ジェネラルは大剣をこちらに向けて走ってくる。黒い短剣や風魔法で攻撃を行うが、ジェネラルは大剣でかき消しながら向かってくる。


 俺はシャドーダガーを仕舞い嵐舞を装備する。さらに身体強化に風を纏わせて迎え撃った。


「ギ!?」


 雷ほどではないが風もかなりのスピードがある。完全に意表をついたようで、カウンター気味の攻撃が当たった。

 ジェネラルは勢いよく吹き飛び鎧が砕け、村の中にある家に激突した。


「ほう、やるな」


 シェリルが感心した声をあげたのが聞こえた。


 俺はジェネラルを追っていく。風鳥の短剣とブラッドダガーに持ち替えて起き上がろうとしている、ジェネラルの首を掻き切る。


「ギャー!?」


 断末魔の悲鳴を上げてジェネラルは事切れた。

 これで終わったはずだったのだが。


「何だこの感覚」


 ジェネラルは死んだはずだが、近くから嫌な風を感じる。絡みつくようなどす黒い風だ。

 その方向に顔を向けると、全身が真っ黒で禍々しい剣を携えたゴブリンが立っていた。


「あれはヤバそうだな」


 一目で危険だと感じた。ゴブリンと言うよりは悪魔に近い感じがする。俺を追いかけてきたベルは警戒する姿勢を見せ、コタロウは震えて怯えていた。


「あれは私も見たことが無いな。危険なのは確かだろうが」


 シェリルでも知らない魔物だったみたいだ。下手に動くのは危険だと思ったが、黒いゴブリンは既にこちらへ向かってきている。ジェネラルを吹っ飛ばしたからそりゃあ気が付くよな。


「キュキュ!」


 それと同時にベルが警戒音を発した。素早くコタロウを抱えてその場から飛び退いた。ベルとシェリルもしっかりと躱している。

 そして俺達がいた場所には黒い剣が振り下ろされており地面が陥没している。


「キヅカレタカ」


 黒いゴブリンは俺達を確認するとそう呟いた。

 喋った事にも驚いたが、一番の驚きは持っている剣だった。

 遠目に見るよりも剣は禍々しいオーラを発していた。それに触れるだけでダメージを受けてしまいそうな気がする。


「近寄りたくないな」


 俺はシャドーダガーを装備して短剣を創造する。

 宙に浮いた二十本の短剣を黒いゴブリン目掛けて四方から飛ばす。


「ムダダ」


 黒いゴブリンはその場で足を止めると、剣のオーラが消え代わりに体から禍々しいオーラを解き放つ。飛ばした短剣はオーラに触れた瞬間に壊されていき、体までは届かなかった。


「マジかよ」


 その後も風魔法や水魔法で攻撃を仕掛ける。ベルやコタロウも一緒に攻撃してくれるが、全てオーラの壁に阻まれてしまう。


「ナンダ コレデ オワリカ」


 黒いゴブリンは余裕といった表情だった。オーラを収めると、再び剣からオーラが発せられた。

 その瞬間にシェリルが大鎌を振るった。


「ホウ ミゴトダ キズヲツケルトハ」


「ちっ」


 黒いゴブリンに直撃したはずだが、ほんの少しの血が出る程度だった。むしろ、シェリルの大鎌の方が壊れるという結果になってしまった。

 

「コチラノバンダナ マズハオトコダ」


「!?」


 俺は攻撃を警戒していた。動きも注意して見ていたし、すぐに動けるように風も纏っていた。しかし、気が付いたら俺のすぐそばに黒いゴブリンはいた。そして、剣を振り下ろしてきた。

 

「キュ!!」


 ベルに突き飛ばされて間一髪避けることができた。ベルにここまでのパワーがあった事にも驚きだが、黒いゴブリンの動きも恐ろしい。


「サンキュー。助かったよベル」


 体勢を立て直して黒いゴブリンに向き直る。


「ヨクヨケタナ デモ オンナクウカラ シネ」


 黒いゴブリンが剣を構える。さっきの二の舞など御免なので、効かなくても牽制のために風の刃を無数に打ち続ける。


「ムダナアガキダ」


 ゴブリンとは思えない速さで魔法を叩き落とし続けている。それでも俺は魔法を撃ち続ける。ベルとコタロウも協力してくれている。

 さすがに疲れたのか剣を振るうのを止めて、体からオーラを発生させた。こうなると攻撃は通じないので一度攻撃の手を止める。


「シェリル、一度引くぞ!」


 閃光玉を投げつけ、ベルとコタロウを抱えて一気に退却する。ついでに爆音玉も投げておいた。耳を塞いでいたので音を遮る効果は無いらしい。

 その隙に適当な建物に身を隠す。


「ヤバかったな。あれは本当にゴブリンなのか?」


「あのオーラに強靭な肉体。下手をすればキング以上の脅威になるな」


 距離を取ったので一息つくことができた。だが、近くに気配を感じるので安心はできない。今のうちに何か考えないとな。


「あのオーラは突破できると思うか?」


「どんな魔法や能力にも絶対ではない。しかし、時間はかかるだろうな」


「そうすると、剣にオーラを纏っているときがチャンスか。両方はできないようだしな」


「だが気をつけろ。オーラがなくとも並の硬さではない。下手な武器では私のように壊れてしまうぞ。それより、貴様の悪臭を放つアイテムはどうだ?」


「…何故かゴブリンには効かなかったんだよ。ただ類似品の刺激玉があるからそれは試さないと分からないな」


 アイツ等悪臭に耐性があるんだろうか?あれがゴブリンじゃなくオークだったら効果あったのにな。


「そうか。中々厳しいな。だが、どのみち剣にオーラを纏っているときに隙を作って攻撃するしかないな」


「そうだな、閃光玉・爆音玉・一応刺激玉を半分渡しておくよ。これで隙を作っていこう。そういえばシェリルは予備の大鎌はあるのか?」


「予備はあるが傷を負わせられないだろうな。一番良い武器は鉄扇だがあの剣には相性が悪い」


「武器があれば戦えるか?」


「当たり前だ。魔法も使えれば一人でも勝てる自信はあるぞ」


 その言葉を聞いて、俺は生き残るためにシェリルが使えそうな装備を渡すことに決めた。


「シェリルは使える武器は大鎌と鉄扇か?」


「そうだが。持っているのか?」


「まあな。これを使ってくれ」


 ソウルイーター・不死鳥のドレス・プロテクショングローブ・神獣の靴を渡して能力を説明する。


「ここまでの装備を持っている理由が気になるが、今は聞かないでおこう。…遠慮なく借りるぞ、壊したらすまないな」


「グローブ以外は俺だと使えない装備だから遠慮しないでくれ。大事にしまって死ぬ方が勿体ないしな」


「確かにな。それじゃあ着替えるから後ろを向いていろ。振り向いたらゴブリンより先に貴様を殺さなければならなくなる」


「はい」


 有無を言わせない迫力だった。俺は後ろを向いて声をかけられるのを待つ。


「これは…おい、終わったぞ」


 振り向くと俺が渡した装備に身を包んだシェリルがいた。凄い似合っている。


「この装備は強い呪い耐性があるみたいだな。少しだが魔法が使えそうだ」


 シェリルは嬉しそうに笑っていた。


「それなら良かったよ」


「これなら私も戦えるな。さて反撃と行くか」


「何か考えがあるのか?」


「私達がまだ見つかっていないことから、アイツは探索能力があまり高くないはずだ。だから、一人が奇襲して接近戦を行い、他の三人が森に潜みながら移動して魔法を放っていく。体にオーラを纏っているときは隠れて、剣にオーラを纏った時は攻撃をする。これを繰り返せばいい。私が攻撃を仕掛けるからサポートを頼む」


「攻撃は俺の方が良いんじゃないか?風を纏えば速さは問題ないし、履いている靴は奇襲に向いている効果があるぞ」


「危険だぞ。それにオーラがなくとも防御力は高いぞ」


「大丈夫だ。もし無理だと思ったりチャンスだと思ったら代わってくれ」


「分かったが無理はするなよ」


 こうして俺達は反撃の準備を整えた。

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