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異世界なんてクソくらえ  作者: 寝返り子猫
5/7

一章 前半


第一章


【勇者 1】


 アオミは獣の皮をぐ作業に没頭していた。没頭することで嫌なことを考えずに済む知恵を覚えた。

(他の人がわたしのすることを見てどう思っているかわかっていた。そういうことも含めて全部忘れられた……。「すみません」突然声をかけられてびっくりした。でもわたしじゃない。わたしであるはずがない。そう思って無視した。)

「すみません」

 もう一度声がして明らかにわたしであると感じたアオミは恐る恐る声のする方向を見た。年の近そうな青年だった。 青年は、エイリといった。

「はい」声になったのかわからないくらいのか細い声でアオミはいった。

「すみません。道を教えていただけませんか?」

「わたしに近寄らないほうがいい。あんた、けがれるよ」

「あっ?どういう意味だい?」

 エイリには意味がわからない。素朴な疑問だった。

「見ればわかるでしょ。人や動物の死骸を扱った仕事をしているの。だから、あんた、けがれるよ」

「よくわからないな。その感覚が。一緒の空間にいたからってそれがなんだっていうんだい?さわったから。ふれたから。そんなことでけがれるっていうのかい?そんなのないから」

(わたしは驚いた。初めてだった。わたしがこのような仕事をしてから、こんなふうにいってくれる人がいるなんて。)

「あんた変わってるね?わたしやわたしのしていることを見て気持ち悪いとか関わりたくないとか思わないんだね」

「そうだな。そうは思わないな」

 エイリに他意はない。本心だった。そしてこの言葉を聞いてアオミは久し振りに笑ってしまった。人と会話して心から笑えたのっていつ振りだろう?アオミは思った。アオミはエイリに近づいた。

「それで、あんた、これからどこ行くの?」

「うん。都に行きたいんだが、この道で合ってるのかな?だんだん不安になってきちゃってさ」

 エイリはそういって笑う。それを見て気さくな男だとアオミもおかしくなってつられて笑う。エイリはアオミに近づいた。

「そうなんだ。一人旅も大変だな。……うんとね、合ってるから大丈夫。わたしたちも、よく行き来してるから。まあ、近道もあるんだけど。この道を行ったほうが、わかりやすいと思うから」

「わかった。どうもありがとう」

「いいえ。あの、……元気でな」

「うん。君もな。それじゃ」

 

【勇者 2】


 わらの隙間から、そっとのぞきこむように見ていた男たちは、少女と、眼が合った瞬間、いっせいに飛び出した。「!」 身の危険を感じたアオミは、逃げ出した。が……すぐに捕まった。

(誰か、助けて!) 

 身の危険を感じて、声を出そうとするが、怖くて声にならない。

「見ろよ、久し振りの上玉だ」

「ああ」

「こいつは、高く売れるぜ」

「本当だ」

 アオミは、必死で抵抗するも、男の力には、かなわない。

(お願い、やめて。) 

 まだ、声にならなかった。

「イヤーーー、やめてーーー!!!」

 ようやく声になる。必死で叫ぶ。

「けっけっけ。泣き叫べ」

「ほらよく見てみろ人外のお前を誰が助けようとする。皆見て見ぬふりさ」

「イヤーー、お願い、やめてよ、やめてってばーーー!!!」 

 ぽつりぽつりと、人はいた。だが誰も助けようとはしない。


【勇者 3】


 ―その時だった。

「おーい、役人が来たぞ」

 大きな声が、周囲にこだまする。

「おい、ヤバイぞ」

「わかってるよ」

「はやくしろ」

「そう、せかすな」

 男たちは、そそくさと、逃げ出した。

(しくしく。)

 涙を、ぬぐいとリ、乱れた衣類を直した。

(助かった。)

(売り飛ばされずに、済んだ。)

(でもいったい誰が……?)

 そう、思ってアオミは、あたりを見回した。 すると、

「危なかったな」

 エイリが、アオミに近付いてくる。

「戦うよりも、あの方が早いだろ」

 エイリは、そういってアオミに、笑いかけた。


【勇者 4】


 エイリは、突然、めまいを感じた。耳鳴りを感じる。 しばらくして、声が聞こえてきた。

「大義であった」

「誰だ?」

 エイリは、周囲を見るが、誰もいない。アオミは、不思議そうにエイリを見ている。 どうやら、アオミには聞こえないようだ。

「誰だ?」

「わたしは、阿弥陀如来あみだにょらいだ。通称、『アミダ』。この世の全ての救い主となるもの。そちの行い、誠に見事であった」

「は?!」

「その勇気と行いに敬意を評して、そなたに勇者としての任務を命ずる」

「イヤ、突然そんなこといわれても」

 エイリは、困惑を隠せない。

「その勇気、勇者としての資格に値する。光栄に思え」

「イヤ、だから」

「あなたは救世主なのです」

「はあ?」

「この国を救ってください」

「っていわれても……」

 話は、エイリのことなど、お構いなしに、続く。「この世は、『魔王ザイザーナ』に支配されています」

 イヤ、だから。

「エイリよ。あなたは見事、魔王ザイザーナを成敗し、この世に平和と秩序を呼び覚ますのです」

 エイリは、話すことを、あきらめた。

「エイリよ。あなたに、『メニューコマンド』を、さずけます。一日の終わりに見ることができます」

 話は、勝手に続いていく。

「まずは、近くの町に行き、酒場で情報を集めなさい。仲間を集め、クエストをこなしてLv.を上げるのです。 ザイザーナを、討ち取るには最低でもLv.35は、必要です。まずは、世界に散らばる、3王を倒す事が目安となるでしょう。

 あなたに、初期装備をさずけます」

「♪キラーン」

 どこかで聞いたような、ゲームの音がした。 エイリは、「メニューコマンド」、「妖刀むらさめ」、「5万円」、「勇者の証し」を手に入れた。

「それでは、検討を祈ります」

 声が遠のいて、いずこかへと消えた。

「さて、とりあえず……どうしたものか」

 少し混乱していたエイリに、アオミが話しかけた。


【勇者 5】


「あのーぅ……」

「あっ……えっと、あァーそうだった。そうだった」

 アオミの顔を見て訳もなくあわてふためくエイリ。相変わらずおかしなやつだ、とアオミはほくそ笑む。

「助けてくれてありがとう。ほんと、わたし危なかったんだから」

「ああ。よかった。しかしぶっそうなとこだな。いつもこんな感じなのかい?」

「それは……」

 何もいえなかった。

「今日は仕事が休みで村中が出払ってるの」

 半分本当で、半分嘘だった。

「そうなのか。それにしてもこれからは気をつけたほうがいい」

「うん。ありがとう。そうする。ところでさっき誰かと話してたけど、あれっていったい……?」

「いや、それがさ、突然耳元に声が聞こえて話しかけられてさ、まあ、信じられないかもしれないけど……」

 本心であった。聞こえていないのだから頭のおかしな人に思われて当然だろう。

「アミダ……あ、正式には阿弥陀如来なんだけど、アミダがね、おれを救世主に任命する。勇者になって魔王ザイザーナを倒し、この国を救ってくれ、っていうんだよ」

「なにそれ。おかしい。そんなことありえないよね」

「やっぱそうだよな。信じられないよな。さてどうしたものかな……」ひとりごとのようにいう青年にアオミは訂正をかねてこういう。

「ううん。信じる。だってあなたわたしを助けてくれたし。こうやってわたしと話してくれるし」

 「信じる」といわれて、うれしくなったエイリは話を続ける。

「あのさ。初めてここで道を訊いたとき、近道があるようなこといってたよね?」

「ええと……、ああ、うん。あれね。いった。そういえばいったわね」

「実は都に行く道がすごい渋滞でさ。着くまでに時間がかかりそうなんだよ。それでできればその近道教えてほしいなあって」

 今日は都に皇子が来る日である。

「いいよ。案内したげる」

 それを聞いてエイリは、それでもいいかと思う。名前を知りたいし、自分の名前も伝えたい。なによりなぜだかわからないが、エイリにはアオミにかれるものがあった。


【勇者 6】


「わたし、アオミっていいます。あなたは?」

「おれは、エイリといいます」

「そうか。エイリか。いい名前だね。よろしくね」

「アオミだっていい名前だよ」

「そうかな。ありがとう。ねえ、わたし、エイリと一緒に行ってもいいかな」

 エイリはおどろいた。

「だってわたし、このまま、ここにいても、らちがあかないから」

「えっ、っていわれても困るし」

「お願い!わたしも連れていって!」

「う~ん」

「お願いっ、ねっ。わたしの仏さま」 

 眼がキラキラしていた。エイリの思考。

(……ま、いいっか。なぜか、惹かれるものがあるし)


 かくして、エイリたちの冒険の幕があく。



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