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市と呼ばれる現代版フリーマーケットや祭りの出店は、敷物を敷いて海岸で取れためずらしい石やきれいな貝殻を並べている店。別の店では、食器やお皿がよりどりみどりに並んでいる。別の店先にはアジやいわしの干物やワカメなどの海草類が干してある。さらに別の店では、たくさんの器にしょうゆやみそ。唐辛子や酢や塩や砂糖が入って売られている。平日の昼間で男たちは働きに出ているから、通りには、子どもや女性が多い。女性は買った品物を大きな風呂敷や衣類に包んで頭の上にのせて運んでいる。子どもはたらいや、折敷と呼ばれる薄板で作ったふちのある盆を、のせている。頭を支点にしてできるだけ力がかからないように。生活の知恵である。さすが。
エイリは、市を見て回る。
「さあ早くアオミを探さなきゃ」
―広葉樹林の中にいた。
目の前に人だかりがある。なんだろうと近寄る。
四方を柵に囲まれてその中心にアオミがはりつけにされていた。柵はゆうに2メートルはある。
「アオミ!」声の届く距離にアオミはいない。
「エイリくん。エイリくんじゃないか」
「エイリさん」
見覚えのある顔だった。アオミの養父と養母だ。
「いったい何があったんですか?」養父に訊く。
「わたしたちは知っての通り、都で牢番や罪人を処刑するときの手伝いをしている。実はね。アオミはちょいちょい、その罪人を逃がしていたんだよ」
「なんですって」
「もちろんわからないようにしてね」
「でもついにバレてしまいまして。あの子一年一ヶ月ぶりに戻ってきたと思ったら、2週間でこのざまです。まったく。だからわたしはとめたんです。危ないからって」
「今は夫婦でもめている場合ではないだろ!アオミがこのままでは死んでしまう。いったいどうしたら?」
おろおろする夫婦。エイリの思考。やるしかあるまい。覚悟を決めたとき、声をかけられた。
「おやおや。誰かと思ったら家訓を守れず、罪人になった人たちじゃないですか。せっかく生き延びたのに。今度は娘さん。何をやらかしたんですか?ああ……ねぇ、人外」
鼻っ面にパンチをおみまいして、こうまんちきなデブをふっとばした。かぶっていた貴族用の長い帽子がとれた。はげていた。
槍を持った人外たちがアオミの前に集まってきた。エイリの思考。
(まずい!)
「ああ。アオミ」
養母が叫んで顔をおおった。
「アオミのおとうさん、おかあさん。今からおれがアオミを助けます。そしてしばらく身を隠します」
「アオミが助かるならそれはかまわないが、いったいどうやって」
「説明しているひまはありません」
「あなた。とにかくお願いしましょう」
「わかった。エイリくん。頼む」
エイリは同時詠唱をした。『ファン』で柵を燃やし、2発目と3発目の『ファン』をアオミを取り囲む人外に放つ。あわてふためくその場。そしてかけあしでアオミに近づき、『トイン』を連続で次々と人外に放っていく。全員の動きを止めて、杖の隠しやいばでアオミの縛られている縄を切った。
「大丈夫か?アオミ」
「うん」
「よかった」
「おかあさんの形見!」
アオミは、近くの人外が保管していた短剣を取る。エイリは、アオミの手を掴み、「『ムービング』」を唱えた。
光がエイリたちを包んで、空高く舞い上がり、高速で目的地へと飛んだ。