2
2
煙が薄れていく。エイリの思考。
(そ、そんな!)
そこには立っている魔王の姿がある。
「うれしい、うれしいぞエイリ」
「ばかな。おれの魔法をまともにくらったはず」
「だがな、むなしいかな、しょせんは人間。お前も気づくことになるだろう。上には上がいるということを」
魔王を包み込む煙が完全に消えた。そこには不敵に笑うアオミの顔の魔王。
「アオミ。目を覚ませ!まだわからないのか」
そう声をかけるエイリを、あざわらうかのように、アオミの姿がみるみる変わっていく。
頭に角が生え、髪の色が赤色に変わる。背中から羽が生えた。両手足に、卍のタトゥーが現れた。さらに体毛が獣のそれのように濃くなっていく。
バサバサと、音をたてて宙を舞うそれは、もはや人間の姿をなしていない。
ガクガクと、震える自身の身体を押さえることができない。エイリの思考。
(とまれ。おれの身体とまれ)
武者震いとは違うこれは、確実についてまわるもの······恐怖。
「人間とはあわれだな。愛したおなごを殺すことはできぬ。たとえ魔王とわかっていても」
「くそがっ」
「うてなかったか。上級魔法を。この器を案じて。先程の4発目。本来ならば、そのはず。しかし初級魔法にしてしまった。殺したくないという、その必死のくだらない想いからな」
「だまれ」
「あわれだのう。人間とはそのくだらぬ感情が、最後のチャンスをなくし身を滅ぼすのじゃ。人が人を想う気持ち······自己犠牲の精神がな」
「アオミをアオミを返せ」
「滅びよ。救世主。我が最大の技をもってお前を葬ってしんぜよう」