5.学園4
プレイヤー情報開示請求の干渉命令によって、ウインドウからスキルの項目が消えてイメージスキルと固定イメージスキルという項目が増えた。
試しにイメージスキルにある「無念無想」という単語に意識を集中してみる。
【無念無想:あらゆる状態異常に耐性を得る】
ウインドウ上に説明が表示された。
無念無想とは簡単に言うなら無心になることで、無我の境地と意味が近い。
私がフロー状態かオーバーフロー状態を自在に扱えるからスキルとして表示されていると考えると、私の知るイメージスキルの仕様ともあまり齟齬がないように思える。
次は使用するつもりで「無念無想」と心の中で呟くと、意識が強制的にフロー状態に変化した。オーバーフロー状態までには自動的になっていない。
ここまでは予想通りで驚きはない。
そう、私はイメージスキルという機能を知っている。
ゲームの中には魔法のような不思議な現象をイメージで作り出し、操ることができる仕組みのものがある。でもイメージで魔法を作るのは実際にやってみると結構難しい。
例えばイメージで炎の矢を作る場合、炎そのものが矢を形作っているのか、あるいは矢のどこかに燃焼する核のようなものがあってそこから炎が生み出されているのかで、出現する炎の矢の結果が変わってくる。
また炎の矢の温度を高くしすぎて近くに出現させると、敵に撃ち込む前に熱波で自分自身が火傷してしまうこともあるだろう。
イメージによる魔法の生成は自由度が高いけれど、使うたびにイメージし直していては魔法の効果が安定しない。まあそれはそれで面白いとは思うんだけど、不満を持つプレイヤーも出てくる。
そこで用意されたのがイメージスキルという支援システムで、予め保存しておいたイメージを、キーワードを用いることで自動的に想起させてくれる。
私はウインドウ上のイメージスキルの項目に目を移し、「新規作成」と心の中で呟く。するとウインドウ上に作成モードという表示が現れた。
これも予想通り。私の知るイメージスキルに間違いないだろう。
では手始めに、さっき例に出した炎の矢を作ってみようか。
私は炎というエネルギーが、矢のように細長い形状の内部で、芯の部分では後方から前方へ、芯を取り囲む周囲では前方から後方へと循環するイメージを思い浮かべる。燃焼するものはないけれど、それは木が燃えるような炎。
けれどイメージした炎の矢は出現せず、ウインドウ上には「魔力不足」という文字が表示された。
ああ、リソースが足りなかったのか。どんな現象を引き起こすにもエネルギーが必要で、仮想世界であっても何らかのリソースを消費する。この世界だとそのリソースを魔力と呼ぶのだろう。でも今の私に利用を許可されている魔力量はかなり少ないらしい。
私は炎の矢ではなく、指先に小さな火を点すイメージに変更する。
これは成功した。
右の人差し指の先で揺らめく火を眺めながら、今度は「保存」と心の中で呟く。ウインドウ上の作成モードという表示が消え、イメージスキルに「点火」という単語が追加された。
うん、問題はなさそう。
イメージスキルはこうやって作成モードを利用するのが基本だけど、慣れれば使わずに完成させることもできる。
もう一つくらいイメージスキルを作っておこうか、次は空気を動かすものにしよう。そう考えて再び「新規作成」を行う。
そしてウインドウ上の情報は次のようになった。
【名前 :ソルナリア】
【ギフト:残り 7日】
【イメージスキル:そよ風、点火、無念無想】
【固定イメージスキル:なし】
【そよ風:微弱な風を起こす】
【点火:小さな火を起こす】
固定イメージスキルは何も変わっていないけれど、これは操作しようとしても反応しないのでどうしようもない。でもイメージスキルの方は私が知っている通りの動作と結果が得られた。
これで確信はより深まった。
ここがイメージスキルという仕組みを持ったゲーム的な仮想世界だというのは、もう結論としてしまっていいと思う。
現実世界ではなく仮想世界であるというのなら、それは私にとってはとても慣れた環境。そしてゲームだというのなら、クリアするためにどう行動すればいいのか考えればいいだけ。
今の私には、知識も力も何もかもが足りない。
そしてクリアする、つまりこの世界から脱出するためには、その両方があった方がいいに決まっている。
強さに関してはイメージスキルが重要な手段になりそうだけど、このままではリソースである魔力量が少なすぎる。この課題を解決できるとしたら、それはウインドウ上にあるまだ不確定の項目であるギフトを頼るべきなんだろう。ギフトがどんな能力なのかは未知数だけど、きっと魔力量を増やすこともできるはず。
そして知識。これはこの部屋でウインドウを操作しているだけでは、これ以上増やすことは叶わなさそうに思う。
潮時でしょう……ここらで自分だけの考察と試行錯誤は切り上げて、そろそろ情報を求めて外へと出ようか。