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49.南都5

 若い獣人族の女性から聖職者についての説明を聞いているうちに、目的の屋敷へ到着した。

 ここに「勇者」がいるはず。

 先ほどこの世界から脱出する方法として、神の居場所を探すことを本命と考えたわけだけど、それはそれ、これはこれ。余裕があるなら、ついでに「勇者」も調べておいた方がいい。

 私は若い獣人族の女性に連れらるまま屋敷へと入り、その後ろを歩く。

 若い獣人族の女性が貴族らしき誰かに挨拶し、その相手が私を見た場合には、とりあえず無言でお辞儀だけしておく。そうして、なんやかんやで「勇者」がいる部屋へと通されることになった。


 その部屋には、男性が一人、女性が三人いた。

 賢者ちゃんが「勇者」に注意するよう言っていたので、念の為にいつもより少しだけ集中して、状況を見定めることにする。

 「勇者」は男性ということだから彼だろう。黒目黒髪の少年、年齢はソルナリアと同じか、少し上くらい。三人の女性はいずれも若く見え、「勇者」の近くで会話をしているようだった。

 若い獣人族の女性が「勇者」のいる部屋へ入り、一通りの挨拶をし終わるまでの間、私は後ろに控えたままでいた。

 やがて話題は移り、本題へと入っていく。


 「『勇者』様、明日からの旅にもお誘いいただき、ありがとうございます。ですが大切な用事が入ってしまい、申し訳ありませんがお断りのお返事をしにまいりました」

 「まあ、せっかくカイト様がお誘いくださったというのに、そんなに大切な用事が他にあるのでしょうか」


 なんか部屋にいた若い女性のうちの一人が口を挟んできた。

 その若い女性は妙に目を引く金髪をしている。


 「私でなくとも、多くの優秀な聖職者が『勇者』様をお支えくださるでしょう。それに、ヒルダお姉様もいらっしゃいますので」

 「まあまあマドリーヌ。確かにリジーナが来れないのは残念だけど、用事があるなら今回はしょうがないよ」

 「『勇者』様、お聞き届けくださり、ありがとうございます」

 「盗賊を捕まえに行ったときは、リジーナがいてくれて本当に助かったよ。どんな大怪我でもすぐ治してくれるんだからね。そのおかげで傷つけられた人たちも、たくさん救うことができたんだ」

 「それは私だけでなく、他の聖職者の方々がおられたからです。そして『勇者』様の人望あればこそ、それだけの聖職者の方々が手助けされるのです」

 「そんなことないさ。(みんな)には僕の方こそ感謝してるんだよ。そうだリジーナ、これから明日の出発に向けたお祝いをしてくれるみたいなんだ。立食パーティーなんだけど、一緒にどうだい?」

 「またしても申し訳ありません。今は友人が訪ねて来ておりまして……「勇者」様のお誘いを何度もお断りするのは大変心苦しいのですが、遠慮させていただければと存じます」

 「そうか……えっと、後ろの人がもしかして……」

 「はい、ご紹介いたします。私の友人、のソルナリア、です」

 「初めまして、ソルナリアと申します」

 「ソルナリアさんか、僕はカイト・サクモリ。まあその、『勇者』をやってるよ」

 「お会いできて、とても喜ばしく思っています」

 「こちらこそ! リジーナの友人なら僕の友人も同然さ、よろしくね」

 「……とても光栄です」


 そこへさっきの金髪の若い女性がまた口を挟んできた。


 「貴女、どこかでお会いしたことがありましたかしら?」

 「いえ、私に覚えはありません」

 「そうですか……記憶違いのようですね」

 「ソルナリアさんにも紹介しないとね、彼女はマドリーヌというんだ」

 「……イストーラス公爵の娘、マドリーヌです」

 「ソルナリアと申します」

 「それにシャネーラとエレアだよ、三人とも僕の冒険の仲間で、大切な人たちさ」


 私は彼女たちに改めてお辞儀をして挨拶した。一方は抜き身ではないけれど帯剣していて、もう一方はやや耳の先が尖っているのでエルフ族だろう。

 金髪の若い女性以外の二人の女性は、やや控えめに見える。こっちは「勇者」を含めて全部で四人組だけど、隊長格の男性といる他の二人にその立ち居振る舞いが似ているかなと思った。


 「ははは、僕の仲間には貴族が多くてね。すぐに堅苦しくなるんだよ。ソルナリアさんも貴族なのかい?」

 「いいえ、私は平民です」

 「あ、そうだったんだ!」

 「……リジーナ、貴女はカイト様のところへ平民を連れてきたのですか?」

 「マドリーヌ様、彼女は私と同じく、貴族と所縁(ゆかり)があります。ですがお気に障られたのであれば謝罪いたします」

 「そういう意味でしたか、ならば良いのです。立場を(わきま)えていることは結構」

 「ああ、貴族に所縁(ゆかり)あるっていうの、エレナもそうだったね。他にも何人か仲間にいたっけ。どうしても僕の周りには、貴族に関係した人ばっかりになるなあ」

 「カイト様、貴方は英雄なのですから、いずれは貴族へ加わることになります。もっと慣れていただかないといけませんわ」

 「うん、そうなんだけどね。なかなか実感が湧かないよ。それに今は他の貴族がいるわけじゃないんだし、もっと気楽でもいいだろう?」

 「もう、しょうがないですね」

 「リジーナとソルナリアさんももっとフランクに、えっと友達みたいなつもりで話してほしいな」

 「『勇者』様、勿体(もったい)ないお言葉です」

 「……光栄です。ありがとうございます」

 「カイト様、そろそろ立食会へ行く支度をしないといけませんわ」

 「そっか、もうそんな時間か。一応主役だし、あまり遅れるわけにもいかないかな」

 「『勇者』様、この(たび)はご挨拶差し上げる機会を設けていただき、ありがとうございました。私たちはこれで失礼いたします」

 「うん、二人ともまたいつでもおいでよ、歓迎するからさ。じゃあまたね」


 そして私と若い獣人族の女性は、軽く礼をしてから退室した。


 「勇者」と面会したあとはすぐに屋敷を出て、また馬車に乗って来た道を戻った。その道すがら、また若い獣人族の女性と言葉を交わす。


 「ソルナリア様、『勇者』様はいかがでしたか?」

 「……そうですね……とにかく、会えたのは良かったです。それに『勇者』も、一応は友好的であるようでした。ありがとうございました」

 「いえ、ソルナリア様のお役に立ててとても嬉しいです、友人として!」

 「あ、はい…………貴方は、ギフトが珍しくて『勇者』に興味があると聞きましたが、本当ですか?」

 「はい、その通りです」

 「その割には、『勇者』に対して一歩引いたような接し方に見えましたが、何か理由でもあるのですか?」

 「うーん、それはですね……『勇者』が珍しいとはいっても、何十年かに一度は現れるのです。そんな『勇者』様(がた)は大活躍をされ、今までに数多くの英雄(たん)が生み出されてきました。私もそんな物語を子供の頃に読んだりして親しんでおりました。きっと私だけでなく、多くの人々にとって『勇者』というのは、そんな物語の中の登場人物なのです。そのせいでしょうか、私も少し遠くから眺めていたいという気持ちが強いのです」

 「なるほど、そういう感覚ですか、分からないでもないです」

 「ですが、ソルナリア様は違います! 『忍者』というギフトは、カルカトラ王国の長い歴史でもおそらく初めてでしょう。これは神が私に施された運命です。ソルナリア様とは、ずっとお(そば)にいたいと思っております!」

 「うぇ!?」


 ……ちょっと驚きすぎて変な声が出てしまった。しかし若い獣人族の女性は、構わずに言葉を続けていく。


 「そこで、もう今日は遅いですし、ソルナリア様もお祖父様のお屋敷に泊まられてはいかがですか? ベッドは大きいですし二人でも寝られます、一緒の部屋でお話しましょう!」

 「いえ……その……このあとは他に先約があるので、もう行かないといけません」


 そう、賢者ちゃんはまだ寝ているので、帰って起こす必要がある。


 「そうでしたか……残念ですが、約束があるなら仕方がないですね……ソルナリア様は今どんなことをされているのですか?」

 「えーと、旅でしょうか」

 「ではぜひ、その旅に私も同行してさせてください!」

 「ええ……」

 「お願いします!」

 「その……他の仲間もいるので……私の一存だけでは……」

 「ではお仲間の方にも訊いてみてください、必要ならお仲間の方に直接お願いして説得します!」

 「ああ、うん」

 「私はお祖父様のお屋敷で何日でも待っていますので、絶対ですよ、約束ですよ!」

 「……はい」


 屋敷に着いたら、着替えて前の服に戻した。このドレスは貰うことになったものの、もう着ることはない気がする。

 それからは老齢の獣人族の男性にもう一度挨拶して、私は屋敷を辞去した。

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