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13.大聖堂2

 私が異世界転生の初日にやった、オーバーフロー状態でのシステムへの干渉命令。当然だけど、あの干渉命令には探し当てるための手段がある。

 例えばウインドウ上からログアウトを実行すると、実際には見えない情報経路を辿ってログアウトの命令がシステムへと伝えられ、それを受理したシステムは見えない情報経路を逆に辿ってプレイヤーのログアウト処理を実行し始める。

 このとき見えない情報経路の内容を傍受して解析すれば、ログアウトの本来の命令情報を得ることができる。

 この世界はオーバーフロー状態を使うことができる仮想世界なので、同じように見えない情報経路がある。だからこの世界のシステムが私にギフトを与えようとする瞬間に、これと同じように傍受することができれば、ギフト情報にも干渉できる可能性がある。

 けれどこれは私の元の世界であっても簡単にできることではなく、通常は支援プログラムが使える特殊な条件下で行っていた。

 ……これが無謀な試みであることは分かっている。でもこの世界からの脱出がかかっているんだから、多少無茶でもやるしかない。

 それにこの世界がイメージスキルという仕組みを基盤にしているなら、成功する確率は少し上昇する。以前、そうした支援プログラムを使って干渉命令を解析した経験はある。それを強く正確にイメージすることができれば、システムは私の味方をしてくれる。そして(わず)かでも情報を得られれば、必ず何かしら脱出のための助けになるはず。

 今日のために準備してきたので、身体(からだ)も精神も整っている。私は司教が祈りを告げたとき、速やかにオーバーフロー状態へと移行して集中力を最大限に研ぎ澄まし、システムとの見えない情報経路を解析するイメージを思い浮かべた。


 ――ふと私は不思議な場所にいることに気付いた。上下左右も定かではないけれど、周囲に膨大な情報が揺蕩(たゆた)っていることを感じ取れる。

 情報たちは気まぐれに飛び回る光の粒子のように振る舞い、ときに燦爛(さんらん)たる星雲を形作ったかと思うと、薄気味悪く毒々しい濃霧が威圧するように迫り、また地底深くに眠る鉱石のような鈍い輝きを(たた)えもする。

 これは…………いや、まさか…………。

 私はここを知っている。システムとの見えない情報経路を解析する際の支援プログラムの一つ。本来は色も形もなく(おぼろ)げな情報を感覚的に探索するため、私が使っていた情報支援用の仮想常駐プログラムが見せる情報空間だった。

 イメージスキルは作成モードを使わなくても、十分なイメージさえできていれば作ることはできる。だから私は情報支援用の仮想常駐プログラムそのものを、イメージスキルとして再現することができたのだろうか?

 ……いや、いくら何でも私にそこまでの想像力があるとは思えない。

 とすると……これが夢や妄想でないならば、情報支援用の仮想常駐プログラムがこの世界にもあって、本当に作動しているとしか思えない……なぜ? この世界にはこの仮想常駐プログラムが最初から用意されていた……異世界転生するときに、仮想常駐プログラムも私と一緒にくっついて来た?

 異世界転生そのものが訳の分からない現象なので、あり得るともあり得ないとも判断できない。

 ともかくこの機会を逃す手はない。


 ほんの一瞬、本当に一瞬だけ周囲に漂う情報に意識を向けると、大量の情報が私の意識の中を濁流のように押し寄せて過ぎ去った。

 戦士、斥候、魔法使い、農民、…………。ほとんどの情報は読み取る前にどこかへ行ってしまったけれど、これらがギフト情報なのだろう。

 機能しているらしき仮想常駐プログラムによって、感覚的にこの情報空間が閉じていることが分かる。ここはギフト情報以外にはどこへも接続していない。なら今はできるだけ強力なギフトを探すことを優先しよう。

 この仮想常駐プログラムの使い方には慣れている。強力なもの、希少なもの、上位なもの、隠されたもの、奥深くにあるもの、そういった性質を引き寄せる。引き寄せると同時に、時が(またた)く間に加速したかのように光たちは崩れ落ち、私の意識が上へと引き上げられる錯覚に(おちい)る。

 私はそのまま身を委ね、さらにもっと、より強力で、より希少で、より上位で、より秘匿されていて、それら全てを兼ね備えた情報だけを選別していく。

 そうやって仮想常駐プログラムの操作に集中していると、いつの間にか私はその不思議な情報空間で、ここが天辺(てんぺん)だと強く思わされる位置にいることに気付く。

 目の前には、二つの情報だけが滞留していた。私はそれらの情報をさっと読み取る。


 【超越者】【忍者】


 ……ん、何でこの二つ? 何だか名称の統一感に欠けている気がするけれど……いや、ここまで来て心を乱してはいけない。

 システムの見えない情報経路の傍受は、支援用の仮想常駐プログラムを利用していても高い集中力が要求される。ここが本当に情報空間の極みであるとは限らないけれど、時間をかけすぎても良い結果にならないことを経験上知っている。これらは今の私が引き寄せることのできる、最も強力なギフトに間違いないのだから。

 早く選ぼう、この二つだと、明らかに「超越者」の方が名称も印象も強さとして抜きん出ているように思える。

 「超越者」のギフトへと意識の手を伸ばして取り込むと、私の中に確かな力と情報が収められたという実感がある。成功したと思う。

 ……いや、まだ何か満ち足りない感覚がある。どこかに隙間があるような、空腹感にも似たような……これ、まだ行けるんじゃないかな?

 うーん……じゃあ行けるとこまで行ってしまうか、悩んでいる場合ではない。

 そうして「忍者」のギフトもさくっと取り込んだ瞬間、私の意識は遠くへと勢いよく弾き飛ばされる感覚を味わい、情報支援用の仮想常駐プログラムが作り出す情報空間から叩き出された。

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